#189 【龍脈の霊峰】攻略と因果応報
【龍脈の霊峰】。
【サーデスト】から【フォートレス】を繋ぐ大型山脈群の総称だ。
【ファウスト】や【セカンダリア】が隣接しているエリアに比べて、一気にその難易度が跳ね上がる。
単純に敵Mobが強くなるのもそうだが……一番の要因はその環境の過酷さだ。
活火山として活発に活動している溶岩溢れる洞窟内部を通る必要があり、その輻射熱に当てられてプレイヤー達の体力とスタミナはじわじわ削られていく。
そのため、エリア攻略には体内温度を調整する『冷気薬』が必須となり、それが切れてしまえば街へ引き返さなければならなくなる。
山の外周部を登山気分で挑戦する事も可能だが、天を貫く程の巨大な霊峰を踏破出来る程そう甘くはない。洞窟内部とは真逆……凄まじい気圧と、極寒の環境下での登山となる為、その対策も必須となってくる。
また、【龍脈の霊峰】に到達出来るぐらいのレベルでは挑戦するのもおこがましいと感じてしまう程のモンスター達の強さもあり、すぐに断念してしまう事になる。
結局、火山内部を通って次のエリアへと向かう事になるのだ。
そして、まだプレイヤー達が到達出来ていない山頂部……そこには一つの碑石がひっそりと存在し、その碑石にはとある龍の紋様が刻まれているのだが……それを知る人間は、数少ない。
◇
「相変わらずあっついなこのエリア……」
むせ返るような暑さに、思わず汗腺機能をオフにしているのにも関わらず額から汗を拭う仕草をしてしまう。
今日の【龍脈の霊峰】攻略メンバーはライジン、ポン、俺の三人だ。
どうやらボッサンと厨二は既にエリアボスを攻略しているらしく、エリアボスの素材はそこまで欲しいという訳ではないのと、各々別の用事があった為不参加という形になった。
シオンと串焼き先輩も誘ってみたのだが、流石にSBOに時間を割きすぎているという事もあり、今日はプロチームの方でFPSをやっているようだ。まあ、これは仕方ない。ライジンが後で合流してまた攻略するつもりと言っていたので、任せるとしよう。
「それにしても、あんまりモンスターと遭遇しないですね。……プレイヤーが多いからでしょうか?」
「現状、ここが美味しい狩場だからな。経験値が美味しい上に武器や防具の素材としても優秀な【ダークスチールスライム】が湧くし、それ目当てのプレイヤー達が他モンスターを含めて狩りしているからだろう」
ポンの質問に、ライジンがあくび交じりに答える。
そう、意外とモンスター達とエンカウントしないのだ。
お陰でスムーズにエリアを横断しているのだが……戦闘したかったのもあって、少しだけ期待外れだ。
「こりゃあレベリングは骨が折れそうだな……」
シオンと昨日の夜交わした約束。シオンが『増幅石』を用いた何かを
ライジンが俺の言葉を聞いて、小首を傾げた。
「別にレベリングはここじゃなくていいだろ。……もっと効率の良い狩場を俺達は知ってるからな」
にっと白い歯を見せるライジン。
ああ、何となくどこでやるか分かったけど、口に出さない方が良いか。結構プレイヤー達の往来があるし。
ポンもそれに気づいたのか、若干死んだ瞳になると、乾いた笑みを漏らした。
「またあの地獄が始まるんですね……」
「言うなポン、確かにあれ以上の狩場は知らん。覚悟しとこうぜ……」
まあ言わずもがな海鳴りの洞窟にある地下迷宮の事だ。水晶蜥蜴をちょっと小突けばいっぱい仲間を呼んでくれるし、龍脈の霊峰に生息するモンスター達よりも格上のモンスターだからこそ、経験値も素材も美味しい。……問題は、その素材を加工出来る鍛冶師の存在が必要だ、という事だが。
「っと、モンスターか。各員戦闘準備!」
岩石に満面の笑みが張り付いたかのようなモンスター……【スマイリーロック】が群れを成して現れるのを見て、すぐに臨戦態勢を整えると、そのまま戦闘に移行した。
◇
それから、一時間ほどが経過した。
モンスター達と何度か戦闘にはなったが、【二つ名レイド】の強敵達との戦闘を経ているせいか、苦戦する事も無く楽々戦闘をこなすことが出来た。
周囲のプレイヤー達の数が少なくなってきたかと思うと、洞窟の行き止まりまで辿り着いた。
「ここが最深部みたいだな」
最深部と言っても、開けた空間の中央に、不自然な穴があるのみ。
どうやら【清流崖の洞窟】のように最深部に到達してすぐボスとの戦闘という訳ではないらしい。
「そうそう。で、アレがボスエリアに繋がる穴なんだよ」
確かに、事前にライジンに貰ったマップの情報によると、ここにピンが刺されている。
「っと、忘れる所だった。村人、ボスの情報を渡すよ」
「おっ、サンキューライジン。気が利くな。どれどれ」
龍脈の霊峰エリアボス、【アイスマジロ】。溶岩地帯だというのに氷の棘を纏うアルマジロらしいが、名前が安直だからこそその強さがいまいち伝わってこないな。
主な攻撃は氷の棘を飛ばしてくるのと、高速回転でのローリング攻撃……本当にエリアボスなのかこいつ? 最近戦った敵と比べて見劣りするというか……あんまり強そうじゃないな……。
眉を顰めながらウインドウを眺めていると、ライジンがぽっかり空いた穴を指差す。
「ちなみに、この穴を飛び降りたらそのままボス戦開始だから気を付けてな。そこそこ深いから着地対策もしっかりするんだぞ」
「……なあライジン。……その優しさが妙に怖いんだが、俺の気のせいか?」
「ん? 何が?」
「いや気のせいなら良いんだけどさ……」
なんとなーく既視感があるんだよなこの状況……。なんだったかなぁ……。
まあ取り敢えず考えていても仕方ない。穴の中の様子でも見るか……って。
「しかし、この穴の中相当暗いな……。本当にボスエリアに繋がってるのか?」
実は飛び込んでみたら溶岩だまりにドボンでしたとかだったら洒落にならないぞ。
一応海鳴りの洞窟で落下してそのままマグマダイブをこの運営がやりかねないってのは知ってるからなぁ……。
「それは実際に見てみるといいさ。あ、そうだ村人。……あれをよく見てくれ」
「あれ? どれの話だ?」
ライジンが傍に寄ってきたかと思うと、指を向ける。
姿勢を前のめりにして【鷹の目】を発動させて指を差した方向を視てみるが、何を指差しているのかが全く分からない。
「なあ、ライジン、何を──」
トンッ。
「へ?」
今しがた起きた出来事に思わず間の抜けた声が漏れる。
あれ、今俺押された? 体勢が斜めにってちょっと待って落ちる落ちる落ちる!?
視線を俺の背中を押したであろう張本人……ライジンへと向けると、それはそれは素晴らしいイケメンフェイスを満遍なく発揮した爽やかスマイルを浮かべていた。
天をも恐れぬ、そそり立つ中指を添えて。
「
「やりやがったなライジンてめええええええぇぇぇぇえええ!!!???」
俺はそのまま大絶叫しながらボスエリアへと落下していくのだった。
────
【おまけ】
「ライジンさん!? 何やってるんですか!?」
「ポン。因果応報って言葉があるのは知ってるか? あいつ、前科多数。俺、無罪。つまり俺が
「あわわわわわ……あ、ボスエリアもう封鎖されてる!?」
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