#150 ハウジング戦争に向けて
サーデストの住宅街を下調べした後、ポンがログアウトして入れ替わるようにライジンがログインする。そのログを確認した後すぐにメッセージを飛ばすと、ライジンがファストトラベルで飛んでくるや否や、詰め寄ってきた。
「で、どういうことか説明しろ」
「や、簡単な話だよライジン君。ハウジング戦争を勝ち抜くにはプレイヤー同士で血で血を洗う程の抗争は必須になってくる。そのために力を蓄えてほしいという事さ」
「本来ならそんなPVP要素絡まないコンテンツだからな?ハウジング戦争って」
あれ?なんか戦争って聞いてたからもっと殺伐してるものかと思ったんだけど。
ジト目でこちらを見ていたライジンは、ふぅと嘆息してから。
「まあ、確かに街中のスキル使用で警備員は飛んできそうだけど、カルマ値さえ稼がなければヴァルキュリアは飛んでこないだろうからやってみる価値は十分にありそうだね」
「お前もそう思うか。検証厨としてはぜひとも検証してほしいからね。頼んだぞ、被検体A」
「俺をモルモットみたいに呼称するのやめてくんない?」
だって君飛んだり跳ねたりなんでも出来るハイブリッド君だから、検証する上で最高の条件が整ってるんだもの。俺もそのうち機動力特化のスキルを取得する事も視野に入れようか。【バックショット】の吹っ飛びはある程度汎用性あるけども、結局ノックバックを利用しているだけだから動きにも制限があるんだよな。
「取り敢えず、村人が言いたいのは【灼天・弐式】のエネルギーを溜めておいて、走る時にぶっ放せって事でしょ?正直、あのスキルは進化したてだから俺も制御しきれるか分からないぞ?」
「あの大会ですぐにスキルを制御してた男が何言ってんだよ。まあ、壁にめり込むならめり込むでスクショ撮って一生ネタになるし、どっちでも構わないさ」
「お前は走らせたいのかやる気を削がせたいのかどっちなの?」
いやだなあライジン君。どっちもに決まってるじゃないか。
「まあいいよ。俺もクランハウスはLハウスを確保しておきたいって思ってたからね。出来る事はなんでもやるべきだと俺は思うよ」
「さっすがライジン。ポンは既に了承してくれてるから、お前が頼みの綱だったんだよ。少しでも成功確率を上げるなら人数増やした方が良いからな」
「ああ、その事なんだけどさ、村人」
「何?」
ライジンがそこで黙り込む。
え?何々、そこで止められると逆に気になるんだけど。
「って事は、お前は購入状況を報告するオペレーターをするって事だよな?」
「まあ、そうだけども」
「サーバー分けたら購入状況はそのサーバーに移動しないと見れないぞ?」
「……??」
ちょっと待て、それは聞いてないぞ。という事はまさか……。
「つまり、逐一サーバー移動しながら見ないといけないんだな!?」
「いやそうじゃねえよ。そこまでして走りたくないのかお前」
だって絶対目血走らせてるプレイヤー達からのギスギスランナウェイじゃん、俺、その当事者になりたくないんだけど。
ライジンは近寄ってくると、俺の肩にポンと手を乗せて、笑顔を浮かべながらサムズアップする。
「まあ、というわけでランナーは
「畜生めええええええええええ!!!」
最初からそのつもりだったから了承したのかこいつ!って、手に込めてる力強ッ!?意地でも逃がさねえって意味かこれ!!
「というわけで村人も走る準備整えておけよ」
「あの、ライジンさん。ぼく急用を思い出したんですが……」
「フレに呼ばれたとか言われても駄目だからな?」
「先手で逃げ手段潰すのやめて」
こうなってしまえばこいつは梃子でも動きやしねえ。仕方ない、俺も走る準備を整えるとするか。
ライジンはそのまま、「動画作る作業があるし、明日SBOの公式イベントに出るから」と言い残してログアウトしていった。
一人取り残された俺は、既に日が沈んだ空を見上げて、星が綺麗だなあと現実逃避するのだった。
◇
走る準備を整えるとはいった物の。
「新スキルを作るか?いや、流石に勿体無いな……」
正直、このタイミングで新スキルを作るのは控えておきたい。ハウジング戦争が終われば今度は【龍王】侵攻戦が待っている。あの宿敵、ゴブジェネ先輩の時のように、戦闘中に対策の為にスキルを作成する場合だってあり得る。
となると、現状持っているスキルだけで対処すべきだろう。
「うーーーん、どうするかなぁ」
スキルを作成する以前に、今やりたい事は色々とある。
まず一つ目が、上級職への転職。下級職である【狩人(弓使い)】のレベルの上限値は50だ。1st TRV WARでレベルが最大まで上がったので、それ以上レベルを上げたい場合は、厨二のように上級職への転職を行わなければならない。
だが、生憎上級職への転職方法は良く分かっていない。確かギルド行って手続きするのまでは知ってるんだけども……。
二つ目が、スキルの進化。
これまた1st TRV WARが終わって、スキルレベルも随分と上がったものだ。【跳弾】を進化させた時のように、スキルを進化させることで得られる恩恵は大きい。一度整理するためにもスキル進化を一気に行うのもありだ。
三つ目が、【
「マジでMMORPGってやる事多いな……」
一つ手を出せばそこから派生してやることがどんどん増えて行く。ライジンから前もって聞いてはいたが、時間が鬼のように吸われていくジャンルだなぁ。ある意味学生の自由な時間があるときに手を出して正解だったかもしれない。
まあ、コンテンツが豊富にある事がMMORPGが愛される所以なのだろう。
「悩んでる時間も勿体無いし、一つずつやっていくか。んじゃ、まずはモーガンさんの所から」
そう言って、まずはモーガンさんが居る『鈍色の槌』へと歩き出した。
その後、色々寄り道をする羽目になり、ログアウトしたのは朝日が昇り始めた頃だった。
◇
【お知らせ】
次話から、ちょっとした番外編を挟みます。
なろう様の方では番外編として掲載していた物ですが、後のストーリーに絡んで来ていますので、カクヨム様の方では本編の地続きで掲載していきます。
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