#190 VSアイスマジロ その一
「ライジン後で覚えてろよ……!」
落下しながら、俺は【空中床作成】を発動。流石にこのまま無防備で落下すればお陀仏なのは目に見えている。
スキルを発動すると、薄っすらとほぼ透明な床が出現し、勢いよく着地。床を掴みながら、下へと視線を向ける。
依然として暗闇なのは変わりないが、ふと違和感を覚えた。
「……急激に寒くなってきたな……?」
外気温が一気に低下。先ほどまでの溶岩地帯とは比べ物にならない程の身を切るような寒さに思わずぶるりと身を震わせる。
活火山の内部だというのにこれほどの寒さになるのは異常という他にない。
それを生み出している原因が、この近くに居るという事だろう。
「【アイスマジロ】……か」
氷の棘を纏ったアルマジロと言う話だが、それだけ聞くとアルマジロというよりハリネズミのように感じるな。
兎にも角にも、地形が把握できなければ戦闘は厳しい。一度状況を把握する為に【フラッシュアロー】を発動。手元に光り輝く矢が出現し、それを下方に向けて射撃。
次の瞬間、強い閃光が暗闇を塗りつぶし、周囲の空間がはっきりと浮かび上がる。
その一瞬で地形を目に刻み込んでから、静かに息を漏らした。
「……寒いとは思っていたけど、まさか
先ほどから吐き出す息が白い。仮想の肉体で無ければ即座に悲鳴を上げていただろう。
所々に氷塊が生えそろっているのを見て、本当にここが火山なのか疑いたくなる。
この場所で長時間戦闘するのは、得策じゃない。出来る限り短期決戦で済ませたい所だ。
先ほどの【フラッシュアロー】で足場が近い事は分かったので空中に生成された床を跳躍する。
数秒の浮遊感の後、地面に降り立ち、周囲に視線を巡らせる。
「さて、どこから来る?」
暗闇に包まれている以上、視覚では無く、聴覚が頼りだ。
目を閉じて、聴く事に専念する。
すると、どこからかズズズズ……と音が聞こえてきたかと思うと、地鳴りが発生した。
「地中か!」
音の発生源は自分の真下だったので、すぐさまその場所から飛び退く。
一拍遅れて、突き上げるようにその巨体が姿を現した。
『グーココココココココ……』
地面から勢いよく飛び出してきたそのモンスター……【アイスマジロ】がその全貌を明かす。
この暗闇の中でも、その姿がはっきりと分かる。
【アイスマジロ】が全身が青色の氷によって覆われており、鎧のような氷は鮮やかに発光していた。氷の鎧の下には深い体毛で覆われており、まるでエイリアンのようなその見た目が、異質さを更に際立たせる。
と、【アイスマジロ】が口を開いたかと思うと、舌が伸びて地面へと突き刺した。
「……何を……」
まさか下から強襲してくるのではと身構えるが、襲ってくるような事は無く、突き刺した舌が真っ赤に染まった。
空洞のようになっている舌の内部にゴポリと音を立ててせりあがってきたのは溶岩。
まるで舌をストローのように使い、溶岩をゆっくりと飲み干していく。
「おいおいマジか?」
その様子を見て、思わず引き攣った笑いが漏れる。
ジュースでも飲むかのような感覚で【アイスマジロ】が溶岩を飲み干していくと、プシュー!と音を立てて背に纏う鎧のような氷の隙間から煙が噴出すると同時に、氷が更に厚みを増し棘のような鋭利な形状へと変化していく。
噴出された煙はひんやりとした冷気を纏っており、この寒さの原因がそれであると悟った。
溶岩食。この環境であのような姿で生きていられるその生態を垣間見て、面白いと呟く。
「戦闘開始だ!」
『ココココココ!!』
独特な鳴き声を発しながら、【アイスマジロ】の舌が強襲する。
管のような形状のそれを、
「硬ぁっ!?」
力は向こうの方が上だったので、すぐに拮抗する事を止めて回避に専念。
目標物を失った舌は、地面へと着弾するとズガン!と石を砕きながらめり込んだ。
(そりゃ地面に突き刺して直接溶岩飲むような奴だ、確かに舌にもそんぐらいの硬度があってもおかしくない……のか?)
そう考えると、弱点らしき部分がかなり少ないように感じる。
アルマジロは、そもそも甲羅の部分が非常に頑丈な生き物だ。
話によると、現実世界に生息するアルマジロの甲羅は、銃弾を跳ね返す程の硬度を持っているのだとか。
現実でさえそれ程の硬度を持っているというのに、ゲームである以上その硬度を優に上回っていてもおかしくない。
だから……まずは試させてもらう!
「【バックショット】からの……【彗星の一矢】!」
戦闘するにも判断材料が少ない。まずは明確な相手の弱点を見極め、どう攻めるかを決める必要がある。
青と白の粒子を纏った矢を放つと、【アイスマジロ】はそれを脅威と感じたのか、凄まじい早さで身体を丸め込み、球体状へと切り替わる。
そのコンマ数秒後に【彗星の一矢】が【アイスマジロ】に接触。ガァン!と派手な音を立てて矢は跳ね返り、その矢は俺へと……。
「あぶねえ!?」
綺麗に反射された【彗星の一矢】が被弾する瞬間、硬直回避用で撃った【バックショット】が自分の身体に命中し、そのノックバック効果で吹き飛ぶ。
地面を転がっていると、体勢を元に戻した【アイスマジロ】が再び口を開き、舌を覗かせると凄まじい勢いで射出する。
「クソ、【レッサーアクアドラゴン】と言い、なんでこうもエリアボスは硬い奴ばっかなんだ!?」
間一髪の所で舌を回避してから、こちらを牽制するようにじりじり動く【アイスマジロ】を見据える。
恐らく簡単に攻略させるつもりが無いからなのだろうが、それにしても厄介な能力を持ったボスが多い。本来多人数で攻略すべきエリアボスは、ソロは基本推奨しない、どころか無謀極まりない。
ただでさえ強力なボスのヘイトを一身に受け、その攻撃の全てを対処しつつダメージを蓄積させて撃破するのは至難の業だからだ。
「今にして思い出して見りゃあライジンの野郎……あいつの弱点とか全く教えてくれなかったな……!」
そう、ライジンから貰った情報は断片的と言うか、意図的に外されている部分の情報が多かった。
氷の棘を飛ばして攻撃してくる、球体状になったらローリング攻撃してくる……ただ、それだけしか書いて居なかった。溶岩を飲み干す舌の事なんて一切書いてなかったし、一番重要な発狂モードの事も何も書いていなかった。
「あいつの事だから、それぐらい見抜いて見せろって訳だろうしな。……良いぜ、面白え。この程度乗り越えられないようじゃ【双壁】どころかあのドラゴンにすら勝てねえ! やってやる!」
明確な弱点が判明するまで射撃は逆効果だ。【
『ココココココ!!』
「ここここうるせぇ!」
異常に発達した【アイスマジロ】の巨大な爪を回避しながら短剣を振るう。短剣と甲羅が接触すると、ガキン!と高い金属音を鳴らして弾かれてしまう。やはり、あの甲羅を正面突破するのは厳しいな。
(なら別の視点でアプローチをかけてみるか)
今度は【フラッシュアロー】を使用。【アイスマジロ】の目の前で光の矢が弾けると、閃光が周囲を包み込んだ。
「よっし直撃、今のうち……!?」
閃光を直視しないように腕で視界を覆っていると、ドグッと鈍い音が聞こえてくる。
その音の発生源は……自分の腹部。
「がはっ!?」
口から赤いポリゴンが生じる。それに伴って急速に減少していくHPバー。ズリュッと音を立てて、
『グーコココココココ!』
「なんで、効いてな……!?」
おかしい、今完全に【フラッシュアロー】をモロに浴びていたはずだ。
それにも関わらず、向こうは即座に反撃してきた。……もしかして閃光が効かないのか?
HPポーションを自らの身体に叩き付けるようにして無理矢理回復すると、笑みを作る。
「一筋縄ではいかないって訳だな……!」
これだからゲームは面白い。無理ゲー上等、それを切り崩すのがゲーマーってもんだろう!
◇
「あー、やると思った」
村人Aが【アイスマジロ】と戦闘し始めて数分。【フラッシュアロー】を用いて【アイスマジロ】の隙を作り出そうとしていたのを見て、ライジンが苦笑いする。
「……あのボス、閃光が効かないんですか?」
「うん。あいつ……というか、そもそもアルマジロって視力が非常に弱いんだよ。その代わりに嗅覚が優れているから獲物を狩れるんだよね。んで、アイスマジロは視力を完全に捨てた上で進化してったタイプのモンスターだから、閃光系は無意味。むしろ相手に絶好のチャンスを与えてしまうから絶対にやってはいけない行動の一つだね」
「なるほど……では、どう攻めれば?」
「あいつの弱点は見ての通り腹部さ。鉄壁の防御を乗り越えて弱点に攻撃さえすれば一気に大ダメージ。エリアボスの中でも一番脆いモンスターだから、多分【彗星の一矢】を直撃さえすれば一発で撃破出来るんじゃないかな」
と言っても、そう簡単にあのボスは隙を晒さないけど、とライジンは付け加える。
「ライジン君はどうやって攻略したんです?」
「俺の場合は【灼天】で甲羅を無理矢理溶かしてやった。だけど、そういう火系統の攻撃手段を持たないプレイヤーは相当苦戦するだろうね。……さて、村人がどう立ち回るか見ものだな」
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