#159 そうだ、炭鉱夫になろう。
「なんか久々の単独行動だな。何からするか……」
【龍王】との戦いに備えるべく装備を新調しようと思ってはみたものの、具体的にこうしたいというビジョンが無い。ある程度単体Mobに対する構成は完成されつつあるが、範囲系の攻撃も取得しておかないといざというときに対処に困ってしまう恐れがある。
折角大会でまたスキル生成権を取得したのだ。今度はそっち方面で何かスキルを作ってみよう。
と、その前に……。
「装備の新調もやらないとだけど、そういや今着てる装備の耐久はどうなってたっけ」
そう呟いてからウインドウを操作して現在の装備の耐久値を確認する。
すると、全部位が破損寸前を示す真っ赤なバーが表示されていたので思わず「うげ」と声を漏らした。
「まあ大会であれだけ無茶な動きしてボッコボコにされればこうもなるか……。仕方ない、モーガンさんのとこでも寄るか……また何か言われそうだな……」
◇
SBOというゲームにおける耐久値は重要な数値だ。
耐久値の残りを示すバーの色が青、黄色、赤の三段階で分けられており、耐久度が無くなってしまうと装備が破損する。破損してしまうと、その装備が使えなくなる……という訳ではないが、装備することが出来なくなってしまう。
それだけのデメリットならまだいいが、鍛冶師に修理依頼するにしても、装備作成時に要求された素材と金銭を満額要求されてしまうため、店で購入した武器などは買い換えてしまった方が良かったりする。俺が初心者時代に木の弓を何度も買い換えていたのはこういった理由もある。
まあ、愛着の湧いた武器を捨てたくないというプレイヤーも居るので、それだけの負担を負っても修繕することもありだとは思う。かくいう俺もディアライズには少なからず愛着湧いてるし。
場所は変わってサーデスト、鈍色の槌。
仁王立ちで待っているモーガンさんの目の前にどさりと身に付けていた防具を軒並み置くと、驚いたように目を見開いた。
「うわ何だこれボロボロじゃねーか!?どんな戦闘したらこんな傷だらけになるんだ!?」
「何度も死にかけて最後には死んだらこうなってました」
質問に対して正直に言うと、モーガンさんは顔を引き攣らせる。
「そりゃあお前らは死んでも死なねーかもしれねえがよ……。そもそも防具ってのはその使い手が死なねえように頑丈に設計されてんだよ。だからある程度は持つけどな……何度も死ぬ事前提で戦闘されたら装備なんてすぐにボロボロになるに決まっているだろうが」
「ごもっともで」
そりゃそうだ。防具とは本来、身を護る物だから頑丈に作られている。だが、死ぬことは無いプレイヤー達にとって、その本来の設計とは少しズレた使い方をしているのも事実。
鍛冶師にしてみれば、想定以上に消耗されてしまっているのだろう。
モーガンさんはすぐには防具を受け取らず、困ったように頭を掻いた。
「まあ生憎お前さんから貰った素材はまだ少しだけ余ってるし、直せるには直せるんだが……。お前さんの使い方を見る限り、もう少し頑丈に作り直した方が良いんだよな……。こんな状態で放置してるのは見るに堪えねえしすぐに修繕してやりたい所なんだが、修繕するにしても鉱石が業者から卸されてからになるんだよ」
「鉱石ですか……」
そう言った事情があるなら仕方あるまい。どうせ大会で稼いだおかげである程度マニーには余裕がある。
金に糸目をつけないならそこそこ良い装備も買えるだろう。
ウインドウと睨めっこしながらどうしようかな、と悩んでいると。
「……ししょー、この素材、どうすればいい?」
と、その時覇気の無い声が聞こえてきて、思わずそちら側に顔を向けると、奥の部屋から小柄な紫髪の少女が歩いてきていた。
ちょっと待て、なんでこいつがこんな所に居るんだ?
「ああ、そいつは工房に運んどけ。後で俺が加工に使うから」
「……了解。……あれ、傭兵?」
こてんと首を傾げてこちらに問いかけてきたプレイヤー……シオンは、眠そうな瞳でこちらを見つめ続ける。
「なんでこんな所に居るんだ?」
「……なんでって……私、ジョブが【鍛冶師】だから……モーガンに弟子入りしただけ」
「おい、師匠って呼ぶとき以外はさんを付けろって言っただろ!」
「……いえっさー」
こちらまで眠たくなるような声でやり取りするシオン。モーガンさんは呆れたようにため息を吐くと、シオンを指差した。
「このちんちくりんと知り合いなのか?」
モーガンさんの言葉に、シオンの眼光が鋭くなり、手元が閃く。
手元から放たれた釘がモーガンさんの顔のすぐ横を通り過ぎると、カッ!と音を立てて壁に突き刺さった。
おそるおそるその釘を見たモーガンさんは顔を青ざめる。
「……れでぃにちんちくりんは失礼。また手が滑って素材が薪がわりになるかも」
「そ、それだけはやめろ!というかあの時のミスってお前わざとやったのか!?」
「……わざとじゃないけど、今度は故意になるかも」
「マジでやめろよ!?客からの信用失うから!!もしうちの評判落ちたら訴えるからな!?」
モーガンさんがシオンの肩を掴みながら揺さぶり続ける。あうあう言いながら揺さぶられたシオンは、視線をこちらへと向ける。
「……で、なんで傭兵はここに?」
「装備の修理に来たんだけど、鉱石が足りないんだって言われたんだよ」
「……なるほど。……傭兵って
「ギャ……?なんだそれ?」
「……了解、そこからね」
そう言うと、シオンはウインドウを操作すると、背中に大きなツルハシが出現した。
そしてこちらへと歩いてくると、服を引っ張ってくる。
「……ししょー、ちょっと留守にする。紅鉄が帰ってきたら伝言よろしく」
「まあいいけどよ……。取り敢えず必要な素材は【ダマスク鉱石】10個と【オクラット鉱石】15個だぞ。戦闘は……まあ、お前さんが付いてるから大丈夫か」
「ちょっと待って話に付いていけない」
取り敢えず状況を整理させてくれ、と言う前にシオンは俺の腕を掴む。
「……これから
「えっ、ちょ、俺に決定権無い感じ?」
そう言ってシオンの方を見てみると、彼女は薄く笑みを浮かべた。
「……実は【龍脈の霊峰】の【ダマスク鉱石】の採掘確率が判明していない。
「さあ行くぞシオン!!楽しい楽しい検証の時間だ!!取り敢えず採掘ポイントに連れてってくれ!暫定の確率を決めるためにもまずは五百回は掘ろうか!」
お返しとばかりにシオンの腕を鷲掴みにすると、やっちまったみたいな表情を浮かべる。
俺を釣ろうとしたみたいだったが、残念だったな!俺はこういう作業が大好きなのさ!!
「という訳でシオン借りていきますねモーガンさん!さぁー掘るぞ掘るぞ!ほらシオンさっさと歩く!」
「……もはやどっちが主導なのか分からん状態になってるな……」
◇
ウキウキ気分で歩いていると、シオンがぺしぺし腕を叩いてくる。
「……待って傭兵。鉱石を掘るにしても、採掘士にならないといけないからライセンスが必要」
「えっ、マジ?どこで取れるのそれ?」
てっきりツルハシさえあれば掘れるもんだと思ってたんだけど。そこらへんしっかりしてるんだな。
「……採集ギルドに行ってマニーさえ払えばライセンス取得出来る。チュートリアルがあるけど一応私が指導員としてついて行けば大丈夫」
「至れり尽くせりだな!はっはー!所でシオンお前何時まで行ける?俺は寝落ちするまで行けるが」
「……明日他プロと練習があるから遅くても夜十時まで。……まさか本当に掘り続ける気?」
「検証厨を舐めるなよ、試行回数こそ正義なんだからな」
若干顔を引きつらせているシオンに対して満面の笑みで回答する。
だが、まさか
「それにしてもなんで手伝ってくれるんだ?お前割と誰かの手伝いめんどくさがるタイプだろ」
「……申し訳ない事したから。……私のせいで、ポンと仲悪くなりかけた」
「あー……」
シオンの言葉に苦笑いする。確かにポンとの関係性に大きすぎる溝が出来てしまいそうになったのだ。本人が気に病むのも仕方あるまい。
「……ちゃんと謝ったか?」
「……うん」
「そっか。ポンの心の広さに感謝しろよ。並の人間なら許されなかっただろうからな」
「……本当に良い子。私なんかが友達じゃもったいない位」
その言葉に思わず目を瞬かせる。
そうか、紺野さんは紫音の事を許した上で友達になろうって言ってくれたのか。……後でお礼言っておかなければな。
「それはそうと、シオンお前
「……勿論渡す。……ペアチケットだからポンと行くと良い」
やったー!それが目的であの茶番に付き合ったのだ。それぐらいの報酬が無ければな!
……っておい、ちょっと待て。
「……あの、AimsWCSのチケットって泊まり掛けじゃなかったっけ?」
「……ん。二泊三日温泉付き。一応国内だから安心して楽しんで来て」
「ちょっと待てポンは女の子なんだぞ!?俺が誘うのは敷居が高すぎないか!?」
「……それは傭兵次第。気軽に誘えるように関係を進展させておくべし」
こいつも母親みてえなこと言い出し始めたぞ!?
貰えるのは嬉しいがライジンを誘おうにもあいつ興味あるか分からねえしうぐぐぐ……!
その後、採集ギルドに向かうまでの間、俺は悶々とした気分のまま歩いていくのだった。
────
【おまけ】
「……そういえば、ライジンからの伝言」
「ん?」
「『お前あの時は気絶してたし許してたけど、今度本気で怒るから覚悟しとけよ』って」
「……マジで言ってる?」
「……マジで言ってる」
「……あの、シオンさん、あなたまさか昨日の奴俺が提案したとか言いました?いや言ったよな?おいなんか言え」
「……黙秘権を行使する」
「お前お前お前ェーーーーーー!!!!!」
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