#164 クラン結成


 場所はサーデスト。厨二が購入したAサーバーのハウジングエリア、17番地。厨二が購入したクランハウスだ。

 梯子を降りて入り口の扉を開くと、そこには厨二とボッサンが既に待機していた。

 こちらに気付いたボッサンは手を上げる。


「よぉ傭兵!いや、村人だったな、今は!」


「ボッサン!」


 陽気な雰囲気で挨拶してきたボッサンに笑顔で応じる。

 リビングに備え付けてあるソファに腰を落として、一息吐いてからボッサンへと顔を向ける。


「なんでボッサンSBO始めたって言ってくれなかったんだよ、寂しいじゃん」


「あっはっは、実は厨二に頼み込んでパワーレベリングしててな。本来なら【双壁】?とやらとの戦いに合わせてこう颯爽と登場したかった所なんだが――――まあ、タイミングが悪かったな!」


「あのスライムが湧いたのが想定外だったからねぇ……。結果的に串呑み君がカルマ値を稼いだだけだから良いんだけどサ」


「串焼きだっつーの!串呑んでどうすんだよ!お前そこまで行くと絶対わざとだろうが!」


 厨二の言葉に、奥のキッチンに居た串焼き先輩がツッコミを入れる。

 その隣に居た紫音が眠そうに一つあくびをしてから。


「……ん。にぃは反省すべき」


「ぐっ……。わ、悪かったよ……」


「あれ?シオンまで?なんでここに居るんだ?」


 俺が首を傾げると、厨二が「ええとね」と口を挟む。


「事故とは言え、ボッサンがこのゲームに参戦したのが判明した事だし、これで変人分隊も全員集合だろう?……だからネ、そろそろアレを決めようと思って」


「アレ、とは」


「我々は元々、一つの志を共にする共同体サ。その共同体に、明確な名を付けようと思ってネ」


「クランネーム決めの事ね、はいはい」


 俺が軽くあしらうと、厨二が拗ねたように唇を尖らせる。

 そう言えば、大会から数日。結局命名権が俺に譲渡されてからまだ決めてすらいなかった。

 と、そのタイミングでクランハウスの玄関の扉が開く。


「お、もう全員集まってたのか。遅れて悪い」


「遅れてごめんなさい!」


 来訪者はポンとライジン。その二人の姿を見たボッサンは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「おお、ポン!ライジン!久しぶりだな!元気にしてたか?」


「ええ。ボッサンも元気そうで何より」


「はい!お久しぶりです、本当に」


「と言っても最後に会ってから一ヵ月も経ってないけどな!まあ、毎日のように一緒にパーティ組んでたからこの数週間顔合わせないだけでも新鮮味があるもんだな!」


 そう言ってボッサンは立ち上がると、ライジンとポンに近寄って頭を乱雑に撫でる。

 二人とも苦笑を浮かべてはいるが、嫌そうにはしていない。

 ボッサンが元からこういう人間だと分かっているからだ。


「つか話には聞いてたが本当にポンって女の子だったんだな。悪い、距離感が近すぎたか?」


「いえいえ、そんな!……ボッサンには色々お世話になりましたから。以前と同じ距離感で大丈夫ですよ」


「そうか、それは良かった!」


「……でもあんまり女の子にも気軽に接していると、奥さんが嫉妬するかもしれませんよ?」


「おっと、そいつぁマズいな!最近会社でも部下に距離感が近すぎるって言われちまってな!悪い悪い!まあ、俺は嫁さん一筋だから心配する必要はないんだけどな!」


 がっはっは、と豪快に笑うボッサン。やはり彼のようなムードメーカーが居るだけで場の空気が和むな。


「そうだ、嫁さんの方は大丈夫なのか?」


「ん?ああ。遠くない内に自分も参戦するって言ってたからまあ大丈夫だろ!」


 ボッサンの嫁さんは俺よりは年上だが、かなり若い。今年20歳になるって言ってたか。

 10歳以上も歳が離れているそうで、結婚する際に周囲から反対もあったそうだが嫁さんからの猛プッシュでごり押したそうな。

 ってな感じで嫁さんから大変愛されているボッサンは、ゲームに没頭しがちで嫉妬を抱かれがちらしい。だからSBOを始めるのにも説得が必要だったようだ。


 まあ、関係ない話は置いておこう。


 笑みを携えた厨二が掌を叩くと、小気味良い音が室内に響く。


「さぁて、役者は揃った。……決めようじゃないか、僕らのクラン名を」





 ライジンとポンが街で購入してきたお茶菓子をつまみながら、話題を切り出す。


「この前話したけど、ライジンはネーミングセンスが皆無だから除外として」


「うっ、なんだよ……別にいいじゃんかワンフォーオール……」


「確かにその名前はだせえな」


「ボッサンもそう思うだろ?ってなわけで、一位になったライジンの次点、大会で二位になった俺に命名権が譲られたわけだが……」


 腕を組んで目を細めると、周囲からごくりと生唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 数秒間黙り込み、俺が考えていた名前を告げる。


「……『変人分隊』で、どうだ」


「で、どうだ。じゃねーよ!まんまじゃねーか!」


「うーん、ボクとしてはそれでもいいんだけどサ、完全に部外者が居るんだもんねぇ」


 厨二が苦笑しながらシオンと串焼き先輩の事を見る。

 確かに、変人分隊は俺、ポン、厨二、ライジン、ボッサンの五人のチームの名前だ。プロゲーミングチームに所属しているシオンと串焼き先輩をそこに入れるのは少し違うよな。


「でもそうなると名前が何も浮かんでこないんだよなー……」


「我らFPS大好きズとかは?」


「シャラップライジン。お前はこの後数分間口を開くな」


「酷くね!?」


「ついでにネーミングセンスダサ男の称号をくれてやろう」


「世界一いらねえよその称号!」


 ライジンは冗談じゃなくて本気で言ってるのが一番救えない所なんだよな。

 一時期動画のタイトルセンスがあまりにもアレなものだったから『取り敢えず動画の内容を簡潔にしたタイトルにしろ』と助言したのが懐かしい。

 厨二がにやけた表情で、人差し指を立てた。


「『世界救済共同戦線』なんてのはどうだい?」


「やめろ厨二、そんな仰々しい名前にしたら所属してる俺らまで厨二感出てくるじゃねーか。第一俺らは世界を救う為になんて大層な目的で戦ってない」


 トラベラーの目的は記憶を取り戻す事。世界を救うなんて目的は……いや、待てよ。あの黒ローブは粛清の代行者を討伐して間違った世界を正さないといけないと言っていたからあながち間違いじゃない……のか?まあ、それでも没なのには変わりないんだけどな。

 

 しかし共同戦線、ね。確かに串焼き先輩とシオン、もしかしたら今後他のプレイヤーが加入する可能性も考慮しておかないといけない。

 それなら、である必要は無いか。

 戦線なんて仰々しい名前じゃなくて、こう、パートナー関係にあるという感じの……。



「なら、『変人連合』でどうだ?」



 そう言うと、皆一様に「あー」と声を漏らす。

 これだ!って感じの名前でもなく、それと言って否定する程酷い名前でもない。

 及第点、と言った所のネームだと俺も思う。


 だが、串焼き先輩は「いやいやいや」と手をブンブンしながら立ち上がった。


「ナチュラルに俺らを変人扱いしてんじゃねえよ!?」


「……ん。良いんじゃない」


「シオン!?」


 意外な事に、助け舟を出してくれたのはシオンだった。


「……変人分隊と、そこに紫電戦士隊パープルウォーリアーが入る連合軍。……うん、簡潔で良いと思う」


「変人扱いされてるところに疑問を持とうぜ我が妹よ!」


「……変人のフレンドはまた変人。……これ、世界の常識」


「俺は世界の仕組みについて分かってなかったんだな妹よ……」


「うん、まあ、そうなんじゃないかな(適当)」


 なんか知らんけどシオンが串焼き先輩を丸め込んでくれたおかげで通ったな。


 と、シオンを見てみると、無表情だが少しばかり口元がにやけている事に気付く。


 あ、違うこれライジンが所属してる『変人分隊』と似た名前のクランに所属出来るって事が嬉しいから無理矢理通した感じだこいつ。

 とはいえ、俺とシオンだけが納得しても仕方ない。他の皆の意見も聞いてみようか。


「皆は『変人連合』で異論は無いか?」


「ボクとしてはもっとクールかつエレガントな名前が良かったんだけど……。まあ、別に問題は無いよ」


「私はそれで大丈夫です。元々、命名権は村人君にあるんですから」


「俺もそれで良いぜ。『変人分隊』には思い入れがあるからな。その一部でも入ってればそれで文句はないぜ!」


「入ってるの『変人』部分だけどな……まあ、それで良いよ。でもやっぱワンフォー」


「「「「「「ワンフォーオールよりはマシ」」」」」」


「即答!?」


 残念だったなライジンよ、この場にお前の味方は居ない。というかシオンにすら拒否されるって相当だからマジで自分のセンスを見直した方が良いぞ。


「……じゃあ、後でクランの署名を書いた紙をギルドに提出してくるわ」


「助かる」


 クランの正式設立は、ギルドにクラン設立の用紙を提出しない限り、ゲーム的にも認められないようだ。以前、名前を決める段階で用紙自体は受け取っていたので、その用紙に名前を記入して、ライジンに手渡す。

 ライジンがアイテムストレージ内に用紙を仕舞うと、視線をこちらに向ける。


「じゃあ、今日はこれで解散?それともこのメンバーで狩りに行く?」


「久々の全員集合だけど、ボッサンはこれからもイン出来るんだろ?」


「まあな。いつでもメッセージさえ飛ばしてくれれば駆けつけるぜ」


「なら、各々好きな事をやろうか。また時間がしっかり取れる時になんかやろうぜ」


 ライジンがそう言うので、それに頷く。

 俺もこれから鈍色の槌に行こうと考えていた所だしな。


 そのまま解散ムードになっていた所で、ポンが「あ」と声を漏らす。


「と、その前に皆さんに伝えないといけない事があるんでした。えっと、明日の夜って皆さん空いてますか?」


 ポンが真剣な表情になったので、首を傾げる。


「明日の夜?どうしたんだ?」


「【双壁】についての手がかりが得られるかもしれないので試したい事があるんですが……皆さん、一緒について来てくれませんか?」


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