#199 【龍王】討伐作戦 その四


 フォートレス上方に設置されていた巨大砲門が火を噴き、砲弾が射出される。砲弾は放物線を描き、【龍王】の身体に直撃すると、轟音と共に火柱を立ち昇らせた。

 大気が震える程のその余波がフォートレスに叩きつけるように押し寄せ、その爆風に手をかざしながら耐えていたRosaliaはもう片方の手で拳を握る。


「よし、命中した!」


 これまで目に見えるレベルのダメージを与える事は出来ていなかったが、魔力障壁バリアを剥がした事で確実にダメージが入った。

 凄まじい業火に包まれているので【龍王】の様子は確認できないが、あれほどの規模の爆発を起こす砲弾が命中したのだ。無傷で済むはずが無い。

 【龍滅砲】発射の為、フォートレス上方にある発射装置の前に居たRosaliaは来た道を戻るべく、踵を返す。


「これで取り敢えず急場凌ぎにはなったな。……ここから体勢を立て直して……」


『ほう、この我を傷つけるとはな……。腐ってもあの忌まわしき者共の系譜。我を傷つけるだけの技術は受け継いでいるらしい』


 その時、腹の底に響くような重低音が峡谷中に響き渡る。

 Rosaliaは足を止めると、信じられない気持ちで振り返った。


 未だ勢いが衰える事の無い業火の中から姿を現したのは、所々鱗が剥げ落ちながらもまるで意に介していない様子の【龍王】だった。

 火に包まれているというのに背負う巨大な樹には一切の損傷は見られなかった。

 鋭利な刃を思わせる真紅の瞳が、人間を見下すように向けられる。


『自惚れるなよ、人間ゴミ共。貴様らの敗北は既に決定事項なのだ』


 地響きを起こしながらまた一歩歩みを進める【龍王】。

 底知れぬ【龍王】のバイタリティに、Rosaliaは表情を強張らせ、強く唇を引き結ぶ。

 徐に【龍王】は首を持ち上げると、【龍滅砲】が設置してある場所へと顔を向ける。


『我が直接手出ししてないからか少しばかり調子に乗っているようだな。……どれ、格の違いと言う物を見せてやろう』


 【龍王】の口の中に光が収束し始める。

 それを見たRosaliaはばっと振り返ると、周囲に居るプレイヤー達に向けて声を張り上げた。


「直ぐに退避しろ!! 奴の攻撃が来るぞ!!」


『【龍王の息吹ドラゴンブレス】』


 刹那。

 【龍王】の口から放たれた紅蓮の閃光が、周囲を呑み込んで爆ぜた。

 逃げ場などどこにも無く、一瞬にして【龍滅砲】諸共焼却され、Rosalia達もポリゴンへと還元されていく。


 【龍滅砲】が跡形もなく破壊されたのを見届けると、口から煙を漏らしながら、【龍王】は再び進行方向へと顔を戻した。


『少々、手を抜きすぎたのかもしれぬな。……ダメ押しと行こう』


 【龍王】が呟くと、三つ生っていた果実の最後の一つが神々しく輝き始める。


『【妖精竜の楽園アルフヘイム】』


 果実が弾け、そこから再び大量の生物が産み落とされる。

 【龍王】の背に落ちた生物達は翼を広げると、一斉に羽ばたき始めた。





「畜生……! 届かなかったァ……! 後ほんの少し手を伸ばせばッ……! 指の先さえ触れてさえいればッ……! 届いていたというのにィッ……!!」


 リスポーンした俺はベッドから身体を起こし、顔面に両手を押し当てて嘆く。

 後数センチ先にオリハルコンがあったというのにも関わらず、【龍滅砲】とやらの凄まじい爆発に巻き込まれて俺諸共蒸発してしまった。……いや、もしかしたら幻の金属だけあって耐えたかもしれないが、先に俺が蒸発してしまったから結果は分かっていない。

 そのまま悲しみにあまりベッドの上を転げ回っていると、入り口のドアがノックの後に恐る恐る開かれる。

 ドアを開けた本人……困惑した様子で顔を覗かせたシオンがぽつりと。


「……えっと、どういう状況?」


「あたかも目の前で大切な人を失った風に嘆くロールでオリハルコン喪失を悔やんでた」


「……確かにそれは落ち込む、かも……?」


 アダマンタイトですら相場百万マニーもする代物だと言うのに、オリハルコンなんて一体いくらになるのやら。

 畜生これも絶対ライジンのせいだ。アイスマジロん時もしてやられたし、今度また逆襲してやろう(血涙)。


 と、茶番を繰り広げていたその時だった。


 バンッ!!


「うおっ!?」


「ひぅ!?」


 宿屋の窓に何かが衝突して、思わず俺とシオンは悲鳴を漏らす。

 そのまま窓に衝突した何かがズルリとずり落ち、鋭く爪を尖らせると、窓に爪を突き立てる。

 響く破砕音。ガラス窓を突き破って覗かせた嘴の鋭い生物は、けたたましく声を上げる。


『ゲギャギャギャギャギャギャ!!』


「お前何てことしてくれてんのッ!? ここ個室だから窓の弁償代俺が払う事になるじゃねーか!?」


「……村人。故意じゃないし、多分保険降りるから大丈夫」


「あっここからでも入れる保険があるんだぁ……」


『ゲギャアアアアアアアア!?』


 そう言いながらディアライズを装備。即座に【彗星の一矢】を放ち、俺の部屋へと乱入してきた嘴の鋭いドラゴン?を射抜く。

 幸い強敵と言う訳では無かったようで、その一撃で絶命したようだ。

 部屋の中に入り込む形で頽れたそいつをまじまじと見つめる。

 緑色の体に、特徴的な鋭い嘴。背中には二対の蝶の羽のような翼が生え揃っていた。


「……えっと、なにこいつ? 新種のリザード?」


「……多分だけど、翼生えてるからリザードではないと思う」


 なんか見た目がコミカルなのに可愛くないなこいつ……。

 ええと何々? 【フェアリードラゴン】って言うのかこいつ。明らかにネーム負けしてるし、もっとファンシーで可愛らしい見た目にはなれなかったのかしら……。

 フェアリードラゴンがポリゴンへと変わるのを見届けてから、シオンが何かに気付いたらしく、窓の外を指差した。


「……村人、あれ見て」


「……なんじゃありゃあ」


 フェアリードラゴンが侵入してきた窓から外を見ると、そこには地獄が広がっていた。

 地上からはリザードが、空からはフェアリードラゴンが群れを成して押し寄せ、プレイヤー達が応戦しようとしているが軒並み轢き潰されている。

 戦闘している区画からそれなりに距離が離れているのにも関わらずここまで悲鳴が響いてくるのだから、これを地獄と形容せず何と言おうか。

 というか、第一地区にある宿屋までモンスターが進行してきているって事は……。


「……あれ? もしかして、俺達採掘している間にヤバい事態に発展してたくさい?」


「……もしかしなくても多分そう」


 やっべえ。絶対後でライジンにしばかれる奴じゃねーか。

 そのまま沈黙する事数秒。解決策を思いついて手をポンと叩いた。


「まあ後で賄賂渡しときゃ何とかなるか」


「……それで何とかなると思ってるのはどうかと思う……」


 世の中金だからね。ちょっと百万マニーぐらい握らせておけば流石のライジンも黙るだろう。

 なぜなら今俺のアイテムストレージには腐る程のアダマンタイトその他レア鉱石が存在している。

 総額数億マニーにも上る俺の所持金(推定)からしたらこの程度はした金だ。


 ……それはそうとして。


「流石に俺達二人だけでどうにか出来るとは思ってないけど、まあ行かないよりかはマシか。……行くぞシオン、少しでも報酬を多くするために!」


「……現金な性格過ぎる、でも嫌いじゃない」





「戦線を押し上げろッ!! これ以上の進行を許すなァ!!」


「第二地区が陥落したぞッ! もう本格的にやばい! このままだと第一地区に到達しちまうッ!!」


「野郎、切っても切っても湧いて出てきやがる……!! 【龍王】を攻撃する暇もねーぞ!!」


 【龍王】進行開始から一時間が経過した。

 【小竜の大行進ニダヴェリール】、そして【妖精竜の楽園アルフヘイム】によって出現した【龍王】配下のモンスター達によって、プレイヤー達は窮地に立たされていた。

 地上戦が繰り広げられていた時は通路を封鎖したりなどの応急処置で凌いでいた戦線も、空中からの増援によって続々と崩壊していき、小細工抜きで戦う事しか出来なくなってしまったのでジリ貧になってしまっているのだ。

 それに加えて。


『【龍王の息吹ドラゴンブレス】』


 あくまで歩みを進めるだけだった【龍王】が、戦場を熱線で薙ぎ払っている。

 【龍滅砲】を直撃させてから、【龍王】の攻撃は激化してしまっているのだ。

 戦況は悪化していく一方。だが、それでも諦めまいとプレイヤー達は足掻き続ける。


「最悪第一地区に到達してもサーデストまでは距離があるッ!! ゾンビアタック仕掛けて少しずつ数を減らして何とかするしかねえ!!」


「それはどうかな」


 その時、丁度リザード達を刀で両断した奇抜な男がぽつりと呟く。

 その言葉に、先ほど発言したプレイヤーはその男に視線を向けた。


「どういう意味だ?」


「あたかも時間がまだ沢山あるみたいな口ぶりだけど、あの巨体が悠長に山登りすると思う? もしかしたら、第一地区に到達された時点でサーデストを壊滅させる術があるかもしれないと考えるのが妥当だよねぇ。 ……非常に、不味い状況だヨ」


 そう言ったのは厨二だ。いつも余裕を保っている彼と言えど、彼の表情に笑みは一切無い。

 周囲のモンスター達を手慣れた様子でヘイトを集めていたボッサンが厨二に向けて。


「さっきまでノリノリだったのに一気にテンション下がったなお前?」


「流石の僕もあのステージギミックを使ってあれしかダメージを与えられないのは想定外なのサ。……ちょっとばかし、【二つ名】って存在を見誤っていたかもしれない」


 プレイヤーの記憶に関わるらしい、SBO最強の存在。その一角が誇る計り知れない実力。

 厨二はふと、【龍王】を見上げる。

 大きく分けて三層で構成されている、巨大な世界樹ユグドラシル。その内、

 厨二は思わず冷や汗を垂らしながら、目をほんの少しだけ開いて。


って事は、あの樹の能力を全部解放したら、僕達一体どうなっちゃうんだろうネ」





「【灼天・神楽】ァ!!」


 ライジンの動きに追従するように、炎が渦巻くと、リザード達を瞬く間に呑み込んでいく。

 そして、その背後で轟く爆発。ライジンを追うように、ポンが空を駆け抜ける。

 リザードとフェアリードラゴンを相手取りながら、ポンが焦ったような声音で。

 

「これ、本当に【龍王】を止められるんですかね!?」


「現状から見て間違いなく討伐は無理だ! モンスター達の処理に手一杯でボス本体にまともにダメージを与えられてないからな!」


 ライジン達は第一地区にモンスター達が侵入しないように、迫り来るモンスター達の処理に追われていた。

 途中から二人に合流していた串焼き団子がライジンの言葉を聞いて叫ぶ。


「でもそれだとサーデストが壊されちまうんじゃねーのかよ!?」


「……一応、ってのは分かっているんだ! それは、どうにか出来る手段はあるかもしれないって事の裏返しでもある」


 そう、今回の【龍王】戦のミソはそこだ。

 【龍王】と遭遇した時のシステムアナウンス、そこで判明した事実。


 


 つまり、これは【龍王】を討伐する機会ではない、と言う事。

 【二つ名】クエストである以上は、勝利条件が討伐の他にもあると見て間違いない。

 他でもない【双壁】の【二つ名】レイドに挑戦したライジン達だからこそ断言できる、その一つの真実に辿り着いていた。


 だが。


「と言う事は、ここからどうにかできるかもしれないと!?」


「──分からない。……これが退であるのなら、それに必要な基準を満たしていないだろうから」


 撃退するに当たって必要な基準。過去様々なゲームをプレイしてきたライジンは、【龍王】に対する一定以上のダメージだろうと憶測を立てている。

 だが、先ほども言った通り、モンスター達の処理に追われるばかりで【龍王】本体にまともなダメージは与えられていない。

 それが意味する事は、討伐にしろ撃退にしろ、絶望的だと言う事だ。


「状況は絶望的だ。……マジでサーデスト、ぶっ壊されるかもな」


 【龍王】との距離が近づいていくに連れて地響きが次第に大きくなっていく。ライジンが前方に視線を向けると、最終防衛区画である第一地区へと【龍王】が足を踏み入れようとしていた。





「伝令ッ!! 【龍王】が第一地区に間も無く到達ッ!! この会議室にモンスター達が雪崩れ込んでくるのも時間の問題ですッ!!」


「了解した。……ここから先はこの会議室も放棄する。四の五の言っている暇はとっくに無くなってしまった。我々も打って出るぞ」


「十分すぎる準備をしていたと思っていたのだがな。奴はこちらの想定を遥かに上回る実力だったと認めざるを得ないな」


 宿屋から戦場へと戻る途中、会議室の様子を一応確認するべく立ち寄ってみたのだが、皆一様に神妙な顔をしていた。

 やはり、というか想像以上に不味い事態だったようだ。それこそ、呑気に背中の上で鉱石を採掘している暇なんて無いぐらいには。

 ちょっとした罪悪感に苛まれていると、Rosalia氏がこちらの姿を見つけたようで、眉を上げる。


「君もリスポーンしたばかりなのか?」


「そうだな。今から戻るところだけど」


「そうか、ならちょうど良い。君も一緒に来てくれ。君がいれば百人力だ」


 やはり俺に拒否権は無いらしい。そのままRosalia氏に連れられそうになった所で、事態が急変する。


「おい、【龍王】が……!!」


 会議室に居たプレイヤーの一人が、窓の外に見える【龍王】を指差す。

 その凄まじい巨体が、ゆっくりと立ち上がろうとしていたのだ。


「おいおいおいおいおいおい……!?」


 全長一キロは優に上回るというのにも関わらず、ゆっくり、ゆっくりとその巨体を起こしていく。

 その様子を茫然と眺めていたRosalia氏が心底焦ったように。


「……何をするつもりだ!?」





 【龍王】は二本足で立ち上がると、混沌とした戦場を一瞥する。

 自身が産み落としたモンスター達の処理にトラベラー達が奔走しているあまり、自分の進行をこうも容易く許してしまっている。

 恐らくは人間が住まう都市まで距離があるから大丈夫、と慢心しての事だろう。

 こうして三千年の眠りにつく事で傷を癒しながら進行に備えてきたというのに、余りにも拍子抜け過ぎる戦闘に、【龍王】は目を細める。


(ここまで衰退した物なのか。かつての忌まわしき人類共は一人一人が決して侮れない兵器を持っていた)


 ズキ、と【龍王】の腹部に刻まれた巨大な古傷が疼く。

 戦闘開始して間もなく、全体に巡らせていたバリアを一部だけではあるが貫いたトラベラーが居た。その攻撃は、だった。

 【龍王】の記憶では、その武器は次の攻撃までのインターバルも短かったはずなのに、あの一撃以降弾丸を用いた攻撃は一切してこなかった。


(──だが、今となってはそんな事などどうでも良いわ。我が憤怒、貴様ら種族を根絶やしにした所でまだ足りぬ)


 技術が衰退したから戦えない、昔の人間とは関係ないから見逃してくれ。そんな屁理屈など、耳を貸すつもりも無いし、それが許せる程【龍王】の怒りは甘くはない。

 それほどの許されない事を、かつての人間が【龍王】にしたのだから。


(感じるぞ、人間ゴミ共のマナが密集している地帯。……あれが、人間ゴミ共の都市か)


 巨大な霊峰によって阻まれているが、【龍王】は卓越したマナ感知能力を持ってして、人間が住まう一大都市……サーデストを捕捉する。

 足元でプレイヤー達の攻撃が行われているが、一切干渉せずに静かに狙いを定めると、大口を開いた。


『終わりだ、人間ゴミ共。──我が一撃を以て、貴様らの都市を焼き払って見せよう』


 体内に循環させていたエネルギーを口元に収束。

 自身を包むバリアすらも解除し、その分のマナを全て搔き集めて次の一撃に備える。


『我が積年の恨み、とくと思い知れ』

 




 同時刻、某所。


 幾つもの管に繋がれた、純白の鎧を纏う騎士が、閉じていた眼をゆっくりと開いた。


≪システムコード■6■:情■統■■■塔■■■■■■より通達 ■■対■■害■数『カ■■』が一定の値に到達した存在を検出 即刻排除を命ずる≫


『──了解』


 管が外れ、純白の騎士は忽然とその場から姿を消した。





「あいつを止めろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」


 【龍王】の大技の予兆を見てどこからか響く絶叫。

 だが、プレイヤー達のそれに対する回答は一致していた。


 止める? どうやって?


 頼みの綱の【大光縄だいこうじょう】は再使用可能になっていない。唯一【龍王】に大ダメージを与える事が出来る【龍滅砲】も跡形もなく粉砕された。

 総攻撃を仕掛けた所で、【龍王】を止める事は不可能。

 それどころか、【龍王】配下のモンスター達の処理で手一杯なのだ。

 たかがイベント戦闘、そう思い込んでいたプレイヤー達は、もはや武器を握る力も無くただ茫然と【龍王】を見上げていた。


「……くそ、もう無理だ。……どうやって止めれば良いんだ……」


「誰でも良い……! 誰か、あいつを止めてくれ……!!」


 幾重にも重なる魔法陣が【龍王】の足元に展開される。

 【龍王】が用いようとしている魔法は、遥か太古から存在する火属性最強の魔法。

 時を経るに連れて魔法は改良される事で複雑化されがちだが、太古の魔法だけあってその性質は至ってシンプル。だが、改良する余地が無い程に、威力は果てしない。


 その名も。



『【流星群メテオシャワー】』



 【龍王】が幾つも特大の火球を生成し、空中へ向けて放たれる。

 プレイヤー達に向けてでは無く、サーデストに向けて放たれた一撃。

 誰しもが、その光景を目の当たりにして、終わりだと悟った。

 


 ──その時だった。



 まるで助けを懇願する者達の意思を汲んだかのように、閃光が空を駆け抜けた。



『我、粛清の代行者』



 一閃。



 たったそれだけで空中へと放たれた【流星群メテオシャワー】は一つも余す事なく両断され、派手な爆発を巻き起こして四散し、その破片が地上へと降り注ぐ。


 そして、【流星群メテオシャワー】の破片が散る中、一人の騎士が地面へと降り立った。


 陽光に反射して煌めく、長いブロンドヘア。ぱっちりとした、深海を思わせるディープブルーの双眸。その特徴的な一切の穢れ無き、純白の鎧を身に纏う騎士がレイピアを振り払う。

 周囲に居たプレイヤー達は目を見開くと、その名を叫んだ。


「【戦機】ヴァルキュリア!?」


「ヴァルキュリアたん!?」


「どうしてここに!?」


 次いで、誰がやらかしたと皆一様に周囲に視線を巡らせた。

 プレイヤー達の共通認識では、【戦機】ヴァルキュリアの出現条件は『カルマ値』であると疑っていなかったからだ。


 だが、プレイヤー達の思惑をよそに【戦機】ヴァルキュリアはというと。

 その手に握られていたレイピアの切っ先をあろうことか──



 ──【



 それを見た【龍王】が、不可解そうに眉根を寄せる。


『なんの真似だ、傀儡風情が』


 それに対し、【戦機】ヴァルキュリアはふ、と冷笑を浮かべると。



『……やり過ぎたな、【龍王】。──貴様は今から私の粛清対象だ』


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