番外編② 勘違いトライアングル side渚
来客を知らせるインターホンの音に、俺はむくりと身体を起こして一つあくびをする。
宅配なんて頼んだ覚えなどないのだが……と思いながら、ドアのロックを解除して、ドアノブを捻ると……。
「……おはよう傭兵、デートするぞ」
「おうどうした開口一番頭がハッピーセットだぞ」
寝ぼけ眼をこすりながら、視線を下に落とすとそこにはちょこんと一人の少女が立っていた。
常に気だるげな表情のハイパーウルトラロリッコ美少女、シオンこと、藤崎紫音その人だ。
Aimsオールからの流れで深夜テンションでSBOをオールして、夜が明けたのでこれからベッドダイブして半日ぐらい爆睡する予定だったのだが、予想外の客が来たものだ。
「……御託はいい、さっさと準備をする。時間は有限」
「ちょっと待て、アポ無しで来てそれは無くね?こちとら二徹明けでこれから気持ちよくなろうとしていた所なんだけど?せめてまずは用件をだな」
「……変態」
「ちょっと待て!!今のは流石に語弊が過ぎた!!これから寝るだけなんで勘弁してください!!」
頬をほんの少し赤く染め、自分の身を守るように抱きしめてジト目を向ける紫音に、慌てて勘違いの訂正を要求する。
流石に分かってはいたのか、ゴホン、と咳払いすると、紫音は再び無表情に戻る。
「……これから二時間後にライジンが出演するイベントがある。ペアチケットだから一人だと入れない」
「あー……。確か俺も呼ばれたけど蹴った奴だなそれ……。リアルイベだから極力関わりたくなかったんだよなぁ……」
確か1st TRV WARのトップ2をリアルイベに招待してトークコーナーするって名目だったはずだが、たかが一ゲーマーのトークコーナーなんて見どころ無いだろうしリアル割れも嫌だなぁと思ったから断った奴だったな。むしろライジン一人の方が色々盛り上がりどころあるだろ。
とはいえ今はSBOにも割とハマりつつある現在、販促イベントではあるがゲームの最新情報も公開するみたいな話だったし、観客として見る分には楽しいのかもしれない。
――――だが!!俺は!!そんな事はどうでもいいほど眠いのである!!!!
どうにかして断らないと……と思い、目を擦りながらあくびをすると。
「串焼き先輩はどうしたよ?」
「……にぃなら今日RAGの大会出てる」
「あぁ……あの凸SGゲーね、割と楽しいよねあれ。競技部門に参加する気は無いけど」
紫音が言ったRAGと言うのは『Run And Gun』という名前の通りのFPSのゲームなのだが、あれはスナイパーが不利過ぎてちょこっと手を付けて辞めたゲームだ。スピード感重視のFPSで凸砂に人権が無いってそれ砂ある必要なくね?
最終的にはSG持って突っ走って乱射するだけで全部終わる神ゲーだから皆もやろうね!!! 俺はやらんけど!! ……ウーン駄目だ、徹夜明けだとテンションがおかしくなるな。
「んで、誘う人が他に居ないと」
「……ん。引きこもりゲーマーにリアルの友達は少ない」
こいつ中々抉る事言ってくんなぁ、それ俺にも刺さるからやめてほしいんだけど。
「紺野さんに……ってまだリアルでは会った事は無いのか」
「……彼女?」
「いや、グレポン丸の中の人。俺達と同い年」
「……ああ、ポンの事。アバター凄く可愛かったけど、リアルと対比した時に悲しくなりそう」
「結構辛辣な事言ってるけど、むしろリアルのが可愛いまであるぞ。その上性格まで完璧ときてるから完全に上位互換」
「……それは流石に盛ってる、ゲームの
「あくまで持論に過ぎないだろそれ。というか紫音もゲームアバターはリアル寄せじゃねえか」
「……私が思い描く理想の自分はいつだって最強の自分だから」
「……深い、のか?」
なんかこのロリッ子そのうち英語で長文詠唱始めそうだな。
まあそれはさておき、眠気で瞼が重くなってきたんだよな……。思考もあんまり纏まらんし、早めにご退去願おう……。
「なあ、俺じゃないと駄目なのか?ほかにも誘う人は?」
「……信頼できる男の人は傭兵だけ」
そう言うと、紫音は顔を俯かせる。
そこそこ付き合いが長いから分かるが、1st TRV WARの時の豹変ぶりは別として、滅多に感情を見せない紫音にとってこれは結構落ち込んでいる表情だ。
それに気づいてしまったからにはもう帰れと無碍には出来ない。
どうしたものか……と頬を掻くと、先ほどの発言からある事に気付く。
「ん?というか男限定なのか?」
「……ん。だからデート」
紫音はいつも言葉足らずなんだよなぁ、このデートの意味する所がいまいちよく掴めてないからもう少しはっきりと言葉にしてほしいところだが。
ひとしきり唸ると、観念して大きくため息を吐いた。
「……しゃあねえ、ちょっと待ってろ。今秘蔵の外国産のエナドリキメて来るから。飲めば10時間は効果持つだろう」
「……大丈夫?それ、合法?」
え?エナドリに合法じゃない奴とかあるの? まあいい、気になるところではあるが、ぱぱっと準備してそのイベントとやらに向かうとしますかね。
◇
冷蔵庫に保管していたエナドリを一息に飲み干すと、身体が火照るような感覚を覚える。
深呼吸をして、徹夜明けの身体にその背徳的な液体を隅々まで行き渡らす。うーんやっぱ徹夜明けのエナドリって効くわあ。効果が出るまでしばらくかかるが、それもじきに効いてくることだろう。
頬を打って意識をはっきりさせると、紫音の方へ近寄っていく。
「んで、なんで男が必要だったんだ?」
準備が完了して、ウェストポーチを持つと玄関に座って待っていた紫音が顔をこちらに向ける。
「……ん、か弱い女の子二人でイベント見ても男に襲われる可能性大」
「か弱い女の子……?? っていたたたたた!!!無言で脇腹つねるのやめろ!!」
ぷくっと頬を膨らませて脇腹を抓る紫音に、デコピンをくらわすとあう、と短く悲鳴を漏らした。
「男避け、ね。だとしたらこんなひょろいゲーマーは役不足じゃね?それこそ紫音の為なら筋肉密度が倍加する串焼き先輩じゃないと」
「……むしろその逆。これ以上ないほどの最適解。にぃよりも圧倒的に傭兵のが良い」
そう言うと、紫音は口元を緩めて微笑んだ。
その表情を見て、思わず息を呑む。こいつ、ロリッ子って意識の方が強いけど、見てくれのポテンシャルはかなり高いんだよな。ライジンが惚れる理由もなんとなく分かる。
「ライジンの場合は?」
「……論外」
うひゃあ辛辣ゥ!!でも、この論外って一緒に行きたくないっていうのとは違う意味だろうな。
「……ん?論外?」
ちょっと待て、俺が最適解でライジンが論外?もしかして、こいつ……。
「……傭兵に頼みたいのはライジンに対する偽装デート」
感情が薄い紫音がこれでもかと言うぐらい分かりやすく顔を真っ赤に染めて、指先を合わせる。
その意図を察して、思わず顔を引き攣らせる。
「あーつまり、紫音がしたいのは」
「……ライジンにいちゃいちゃしてる所を見せつけて、あわよくば嫉妬してほしい」
それだけ言うと、両手で顔を覆い隠した紫音。
俺は片手で顔を押さえて、天を仰ぐ。そこには見知った天井があった。そりゃそうだ、ここ俺の家だもの。
あーーーーーーー!!!くそめんどくせえ事に首突っ込んでしまったわ!!!
でも友の為だ!!仕方ねえけど人肌脱いでやるか!!ライジンにも思う存分嫌がらせ出来るしな!!(本命)
こうして、俺と紫音の偽装デート(主にライジンの精神状態を不安定にさせる為)の幕が開けたのだった。
後に起こる騒動など、この時は考えてもいなかったのだった……。
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