#139 粛清の代行者について考察する回 パート2
「ほーん、なるほどなぁ」
雷人がまとめた考察文を一通り眺めた後、呟きを漏らす。
全て書き連ねてしまうと話が長くなってしまうので話を要約すると、
・粛清の代行者は限りなく黒に近いグレー。ただ、【戦機】ヴァルキュリアの例があるように、実際に問題を起こした訳でもないから断定することは出来ない。
・代行者=粛清者(黒幕と推定)の配下でほぼ確定。もし万が一黒幕が粛清に失敗した場合の暴力装置。
・黒ローブについては素性を明かしていないのでまだはっきりとは明言出来ない。ただ、思い当たる節が幾つかある。
という事だ。うーん、正直な所全く進展してないな。
だが、雷人が思う黒ローブの正体については、俺も少し気付いた事がある。
「えーっと、つまりこの黒ローブ?って人は味方って解釈で良いんですかね?」
と、雷人がこっそりあの謎領域で録画した動画を眺めていた紺野さんが、首を傾げながらこちらに問いかけてくる。雷人と顔を見合わせてから、紺野さんに顔を向けると。
「「いや、怪しさしかないだろ」」
「あれ!?渚君、黒ローブの人の言いなりになってません!?」
俺と雷人の返答に目を剥く紺野さん。それに対し、指を立てると。
「じゃあ紺野さん、ぽっと出のキャラが急に重要情報を吐いてきて、それが全部正しいと思うか?」
「え、いや……確かに怪しさはありますけど……」
「あの場で最も必要だったことは、粛清の代行者について情報を得る事。配下にならない選択肢を取っていた場合、なんの成果も得る事が出来ずに放り出されただけだ。それだけはなんとしても避けたかった」
要は情報を吐かせるための仮約束ってことだ。もし黒ローブの発言が正しければ協力すればいいし、正しく無ければ考察する分の情報を得られた。嘘と言う物は本物の話を織り交ぜる事であたかも真実にように思わせることが出来る。だから、百パーセントが嘘ではないという確証を持って、賭けに出たのだ。
「で、でも。この黒ローブって人、凄く良い人っぽくないですか?こう、本気で憂いているような気がして……」
「それがもし
「う……た、確かに」
雷人の言葉に、紺野さんがたじろぐ。紺野さんは根が素直だから人を疑うという事は極力したくないのだろう。そう考えると、紺野さんがあの領域に初見で行かなかったのは正解だったのかもしれない。
向こうのミスリードだった場合の事を考えて、あの時俺はライジンと目配せする事で意見を一致させていたのだ。
ミスリードは駆け引きの基本。
この手の駆け引きは、昔から厨二が化かし合いが得意だからよくやったものだ。おかげで人間不信になりかけたけどな。おのれ厨二。
雷人がコーヒーを飲んでから、こちらを見る。
「で、粛清の代行者についての話なんだが」
「グレー……黒って断定はしないんだな?」
「まだ実際に【龍王】って奴を見たわけではないからね。それに、【戦機】ヴァルキュリアが世界を滅ぼすという話と関連付けさせることが難しい」
「まあカルマ値関連の特殊モブって結論を一度してるからな……。悪事を働いているプレイヤーに対してその罪を償わせるって行動原理から見るに、正義の使者と言っても過言じゃない。それが悪だとするなら、あの世界はあまりにも腐り過ぎてる」
犯罪者を罰する奴が悪者ってどんな世紀末だよ。もし仮に黒ローブの話が全部真実だとして、粛清の代行者はその性質に関わらず……っておいおい。
「その意思に関係なく一斉に牙を剥くって話に繋がりません?」
丁度俺が思った事を紺野さんが代弁する。それに対し、雷人は唸りながら。
「そうなんだよなぁ……。やっぱりそこに行きつくよね。でも、黒ローブの話は大体裏が取れてるけど、一斉に牙を剥くって話を裏付けるだけの情報が無いんだよ。だからあくまで推定って話なわけで」
「なるほど」
粛清の代行者についてはこれ以上は実際に対峙してみないと分からない、か。もしあの黒ローブの話が真実であるのなら、【龍王】は一週間後に目覚める。その【龍王】と戦闘することで新たに情報を得る事が出来るかもしれない。
話がひと段落すると、丁度店員さんが横を通りがかる。
「あ、すいません注文良いですか?このコーヒーと同じ物を一つ。渚と紺野さんも何か飲む?」
「えーっと、このダークモカチップフラペチーノって奴を一つ」
「あ、私も同じ物を」
よく分からんけど折角カフェに来たんだしなんかお洒落そうな物を飲んでおこう。ダークとか厨二が好きそうだな。
注文した品がすぐ届くと、それを飲みながら会話を再開する。
「で、【龍王】の情報は開示するのか?」
「勿論開示する予定だよ。仮に嘘だとすればタチの悪い冗談だけで済むし、本当だったら現在多くのプレイヤーが活動の拠点にしているサーデストその物が無くなる可能性を孕んでいるからね。明かさない理由が無い」
「まあそうだよな。まあ俺としてもあの街に世話になったNPCは居るから流石に見殺しは避けたい。少しでも協力者が多いに越したことは無いし、賛成だ」
ライジンが公開する前に、もしかしたらチャーリーとデルタという名称で呼ばれていた鬼夜叉氏とRosalia氏が公開している可能性もあるが、念を押しておくべきだろう。
【戦機】ヴァルキュリアでさえ、本気を出していない状態であれほどの強さだ。1st TRV WARを経てステータスがかなり上昇したとはいえ、真っ向勝負で善戦出来るとは思っていない。予選で遭遇した代行者ですらない『リヴェリア・セレンティシア』にもあっさり完封されたしな。
プレイヤー特有の不死性を最大限に活用したゾンビ作戦で特攻するのが最適解か。そうなると、例の巨壁がある『フォートレス』にリスポーン地点を固定する必要があるな。
「あ、でもフォートレスって人が居ないらしいからリス位置固定って出来ないんだっけ?」
「いや、一応廃墟にはなってるけど宿屋跡があるから、そこのベッドで寝ればリス位置自体は固定できるよ」
「そうなのか……って、なんでその情報を知ってるんだ?」
そこで、雷人は苦笑いを浮かべながらそっぽを向く。掲示板で見ただの、知り合いに聞いただの言えば良い物をこの反応……おい、もしかしてこいつ。
「先に一人で攻略したな?」
「いやー……だって1st TRV WARまでに新しい武器を調達したくてね。エリアボスの素材を使って……」
「あの氷双剣か。でもあれ全く役に立ってなかったじゃん」
「お前言っていい事と悪い事があるって知ってる?一応準決勝では鬼夜叉のトドメさした武器だからな?」
だって俺の試合の時、途中で武器チェンしたと思ったら苦し紛れにウェポンスキル使ってきた奴じゃないか。しかもそれで俺に何かできたかと言うと全く意味を為してなかったし。
はぁ、と一つため息を吐くと、雷人はポツリと。
「それを言うなら渚のディアライズが壊れてるんだよ。お手軽超火力の【彗星の一矢】をナーフすべきだと思うんだ」
「それを言ったら【灼天】のがよっぽどチートじゃねえか。何だあの汎用性の塊。チート使ってて恥ずかしくないの?」
「あれはスキル自体が成長して色んな分岐を作り出せるように作ったスキルだから俺好みに調整すりゃああもなるさ」
「おいその情報詳しく聞かせろ」
なんだスキル自体が成長するようにって。しかも色んな分岐を作り出すって実質一つのスキル生成権で沢山スキルを獲得してるって事か?……せこくねぇ?
「まあその分スキル生成権も使うけどね。その話はおいおいしようか。脱線してきてる」
「それもそうか」
なんだ、流石にそんな美味しい話はないか。だが指向性を持たせるってのは非常に有用な情報を聞けた気がする。今度のスキルはその方面で作ってみるか?この大会で生成権もそれなりに貰えたしな。
「じゃあ【龍王】の話は開示って事で。粛清については黒ローブの話を信じる事にしよう。現時点で考察するための材料が少ないからね。じゃあ、最後に黒ローブとトラベラーの話だ」
さて、ここからが本題か。俺がストローから口を離し、プラスチックの容器をテーブルの上に置くのを見ると、雷人は話し始める。
「渚は黒ローブが
「……
「その通り。あの時渚の姿が見えなかったから黒ローブの様子を伺ってたけど、急に話し始めたからビックリしたよ。しかも、得体のしれない相手に急に襲い掛かってたみたいだし、流石渚って言うべきかな」
「いやあれは未遂なだけであって実際に攻撃したわけじゃないけどな」
攻撃しようと思ってディアライズを構えようとしたのは事実だけど。
むむむ……と思考に耽っていた紺野さんが、口を開く。
「個体ってまるで人間の事を言ってるんじゃなくて……
「そう、着眼点はそこだ。黒ローブの表現の仕方はまるで
雷人はそこで区切ると、腕を組んで。
「『現世に目覚めた個体の中でも二番目に強い個体』。
「なんなら運営サイドの人間な気がしたけど、確かGMは……」
「金色のプレイヤーネームが表示される、でしたっけ?」
「ご名答。あれは正真正銘NPCだよ。だから、GMが大会の報酬と称して情報暴露するために絡んできた、って線は除外される」
「まあタチの悪い嫌がらせのせいでまともな情報は得られなかったけどな」
機密事項は語れないとかお前。何でも答えるって割に回答雑じゃねえかって思ってしまったのはご愛敬。
「で、そうなると必然的にゲーム内のNPCとなって、幾つか候補が絞られてくる」
「そこで関係してくるのが、
「ティーゼって、あの洞窟で会話した女の子ですか?」
紺野さんの問いかけに、首肯で応じる。
ライジンも頷くと、ARデバイスで書き連ねたウインドウをこちらに飛ばしてくる。
「渚が送ってくれた予選での動画で出てきた人物だよね。そう、それこそが黒ローブの正体を掴む重要な情報だ」
あの時、粛清の代行者について話をしていた時に感じた謎の暖かさの正体。あの時の俺のインベントリにはとあるアイテムがあった。
【星降りの贈笛】。あの地下迷宮で手に入れた【二つ名】クエストの関連アイテムであり、ティーゼ・セレンティシアという少女から託された重要アイテム。それに反応を示したと言うことは……。
「
まあそうなるよな。で、ただの人間がそこまで長生き出来る訳では無いだろう。という事は黒ローブは人外、超常存在の何かと推定する材料になりえる。
「今、候補は三つある」
雷人は指を立てて。
「一つ、PVに登場した
雷人はもう一本指を立てると。
「二つ、まだ全く登場していない正体不明の存在。今まで登場してきたキャラに見せかけての新規キャラ説。こうなると考察のしようが無いから、どうしようもないけどね」
雷人は苦笑しながらそう言う。まあ確かに急に新キャラ出されても誰?ってなるしな。
けれど、この二つは俺の考えていた存在と違っている。
「そして俺がいちばん有力だと思っている三つ目が……」
と、雷人がそこまで言った所で手で待ったを掛ける。
「あー……多分同じ答えだから、言ってみても良いか?」
「勿論。想定している通りの答えだと思うしね」
三千年前に存在していた少女ティーゼ・セレンティシア。かつて志を共にした仲間という言葉。そして、
その事から推測できる答えはただ一つだけだ。
「恐らく黒ローブの正体は、
俺の答えに、雷人は笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いたのだった。
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