#204 それぞれの決戦準備 sideバトルチームその一


「……さて、これより【二つ名レイド】攻略の為の作戦会議を行う」


 一度解散してから二時間が経過し、再びクランハウスに集った俺達。

 テーブルを取り囲むようにしてソファに座っていた俺達の視線は、中央に居るライジンへと向けられる。


「先ほど伝えたように、バトルチームの目標は『上級職のレベルカンスト、もしくは超級職に昇格し、そこから上げられるだけ上げる』だ。五日間で上げるとなると、かなりハードなスケジュールになる事は覚悟しておいてくれ」


「その前に一つ良いかナ?」


 と、声の聞こえてきた方に顔を向けると、厨二が手を挙げていた。

 ライジンは短く首肯し、厨二に意見を言うように促す。


「あのレイドの仕組みについて気付いた事があるんだけど。……多分、僕基準に難易度が設定されていたんだよネ」


「厨二基準? ……どういうことだ?」


「モンスターへのダメージの通り方サ。【水晶回廊】に挑んでる時に違和感があったんだよネ。確かにレベルの差はあれど、シオンちゃんと僕とのダメージの通り方に差があり過ぎたように感じた。もしあのレイドが最高レベル準拠で難易度が設定されているのだとしたら、僕らはまともなダメージすら敵Mobに与える事も出来ず、【水晶回廊】すら踏破出来なかったはずだ。……この運営の指針としては、恐らくを是としてない」


「……つまり、【二つ名】レイドの難易度は都度調整されている可能性が高い。そして、その難易度は何らかの判定基準で誰かに合わせられている、と?」


「そう言う事。多分、僕がパーティメンバーの中でレベルが一番高かったから、僕を基準に調整されたんじゃないかナ。だから、レベルを上げ過ぎるのも注意が必要なんじゃないかなってネ」


 レベル差が離れすぎると攻撃が通らなくなる場合があるから、レベルの上げ過ぎも注意、か。

 確かに厨二が基準にされていたなら、近しいレベルだった俺達の攻撃が通って、シオンの攻撃があまり通らなかったのにも説明が付く。

 何故わざわざ最高値に合わせているのかは恐らく先ほど厨二が言っていたようにレベルによるゴリ押しを防ぐためだろう。平均値にでも調整しようものなら、極論レベル1とレベル最大でパーティを組めば楽々攻略が出来るからだろうな。

 となると、だ。


「……超級職に昇格クラスアップするのはやめておいた方が良いのでは?」


 ポンが恐る恐る発言すると、ライジンが静かに頷く。


「そうだね。……本来ならジョブスキルとかも強力になるし、超級職になった方が利点が多いんだけど……今の情報を聞いたからには、そうも言ってられないね。最終目標を変えよう」


 ライジンが宙に浮いているウインドウに文字を打ち込むと、手元に表示されているウインドウが更新されていく。

 超級職に昇格の文字が消え、上級職のレベルカンストの文字だけが残った。

 それを見た串焼き先輩がうーむと腕を組みながら。


「しかし【龍王】と同等の存在に挑むんだろ……? 一度【二つ名レイド】に挑んでおいてなんだが、上級職で本当に大丈夫なのか?」


「それについては問題ないですよ、串焼きさん。本来、MMORPGにおいてエンドコンテンツとは最高クラスのジョブで、最高レベルまで上げ、万全の準備を整えてから挑む物……ですが、このSBOにおいては違う。……エンドコンテンツがストーリーに関わってくるメインコンテンツと題しているだけあって、上級職の、それもレベル的にそれほど高くない俺達が【水晶回廊】を踏破出来たように、その難易度は絶妙です。……多分だけど、理論上初級職でもクリア自体は可能なんでしょう。ただ、その低すぎるステータスで大量のギミックをこなしながら敵の攻撃を全て搔い潜り、【二つ名】を撃破出来れば、という前提ありきですが」


「えぇ……」


 ライジンの言葉に串焼き先輩が乾いた笑いを漏らす。

 何その縛りプレイ。やってみたいような、やってみたくないような。

 ……ライジンなら本当にやってのけそうで怖いが、こいつ程PS高い人間を複数人集めるのは不可能に近いだろうな……。


「そうなると、調整されるのは敵MobのHP周りぐらいか?」


「多分だけどね。……ギミック自体の難易度を落とすのは多分やらないだろうね。それなら低レベルで挑んだ時の利点が大きすぎるから。ギミックをこなしつつ、尚且つボスに有効打を与えられる最低ラインが上級職カンストぐらいだと推測してる。……また開幕五秒でボスに潰されるのはこりごりだしね」


 やれやれ、と言ったように苦笑を浮かべるライジン。

 きっと、【海遊庭園】のボス、【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】の事を言っているのだろう。

 あれは初見殺しが過ぎたよな……なんか始まったと思ったら瞬殺されたし、しかも【海遊庭園】のスタート地点まで戻されると来た。……ちょっと運営さん、鬼畜過ぎない?


「話が逸れてくのもあれだし、本題に移ろう。【海遊庭園】の道中安定攻略法はシオンに聞いたから取り敢えず置いといて……【海遊庭園】のボス、【冥王龍リヴァイア・ネプチューン】のギミックについて」


 ライジンがそう言うと、その時の映像が映し出される。


「……ぷっ」


「おい串焼き先輩今笑ったろ」


「いやだってお前らこの顔は反則だろ……!!!」


 ライジンが映し出した映像には俺とライジンがポンの【限界リミット・拡張出力エクステンド】の超加速による風圧で凄い形相になっているのが映っていた。

 いやあれマジで誰だってこうなるからな? スキルの使用者のポンはさして影響出て無いから余裕そうに見えるけど、超特急ポンタクシーの乗客は地獄見るからな?

 ……まあ、取り敢えず。


「ポン、後でちょっと頼み事あるんだけど良い?」


「はい、何でしょう?」


「串焼き先輩拘束して【限界リミット・拡張出力エクステンド】三回ぐらいかっとばしてきてくんない?」


「え゛」


 ロープを取り出しながらそう言うと、串焼き先輩が後ずさりする。


「物は試しって事でさ。串焼き先輩はプロゲーマーだから余裕なんすよねぇ?」


「おいおい待て待て待ておかしい、その理論は絶対おかしい!! プロだから何とかなるわけないだろ!? 第一、お前1st TRV WARで俺がどんな目にあったか覚えてるだろ!?」


「オボエテナイナー」


「お前絶対ぶっ飛ばす!!マジで今すぐ殴らせろこの野郎!!!」


「キャーッ!! プロゲーマーに襲われるーッ!!」


「ま、まあまあ村人君、それぐらいに……」


「ポン、やってくれたら駅前の高級スイーツ店の滅茶苦茶美味いらしいパフェ奢る」


「やります」


「グレポン丸まで俺を裏切るのか!?」


 即座に裏切ったポンに目を引ん剝く串焼き先輩。

 そのパフェの話は甘党のシオンに聞いただけだから俺も詳しく知らんけど、まあ今度一緒に行ってみるとしよう。日頃のお礼も兼ねて。

 ボッサンがまた話が脱線してきたな、とばかりに苦笑いして。


「団子君の処刑の話は置いといて、さっさと話を進めようぜ」


「ボッサン!? 変人分隊唯一の良心枠さん!? 助けて下さいよ!?」


「いや俺も巻き添え食らうのは勘弁だわ……。俺ぐらいの年齢になるとVR酔いは洒落にならんのよ……」


 想像しただけで酔ったのか、うぷっと口元を抑えるボッサン。まあ、串焼き先輩の処遇はまた後にでも考えよう。

 ライジンが場を仕切り直すように、一つ咳払いしてから。


「……ごほん。……この場面を流したのは、これを見てほしかったからだ」


 映像が進んでいくと、最奥から超高速で飛来する何かがポンを穿ち、一瞬で絶命させた。

 その後俺とライジンは空中に放り出され、最奥の空間のシャボン玉がクッション替わりになった事で一命を取り留めた訳なのだが……。


「よく見てみると、村人達が1st TRV WAR予選の時に撮っていた映像に映っていた、【氷塊飛翔撃アイシクル・レイン】に酷似しているんだよね。……それが、迎撃出来ないぐらい凄まじい早さで飛んできた」


「……ショトカしたのが原因か? 本来道中のギミックをこなしながら攻略をする必要があったのにも関わらず、そのギミックの穴を突いたような攻略法を取った結果、攻撃されたようにも見える。事実、スタートしてから、ショトカするまであの攻撃は飛んでこなかった」


「うん、俺もそう思う。流石にあの速度の氷塊が飛んで来たら咄嗟に対応出来ないと思うんだよね。だから、本番ではショトカは使用しない想定で行こう。……勿論、ショトカしてもしなくても飛んでくる場合は適宜対処しなければならないけど」


 それはまた難儀だな。まあ、ちゃんと攻略すればお仕置き氷塊が飛んでこないのならそちらを選んだ方が無難だろう。

 

「ボス戦になったらこれが飛んでくると思ってもらった方が良いかもな。警戒しているとしていないじゃ対応の差が段違いだ」


「確かに。……反応できっかな」


「まあボッサンなら大丈夫でしょ。ゼロ・ディタビライザーぐらいの弾速だと思えば何とかなるなる」


「Aimsで直接実物を避けてた団子君ならまだ分かるけど、ジェットパックも特殊アビリティも無いこのゲームであの速度の攻撃を避けるのはきついと思うぞ……?」


 そんなもんかねー。まあ俺も余裕だと思ってたら床ペロするハメになりそうだし、警戒は怠らないようにしよう。


「あの弾丸染みた氷塊は村人のスキル辺りで回避の特訓をしようと思ってる。次に、ボスエリアのステージギミックについてだ」


 そう言うと映像が切り替わり、あの時俺が見たエリアの中央に位置する炎が煌々と輝いている映像が映し出される。


「……炎?」


「だな。火種っぽいのが辺りに見当たらないのになんで炎の塊が……?」


「これがこのボスエリアのステージギミックの一部なのは間違いない。……明確にこれ、と断言する事は出来ないが、幾つかの判断材料を元に、このギミックの解法を推測する事が出来たからそれを伝えようと思う」


 そう言うと、ライジンがニヤッと不敵な笑みを浮かべ、人差し指を立てる。



「『』伝説って知ってるか?」


 

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