#165 今後の打ち合わせ


「明日の夜?」


「はい。明日の夜、ゲーム内周期で言うと満月の夜なんですが、漁村ハーリッドで『漁獲祭』が行われるそうなんです」


 ポンの言葉を聞いてああ、と呟く。

 一昨日の昼間、ナーラさんに話しかけられた時、【漁獲祭】のユニーククエストが発生した。あの時点で承諾していれば、明日の夜には参加する事となっていたのだろう。

 このタイミングでのその発言は、つまり……。


「という事は『漁獲祭』に参加するって事か?」


「いえ、『漁獲祭』に参加はしない予定です。村人君、ナーラさんの話を覚えていますか?」


 ナーラさんから聞いた話は、漁村ハーリッドの守護神についての情報。

 あの時の情報からポンの発言と関連する話はと言うと……。


「漁獲祭の時に起きた、空間に亀裂が入る現象の事か?」


「それです」


 俺が思っていた通りの回答で間違いなかったらしく、ポンは満足気に頷いた。


「でもそれは、前の村の位置だったから起きた現象で、今は……」


「確かに今はもうその現象は起きていないかもしれません。ですが、元々ハーリッドがあった村の位置でなら?漁獲祭が行われる周期なら、あの現象が起きてもおかしくはない筈です」


 確かにその通りだ。村が移動したから、その場所で演奏した所で何も起きないという確証はないし、検証してみる価値は十分にある。


「そういえば昼間【演奏家】を取って教わりに行くって言ってたもんな。でも大丈夫か?一応、【船出の唄】って一種の儀式魔法って言ってたから、習得するのに時間が掛かるんじゃないのか?」


「そこはご心配なく。儀式魔法はある程度楽譜を暗記しないといけないみたいなんですが、私、こう見えて楽譜を暗記するのは得意なんです。昼間、ミーシャさんに一通り教えてもらいましたが、もう八割ぐらいは演奏出来る自信があります」

 

 俺の問いかけに、笑顔で胸を叩くポン。リアルのポンはマンションの自宅にピアノを置いているぐらいだし、音楽関係は強いのだろう。

 恐らくここにいるメンバーで誰よりも得意だろうし、【双壁】を呼び寄せるのに【船出の唄】を演奏する必要があるのなら、頼もしい事この上ない。


「それなら演奏の方はポンに任せるよ。で、明日の夜空いている人間は?」


 周りを見回しながら聞いてみると、ボッサン以外はみな手を上げていた。

 俺の視線に気付いたボッサンは両手を合わせながら申し訳なさそうに頭を下げる。


「悪い、明日の夜は嫁の誕生日だから外食に行く予定なんだ。だからパスで頼む」


「勿論リアル優先で大丈夫だよボッサン。別に明日【双壁】と戦うって確証はないしな。勿論、戦闘になったら攻略するつもりで臨むが」


「折角SBOに参戦出来るってなったのに申し訳ないな。もし討伐出来なかった時は力を貸すから遠慮なく言ってくれ」


 そう言うと満面の笑みを浮かべるボッサン。

 正直、今の装備でエンドコンテンツ級の敵と戦えるとは到底思えない。だが、【双壁】と戦う条件さえ見つける事が出来れば、今後装備を整えてリベンジする事も出来る。

 そう言った意味でも明日の結果次第で、今後の方針を決める上での重要なターニングポイントという事には変わりない。


「ではボッサン以外の皆さんは明日の7時にこの座標に集合してください。一応、何も起こらなかったらそのまますぐ解散するので」


 ポンがウインドウを操作すると、マーカーの付いたマッピングデータを送られてきた。


「……ところで私、戦闘職まだ取ってないけど行った方が良い?」


 すっと手を上げたのはシオンだった。確かに、今彼女が就いているジョブは【鍛冶師】と【採掘士】。どちらもレベルがそこそこ高くなっているとは言えど、もし戦闘になった場合は本職には到底及ばない。それどころか、高難易度コンテンツなら足手まといになる可能性すらある。


「まあ戦闘になるって決まったわけじゃないしな。もしかしたら専用エリアに行くことになるかもしれないし、ワンチャンそこでレアな鉱石とか取れるかもしれないぞ」


「行く」


「レスポンス早えなおい」


 やはり彼女もゲーマーか。レアなアイテムが手に入ると考えればそら飛びつくわな。

 まあ、串焼き先輩とライジンが居るし、やばかったら死んでも守ってくれるだろ、多分。


「……でもあまりお荷物なのも頂けない。……にぃ、10時からの練習、今日は休む」


「え?まあ一日ぐらいはいいけども……。その代わり、また別の日に埋め合わせはしろよ?」


「……分かってる。ちゃんと他のメンバーにも説明はしておく」


「それならしゃーない、俺もレベリングに付き合うかぁ」


 言うが早いか、串焼き先輩は紫電パープル戦士隊ウォーリアーのメンバー達にすぐにメッセージを打ち始める。おいおい良いのかプロチーム、完全に私的理由で練習中止とか。

 ジト目でシオンを見ていると、彼女はぷいっとそっぽを向く。


「……うちのチームはやるときはしっかりやるがモットー。……それに一日練習しなかった所で今まで築き上げてきた練度が落ちるわけではない」


「まあそういう事だ。意識が別の方に行ってる時に練習した所でまともな結果は出ないし、適度な息抜きはいざって時のパフォーマンスを高めてくれるしな」


 おお、串焼き先輩が珍しくまともにプロっぽい事を言ってる。

 プライベートでは口調こそ悪いけど、この人プロとして公式の場ではしっかりしてるもんな。


「じゃあ、俺もレベリング手伝うよ、厨二も手伝ってくれないか?」


「良いよぉ、暇だしねぇ。あ、くっしーはちゃんと粛清Mobのシステムを理解してから来てねぇ」


「もはや原型をとどめてないんだが?俺とお前、そんな気軽なニックネームで呼ばれる間柄じゃないと思うんだが??」


 そう言って串焼き先輩は厨二に詰め寄るが、へらへら笑ってやり過ごす。

 今日も今日とて厨二と串焼き先輩は仲がよろしいようで何よりです。


「あの、村人君。そういえば、あの壁の話ってどうなったんでしたっけ?」


 微笑ましく厨二たちを見つめていると、ポンが近寄ってきて聞いてくる。


 あ、そういえば最近は【双壁】ばっか情報を集めてたから近日中に目覚める予定の【龍王】についての情報収集を怠っていたな。確かそっちはライジン担当だから、聞いてみるか。


「そういや、【龍王】の話ってどうなってんの?」


「ん?ああ、一応Rosalia氏と鬼夜叉は複数クラン単位でもう行動を開始してるよ。第四の街【フォートレス】に設置されてるバリスタとか大砲の弾の補充とか準備を進めてる。俺達もそろそろ合流したいところだけど、まだ村人達は【龍脈の霊峰】を攻略してないだろ?」


「どこかの誰かさんが勝手に一人で攻略してたのでそうですね、まだ攻略してないですね」


「言い方に悪意がありすぎんだろ!いやまあ言わなかった俺が悪いんだけども!」


 嫌味ったらしくそう言うと、ライジンが吠える。

 まあかくいう俺とポンも、ライジンを含めずに勝手にレッサーアクアドラゴン討伐してた前科があるからライジンの事を悪くは言えないんだけどさ。


「じゃあ、【龍脈の霊峰】攻略は明後日にでも行こうぜ。早めに行かないと、【龍王】討伐に乗り遅れちまう。ボッサンって明後日は空いてる?」


「明後日なら休日だから大丈夫だぜ。すまんな、合わせて貰って」


「いや、別に構わないよ。それに、ボッサンと連携した立ち回りでボス戦やってみたいしな」


「おう。期待に応えて見せるぜ。一応、これでもMMO歴は長いからな!」


 自分に親指を向けたボッサンはこちらに笑いかける。

 確かAimsにどっぷり浸かる前は、色んなゲームを渡り歩いてきたという話を本人から聞いた事がある。一時期MMORPGにもハマってたという話も聞いてたし、楽しみにしておこう。


「しっかし良いよなー学生は。世間では夏休みだろ?くぅ、俺も長期休みが欲しいもんだぜ」


「ボッサンもあんま根詰め過ぎないようにな。串焼き先輩も言ってた通り、適度な息抜きが大事なんだから」


「そうは言ってもよー。中々休みは取れねえし、最近マジで忙しかったからこうしてゲームが出来る事に幸せを感じている……ッ!」


 涙を流しそうな勢いでガッツポーズしているボッサンを見て苦笑する。

 俺もいつかこんな風になる日が来るのだろうか。……あまり考えたくは無いな。


 そうして駄弁っている事数分。今度こそお開きムードになったので、ライジンが手を鳴らす。


「じゃあ、連絡は以上かな?各自解散で。また、明日の夜に集合なー」


「「「「「「了解ー」」」」」」


 そう言って皆ぞろぞろとクランハウスから出ていく。


 さて、俺も明日の夜に備えて、やるべきことをしてこないとな。

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