#157 ハウジング・ウォーズ! 終幕
「さて、戦果報告の時間だ」
腕を組んで仁王立ちしている俺の言葉に、目の前で正座しているライジンとポンの二人がビクリと肩を震わせる。
「俺はログイン戦争に負けたから君達二人に我々のクランの命運を託したわけなのだが……」
「……そもそもログインすら出来てなかった奴がなんか言ってら」
「シャラップ、ライジン君」
じろりと睨みを利かせると、ライジンは苦笑して「すみません……」と縮こまる。
頭に手を添えて、一つため息を吐いてから。
「ポンはまだいいよ。誰かしら妨害してくるのは想定内だったし、ルゥ氏のスキルで初見殺しされたのも仕方ない。で、ライジン君はオキュラス氏の妨害を突破後、大暴れしたせいで出現したヴァルキュリアと戦って負けたんだって?」
「その通りです……」
「どうせお前の事だ、アドレナリンドバドバで土地購入の事なんて頭から抜けてただろ?」
「おっしゃる通りです……」
「なんならヴァルキュリアにダメージ通らなくてムキになって倒そうとしてただろ?」
「だあああ!!そうだよ!一応言葉が通じるから認めてもらえるまで耐久戦しようと思ってたらなんかぶっ壊れスキル使ってきて瞬殺されたよ!」
問答していると、ライジンが痺れを切らしたように叫んだ。
「いやまあ別にヴァルキュリアと戦って負けるのは仕方ないから良いんだけど、その戦闘の内容が問題なんだよ」
そう言うと、ライジンも自覚しているのか「う」と小さくうめき声を漏らした。
「【二つ名】に関する情報を明らかにしようとする姿勢は良いけどさ、配信してるって事を忘れてただろ」
「そ……それは……その通りですハイ」
そう、ヴァルキュリアシステムと呼ばれる力の一端である、「リコレクション:アルバート=インストール」というスキルらしき単語を呟いた途端、ヴァルキュリアの行動が変化した。
その力の一端が、配信で晒されてしまった。【二つ名】の最速攻略を目指しているため、【二つ名】に関する情報は極力独占しようとしているのだがヴァルキュリアに関する大きな情報を晒してしまったわけだ。
そこで、黙って聞いていたポンがおずおずと手を上げた。
「……あの、村人君」
「なんだいポン君」
「そもそも、ライジン君のウインドウを操作して配信を始めたのは村人君では……」
「ポン君。言っていい事と言ってはいけない事があるって知ってる?」
「そういえばそうじゃねーか!何俺一人に責任押し付けようとしてやがる!」
ぎゃあぎゃあ言いながらライジンが立ち上がり、掴みかかってくる。
どうどう、とライジンを宥めていると、ピロンと通知音が鳴った。
その通知を覗き込んだライジンが「うわ」と声を漏らした。
「まあ、という訳でさっきからRosalia氏とリキッド侍氏からメッセージが十秒単位で飛んできててうるさいわけ。あの人達どんだけヴァルキュリア大好きなのよ」
一応賭けの代償として『何でも命令できる権利』をRosalia氏から貰っているので、いつでも連絡出来るようにフレンド登録していたのだが、まさかこんな所で裏目に出るとは。
リキッド侍氏は【水晶崖の洞窟】でフレ登録して初のメッセージが『我ヴァルキュリア情報求ム。金ならいくらでも出す』なんて思わないじゃん普通。
「……まあ、あの人別ゲーでも騎士っぽいキャラのロールしてるし、このゲームではヴァルキュリアロールなんだろうね。聞いたところ、ポンに襲い掛かった理由も街中のスキル使用禁止って言う理由で襲い掛かったみたいだし」
「……でも、スキル使用してポンに対抗したんだよな?本末転倒じゃね?」
うーんロールプレイのルールがガバガバ過ぎる。正当防衛と言うのならそこまでだが、それが許されるなら勝手に襲い掛かってきてる時点で同類なんだけども。
「取り敢えずメッセージだけ送っとくか。『情報代は高く付きますがそれでもよろしかったでしょうか』……っと」
「そこで金銭を要求する所が村人君らしいというか……」
だって対価欲しいじゃん。ただ働きって単語は嫌いなんでね。まあ、情報持ってきたのはライジンなんですけども。
と、その時。
「あぁ、居た居た。こんな所に居たんだねぇ」
どこからともなくルンルンとした足取りで厨二が近寄ってきた。
たまたま通りがかったのだろうか。いや、こいつの事だからフレンド欄から位置を把握したのだろう。
「お、厨二。どうした?」
「いやあ、ライジン君にヴァルキュリアに関する話が聞きたかったのもあるんだけどサ、土地買ってきたから報告しに来たんだよねぇ」
「「「マジで!?」」」
ちょっと待て、厨二からハウジング関係の連絡は全く聞いていなかったんだが。
まさかのここでのファインプレー……だと?あの空気が読めない事で随一の厨二が?
ライジンが厨二の近くに寄ると、首を傾げる。
「ちなみにどこのサーバーの何番地?」
「A鯖の17番地だねぇ。いやあ、久々に走ったから疲れちゃったんだよネ」
頬をぽりぽりかきながらそう言う厨二。
という事はA鯖のログイン戦争を勝ち抜いたって訳か。やるなこいつ。
「でも17番地ってどこらへんだ?そんな目立たないところ?」
確か17番地はLサイズの土地じゃなかった記憶がある。そんでもって大通りから逸れた場所にある僻地だったような……。
「実物を見た方が早いかもねぇ。ほら、付いてきなヨ」
そう言ってにやにやしながらハウジングエリアの入り口へと向かっていく厨二。
そこはかとなく嫌な予感を感じながらも、彼について行くのだった。
◇
「ほら、ここサ。ここの梯子を下っていった先にあるヨ」
そう言って厨二が指を指したのはハウジングエリアのNPCショップの路地裏を通っていくこと数分。本当にこんな所に売地があるのかと言いたくなるほど変な道を通りながら、厨二についていくと、そこにはマンホールのような穴があった。
まさかこいつはマンホール暮らしでもする気なのか……?とジト目を向けるが、ニヤニヤした表情を崩す気配はない。
「あの……厨二さん。本当にここにあるんですか?」
「さっきも言ったでしょ、見た方が早いって。ささ、付いてきなヨ」
そう言って厨二は梯子を下っていく。思わずポンと顔を見合わせながら梯子を下ると、そこには入り口らしきドアがあった。
うきうきした足取りでドアを開く厨二。
「ようこそ、我がクランハウスへ。適当に寛いでヨ」
「――――わあ」
厨二に通されて家?に入ってみると、そこにはラグジュアリーモダンな内装が広がっていた。
玄関を抜けると、自動で足装備が外されて裸足になり、木製の床を歩いていく。
家のサイズはどうやらMサイズらしく、広々としたリビングとキッチン。10人以上でホームパーティをやっても困らない程の広さがあった。
地下という事もあり、閉鎖された空間ではあるがロフトが付いているなど閉鎖感を思わせない解放感と、内装のしっかりとした作り。
既に設置されていた黒いソファへと腰かけると、周囲を見回しながら。
「……すげぇ」
「……これはリサーチ不足だったね、まさかこんな穴場があるなんて」
正直侮っていた。内装自体は恐らく厨二が購入した後に家具やらなんやら配置したのだろうが、それ以上に高揚感がある。路地裏を通らないといけない立地と言い、マンホール染みた入り口からのギャップと言い……!そう、男なら一度は憧れる秘密基地のような……!
俺とライジンは思わず目をキラキラさせながら感嘆の吐息を漏らす。
よほど自信があったのだろう、厨二は鼻をふふんと鳴らすと、どや顔で。
「ふふふふふ……Mサイズって事もあってネ、サプライズする為に一人で買ったから今素寒貧なんだヨ。という事で、交渉しないかい?」
交渉か……なんかロクでもない事言いそうな気配があるんだが、大丈夫だろうか?
厨二はコーヒーをテーブルの上に置くと、ソファに腰かけて、足を組むと笑みを深めた。
「今ならなんと!僕をクランマスターにするだけでお値段タダだヨ!」
「「お邪魔しましたー」」
「村人君!?ライジンさん!?」
厨二が戯言を抜かしたので俺とライジンは揃って立ち上がり、玄関へと向かう。
厨二がクラマスを務めるクランとかロクでもないじゃねーか、絶対。
「折角良い感じの部屋だったのに勿体ねー」
「また次のアプデで土地追加されるの待とうか」
「ま、待ってくれよう!本当に今素寒貧なんだって!君達に帰られちゃうとテレポ代すら払えないんだって!」
俺達が帰ろうとすると、厨二が必死な表情で止めてくる。
それを見た俺とライジンはにやりと笑みを浮かべると。
「え~?どうしようっかなあ?ねえライジンくぅん」
「そうだねぇ村人くぅん。うーん……そうだ、この書類にサインしてくれるだけで俺達も割り勘してもいいけどぉ?」
「本当かい!?書く書く!書くから割り勘しておくれ!」
そう言って厨二がライジンから紙をひったくると、厨二がそれにサインする。
そして書いてから厨二が紙の内容を確認すると、顔色が青ざめていく。
「よし、今日から厨二はうちのクランの
「酷い詐欺の現場を見た気がします……」
見た気がするんじゃなくて詐欺なんだよポン君。
厨二が崩れ落ちると、それに同情するような視線を向けるポン。
少しして厨二はゆっくりと立ち上がると、膝についたほこりを払うような仕草をしてから。
「とまあ、茶番はこれぐらいにしておこうか。ボクがクラマスになれないってのは最初から知ってたからネ。あわよくばと思ったけどやっぱ駄目か」
「茶番だったんだ!?」
俺は大真面目に厨二には
「クランハウスのお披露目はこんな所かな。ライジン君にヴァルキュリアの話も聞きたい所だけど、この後すぐに予定があってネ。また今度聞かせてヨ」
そう言ってウインクする厨二は、テレポートを発動させてどこかに消えていく。
……やっぱり金残してたじゃねーかあいつ!!
◇
「この後は解散だな。しばらくは特に一緒にやる事も無いし、各自好きな事やると良い。俺は動画作るから一旦落ちるわ」
「了解。ちょっと【龍王】に備えて準備しないといけないから少し装備の見直ししてみるわ。ポンはどうする?」
「私は【双壁】の関係でミーシャさんに教えてもらいたい事があるので『ハーリッド』に行こうかと」
「教えてもらいたいこと?」
「ほら、あの地下迷宮でティーゼさんが言ってたじゃないですか。『星降りの夜に送り笛を鳴らせばきっと……』って。多分ですけど、『星降りの夜』に『船出の唄』を演奏する事が【双壁】を呼び出す条件なんじゃないかなって思ったんです。だから、現巫女のミーシャさんに『船出の唄』を教わりに行こうかなって」
なるほど。確かに今まで得てきた情報を統括すると筋が通っている。
ログアウトしようとしていたライジンがこちらの会話に興味が湧いたのか、手を止めて視線をこちらに向ける。
「という事はポンはサブジョブに【演奏家】を入れる感じかな?」
「はい。どうやら演奏するにもジョブで【演奏家】が入っていないといけないみたいですから。ただでさえうちのパーティはDPSジョブが多いので、この際バリアヒーラーを取得しておくのもありかなって思ったんです」
「それは助かる。アイテムだけでゴリ押すにも限度があるからね。ヒーラーが居るに越した事は無い。後はタンクが居ればいいんだけど……」
タンクねぇ……。うちの身内はみんなオラオラ系火力ヒャッハーな人種だからタンクの性に合っている人間が居ないんだよな。誰か良いプレイヤーが見つかれば良いのだが……。
「そこらへんの話はまた今度な。じゃあ、俺は先に落ちるわ。また後で」
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
ログアウトボタンを押したライジンが粒子に変わるのを見届けて、さて何やろうかなとウインドウを弄り始めると、ポンが俺をつついてくる。
「あの、村人君。ちょっと良いですか?」
「ん、どしたポン」
「少し相談したいことがあって……この後時間ありますか?」
真剣な表情を浮かべるポンを見て、俺は小さく頷いた。
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