番外編③ 勘違いトライアングル sideライジン
「ライジンさん、本番五分前ですー!」
「はい、了解しました」
ライジンと呼ばれた男……桐峰雷人はとある会場に来ていた。
SBOの販売促進として開催された、1st TRV WARの優秀な成績を残したプレイヤーが招待され公式と会話を交えながらトークするイベントである。一枚の薄い天幕によって遮られているが、それを突き抜けて聞こえてくる喧騒の中、雷人は椅子に座って一つため息を吐いた。
(はあ、渚の奴メディア露出が嫌だからって出演蹴りやがって……)
掌に顎を乗せ、もう一つ憂鬱そうにため息を吐く。
確かに今、雷人はSBOと言うゲームにはかなりのめり込んでいるのでこうして公式からの出演依頼はありがたいし、今後の案件を貰う伝手づくりにも非常に役に立つ。
だが、実は村人A……リアルネーム日向渚と一緒に出る事が出来ると思い、彼自身の事をもっと他の人に知ってほしかったから喜んで引き受けた案件だったのだ。
(つうかメディア露出が嫌っつってもあいつSBOのアバターリアル寄せじゃねえかよ……いやまあ流石に似てるだけだから気付く人は気付くって感じではあるけどさぁ……)
唇を突き出しながらあからさまな不機嫌そうな態度を取っていると、その様子を心配した会場のスタッフがこちらに寄ってくるのが見えたので、
(でもあいつの事を他人に知って欲しいって感情は俺のエゴだろうな。あいつは少なくともそうは望んでも無いみたいだし、余計なお世話ってもんか)
雷人自身はとある約束もあって、自分自身がこの配信業界でナンバーワンに登り詰めると決めている以上、こういった公の場はむしろウェルカムである。だからこそ、日向渚のような消極的な行動は非常に……勿体無いと感じてしまうのが本音なのだ。
(さて、そろそろ仕事モードに切り替えないと)
両頬を打ち、気を張る。一つよしと呟いて意気込むと、椅子から立ち上がって身だしなみを整える。
『それでは本日のメインイベント!ゲーム内公式イベント、1st TRV WAR本選大会、優勝者のライジンさんのトークイベントになります!』
天幕が開き、この公式イベントを訪れた人達の顔が視界に映る。
満面の笑みを浮かべる観客達に、爽やかな笑顔を浮かべてライジンは目元を和らげる。
「皆さんこんにちは!動画配信者のライジンです! 今日はよろしくお願いしますー!」
こうして、彼のいつも通りの日々が始まっていく。
◇
「それではライジンさんはこのゲームをどの程度やり込んでいるのでしょうか?」
「最近は長期の休みを頂いたので
「あはは、それは運営としてはありがたい限りですね。でも、そんなに長時間やっていて大丈夫なんでしょうか? あ、いや、運営の私が言うのもなんですが」
「あはは……まだまだ若いですからね。これぐらいは全然平気です。なんかもう、動画配信ばかりやっている内に慣れちゃいました。職業病って奴ですね」
会場からくすくすという笑い声を聞きながら、雷人は会場の様子をさりげなく見る。観客が飽きていないか、下手な言動をしていないか、一つ一つの行動に注意を払いながら途切れなくトークを進めていく。
人の意識というものはいとも簡単に傾きやすい。つまらないトークをしてしまえば観客の意識は別の事に逸れてしまうからだ。国内外合わせて一千万人というモンスター級の登録者を抱える雷人にとって、この程度の意識操作は造作も無い事だった。
(てっきり渚の奴、イベントには参加しないけど会場には来ると踏んでいたが、どうやら思い違いだったようだな)
そして、観客の中から知り合いがいないかどうかを確認してみたが、いないようだった。
少しばかり残念に思いながら、そういえば、とある事を思い出す。
(紫音、来てくれるかな)
今回のトークイベントに参加するに当たって、運営が気を利かせて用意してくれた親戚招待用のチケット。それを雷人の思い人である藤崎紫音に渡してはいたが、どうやらペアチケットのようだったので来てくれるかどうかが不安だった。
串焼き団子さんにはすっかり嫌われてるしなぁ……とぼんやりと考えていたその時。
「――――と言う感じで今後の展開をしていく予定なのですが、ライジンさんは実際どう思います?」
「――――ええ、そうですねッッ」
吹き出しそうになった所を寸前で押しとどめると、運営の人が首を傾げるのを見て苦笑いを浮かべる。
一瞬であるが、視界に映ってしまった光景を見間違える事は無かった。
(なぜ
バカな、あり得ない、一体いつからそんな関係に……!?
慌てるな落ち着けと内面で心底狼狽えながら、今まで鍛え上げた鉄面皮で必死に取り繕う雷人。
「んんッ、失礼しました。私個人の意見なのですが――――」
◇
一方その頃。
「あ、ライジン気付いたかも」
「……見つけた時の反応面白かった、後で動画送って」
「OK、ちゃーんと本人にも後で送ってあげようね……。あ、ちょっと待ってなんかメッセ来た」
雷人:お前 後で 来い
「えっこわ、トークしながらメッセージ操作って器用すぎない?」
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