#140 黒ローブについての考察
「え?トラベラー……?」
俺の発言にどういうことだか分からないとばかりに眉をひそめる紺野さん。
確かに現時点でのトラベラーという単語はプレイヤー達を示す物であり、困惑してしまうのも仕方ないだろう。
しばしその言葉の意味を飲み下しながら頷いていると、「ああ」と納得したように呟く。
「えっと、トラベラーはプレイヤーだけでなくてNPCにも居るかもしれない、って事ですか?」
「そうだね。プレイヤー達
紺野さんの言葉に、雷人がコーヒーを飲みながら答える。
実際、トラベラーそのものが何を示す単語なのか分かっていない以上、この考えも憶測の域を出ない。仮に量産されたのがプレイヤー達だったとして、量産した目的も何も分かっていないしな。
「研究者と言うのは?」
「ティーゼ・セレンティシアと出会った三千年前のトラベラーはNPCで確定だ。そうなると、プレイヤーでない以上、『本当はトラベラーではない』可能性が出てくる。トラベラーがまだ存在していない時代にトラベラーの単語を出せる人物。それはもう、トラベラーを量産した研究者、もしくはその関係者しか考えられないからね」
ティーゼ・セレンティシアに名乗る分には仮名でも構わないはずだ。だから、正体を敢えて教えることなく、トラベラーの名前を出した線も考えられる、というわけだ。
そこまで聞いて、紺野さんが納得したようで、「そういう事かぁ」と独り言を漏らす。
「だけど、研究者であるならそれはそれで……」
「三千年前にその存在を露わにしてまだ生き続けているという点で不自然になってくる、というわけだな?」
「おお、流石渚。意外と冴えてるね」
「舐めんな、こちとらAimsのストーリー考察もそれなりにやった身だ。それぐらい気付くわ」
にやにやした表情の雷人に対して鼻を鳴らして答える。
Aimsのストーリーや銃器にも、まだ解明され切っていない謎も多くある。無駄に設定が奥深いのもAimsの人気の理由だったりもする。Aimsに雷人を誘った時も、そういう面でごり押したらプレイしてくれたしな。
ちなみに愛銃であるゼロ・ディタビライザーを開発したロッド・アグニという研究者が行方をくらましている、という話題がひと昔前にホットになった時にはかなり掲示板に顔を出したものだ。結局その時は危険過ぎる兵器を作ってしまった事によって存在を消された、という結論でケリがついたが。
おっと、話が逸れてしまうな、戻さねば。
「そこで考えられるのが、
「人体の一部、もしくは全てを機械に変える事で疑似的に延命しているって事ですか?」
「そうだね。でも、機械の身体にだって限界はあるだろうから何度も身体を乗り継いでる可能性はある」
「そこは……ええと、マナ因子ってのが関係してくるんだっけか?」
「俺の動画見てくれてるようで説明の手間が省けて助かるよ。あ、広告収入サンキューな」
「ド直球すぎるだろ!まあ、ライジンの動画は色々参考になるし助かってるよ。あ、動画再生のお礼に今日のカフェは奢りでよろしく」
「どう考えても
苦笑する雷人だったが、「まあ別に大した額じゃないしいいけど」と続ける。
流石登録者一千万人を超える超人気配信者、想像以上に収入のレベルが違う。今度高級焼き肉店でも連れてってもらおう。
ちなみにマナ因子というのは、SBOというゲームにおける世界の重要な要素の一つで、生物が生まれた時に必ず内包している【魔臓】という臓器の中心に存在する核の事を示す。その核には生物を形成する上で必要な情報を全て内包している、という設定らしい。ライジンが先ほど言っていた『何度も乗り継いでいる』という話はこのマナ因子が一つの人格を形成しているのでそれを移植する事で一個人としての意識をキープし続けているのではないか、と言う話だ。
最も、そんな技術がある世界というのも末恐ろしい話ではあるが。
「そろそろ結論も見えてきたし整理しようか。これまでの話を統計すると、黒ローブは『トラベラー』と推定。その正体の仮説は『プレイヤー達の母体説』、『プレイヤー達と同じ量産された存在説』、『トラベラーを開発した研究者説』の三つだね」
「どれも割とありそうだから何とも言えんな……」
「確かにそうだね。これ以上の詳細について知りたいならば……」
「粛清の代行者を討伐する他ない、という訳だな」
粛清の代行者を討伐すれば俺と雷人が訪れたあの場所へと再び行ける。黒ローブについて、今度こそ根掘り葉掘り聞き倒してやる。
その為にはまず目下の目標は【龍王】討伐。正直勝てるかどうかは知らないが、ゲームである以上勝てないという訳は無いだろう。
そして、【龍王】侵攻までに【双壁】の情報集めに奔走。その討伐に向けても少しずつ動き出さねばならない。
雷人が空になったコーヒーカップを置くと、こちらへと視線を向ける。
「これから渚はどうするの?」
「帰ったら取り敢えずセレンティシア寄って、海鳴りの洞窟の近くにある村に行ってみる。そこで情報集めかな」
「了解。じゃあこっちは【龍王】の情報をプレイヤーに向けて発信する準備を整えるよ。紺野さんはどうする?」
「私も渚君と一緒に情報を集めますね。少しでも人数が多い方が良いですから」
「助かるよ。じゃあ、帰ろうか。今日は俺の奢りって事で」
「ゴチになりやす!!!」
「あ、ありがとうございます」
雷人がレシートを取り、金額を確認してから「ま、こんなもんか」と呟く。
文句の一つも漏らさないとは流石聖人君子ライジン。さすライ。なんか旅人みたいだな。
レジで会計を済ませると、カフェから出て、自宅の方面が違う雷人と別れる。
その姿が居なくなるのを見届けてから紺野さんと一緒に、ゆっくりと自宅へ向けて歩き出す。
(さてさて、【龍王】の実力はいかがなものかね)
まだ見ぬ強敵との戦いに、密かに笑みを浮かべてその対峙を待ち望む。
FPSというゲームのカテゴリだけでプレイしている分には、絶対に味わう事が出来なかった新鮮な感覚。
モンスターや、スキルを駆使した人外染みた動きをするプレイヤー達との戦いがこれほどまでに楽しいものだとは思わなかった。
そして、もう一つ見つけた楽しみ方。
(やっぱこういうゲームに手を出すのも、結構楽しめるもんだなぁ)
粛清の代行者、トラベラー、黒ローブ、あの女、シャドウ。
謎が少し解明されたと思えばすぐ次の謎が湧いて出てくる。
だが、それでこそゲームの醍醐味。謎を全て丸裸にし、骨の髄までしゃぶり尽くすのがゲーマーの本分だろう。
ああ、今最高にゲームを楽しんでるなと笑みを一層深めながら、弾む気持ちで歩き続けるのだった。
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