#131 謎のPVと招待状


 数ある世界の中に、一つの世界がありました。


 そこには沢山の種族、沢山の人間達が暮らし、繁栄していました。

 自然の調和が美しい、幻想的な妖精が住まう森の国、人々の賑わいと笑顔が溢れる商業盛んな大都市、鍛冶が盛んで技術開発の最先端を行く岩に囲まれた町、幾億の星々が煌めく海の街。

 挙げた地域はその世界の中のほんの一握りですが、どれもが美しく、宝石のように輝いていました。


 その幸せは、一つの集団が台頭してきたことによって突如として崩壊してしまいます。


 ユースティア帝国。


 魔導と科学が融合した技術によって同時代に生まれた人々の数歩先の技術を行く、ユースティア帝国の侵略によって、帝国以外の町は続々と侵略され、抵抗する都市は滅ぼされてしまったのです。

 ユースティア帝国の皇帝、アルシュ・リグラス・ユースティア3世を筆頭として起きてしまったこの戦争は、後に大粛清と呼ばれる出来事となりました。


 大粛清――――帝国に歯向かう人間達を全員皆殺しにし、皇帝を崇拝する者だけを生かす理想の国を作るべく行った蛮行。帝国兵達はまるで何かに取りつかれたかのように人々を虐殺し、その美しい町々を魔道軍事国家が持つ圧倒的な力によって破壊の限りを尽くしてしまったのです。


 そんな一つの世界の終わりを見かねた神は、生きとし生ける人々にこう告げます。


「私の美しい世界を脅かす者は何者であろうと許さない」


 そして世界を救うべく地上へと降臨し、奇跡の力を以てして帝国軍を一掃しました。


 そうして長らく続いた戦乱が終わり、再び美しい世界に平和が訪れました。その平和を噛み締めながら生き残った人々は神を讃え、崇拝しました。



 創世神◾︎◾︎◾︎様万歳、と。




「ここまでが、俗に言う創世神話。帝国の侵略から命からがら逃げ延びた、この世界に住まう人間達が後世に伝えた内容だが」



 ――――それは、だ。



 美しかった世界が壊されてしまったのは本当に帝国の妄執によるものだったのか?

 大粛清は、本当に帝国の民だけを対象としたのだろうか?

 永き眠りから目を覚まし、そこに現れた君の傍に居たシャドウは果たして何者なのか。


 そして君は何者で、一体どこから来たのか。


 何の理由も無しに始まりの平原に野ざらしにされていたのではない。

 そこにはきちんとした理由があって、望まれて、託されたからこそそこに一つの命として生まれた。


 以前の記憶が無い?それはしたからだ。

 だが、慌てる事は無い。少しずつ、ゆっくりと取り戻していくと良い。

 一度に思い出す必要は決して無い。その中にはきっと記憶だってあるだろうから。

 

 ――――二つ名を冠する存在を滅せよ、その先にきっと答えがある。


 たとえそれが、であったとしても。


「君が本当に為すべき事、今一度それを思い出せ。そして来たる終焉に向けて、牙を研ぐのだ」



 真っ黒な何かがローブの形を為すと、そのローブの内側に赤い瞳が灯る。



で待っている。いつかここへたどり着け、トラベラー」





「……何だ、これ」


 ライジンとのコラボ放送が終わり、少し休んでからSBOにログインした途端、突然ムービーが流れ始めたかと思ったらプロローグっぽいのが流れたんですが。

 フラグ踏んだっけか、と考えてみるが思い当たる節も無く、取り敢えず信頼できる情報通に電話する事にした。信頼できる情報通ことMMO廃人ライジンへと電話すると3コール目で電話に応じる。


「ライジン、SBOの映像の事で何か情報あったりする?」


「いや、全く。ただ、どうやら俺らがAimsで放送している間にこのムービーが突然流れたみたいだ。どうしてこのタイミングかってことは、今SNSや掲示板でも話題になってる」


 どうやらライジンもついさっきこの情報を掴んだらしく、俺の問いに対しすぐに理解して答える。

 うーん、どうしてまたこのタイミングで。こんな感じの世界観説明ならゲーム開始時に流れてもおかしくはないはずなんだけどなぁ……。


「……もしかしてサービス開始当初は運営の資金不足で、後発組へのテコ入れとか?」


「そんな世知辛い話じゃないだろ……。まあ憶測は幾つかあるけど、一番俺が考えた中で有力な説はこれまでは完全にだった可能性がある」


「チュートリアル?」


 いやがっつりゲーム本編を遊んでいた筈なんだが……。公式が運営する大会も開催してたし、どういう事やら。俺がクエスチョンマークを頭に浮かべていると、ライジンが言葉を続ける。


「このゲームの当面の目標、それはプレイヤーであるトラベラーが失った記憶を取り戻す事だが、その具体的な手段は【二つ名】関係であるという事しか明かされていない。だが、このタイミングで大きなヒントを提示してきたってことは、何かしらトラベラーが失った記憶に関して、真相に近付いたというのが考えられる。フラグを踏んだ人物は分からないけどね」


 あー、何となく言わんとしてることは分かった。

 要するにがストーリーの重要フラグを踏んだ、っつーことか。

 でも、それなら尚更疑問が浮かんでくる。


「MMORPGって、誰か一人のストーリーの進行状況にワールドそのものが合わせられるもんなの?」


「いや、こういうゲームはかなり稀かな。大体のMMORPGって基本的にはプレイヤー個人個人でストーリーがあるし、メインクエストに沿って進めていってエンディングまで進めて、その道中でコンテンツが解放されていくっていうのが王道。だからこそ、このパターンのゲームは最近にしては珍しいし、俺も少し新鮮に感じる」


 まあそうだよな。ゲーム買っていざ始めるぞ!って意気込んで始めたら、もうこの世界は救われました!なんて言われたら興覚めだもんな。

 しかし、スキル生成システムと言い、莫大な資金を投資して作られたであろう大作にそんな愚行をするとは到底思えないんだが。


「運営のメリットってあるのか、それ?いや確かに既にプレイしている人間からしたら続々新要素が追加されていくのは新鮮かもしれないけど」


「うーん……ストーリーの長さにもよるけど短期的な集客なら見込める、かな?初の公式イベントである1st TRV WARのPVも出して、かなり売り上げも伸びてるみたいだし、このタイミングで情報を公開することで、期待感を煽るのが目的なのかも」


 まだこのゲームが発売されて一ヵ月も経っていないが、発売前からかなりの期待感を煽っていたのもあり、現在売り上げは100万本ほど売り上げているようだ。サブ垢が作れないゲームだからこそサブROMとして何本かキープする人物もいるらしいから正確なプレイ人数までは把握できないが、それだけ売り上げているのならばこの商法でもいいのかもしれない。


「話を戻そうか。今渚ってSBOにログインしてるんだっけ?」


「ああ、うん。だからPVの存在を知ったんだけど」


「なら話が分かりやすいか。……アイテム欄見てみ」


 ライジンの言葉通り、アイテム欄を見てみる。だが、特に変わった様子は……?

 いや、なんだこれは。


「『招待状』?……こんなアイテム、あったっけか」


「そう、それこそが恐らく今回の一件のキーアイテムだ。俺らが放送していた時間に1st TRV WAR本選の報酬が配布された。どうやらプロローグらしき映像が流れた時間と同時刻に、な」


 あー、確かゲーム内のお知らせでそんな告知あったな。なんで報酬分配を日を空けて配布するんだろうなあとは思っていたけどこういう理由があっての事か。


「んで、ここからが本題だ。その招待状、どうやら何人かの人物にしか届いてないらしい」


 ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気が。


「何人かの人物?」


「お気楽隊副クラマス『鬼夜叉』、黒薔薇騎士団クラマス『Rosalia』、村人、そして俺。……このメンバーリストに聞き覚えは?」


 聞き覚えも何も、この面子って……。


「……1st TRV WARの?」


「ご明察、大会ベスト4までのプレイヤーにのみ届いている」


 大会ベスト4?なんでまた、そんなピンポイントな。

 いや待てよ、もしあの大会がとするならば――――?


「つまり、これは」


「そう、今現在における、戦闘職のトッププレイヤーにだけ送られてきている物だ」


 もし、そうであるとするならば。

 この招待状は、きっとを求めているのだろう。


 ライジンはそう言うと、一つ呼吸を置いてから。



「急にPVが流れ始めた理由にも繋がるし、この招待状は間違いなくストーリーに影響するに違いない。――――この招待状の送り主に会いに行こう」



 この日、SBOという一つの世界は大きな進展を迎える事となる。

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