#149 作戦会議


「おめでとうライジン君、君はランナーに任命された」


『は?』


「詳細は追って話すよ。あ、あの雷バチバチする奴。【灼天・弐式】だっけ?準備しといてね」


『え?ちょ待ておま』


「じゃあまた明日」


 そう言って通話アプリのタスクを切る。

 もう夜も遅い。長々と電話をするのも可哀想だろうし、早めに切ってあげるのが心遣いってものだろう(建前)。まあこうすれば正義感が強くて約束はしっかり守るあいつの事だ、勝手にやってくれるだろう(本音)。

 一人でうんうんと頷いていると、マリネを美味しそうに食べていたポンがこちらへと顔を向ける。


「ライジンさん、了承してくれました?」


「有無を言わせずぶちぎった」


「ああ……(死んだ瞳)」


 そんな顔はしないでくれ。だって絶対反対するもんあいつ。こういう無茶ぶりはサクッと要点伝えて作業に着手してもらうに限る。うーんブラック企業。


「で、ポンは明日ログイン出来ないんだっけ?」


「あ、はい。ちょっと買い物に付き合わないといけないので」


「じゃあ今のうちに打ち合わせだけしておくか」


 そう言ってサーデストのマップを開きながら、ルートの確認をし始める。

 すると、何やらポンが心配そうな表情でこちらを見ているのに気付いたので首を傾げる。


「どうした?」


「はい。……あの、村人君。その、人のプライバシーに突っ込むのはどうかとは思うんですがその……昨日、一徹してゲームしてますよね?まさかまたオールするつもりですか?」


「ナッ、ナンノコトヤラ」


「完全に発言が棒読みですよ……。あんまり無理はしないでくださいね?ちゃんと規則正しく生活しないと、いつ倒れてもおかしくはないですから」


 おかんかよ。いや俺の母親もゲーマーだから二徹三徹普通にしてたわ。あれ?もしかして私の生活水準……低すぎ……?(今更)

 一つため息を吐いて、テーブルに肘をついて手を組む。


「まあ流石に二徹したら昼間寝るよ。そうしないと流石に身体が持たんし」


「夜しっかり寝ないと、夏休みが終わった時に地獄を見ますよ?まあ、寝坊しないように、私が起こしに行く事も出来ますけども……」


「やっぱり持つべきものは友達だぁ……(ほろり)」


 まずい、このままだと本格的に駄目人間になってしまう気がする。いやもう同い年の女の子に半分通い妻状態にさせている今これを言うのもなんだけども。

 ……どこかで、悪い笑みを浮かべている人間が二人ほど居る気がした。畜生!あの二人の策略のドツボに嵌ってやがる!散れ!散れ!


「いや、やっぱり流石に悪いしそれは無しの方向で……。そうだな、ちょっと生活も見直さないとって思ったけどやっぱゲームって楽しいんだよなぁ……」


「ふふ、気持ちは分かりますけどね。私も、夏休みに入ってからずーっとだらだらしちゃってばっかりで……」


 このままの状態で夏休みが明けたら確実に死ぬな、間違いない。

 課題自体は夏休みに入って速攻で終わらせたから気にする必要はないが、生活習慣を戻すのに大分時間が掛かってしまいそうだ。


「とと、話が脱線してきたな。話を戻そうか」


「えっと……その事なんですけど、本当にやるつもりなんですか?使って……」


 ポンが不安そうな表情を浮かべるので、笑顔で肯定する。


「ああ。その方が駆け抜ける上で勝率高そうだろ?警備員が何だ、なぎ倒してしまえ」


「ヴァルキュリアさんが聞いたら秒でレイピア刺してきそうな台詞ですね……」


 おっと、その話は肝が冷えるのでやめて貰おうか。確かにその可能性を考慮しなければならなかった。


「それに、一応禁止されているだけであって、捕まらなければ問題ないだろ?ポンも加速力凄いし、ライジンに至っては目で追うのもやっとだからどうせ捕まりっこないって」


「そのバレなきゃ犯罪じゃない理論やめません?村人君のシャドウにも影響してますし」


 え?シャドウってそのプレイヤーの言動とかで性格決まってたりするの?あらやだおほほ、私はそんなお下品な性格はしていませんわ?……してないよな?(震え声)


 ポンのジト目でいたたまれない気持ちになり、顔を背ける。


「じゃあ俺はさっき言った通り司令塔の役回りするから、ポンとライジンには走ってもらう事になる」


「あっ無視された」


「俺が入り口で他のプレイヤーに購入された土地を伝えるから、それに応じて適宜【爆発推進ニトロブースト】なり【電光石火】なりで走ってもらうつもりなんだが」


「もうやるのが決定してるんですね……。ならそれで大丈夫だと思いますよ。一応この打ち合わせの後でサーデストに寄って、現地も下調べしておきましょうか」


「そうしよう。ちなみに、買う予定の場所って……」


 そう言うと、ポンがウインドウを開いてこちらへと飛ばしてくる。

 ウインドウにはサーデストのハウジングエリアのマップが映し出されており、×印で書き込まれているそれに指を指す。


「ええと、二ヵ所程目星は付けてあります。一つは27番地。ここはMサイズの土地で、マーケットボードが家の目の前にある事、ハウジングエリアの入り口付近に家があるのが強みです」


「ほうほう」


 マーケットボードか。確かそのボードを介してプレイヤー同士の買い物が出来るんだったか。確かにそれが家の目の前にあるという事は確かにかなりいいメリットだろう。


「ただ、ハウジングエリアの入り口付近にあるという事もあり、ここは激戦区になると想定しています。ランナー以前に、ログイン戦争に一番最初に勝ち抜いたプレイヤーが勝ち取ると予想していますね」


「確かにそうだよな。ここはどちらかって言うと運要素が強いかー……。で、もう一つの場所は?」


「恐らく27番地よりも激戦区になるであろう……30番地。ここはマーケットボードが近い唯一のLサイズ土地なので、皆さんここに向かって全力で走ると思いますね。ライジンさんと一緒に走る際はこの30番地を取ろうと考えてます」


「あの、その30番地って言うのは一か所しかないのか?」


「一応A~Zのサーバーごとに区分けしてるので30番地は複数存在してますよ。ただ、一つのサーバーで30番地をもぎ取る事が出来るのは一クランのみ。……戦いは、苛烈を極めるかと」


 良いね良いね。そういう競争は大好物だ。今回は司令塔の役回りをする事になるから直接は参加出来はしないが、ライジンにでもブロードキャストしてもらって観戦するとしよう。

 

「30番地へのルートは3ルート存在します。私とライジンさんは別サーバーに分かれる予定ですが、状況に応じて村人君に指示を出していただきたいです」


「プレイヤーの人数とか見てって事だろ?OK、それなら得意分野だ。任せろ」


 得意気に笑みを見せると、ポンも朗らかに笑う。



 そうして俺らはサーデストへと向かい、ハウジング戦争の準備を整えるのだった。


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