#192 VSアイスマジロ 終幕
アイスマジロと言うモンスターが異常に硬い生物だという事はこれまでの戦闘で分かる通りだ。
だが、それだけ硬いのならば必然的に相手の総HPはそう高くは無いだろうと予想は付く。それがゲームのお約束だからな。
だから、恐らく弱点を貫けば一撃でカタが付く、そう仮定した上での話をしよう。
アイスマジロの弱点は見ての通り甲羅の下に隠された身体だろう。だから、相手の防御を掻い潜ってその本体を攻撃する事が前提条件。
──そう、思い込んでいた。
「別に甲羅で覆われているから弱点が見えないって訳じゃないよな」
誰だって相手を見た瞬間、ああ、こいつの弱点はそこなんだなって判断する。
だからこそ盲点だった。最初から見えていたのに、敢えて思考の外に追いやっていたその弱点。
それは、
溶岩食という特異な生態のアイスマジロは、恐らく溶岩を飲み干し、それを体内の器官を通して冷気へと還元している事でこの環境に適応している。
つまり、噴出孔はアイスマジロの排熱器官。ならば、その噴出孔は体内に直接繋がっていると推測できる。
それが俺に出来る逆転の一手。
問題は、氷の棘に覆われたその噴出孔がどの位置にあるのかと言う話だ。
ぱっと見ただけではその位置は判別が付かず、その一点を狙うにしても一番最初のように反射されてしまうかもしれない。
だから、憶測で位置を判別するのではなく、確信に至る為の材料が必要だった。
そのためにシャドウに協力を要請した。シャドウはプレイヤーに付き添うナビゲーションAI。その性質上、ある程度の事は可能と推測したが、念の為写真の撮影が可能かどうか聞いた。
そして可能であると判断し、次はその噴出孔の位置を特定する作業だ。
噴出孔から煙を吹き出すタイミングは、二通りあると分かっている。
一つ目は、溶岩を飲み干した後。
そして、もう一つは……嗅覚を刺激され、憤怒した瞬間。
戦闘中でも優雅に溶岩を飲んでいたので、そっちの方が安全に確認できたのではないか……と思ってしまうかもしれないが、それでは駄目なのだ。
俺が強力な一撃を加えようとした瞬間、奴は防御態勢を取る。
そう、
だから、俺は敢えて後者を選んだ。球体状に変形するという事は、通常時の位置との乖離が生じてしまう。その為に少しリスクを負いながらも、二回目の『ゴブリンの腰巻』使用に乗り切ったのだ。
そう言った流れでシャドウの撮影した噴出孔があるであろう場所の特定は完了した。
後は、小さなその噴出孔を突くだけ。
言うのは簡単だが、針の穴に糸を通すような、そんな繊細な射撃が要求される。
「だが舐めて貰っちゃ困るな、俺はこの手の射撃で外した事は一度もねえ」
別のゲームでは日本最強のスナイパーと称された俺が、この程度の射撃をミスるようであれば最強スナイパーの名を返上しなければならないな。
こちらの動きを警戒するアイスマジロ。
ボスは思考し、相手の動きを学習するという非常に優秀なAIが搭載されているらしい。
これが一定の思考ルーチンで行動するようなモンスターならばこうして警戒する事も無いのだろう。
今は、それが逆にありがたい。こうしてあいつの弱点を確認する暇を、向こうが与えてくれているのだから。
そう、学習する以上、同じ手は何度も通用しない。そう分かった上でこの一撃でカタを付けなければならない。
さて、この作戦の仕上げと行こうか。
「シャドウ、俺のアイテムストレージからタイミング良く【ゴブリンの腰巻】を取り出す事は出来るか?」
『はい、可能です』
「じゃあ俺が指示するタイミングで取り出してくれ。頼んだ」
俺が最後に必要だったピースがこれで当て嵌められた。
この作戦の肝はシャドウに掛かっていると言っても過言では無い。
弱点の位置特定、及び【ゴブリンの腰巻】の取り出し。
一見【ゴブリンの腰巻】を取り出すというのは必要の無い工程であるように見えるかもしれないが、再三言うように【ゴブリンの腰巻】を取り出した時点で相手は防御態勢を取る。そこが重要なのだ。
俺が試しに撃った一発目の【彗星の一矢】は、射撃した瞬間に防御態勢への変形が完了してしまっていた。
噴出孔を狙って射撃したら球体状に変わって弱点の位置がズレました、なんて事態が発生したら目も当てられないからな。
こちらの狙いが相手に伝わった時点で向こうは最大限の警戒を向けるだろう。
「【一射必滅】」
俺がスキルを発動させると、鎖のようなエフェクトがどこからか出現し、それが自分の身体に巻き付いた。
対オキュラス戦でも使用したこのスキルは、『相手に大きなダメージを与える事』を条件とした制約付きのスキルだ。一撃の火力を大きく上げる代わりに、外した場合30秒もの間一切の攻撃が不可能になるというかなりのハンデを背負ったジョブスキル。だが、その分威力はお墨付きだ。
「【
次いで、意識が急速に引き延ばされる感覚を味わいながら弓をゆっくりと構える。
【チャージショット】の使用。そして、【跳弾・改】の使用。
そしてダメ押しとばかりに……【
身体が急速に燃え上がり、残り少ないHPを更にすり減らす。
「シャドウ!」
『了解!』
シャドウが動くと、どこからともなく【ゴブリンの腰巻】が具現化する。
それがゆっくりと地面に落ちる瞬間、アイスマジロの目が見開いたのを目視してから。
「【彗星の一矢】!!!」
スキルを発動させると、モーションアシストが働き、引きちぎれんばかりに矢を引き絞る。そんな俺よりも先にアイスマジロが球体状へと変形する。
その動きに合わせて、予め確認していた弱点の位置に弓矢が跳弾するように無理矢理向きを調整。
溜めに溜めた矢が解き放たれ、跳弾の効果で洞窟内を暴れ狂う。
『グゲココココココココ!!!』
何度も何度も嗅覚を刺激された事に腹を立てたのか、もう許さないとばかりに煙を噴射。
そして次の瞬間アイスマジロの鉄壁の防御を掻い潜り……噴出孔に【彗星の一矢】が強襲する。
『ッギュギャギャギャギャアアアアアアアアアアアア!!??』
初めて耳にする、アイスマジロの凄まじい悲鳴。
煙の代わりに吹き出す大量の赤いポリゴンが、その一撃の強烈さを物語る。
アイスマジロの体内を穿ち、地面へと着弾した【彗星の一矢】の衝撃で地面が爆ぜた。
手ごたえは十分。俺はゆっくりとディアライズを背中に担ぎ直す。
『ギャ……コココ……!!』
だが、腐ってもエリアボス。その一撃を食らって尚、立ち上がろうとした所で……異変が起きた。
『……カ…………ッ!!』
ぼたぼたと口元からよだれを垂らしながら、アイスマジロは全身を震わせる。
【彗星の一矢】が命中した噴出孔から、とめどなくあふれ出すのは真っ赤な液体……溶岩。
噴出孔の先にある、体内器官を激しく損傷したのだろう。冷気へと還元する事が出来なくなり、そのまま溢れ出てしまったのだ。
瞬く間に青い体表が熱で真っ赤に染まっていき、ぶくぶくと泡を吹き始めた。
『ゲ…………』
そうして、しばらく痙攣を繰り返した後……ゆっくりと頽れ、ポリゴンの塊へと爆散した。
それを見届けた後、白い息を吐き出しながらぽつりと呟く。
「
────────
【Battle Result】
【Enemy】 【アイスマジロ】
【戦闘時間】 13:25
【獲得EXP】 10000EXP
【獲得マニー】 8000マニー
【ドロップアイテム】 【氷甲殻獣の皮】x3 【氷甲殻獣の角】x1 【氷甲殻獣の爪】x3 【氷甲殻獣の棘】x3 【氷甲殻獣の眼】x1 【氷甲殻獣の体毛】x2 【冷気還元器官】x1
獲得した経験値に伴ってレベルアップしました。
【狙撃手(スナイパー)Lv20→21】
スキルポイント+4 ステータスポイント+5
熟練度が一定数に達したため、スキルがレベルアップしました。
【跳弾・改Lv9→10】
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面、道具等を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが上昇する。
スキルレベルが最大になりました。
【チャージショットLv9→10】
弓を構えて打たずにそのままでいると、威力の高い矢を放つことが出来る。溜め時間が長いほどスタミナを消費する。
スキルレベルが最大になりました。
【フラッシュアローLv7→8】
魔力を消費して強い閃光と炸裂音を発生させる矢を生成するスキル。
【集中(コンセントレーション)Lv6→7】
集中することにより、命中精度を向上させる。また、思考が加速される。
【空中床作成Lv4→5】
何もない空間に薄い空気の床を作成するスキル。レベルによって耐久度、出せる数が変動する。
特殊戦闘による称号を獲得しました。
【氷甲殻獣を倒した者】【氷甲殻獣戦特殊勝利】
────────
【補足】
ぬるっと上位職判明。
ちなみにアイスマジロ戦の安全マージンは下級職レベル40です。(6人想定)
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