#193 峡谷要塞フォートレス
「そこそこ苦労して倒したのにこれは酷い……」
「いやまあこればかりは相性の問題だから仕方ない」
俺がジト目を向けながら言うと、ライジンは困ったように頬を掻く。
戦闘時間、ものの50秒。エリアボスとは思えない程の一方的な戦闘だった。
戦闘開始と同時にライジンが【灼天】を発動。アイスマジロはライジンの凄まじい熱量に近寄ることも出来ず、そのまま氷が溶かされていき、最終的には丸裸にされた。
苦し紛れにローリング攻撃しようとしたが、ポンの地雷を踏み抜いたアイスマジロはそのまま横転。
そこをすかさずライジンが強襲し、成すすべも無くアイスマジロはポリゴンと化した。
エリアボスを倒した事で開放された通路を歩いていると、ライジンが笑みを向けてくる。
「でもあんな攻略法は初めて見た。流石村人と言ったところかな」
「あんだけヒント出されてたら噴出孔も弱点って分かりそうだけどな? それこそライジンも一度はやってそうな攻略法だと思ったんだが」
「簡単に言ってくれるけど、やってることは相当難易度高いんだぞ。……考えたとしてもやる奴は少ないだろうな」
まあ目に見えた弱点を放棄してギャンブルに挑むよりかは確実に取りに行くものか。
しかもあれは正攻法って訳じゃなかったらしいしな。なんか称号で特殊勝利みたいな奴貰ってたし。
そのおかげでレア素材っぽいの落ちてたし、一概にも変な攻略法とは言い切れない。……まあ、何に使えるか分からん素材っぽかったけども。
「ま、これで晴れて明日の【龍王】討伐作戦に間に合うな。これから村人達はどうするんだ?」
「一応【フォートレス】の視察に行く予定。その後はまだ決めてない」
「私も視察までは同じですね。ただ、その後は【ハーリッド】の方に行こうかなと」
「【双壁】の情報集めか?」
「いえ。ミーシャさんに少し聞きたい事があって。演奏について、聞きそびれた事があって……」
あの時の演奏の時点で完璧な演奏だと思っていたのだが、まだ何かあったのだろうか。
まあ、本人がそう言うのならこちらが気にする必要も無いだろう。
それから歩き続ける事数分。出口の明るい光が見えてくる。
洞窟を抜けた先には──一面、
「これは……壮観だな」
峡谷と聞いていたので、てっきり自然豊かな景色が広がっていると思っていたんだが……。現実世界で例えるならグランドキャニオンのような入り組んだ景色が広がっていた。
天高く連なる霊峰の真ん中に出来た峡谷なのだが、峡谷の間に流れているはずの川が干上がっている。
その他にも木々等も枯れ果てており、自然と呼べるものが皆無のその地に、峡谷に沿う形で巨大な町が形成されている。
「あれが……」
「第四の町、【フォートレス】。名前の通り、恐らく【龍王】迎撃用に作られた砦のような場所だったんだろうね。今はNPCは人っ子一人居ない事から、放棄されていると見て間違いない」
ライジンが補足するように説明する。
一応この場所から町の内部を確認する為、【鷹の目】を発動。
町には多くの人間が往来していたが、NPCは一人もおらず、プレイヤーである事が確認できた。
忙しなく何かを運んでいるのを見る限り、明日に備えて設営しているのだろう。
「今はRosalia主導で、プレイヤー達を集めて【龍王】迎撃の準備を進めている。【龍王】を討伐出来れば参加したプレイヤーには報酬があるだろうからな。断る理由も無い」
「なるほど……」
【龍王】の正確な情報を持っているのは俺とライジン、そしてRosalia氏と鬼夜叉氏だけだ。
その中でコミュニケーション能力が高く、他人を統率出来る能力を持っているのはライジンとRosalia氏の二択になってくる。鬼夜叉氏は個人的な偏見だが、ソロプレイヤーに近い感じがするし。
「この後はしばらく【フォートレス】で開かれる作戦会議に顔を出す事になってるから、何か連絡したい事があったらメッセージを飛ばしてくれ。すぐに返信出来るかどうかは分からないけど」
「了解」
「それともお前も参加するか?」
「いや、遠慮しとく。興味が無い訳では無いけど、顔を出しても特にまともな意見を出せそうにないしな」
それに、1st TRV WARで悪目立ちし過ぎた。ゲームというジャンルにおいて凄まじい知名度を誇るライジンを後一歩の所まで追い詰めた男。たまに情報収集の為に覗く掲示板でも時折名前が上がっていたのだが、最近はその頻度が上がって来ている。知名度が上がれば必然、厄介事に絡まれる可能性が高いしな。それこそ、昨日のオキュラス氏の襲撃のような事がまた起きてもおかしくない。
そんな俺の思惑を汲み取ってか、ライジンが苦笑をこぼす。
「ま、そうだろうとは思ったさ。まあ、それまで俺が【フォートレス】の案内をするよ。多分、一筋縄ではいかない戦いになるだろうから、設備の造詣を深めておく方が良い」
ライジンの有難い提案に、頷いて返す。
相手はプレイヤー達トラベラーの記憶喪失の根幹部分に深く関わっているであろう【二つ名】。【粛清の代行者】の一角だ。まだ【双壁】と直接遭遇していない以上、相手の実力がどれほどなのかは探る段階。
ただ一つ分かる事は全力を出さねば【龍王】を討伐出来ない。しかも、討伐が出来なければサーデストが崩壊するというおまけ付き。
どこまで通用するか、じゃない。相手を撃退ないしは討伐出来なければ破滅が待っている。
なら、今出来る事となると、戦闘に備えて地形と利用できる設備の把握が最優先だ。
【フォートレス】に向けて歩いていると、ポンが突然立ち止まる。視線を遥か彼方……朧気ながら見える、峡谷を跨ぐように覆われた巨大な壁に目を向けていた。
「……元からこのような環境だったんでしょうか……」
「最速で攻略したプレイヤーの情報によると、まだ僅かに自然が残っていたという話がある。そのスクショも上がっていた。元々【フォートレス】に人が住んでいた形跡があるが、これを見る限りとても人が住める環境じゃないからな。この枯れ果てた峡谷は【龍王】の仕業に違いない」
時折鳴動するように、小さな地響きが起き続けている。
【龍王】が目覚める予兆なのだろうが、それにしても周囲に与える影響が大きすぎる。
それだけ強大な存在なのだろうと認識させられ、俺は思わず口元が緩む。
「何ニヤニヤしてんだ村人」
「あれ、そんな口元緩んでたか?」
「大方【龍王】との戦いを楽しみにしてるんだろ」
「バレたか。でも、お前もそうだろ? ライジン?」
「楽しみにしていない、と言えば嘘になるな。なんせこのゲームのメインコンテンツだ。浮足立つのも仕方ないさ」
ほれ見ろ。こいつも大概バトルジャンキーだからな。相手が強敵である程、ゲーマーは燃えるってもんだ。
それからしばらく他愛のない会話をしながら、【フォートレス】へと歩き続けるのだった。
◇
「む」
「ん?」
【フォートレス】に到着後、町の様子を確認がてら散策していると、見知った顔を見つける。
白い鎧に黒の薔薇の刻印が施された騎士然とした佇まいをした女性プレイヤー。
【黒薔薇騎士団】クランマスター、Rosaliaだ。
こちらの顔を見るや否や、ぱっと表情を明るくして近寄ってくる。
「君達か。もしや、ライジンと一緒に会議に参加してくれるのか?」
「いや、悪いけど会議には参加しない。まだ【アイスマジロ】を討伐して無かったから、攻略がてらこの町に立ち寄っただけだ」
「そうか……君達の意見も是非聞きたかったんだけどな」
俺の言葉に、少しだけ残念そうな表情をするRosalia氏。
いつの間にこの人の好感度が上がっていたんだ。まあ、邪険に扱われたりしないだけマシか。
「それにしても凄いな。この人数、良く集めたもんだ」
「なに、皆このゲームをそれなりにプレイする人間からしたら、美味しい報酬が貰えそうなコンテンツをみすみす逃す筈が無い。それに、こういった大型のコンテンツともなると貢献度でももしかしたら報酬が分配されるかもしれないからな。ここで手伝う事が自分の為になると理解しているのだろう」
素直に感心しながら言うと、大したことじゃないとRosalia氏は返す。
遠目で見た時も往来するプレイヤーの数はそれなりに多い事が分かっていたが、町中ともなると見えない部分に居たプレイヤーも見えてくる。恐らくだが、数百人規模で集まっているらしい。
雑談に興じる人間も居れば、せっせと荷物を運搬する人間まで、様々な人間が集っていた。
「プレイヤーならアイテムストレージに入れて運搬する事も出来るんじゃないか?」
「残念ながら、そうもいかないらしい。大砲の砲弾や
「確かにアイテムストレージに詰めるだけ詰めれば撃ち放題だもんな……」
それこそ本当に貢献度なんてものが存在するのなら、そういった設備を利用して火力を出したもん勝ちになる。それを見越しての仕様だろうな。
「明日はどういう立ち位置で戦うんだ?」
「相手のサイズが想定出来ないからはっきりと断言する事は出来ないが……取り敢えずはこちらでプレイヤー達の総指揮を取りながら、可能なら直接攻撃に参加する。ライジンも同じだな」
「ああ」
「なるほど……」
「君はどうするんだ?」
「うーん……まあ、臨機応変に戦うって感じかな。ポンは?」
「私は……あれを使ってみたいです」
ポンがキラキラした目でレールによって運搬されている移動式の大砲を見つめる。
やはり花火狂としては爆弾関係は見逃せないらしい。
それを見た俺は思わず苦笑しながら。
「Aimsだとああいった設備は少ないからな。確かに気持ちは分かる」
「ええ。大砲をモンスターに直撃させた時の爽快感はAimsでは味わえないでしょうから……! この機会にたっぷり堪能しておきたい所です」
どうせなら、楽しんだもの勝ちだ。恐らくだがポンはそっち方面で活躍するだろうし、その方が良いだろう。
となると、俺はどうしようか。別に一人で戦う分には良いんだが、【彗星の一矢】や【
どうせなら、
そんな俺に気付いたのか、Rosalia氏は人差し指を立てる。
「どうせなら、二人とも設備の練習に参加してみるか? ぶっつけ本番でも良いが、大砲の扱いや
「「是非お願いします」」
「か、かなり興味があるんだな」
俺とポンが食い気味に答えると、若干引き気味になるRosalia氏。
だが、すぐに任せておけと心強い言葉を貰い、そのまま数時間それぞれの設備の練習に参加させてもらう事になったのだった。
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