#198 【龍王】討伐作戦 その三


【オリハルコン】レアリティ:金 分類:金属

伝説上の物質とされる、幻の金属。目撃例は非常に少なく、生涯の内に一つお目にかかる事が出来れば運が良いと言われるほど希少。その硬度は金属類の中でも突出して高い物であり、オリハルコンを用いて作成された装備は破損する事は無いとされている。魔力伝達能力も金属類の中でも一、二を争うと言われており、作成されたばかりの装備でも、使い慣れた物の如く手に馴染む。

しかしながら、この金属を加工した経験がある鍛冶師が極端に少ないという問題点も存在する。加工する以前に、入手する事が出来ても活かす事が出来ないという事例もあるので注意が必要。



「レアリティレジェンダリーとか初めて見たんだが……」


 【アダマンタイト】もレアリティ的にはエピックなのでレアアイテムの類なのだが、それ以上の代物を手に入れてしまった。

 生涯の内に一つって言うからには相当希少なんだろうなコレ……。RPGに疎い俺でも聞いた事あるもんな、オリハルコン。


「もしかして、これ塊の数だけ採掘出来る感じか?」


 視線を他の石の塊に向ける。今俺が採掘を行った鉱脈は一応その場に残ってはいるが、既に採掘可能限界数を超えてしまったらしく、【サーチアイ】を使っても反応しない。

 だが、今手に入れたようにこの鉱脈にはとんでもない鉱石が眠っている。そんな鉱脈が目の前にあるというのに高値で取引されているアイテムを見逃すというのは勿体無い。

 この情報を誰かに共有すべきか……? いや、それだとマーケットに流す時に高値で取引出来なくなってしまうよな……。オリハルコンは滅茶苦茶希少だろうし、暫く手元キープだけど。


「……そもそも【採掘士】じゃないとまともに採掘出来ないしな」


 そう、問題はそこなのだ。このゲーム、ピッケルを持っていたとしても適正ジョブ以外だと補正が入らない。ある程度のレアリティまでは採掘が可能だが、エピックレジェンダリーといったレアリティが高い鉱石は確定で採掘する事が出来ない。多分、今しがた採掘を行った採掘ポイントで採掘をした所で石ころしか取れないのではないだろうか。

 そう考えると、俺はたまたまとは言え【採掘士】をセットしておいたのはかなり運が良かったわけだ。しかも、やろうと思えば【慧眼】で『増幅石』がある事も知る事が出来たわけだし……。……あれ? もしかして【採掘士】、人権ジョブでは?(錯乱)


「となると、やる事は一つだ」


 そう言ってウインドウを開いてメッセージ画面を開く。

 俺の知り合いで尚且つサブジョブに【採掘士】をセットしていそうな奴と言えば、一人しかいない。


『……どしたの?』


『【龍王】の背中でアダマンタイト祭開催中! 今ならオリハルコンもあるぞ!』


『マジかよ刀振ってる場合じゃねえ!』


 キャラがブレてんぞシオン。

 まあ、こういう風に返信してくるって事はシオンも【採掘士】をサブジョブに付けていたようだな。俺らのようにサブジョブに採掘士を付けている人間は少ないだろうし、マーケットに【アダマンタイト】が溢れかえって相場が暴落すると言う事も無いだろう。


 と、その時だった。

 上空がキラッと光ったかと思うと、凄い勢いで何かが降ってくる。


「なんだあれ!?」


「空から美少女が降ってきてるぞ!?」


 いつの間にか【龍王】の背中に降りてきていたプレイヤー達もその光景を見てどよめきだす。

 おいまさか……。


「……頼んだ」


 俺の真上に降ってきた紫髪の少女は、そんな事を口走った。


「お前それは流石に無謀の極みが過ぎないか!?」

 

 俺が慌ててディアライズを引っ張り出して【バックショット】を放つと、その矢に当たった少女がノックバック効果で真上に吹き飛んだ。

 勢いを殺し切れず暫く転がっていると、鉱脈に当たってようやく停止する。

 慌てて駆け寄ると、その少女……シオンが死にそうになりながらぐっとサムズアップする。


「……ぱーふぇくと」


「0点だよ!」

 

 シオンにHPポーションを叩きつけながらそう叫ぶ。

 反応が遅れてたら俺ごとぺしゃんこだったじゃねーか! 圧死も洒落になんないからやめてくれませんかね!?

 回復を終え、むくりと起き上がったシオンは周囲に視線を巡らせる。


「……で、百万マニーはどこ」


「おうアダマンタイトの事百万マニーって言うのやめーや」


 確かに金額的にはそれぐらいするらしいけど!(紅鉄氏調べ)


「ほら、周囲にちらほら石の塊があるだろ? あれ全部採掘ポイント」


「……把握。……ここがぱらだいすか」


 シオンが目を輝かせると、即座にピッケルを取り出して万全の体制を整える。

 よしよし、これでレア鉱石を無駄にせずに済むな。


「……さて、と」


 レア鉱石を手に入れた事で少々戸惑ってしまったが、本来の目的を見失ってはいけない。

 えーっと、確かここに俺が来た理由は、と。


「採掘ポイント全部掘るぞぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


「おー!」


 遠路はるばるレア鉱石を堀りに来たんですねぇ!

 あ? サーデスト? 街が滅ぶのを防げば俺に金が入ってくるの? 入らんよな? なら掘るしかないよねえ!!!


 俺とシオンは軽やかな足取りで次の採掘ポイントへと向かっていった。



「黒薔薇の連中から伝令だ! 増幅石って石の塊がこの背中の至る所にあるらしい! それさえ破壊すれば魔力障壁バリアが弱るってよ!」


「もしかしてあれじゃないか? マケボで一度買った事があるけど増幅石はあんな感じの色だったぞ!」


「あれを叩けばいいわけだな! よし、一斉こうげ──」


「ちょーっと待ったそこの方々!」


 今まさに増幅石に攻撃を加えようとしていたプレイヤー達の間に割って入るように飛び込む俺とシオン。

 皆一様にぎょっとした表情を浮かべると、攻撃しようとしていた手を止める。


「なんだあんたら、どいてくれないと攻撃出来ないんだが!?」


「おい、こいつもしかして村人Aじゃないか? 始まりの厄災って言われてる……」


「あー、あー、ちょっとラグいみたいなので一部は聞き取れなかったんですが、少しだけ待っててくれませんかね!?」


 自分に都合の悪い事は取り敢えずスルー安定ィ!

 そう言って俺とシオンは増幅石の前まで行くと、ピッケルを取り出す。


「そぉい!」


 カァーン! カァーン! カァーン! カァーン! カァーン!

 はいこれで増幅石五個入手ゥ! お手軽金策万歳ィ!


「おっしゃ今の採掘の収益がざっと250万マニー! シオンも採れたか!?」


「ん。この塊、もう用済み」


「他の奴に取られる前に全力でぶっ壊すぞ!!」


「がってん」


「えぇ……?」


 俺達の様子を見ていたプレイヤー達のドン引きした声が聞こえてくる。

 だって他の奴らに採掘されたらマケボの相場が落ちるんだもん! なら破壊するしかないよね!(短絡的思考)

 即座に武器チェン、からのぉ!

 

「【彗星の一矢】ァ!」


「【断切たちきり命断めいだん】!」


 各々強力なスキルを叩き込み、増幅石の塊を跡形もなく粉砕する。

 フハハハハハ! 採掘即破壊がやはり最適解だな!! 後続に隙を晒すものか!!


「よしさっさと次行くぞシオン! まだ見ぬ鉱石が俺達を待っている!」


「……目指せ10億マニー」


「え? あれ採掘できんの……? てかそもそもなんであの人達【採掘士】をサブジョブに置いてんの……?」


「【二つ名】を相手にすんのにわざわざサブにギャザを置いてる人間なんてそうそう居ないだろ……」

 

 後方で困惑したような声が聞こえてくる。先に情報を得た人間がこの採集決戦を勝ち残れるのさ!

 おっまたアダマンタイトの鉱脈だねぇ! 美味しいねぇ!


 そのまま採掘して回っていると、ボッサンがこちらに駆け寄ってくるのが視界に入る。


「村人、こんな所に居たのか! って、シオンまで。お前ら戦闘中に何してんだ?」


「「炭鉱夫」」


「……ライジンからは魔力障壁バリア剥がしに行くって聞いてたんだけどな……?」


「「だってそこにレアな鉱石があるから……」」


「いちいちハモらなくてよろしい」


 まあ結果的には増幅石を破壊しているから【龍王】の魔力障壁バリア剥がし自体には貢献してるから……。

 それを知ってか知らずか、ボッサンは一つため息を吐いた後。


「……さっきライジンから連絡があって、ある程度破壊し終わったら【大光縄だいこうじょう】以外の兵器も使う予定だから退避しておけって言ってたぞ。多分メッセージで届いているはずだ」


「えっ、何する気なのあいつ」


「龍王に大ダメージを与えるっつってたから多分大砲かそこら辺の類だろうが……このまま乗っていたら諸共吹き飛ばされるのだけは確かだ。お前らも早めに避難しとけよ」


「……分かった」


 そう言ってボッサンは足早に【龍王】の背中を駆けていった。

 ちらっと隣に立っていたシオンに視線を向けると。


「……なあ、シオン」


「……なに?」


「俺が言いたい事はもうわかるよな?」


「……無論」



「「死ぬ直前まで掘り続ける」」



 俺とシオンは固い握手を交わすと、次の採掘ポイントへ向かっていったのだった。




 【フォートレス】第一地区、会議室。

 プレイヤー達が慌ただしく出入りする中、部屋の中央にあるテーブルを囲むように複数人のプレイヤー達が作戦会議していた。


「【龍王】が第二地区に到達するぞ! これ以上進行を許すとリス狩りされるかもしれねえ!」


「何とかして足止めしないと! 背中に飛び移った組の報告は!?」


「増幅石の破壊は順調らしい。既に魔力障壁バリアも広範囲が解除されている。Rosalia、どうする?」


 話を振られたRosaliaは、短く息を吐くと。


「【龍滅砲】の準備を進めてくれ」


「あれは砲弾が一発しか無いんだぞ!? 外したらどうする?」


 【龍滅砲】とは、【大光縄だいこうじょう】と同じく【フォートレス】を築き上げた過去の人間が残した兵器。

 その兵器を使用すると言ったRosaliaに、反論の声が出てくる。


「外すもどうも、使わなければ意味が無いだろう。……ここから奴に大ダメージを与える事が出来る手段はそれしか思いつかない」


「だがな……【大光縄だいこうじょう】はさっき使用したばかりだから当てられる確証は無いんだぞ!?」


「なら再び【大光縄だいこうじょう】が使用可能になるまで待つか? その間に第一地区に到達するだろうがな。……そもそも、【大光縄だいこうじょう】を使わなければ【龍王】の魔力障壁バリアを解除する事は出来なかった。【龍滅砲】を放った所で魔力障壁バリアを剥がすのが精々だったかもしれない」


「それは……」


 【大光縄だいこうじょう】は非常に強力な兵器だが、その分消費するマナも膨大。

 マナを再充填出来るまで、待つとなれば時間がかかり過ぎる。

 どうしたものか、とRosaliaが焦燥に駆られていると。


「なら、僕が出るよ」


 と、会議室の入り口から声が聞こえてくる。

 会議をしていたプレイヤー達が一斉にそちらへと振り向くと、そこに立っていたのはオキュラスだった。


「オキュラス……? 君がこの状況を打破できるのか?」


「可能性としては、だけどね。……ただ、数秒ぐらいは足止め出来るかもしれない」


 オキュラスの言葉に、その場に居た人間達がおお、と声を上げる。

 Rosaliaはオキュラスを見つめながら、静かに問う。


「……信じていいのだな?」


「出来れば使いたく無かったんだけどな。……ペナくっそ重いし」


 飄々とした様子で語るオキュラスだが、彼は出来ない事は出来ないと言うタイプの人間であるとRosaliaは知っている。

 ならば、信じるしかないなとRosaliaは目を閉じた。


「その代わり、支払った代償は黒薔薇で受け持ってよ。……このスキル、いっぱいお金が吹き飛ぶからさ」


「ああ、一千万マニーまでなら即金で出そう。……頼んだぞ」


 Rosaliaの提案に対し、満足そうに頷くとオキュラスはその場を離れる。


「聞いていたな!? オキュラスがどうにかして足止めするらしい。【龍滅砲】の準備を進めろ!」


『了解!!』


 止まっていた時が動き出し、指示に従ったプレイヤー達が【龍滅砲】の発射準備に向かう。

 部屋の隅で話を聞いていた銀翼は、ゆっくりとした足取りでその場を後にした。





『【龍滅砲】の準備が整った。いつでも仕掛けて大丈夫だぞ』


 それからしばらくして。Rosaliaから届いたメッセージを確認すると、オキュラスは口元に笑みを浮かべた。


「さて、やるか」


 崖の上に立ったオキュラスは、拳を握る。

 【龍王】に対して使用するスキルは、かなり制限をきつめに作成したスキルだ。

 作成した自分で言うのもなんだが、ある意味では欠陥品。本当に使用する価値があるのかと問われれば、『場合による』としか言う事が出来ないスキルだ。

 そもそもこのスキルは満身創痍の状態に使うからこそ真価を発揮するのであって、今のように万全の状態で使うのは少々……いや、かなり勿体ない。

 なぜなら、を前提としたスキルなのだから。


「《天に届く骸の山》《我呼び起こすは死者の怨念》」


 だが、ここで使わなければ足止めする事など敵わない。

 躊躇している暇も余裕も無いのだから、やるしかない。

 詠唱を開始したオキュラスの身体が、紫色の光に包まれていく。


「《怨念集いて修羅と成せ》《その無念を血に染めよ》」


 たん、とオキュラスが崖から飛び降りる。

 【龍王】を見据え、口元に弧を描きながら詠唱を続ける。


「《さぁさぁ踊れ、がしゃどくろ》《沈め掻き臥せ地獄の沼に》」


 詠唱が完了し、一層その輝きを強める。

 【龍王】の眼前で無力たるヒトは、静かに毒を吐いた。


「毒の海に溺れて死ね。──【無天髑髏むてんどくろ】!」


 オキュラスがスキルを発動させると、その身体が四散した。

 すると、オキュラスの身体が弾け飛んだ箇所から【毒龍ヒュドラ】とは比較にならない程の量の毒が突如として溢れ出し、それは骸骨のような形に収束する。

 【毒龍ヒュドラ】と同じ、毒を主体としたスキル。違う点を挙げるとするならば、それを操作する本人が既に死んでおり、自動操作である事か。多数の死者を前提とし、そして最後には自らの命を持ってして生まれた、おどろおどろしい見た目の骸骨が【龍王】に襲い掛かる。



『──この程度ので王たる我が止まるとでも?』



 ゴアッ!っと空気が唸りを上げて凄まじい咆哮が放たれる。

 【巨龍の咆哮ヨトゥンヘイム】ですらない、ただの咆哮。それによって発生した衝撃波が、オキュラスが命を投げ打って生成した髑髏型の毒塊を一瞬にして吹き飛ばしたのだ。


 プレイヤー達はその光景を目の当たりにして、ぽかんとしながら呟く。


「そん、な──」


『命一つ懸けた所でその程度しか出来ぬとは、愚かな生物よ』


 【龍王】の嘲笑が、プレイヤー達に絶望と言う形になってのしかかる。

 こちらがいくら小細工を仕掛けた所で、それを遥かに上回る純粋な力という名の暴力でねじ伏せる。

 その原理が単純明快だからこそ──プレイヤー達は怯んでしまう。



「いいや、違うネ。……この数秒が、お前の命取りになる」



 ──だが。それでも尚、諦めない人間がいるのも事実。


 漆黒のマントを翻しながら、【龍王】の目の前に降り立つ一つの影。

 口元に薄っすら笑みを浮かべた男は、手に持っていたステッキを【龍王】に向けると、吠えるように宣言する。


「人間を甘く見るなよ【龍王】。【龍滅砲】、発射!」


 その瞬間、大気が爆ぜるような轟音を響かせ、フォートレス上方にあった巨大な砲門が火を噴いた。

 ゆっくりと放物線を描いて放たれた砲弾は、【龍王】の身体を捉え、火柱となって【龍王】を包み込んだ。


 



────

村人「うわあああああああ俺の鉱石達がぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!(蒸発)」


【補足】


因みに厨二は美味しいとこを横取りすべくまるで自らの手柄のように登場しただけです。


【無天髑髏】任意発動型アクティブスキル 【消費MP全て】

詠唱:《天に届く骸の山》《我呼び起こすは死者の怨念》《怨念集いて修羅と成せ》《その無念を血に染めよ》《さぁさぁ踊れ、がしゃどくろ》《沈め掻き臥せ地獄の沼に》

発動条件:周囲数百メートルの合計死者数が50人以上

制限:現在装備している装備品の全破壊・強制死亡・通常の五倍のデスペナルティ・一日一回

死者の怨念を集めて意思を持った骸骨型の毒塊を生成するスキル。対象が死ぬまでスキルは効力を発揮し、その後は消滅する。


要は大規模PKを行った時に追い詰められたら往生際悪く使用するためだけに作った自爆スキルです。

因みに装備品の質によって毒の量が変わってくるので弱い装備を身に着けて自爆、などと言った抜け道は存在しません。

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