#201 討伐戦後の一幕
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≪【二つ名】クエスト【驚天動地、王が目指すは旅路の果て】の1stターニングポイントを迎えました。貢献度に応じて途中報酬を獲得しました≫
【Quest Rewards(基本報酬)】
【龍王の古歴鱗】x1 【龍王の古歴殻】x1 【龍王の血】x1 【スキル生成権】x1 【スキルポイント】x30pt 【500000マニー】
【Special Rewards(特別報酬)】
【アダマンタイト】x10 【オリハルコン】x1 【ヒヒイロカネ】x1 【アルマライト】x1
【龍王の古歴鱗】x1 【龍王の血】x1
特別報酬内訳:『参加プレイヤー内採掘数トップ』『ファーストアタック』
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ヴァルキュリアが立ち去って数十秒経つと、【二つ名】クエストの報酬画面が表示された。それに応じて張り詰めていた空気が和らいでいき、次第に歓声へと変わっていく。
俺の基本報酬が少な目なのは、恐らく俺が戦闘そっちのけでピッケルを振り回していたからだろう。その代わり特別報酬が美味しいから良しとするか。……あれ? よく見たらなんか知らない鉱石混じってんだけど。……これもしかしてヤバい案件?
と、現実から目を背ける為、視線を前に向けると、報酬画面を茫然と眺めていたRosalia氏が、突然糸が切れたかのように地面にすとんと膝を落とした。
彼女の下へと歩み寄ると、手を差し出す。
「大丈夫か?」
「ああ、すまない……予想以上に【戦機】の殺気に当てられてしまってな。報酬画面を見て、ようやく戦闘が終わったんだと実感出来て、気が抜けてしまってな……」
「確かに、あの至近距離の殺気は耐性あっても相当キツかっただろうな」
【不屈の闘志】がある俺でも足が竦んだほどだ、至近距離であの殺気を当てられて平常で居られる筈が無いだろう。
薄っすらと汗を滲ませる彼女はこちらに心配させるつもりは無いとでも言いたげに微笑むと、一人でゆっくりと立ち上がる。
「さて、戦闘は回避出来たがこれからどうしたものか……。フォートレスに備え付けられた【龍王】の迎撃設備は軒並み破壊された。次の侵攻までに元通りとまでは行かないでもある程度修復しないと今度こそサーデストが破壊されかねないぞ……」
「確かにこのままだとマズイよな……」
【龍王】に対してあまりダメージを与えられていなかったとはいえ、迎撃設備があると無いとでは全然違う。
特に、【
でも【大光縄】と言いこの時代においては少々オーバーテクノロジーっぽいレベルの代物だからなぁ……果たして修復が出来るのやら。
と、その時頭上からシステムアナウンスを告げるコール音と共に、目の前にウインドウが出現すると、機械的な音声が流れだした。
《World Announce:ただいまの時刻を以て、【二つ名】クエスト【驚天動地、王が目指すは旅路の果て】の休戦期間に入りました。休戦期間中は第四の街【フォートレス】の復興イベントが開催されます。貢献度に応じて報酬が配布されますので、クラフターの皆様は奮ってご参加下さい。また、公式ページの方にイベントの詳細が載っておりますのでご確認ください》
「うーんなんともタイムリー」
なるほど、こうやって戦闘職と生産職の釣り合いを取っている訳か。戦闘が苦手だからクラフターをメインでやりたいっていうプレイヤーも多いだろうし、戦闘じゃなくても【二つ名】関係のメインコンテンツに関わる事が出来るのは良い仕組みだな。
Rosalia氏がシステムアナウンスを聞いて、少しだけほっとしたように安堵のため息を吐いた。
「なんとかなりそうで良かった」
「本当にな。……復興の方は我がクランのクラフター諸君に任せるとしよう。私はほとほと疲れてしまったよ」
「全くだ。
Rosalia氏が俺の言葉を聞いてくすりと笑うと、ゆっくりと空を見上げる。
「……こちらは十分すぎる程準備を進めてきたつもりだった。それを正面から悉く粉砕されてしまった。……やはり、【二つ名】は強いな」
「そらそうだ、公式からこのSBOの最終目標って言われてるぐらいだぜ? あれぐらいの難易度が丁度いい」
「君はあれだけの強さを見せつけられてもまだ戦う気力が湧くのだな」
「……それをあんたが言うのか? それとも、好きを拗らせてロールまでしてるヴァルキュリアがあんまりにも強すぎて萎えちまったか?」
「いいや。 憧憬は遠ければ遠い程良い物だよ。……その方が俄然、燃えるからな」
「だろ」
Rosalia氏が不敵に笑いながらそう言ったので、こちらも思わず笑いながらそう返す。
目標や夢なんて、言うだけならタダだ。なら現実を見据えた小さな目標じゃなくて、夢物語のような現実味の無い目標を掲げたって別に良いだろう。
最初から無理と決めつけるのでは無く、それをどうやって達成するのかを考える事から始めるべきだと俺は思う。
「あっいたいた、村人!」
声の聞こえてきた方に顔を向けてみると、ライジンが手を振りながら駆け寄ってきていた。
ライジンは目の前で止まると、にっと爽やかな笑顔を向けてくる。
「一度クランハウスに集合してくれないか? 色々と情報を共有したい事があるからな」
「了解。だけど、流石に疲れたから少し休憩してからで良いか?」
「分かった。なら、都合が良いタイミングになったら連絡を飛ばしてくれ。取り敢えずそれまで俺はクランハウスで休んでるから」
ライジンがそう言い残すとそのまま足早に駆け出していく。
どうせあいつの事だから先ほどの戦闘で考察の材料が大量に出てきてうずうずしているのだろう。
俺もヴァルキュリアが持っていた銃について知りたいし、丁度いい。
「じゃあRosalia氏、これで」
「ああ。帰り際PKに遭わないようにな」
「そんな物騒な事言わないでくれよ……ガチでフラグになる奴だからそれ」
つい先日もその被害に遭ったばかりだから洒落になんねえんだわ、そのギャグ。
◇
三十分ほどログアウトして軽い間食を摘まんだりしてから再びSBOの世界にログインする。
フォートレスの宿屋に居た転送屋を利用し、サーデストへファストトラベルして、そのまま直にハウジングエリアへ。
少し歩いてからクランハウスの中に入ると、既に皆は揃っていて談笑しているようだった。
ライジンがこちらに気付いたらしく、眉を上げる。
「お、村人来たな。休憩はもういいのか?」
「軽く休憩したかっただけだから大丈夫だ。それに、皆待ってると思ってたしな」
ライジンの考察座談会となるとそこそこ時間が掛かる事は目に見えているし、他の皆の時間を奪うのも申し訳ないし。
若干うとうとしたような目で、ソファに座っていたシオンがあくびをする。
「……なんか、どっと疲れた気がする」
「必死に戦った後あんだけ訳わからん情報叩き込まれりゃそりゃあなあ……」
「若干二名ほど武器じゃなくて違う物を振っていたようだけどねぇ……?」
「「結果的に相手側が撤退したのだから
「おおう見事なまでのシンクロ、お前達本当に気が合うのな」
シオンと声がぴったり合うと、ボッサンが心底愉快そうに笑う。
確かにシオンとは昔から波長合うからな。つるんでいて居心地悪くないし。……おいライジンそんな恨めしそうな目で見んな。別にシオンに好意とか持ってねえから。
ライジンに思わずジト目を向けてから、ため息を一つ。
「で、わざわざここに集めたのは、単に駄弁りたいからって訳じゃないんだろ?」
「そう。これから話し合いたいのは【龍王】討伐作戦で明かされた情報の整理と、期限が近い【双壁】攻略についての作戦会議だ」
ライジンがそう言うと、手を振りかざす。
それに応じてウインドウが幾つも出現し、こちらへとウインドウを飛ばしてくる。
恐らく、この短時間でライジンなりにまとめた資料だろう。
「まず一つ目、【二つ名】レイドについて」
ライジンがにわかに騒がしくなっていた場を静めるように、指で机を叩く。
「レイドとは本来大人数で強力な敵ボスを攻略するコンテンツを示す物……なのにも関わらず先程の【龍王】戦は【二つ名】レイドでは無かった。それに対しての皆の見解が聞きたい」
「多分だけどそれに関しては
「そいつに関しては同意見だ。サーデスト破壊を前提にした敗北イベントなんてあり得ねぇとは思っていたが、ヴァルキュリアの乱入が確定事項だったとするならば敗北イベントだとしても筋が通る。……まぁ、街が滅びるMMORPGなんて前代未聞だけどな!」
ボッサンが頷きながら厨二の意見に同調する。ライジンもどうやら同じ考えだったらしく頷いていた。
確かに『力の差を見せつける』のが目的だったとしたら、運営の目論見通りに事が進んだだろう。
それぐらい【二つ名】に対しての強烈な印象を植え付けられた。
──
「それでも絶対に攻略してやるけどな」
俺がぽつりと呟くと、周りの皆も頷き返す。
どれだけ相手が強かろうと、それが諦める理由にはなり得ない。むしろ、攻略難度が高い方が燃えるのがゲーマーって奴だからな。
考え込んでいた様子の串焼き先輩が、ゆっくりと手を挙げる。
「【二つ名】を討伐するという名目で挑むのが【二つ名】レイド。そして【二つ名】レイドを開放する為に進める必要があるのが【二つ名】クエスト。その認識で合ってるか?」
「恐らくだけど、それで間違いないと思う。【龍王】の場合はもしかしたら次の復活がそのまま【二つ名】レイドに……って可能性も十分にあるから、準備を進めないといけない」
「そうなるとやることが盛り沢山だな。ちなみに【龍王】の次の復活はいつだか分かるのか?」
「どうやら復興イベントの期間が丁度一ヵ月らしい。だから、次の復活は一月後の十二時と考えるのが妥当だな」
「一月で対抗できるだけの手段を手に入れろ……か」
フォートレスを修復しただけでは【龍王】には対抗出来ない事は、今回の戦いで良く分かった。
龍王によって生み出されていた巨壁が崩れ去った今、次の街へ移動する事が可能になったので、その先のエリアで力を付けろ、という事なのだろう。
「それに関連してなんだが、次の話題だ。【龍王】に対抗しうる手段として考えられる、銃火器の存在についてだ」
ライジンはそう言うと、ウインドウを切り替えて『ネクサス』を構えるヴァルキュリアの写真を映し出す。
「それな。なんでこの世界にAimsの武器があるんだ? ある程度発達した文明が存在していたなら銃器が存在する事がギリ理解出来るにしても、あのフォルムとデザインはまんまスナイパーエキゾの『ネクサス』だった。開発元が同じ会社だからテクスチャの使い回しだって言うんならそれまでだが、Aimsの世界と何かしら関連がありそうだよな」
「しかも銃口に魔法陣っぽいの出てたから元の性能から魔改造されてるのは間違いないよね。しかもそれを持ってるのがあの底知れない力を持っているヴァルキュリアときた。……鬼に金棒どころの話じゃない」
「そこはむしろ銃の方が足引っ張ってそうだけどな。【龍王】とタイマン張れるとなると、ただのパンチがロケラン以上の火力がありそうだ」
「……それは確かに」
頬を引き攣らせながらあの【龍王】を吹っ飛ばしたすさまじい蹴りを思い出す。
確かにバリアが剥がれてたとはいえ、鱗すら蹴り砕いてたのを見る限り銃なんかよりもよっぽど威力がありそうだ。
「もしかしてヴァルキュリアの【二つ名】レイドの報酬だったりしてな?」
「いやー流石にそれは……」
あり得ない、とも言いづらいのは事実だ。まあ、もしかしたらヴァルキュリアが持っていた『ネクサス』は報酬の候補に入ってくるかもしれないだろうが。
「話が逸れてきたな。銃の入手経路は後々調べるとして、この世界にあの銃がある理由について心当たりはあるか?」
「……多分だけど、一つだけ心当たりがある。ついさっきある事を思い出した」
珍しい事に、手を挙げたのはシオンだった。
「……傭兵辺りは詳しいと思うけど、Aimsで銃器の研究開発を行っていた会社。……アトラス・アームズ・コーポレーションって知ってるよね?」
シオンの問いかけに対して頷いて返す。
アトラス・アームズ・コーポレーションと言うのは、Aimsの本編ストーリーに絡んで来ていた銃器製造会社だ。
主人公達に銃器を提供するスポンサー的な立ち位置だったのだが、実は敵国に情報を売りさばいて意図的に戦争を引き起こしていた黒幕。そして敵の形跡を追っていく内にその事実に気付き、主人公サイドと対立する事になる、というストーリーだったな。
「……Aimsに登場する銃器のほぼ九割がその会社によって製造されていた。そして、『ネクサス』もその一つ」
「おい、まさか」
そこまで言われて、ある一つの考察を思い出す。
銃器製造会社、アトラス・アームズ・コーポレーション。そこで起きたとある男の
Aimsの大ボス。アトラス・アームズ・コーポレーションの社長にして、最前線で銃器の開発を続けていた研究者──。
「
その名前を聞いて、ボッサンは目を瞬かせ、厨二はへぇ、と面白そうに笑う。
ポン、串焼き先輩、ライジンはなるほどと言いながら頷いていた。
ロッド・アグニはラスボス戦後に展開されたクリア後ストーリーでもしぶとく生き延びて暗躍を続け、その爪痕を残していた。が、とある時期からぱたりと形跡が無くなった。その後、もう一人の黒幕を撃破した後も一切その姿を見せずストーリーは幕を下ろした。どこかの施設に囚われてたとも、どこかで匿われて研究を続け、また派手な悪事を起こそうとして消されたとも、単に運営から存在が忘れられたとも言われている、Aimsの最大の謎の一つだった。
「あの自己中野郎がこのSBOの世界に来てたって訳か?」
「確かにそれならロッドアグニの失踪は次回作への伏線だったって感じで辻褄が合うよねぇ」
「ジャンルが違い過ぎるからまさか関わってくるとは誰も思ってないだろ……」
「……まあ、流石に憶測の域だけどね。でも、可能性としてはあり得るかな」
でも、非常に面白い考察だ。現在の街の様子を見る限りあのイカレ自己中研究者が今も存命しているとは思えないが、『ネクサス』をヴァルキュリアが持っていた以上、アトラス・アームズ・コーポレーションないしはロッド・アグニが関わってきているのは間違いないだろう。
そうか、ネクサスを見た時に引っかかっていたのはこれか。ロッド・アグニについては俺もゼロ・ディタビライザー関連の話が気になって考察掲示板に顔を出してたからな。
ライジンは半透明なキーボードにタイピングして情報を打ち込むと、満足気に吐息を漏らした。
「今の所その説が有力か。かなり信憑性が高い情報が得られて何よりだ。取り敢えず、現時点でこの世界に銃器が持ち込まれたのはAimsの世界からと仮定しておこう。ありがとう、シオン」
ライジンが爽やかスマイルを向けると、シオンが顔を僅かに赤らめて視線を下に落とす。
これ素でやってるからタチが悪いんだよな。
「ヴァルキュリアについても語り合いたい所だけど、話し始めたらキリが無いしそろそろ本題に入ろう。……今回、【龍王】との戦闘で得られた情報の中で、特に気になった事項だ」
ライジンはそう言うと、掌を掲げる。
「来い、シャドウ」
『はい、
ライジンの呼びかけに応じ、俺達の相棒であるシャドウが出現する。
ライジンはシャドウを見て目を細めると、こう切り出した。
「シャドウ、お前は──
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【補足】
ちなみにヴァルキュリアは、『初手の【巨龍の咆哮】で戦意が削がれたプレイヤーの大多数が離脱していた場合』乱入しませんでした。厨二が地味にファインプレイしてます。
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