#208 それぞれの決戦準備 sideシオンその三
それから数時間が経過した。
「出来た……!! 試作品第一号!!」
目を輝かせながら、紅鉄は出来上がったそれを高々と掲げる。
赤色のブレスレットと、青色のネックレス。それぞれ呼応石、感応石を元に作製された二つのアクセサリーは、それ自体を打ち合わせる事で効果を発揮する代物だ。
一度打ち合わせれば、
結局完成するまで付き合わされたごるでんも、完成した高揚感からか疲れを感じさせない様子で紅鉄に詰め寄った。
「早速実験しましょう
「まぁまぁ落ち着きたまえよごるでん君。完成して興奮するのは良いが、まだ試作一号だからね」
とは口で言いつつも、内心ウキウキになりながら実験を始める紅鉄。
アクセサリー同士をこつりとぶつけると、それぞれ淡く光り輝き、声を上げて喜ぶ二人だったが……すぐに眉根を寄せた。
……確かに性能自体は良い、のだが。
「……早速一つ問題が浮き彫りになったっすね……」
「……なんなら悪化したまであるわねコレ……」
頬を引き攣らせながら、
効果を発揮し始めてから一分が経過したところで、両方のアクセサリーにヒビが生じ、そのまま亀裂が広がり始めていった。
慌てて装備品画面を開くと、ネックレスとブレスレットは目に見える勢いで耐久値が減少していっているのが分かったのだ。
一分で三割程耐久値が削れているのを見ると、まともな運用は出来なさそうだ。
「もって三分ちょいって所かしら。装備品だから手に持って会話をしなければならない手間は省けるにしても、これは致命的ね。……単純に石本体を混ぜた合金をアクセサリーにしても意味が無いみたいね」
「アイデア自体はすげー良かったんで今度こそはって思ったんだけどなー……。この調子だと振り出しっぽいっすね」
はぁー、と深く落胆のため息を吐いた二人。
数時間掛けてようやく完成した試作品が悲しい結果で終わってしまった精神的ダメージはかなりの物だ。
ごるでんは音を立てて真っ二つに割れてしまったアクセサリーを持ち上げると。
「このゲーム、大体性能に対してのデメリットが付きまとうっすからね……。確かにアクセサリーが壊れるまで永続発動って考えると、これぐらいの代償は必要にもなるか……」
「いつでも供給できる環境なら石よりかはって感じはするけど……装備の補充が簡単に出来ないコンテンツ内、更に戦闘中ともなると石の方が百倍マシね。壊れてしまえば修理する必要があるし、そのたびに呼応石と感応石を使うと考えれば結局装備品にする意味が無い。……本末転倒ね」
「それならアクセサリーの強度を上げる方針でやってみます?」
「駄目よ。結局『打ち付ける』動作を挟むから、『通信機能の簡易化』には繋がらない。1
「それもそうっすね……」
そう、このアクセサリーを一つ作製するのに十分以上掛かってしまうのだ。
というのも、呼応石と感応石自体が壊れやすい材質なので、加工するのに精密さが求められる。
そして、量産したとしても、持っていった全てのアクセサリーが壊れてしまえば、コンテンツ内で修理を行わなければならない。
……もっとも、その劣悪な環境で修理が出来るかどうか、という前提の時点で破綻しているのだが。
「簡易修理キットでごり押し戦法とかどうです?」
簡易修理キットとは、ジョブがクラフターで無くとも、即席で修理を行えるアイテムだ。
一つ使えば三割分耐久値を回復する事が出来るが、その代わり七割以上には回復しないという制限がある。
それを聞いた紅鉄は乾いた笑いを漏らすと。
「あぁ、最高に頭が悪い解法ねそれ……。正直それが戦闘中に出来るなら脳死で良いけど……あたしの美学に反するわ。……それにごるでん、あんたもそれは嫌でしょ」
「まぁ嫌っすね。クラフターの腕が半人前だからって性能を妥協して、使用者に苦行を強いるのは論外っす。勿論冗談すよ冗談」
手をひらひらさせながら苦笑するごるでんだったが、笑いが掠れていき、やがて項垂れた。
「あー畜生、また振り出しか……参ったな……」
紅鉄のアイデアで進展を見せたと思ったが、結局ほとんど意味の無い装備が出来上がってしまった。
これなら、増幅石を加工したアクセサリーの方が性能的にはよっぽどマシだったと言わざるを得ない。
紅鉄は部屋の隅に設置してあった椅子に腰かけると、アクセサリーをじっと見つめる。
(発想は間違ってないと思うのよね……)
呼応石と感応石をアクセサリーにするという発想自体は良かった。
だが、それだけでは要素として不十分だったし、無理にアクセサリーに加工した影響でデメリットの方が目立ってしまっている。
何かもう一つ閃きがあればこの状況を打開するかもしれないのだが……。
何かアイデアが浮かばないかしら……と天井をぼーっと眺め始めた紅鉄の視界に、光の粒子が入り込む。
粒子が収束すると、そこにシオンが出現した。
「……今戻った。二人共ありがとう」
「あらシオン早かったわね? しっかり寝れたの?」
「……五時間ぐっすり寝た。ぱーふぇくと健康体。今なら素手でも【龍王】倒せそう」
「いや【龍王】は流石に無理……うっそ五時間!? もうそんなに経ってたの!?」
慌てて紅鉄はウインドウを開いて時刻を確認すると、シオンが一度ログアウトしてから五時間が経過していた。
あっちゃーと掌を顔に押し当てて居ると、シオンが紅鉄の傍に近寄る。
「……それ、もしかして試作品? 完成したの?」
「ああ、失敗作だけどね……」
「……ふーん……?」
シオンは紅鉄の手元からアクセサリーを持ち上げると、まじまじと観察し始める。
「……これ、呼応石と感応石で作ったんだ?」
「パスの機能を持たせたアクセサリーを作ろうってなってね。だけど、装備品自体の耐久値がゴリゴリ削れちゃって、石だった方がコスパ的にも労力的にも良いっていう本末転倒ぶりなのよ。……で、今そこで詰まっちゃってるわけ」
「……なるほど……」
ある程度の内容はそれだけで察したのか、しばらくの間無言でアクセサリーを眺めていたシオンだったが、ひとしきり見終わった所で、紅鉄の方を向く。
「……これさ、このアクセサリーに二つの石を組み込むってのは駄目なのかな」
「いやいやシオン。それ石混ぜた合金使ったアクセサリーだから」
「いやそうじゃなくて……
シオンの言葉にしばらくクエスチョンマークを浮かべていた紅鉄だったが、よくその言葉の意味を考え直してみてから、目を瞬かせた。
「……え、今シオンなんて言った?」
「ん。……だから、
「……なんてこった天才はここに居たか」
思ってもみなかった発想に紅鉄は口角を吊り上げる。
そう、実は解決の糸口は既に見えていたのだ。
だが、
予めアクセサリー同士でマナのパスが繋がる機能を持たせておいて、その動力源に呼応石と感応石を嵌め込むようにする。
そうする事で、『打ち付ける』という動作を省略しつつ、効果を発揮しているのは石本体の方なので、装備品の耐久値の消費も抑えられる。
その代わり石の消費が目立つかもしれないが……一々打ち合わせる動作を挟まない分、ずっと楽に運用する事が出来る。
遠くで聞いていたごるでんも、シオンの説明を理解して、額に掌を押し当てた。
「おいおいおいおい、マジかよ一瞬で答え出ちまったじゃねえか。シオンちゃんマジパネェ」
「えっと……こういう時、なんて言えば良いんだっけ……あ、『私、また何かしちゃいました?』」
「シオン、それは色々とヘイトを買う発言だからNG」
シオンはその意味が良く分からず、首を傾げる。
紅鉄はそんな彼女に苦笑しつつも、すぐにハンマーを持ち、快活な声を出す。
「『鉄は熱いうちに打て』よ!! 早速作業に取り掛かるわ! ごるでん、後何時間行ける!?」
「はっはー! さっきから空腹でメディカルチェックのアラート鳴ってるけど後十時間は行けますぜ姉御ォ!!」
「あ、それは駄目よ。普通にログアウトして飯を済ませてきなさい」
「なんか納得いかねぇ!!!」
ごるでんが全力で吠えるが、紅鉄はしっしっと追い払う仕草でログアウトを促す。
ぶつくさ言いつつも、ごるでんが素直にログアウトするのを見届けてから、自分の持ち場に向かったシオンを見つめる。
(全く、こんな発想をポンって出せるなら、二日も詰まらなかったでしょうに)
そう思いつつも、その原因は既に分かっている。
彼女から、作業中に雑談混じりに事情は聞いていた。【二つ名レイド】で自分が役に立てなかった事、そしてその攻略メンバーから外れてしまった事。
その分他の事で貢献したいと臨んだ彼女は、自分自身が生み出した重責に押しつぶされそうになっていたのだから。
(多分、焦りと責任感で頭がいっぱいだったのね。……少しは寝れたみたいだし、あたしの言葉で少しでもシオンの負担を軽減できたのかしら)
精神的に余裕が無い程、視野は狭くなりがちだ。
睡眠が取れ、紅鉄やごるでんに作業を一時的に任せた事で心にゆとりが持てたからこそ、紅鉄達が作り上げた試作品を見ただけで先ほどのアイデアが浮かんだのだろう。
やっぱりゲームは適度な休憩が大事ね、と紅鉄は一人ごちると。
「これで完成系は見えた! 後三日もあれば完成品、ううん、その改良だって夢じゃないわ! 一気に仕上げるわよシオン!」
「……がってん」
早速シオンの提案を取り入れるべく、装備品作製に取り掛かる二人。
飯休憩を終えて合流したごるでんを交えて作製を続け、完成品が出来上がったのはそれからすぐの事だった。
────
【補足】
『簡易修理キット』 消耗品
戦闘職御用達アイテム。装備品の耐久値を即座に回復する事が出来るが、破損状態だと使用しても効果が無い。耐久値の回復は7割までしか回復する事が出来ない為、あくまで応急処置用のアイテム。
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