#160 ギャザラーって最初は楽しいけど段々無心でやる作業になるよね
――――――サーデスト、採集ギルド。
通常の戦闘職が通うギルドと併設するように建てられたギルドだ。中に入ってみると、戦闘職とは違い比較的軽装で動きやすいような服装のプレイヤー達がそこかしこで散見出来た。
物珍しく思いながら周囲を見回すと、シオンから服を引っ張られ、カウンターを指差す。
そちらへと歩いていくと、新聞を読んでいた受付のNPCは、新聞を閉じてこちらの服装を見ると。
「ライセンスを取りたいのかい?」
「はい」
「なんのジョブに就きたいんだい?一ジョブにつき10000マニーだよ」
「【採掘士】です」
「【採掘士】ね。はいよ。ほら、金だしな」
一万マニーと交換して、受付の年配の女性NPCから金色のカードを受け取る。カードを手に取ると、端から粒子となって消えていった。それと入れ替わるように、≪【採掘士】を取得しました≫とウインドウが表示される。
「……なんかやけにあっさり取れたな……」
「……ライセンスの取得は簡単。だけど、この手間を挟まないと採掘時に補正が入らなくなって悲惨な事になる。初心者が躓きやすい」
「初心者の筈なんですけどね君……」
確か串焼き先輩が1st TRV WAR予選前に紫音に買い物に連れまわされたという話をしていた。恐らくそのタイミングで購入したのだろうが、それにしてもここに来るまでのペースが速すぎる。流石プロ、ゲームのやり込みレベルが高いな。……まあ、ライジンがプレイしているゲームだからというのもありそうだが。
「……元々、ライジンの動画である程度情報は得ていたから。……後はチャートになぞって行動するだけ」
「お前も俺も性質的に似てるからなぁ……。確かに効率求めるならさっさとサーデストに来るに越したことはないし、
そう言ってシオンの方を見ると、「ん」と呟く。シオンはあまり寄り道を好まないタイプだ。
恐らく俺がシオンの立場だったとしても、全く同じルートを通ってきた事だろう。
「だけど、なんで
「……ある程度生産職の動きを身に着けておきたかった。……このゲームでは、サポートに徹したいって思ったから」
「サポートって……ああ、そういう事ね」
そこまで言って、シオンの言わんとしたい事を察して頷く。
大方、ライジンのサポートをしたいからこそ、【鍛冶師】というジョブに就いたのだろう。
にやにやしながらシオンの事を見ていると、顔を徐々に赤らめて、眉を
「……なにか言いたいことでも?」
「俺はお前の事応援してるぞ?いやー、健気だねー本当」
「もう!……このゲームほんとやだ、感情表現エンジンが露骨に働きすぎ」
そう言って赤面した顔にぱたぱた手をあおぐシオン。彼女はリアルでは滅多に顔色を変えないが、このゲームだと表情がコロコロ変わるので見ていて面白い。
そう言った意味でも新鮮だなあと思ってシオンを見ていると、彼女はジロリとこちらに睨みを利かせる。
「あまり不躾に女の子の顔を見ない、大幅減点」
「はいはい、分かりました。じゃあ、シオン先生お願いします」
「……ん。しょうがないから手取り足取り教えてあげる。付いてきて」
そう言って微笑むシオンに連れられて、【採掘士】用の装備を購入しに行くのだった。
◇
【龍脈の霊峰】。【サーデスト】から【フォートレス】へと繋がるエリアであり、非常に濃密なマナが地下深くに眠っている火山地帯だ。時折そのマナが漏れ出ると、溶岩という明確な形となって噴き出しているという、中々アドベンチャー精神くすぐるエリアでもある。
マナが濃密という影響もあってか、ここのエリアに生息している生物達は皆強靭な肉体を持っている。初心者が立ち寄るには少し難易度が上がるが、その分の見返りも大きい。
例を挙げると、その特殊な地脈の恩恵とも言える希少な鉱石の数々が一番始めに来るだろう。火山地帯の奥深くまで行けば、滅多に市場で目にかかれない希少な鉱石が取れる事もある、という話だ。
シオンがエリアに入るなり立ち止まり、こちらへと振り返る。
「……じゃあジョブチェンジして。【採掘士】のレベル上げは採掘するのが一番手っ取り早い。一応、モンスターを倒してもレベルは上げられるけど、効率が悪いから」
「なるほどな。一応再確認だが、【ダマスク鉱石】と【オクラット鉱石】の採掘可能レベルって25で良いんだよな?」
「……うん。それまではひたすら採掘ポイントでピッケルを振って。……多分一時間もしない内に25には行けるはず」
「オッケー。じゃあ案内よろしくシオン先生」
【龍脈の霊峰】に来るまでの道中で教えてもらったが、このゲームにおける
要約すると『採掘ポイントを掘る』→『経験値獲得』→『レベルアップ』という単純な内容なのだが、ここに『採掘確率』と『LUC』が影響してくる。
当然、レベルを上げる事で鉱石の『採掘確率』は上昇していくのだが、規定レベルまで到達しなければ、どれだけ上手くピッケルを振るった所で取得する事が出来ないらしい。
また、『LUC』の数値次第で採掘確率が上昇し、高品質な素材を手に入れられる確率も上がる。
後はスキルの熟練度次第で鉱石の獲得数にも影響が出てくるみたいなので、この機会に【採掘士】の熟練度上げがてら素材をため込んでおこうと思う。
ちなみにシオンの【採掘士】のレベルは56。俺達が【二つ名】の情報を探している間に、相当やり込んでいたようだ。
最悪シオンに素材調達も頼むことも出来るが、自分でも出来る事なら何でも手を出していきたいしな。
「……まず【採掘士】には初期スキルに【サーチアイ】と【慧眼】がある。【サーチアイ】は名前の通り採掘ポイントを探すことが出来るスキルだから、常時発動させておくと良い。レべル10以上になりさえすれば
「了解、【サーチアイ】」
スキルを発動させると、自分の周りにソナーが走るように波紋が広がっていく。どうやらシオンの視界では映っていないようだから、スキルを使用したプレイヤー本人にしか見えないのだろう。
辺り一面にソナーが走ると、いくつかの壁が淡く点滅した。
「なんか光ったな」
「……その光った場所が採掘ポイント。そこを掘ると一定確率で鉱石が掘れる」
試しに、背負っていたピッケルを持ち、採掘ポイントへと向かう。
「……ピッケルを振るう時のコツは特にない。一応、振るいさえすれば確率で鉱石とかが掘れる。……上手い人だと、ピッケルの持ち方から拘るみたいだけど」
「なるほどなー……。取り敢えず、まだレベル低いし手探りでやってみるか」
そう言ってピッケルを振るうと、カン!と言う耳心地良い音とともに採掘ポイントが崩れ、壁面から石が転がってくる。
その石に触れると、経験値と共に『【石ころ】を入手しました』とウインドウが表示された。
「こんな感じか。……うん、地味では?」
「……
「手間暇考えれば確かに儲かりそうだな。まあ、こういう地味な作業は嫌いじゃないぞ。……時間勿体ないし、ちゃっちゃと掘っていこうか」
「……ん。25まではノンストップで行こう。私も暇だしレベル上げがてら掘り続ける」
「ちなみに【慧眼】っていつ使えばいいの?」
「……低レベル時に使うのはオススメしない。【ダマスク鉱石】が掘れるようになったら使い始めるぐらいで大丈夫」
「OK、じゃあ引き続き指導頼むわ」
そう言うとシオンが心なしか楽しそうな表情でピッケルを振るう。
まあたまにはこんなのんびりとするのもありだなと俺もシオンを見習ってピッケルを振るうのだった。
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