#125 表彰と、裏側で進む物語


『それでは1st TRV WAR本選!!表彰を行いたいと思います!!』


 運営のアナウンスと共に、テレポートが発生した。

 僅かな浮遊感を覚えると、数秒置いて景色が一変する。


「あ、表彰台に直接テレポなのね」


 降り立った先は、闘技場エリアの中心に配置させられた表彰台の上。

 一位であるライジンは俺の右隣……表彰台の最も高い位置に出現し、その奥にはRosalia氏が不機嫌そうな表情で腕を組んで立っていた。


「……あれ、鬼夜叉氏は?」


「ああ、それなら―――」


「かの御仁なら『私の目指すべき頂点に至る権利を失った時点でもう戦いに身を投じる意味など無い。不甲斐ない自分を叩きなおす為にも今は鍛錬あるのみ』と言って三位決定戦を蹴ったぞ。全く、私だって猛者との戦いに心を躍らせていたというのに納得いかない……」


 マジかよ、あの人すげえな。

 公式の記念すべき初大会で割とこれから名が残るだろう大型イベントだろうになぁ……。


「まあ彼らしいと言えば彼らしいよ。オキュラスが残っていれば多分戦っていただろうにどこかの誰かさんが大番狂わせジャイアントキリングしちゃったせいで」


「悪かったな、でもああしなければ多分かなりの強敵を残していただろうし結果オーライという事で」


 予選の【彗星の一矢】でオキュラス氏を屠った時の事が脳裏に浮かび上がる。

 聞けばお気楽隊というクランはPVPガチ勢のクランらしく、PVPの成績によってクランリーダーを決めているらしい。

 副クランリーダーである鬼夜叉氏ですらライジンを追い詰める程の実力者。

 そのクランのリーダーを務めるオキュラス氏は相当な手練れなのだろう。事実、ライジンとポンの二人を追い詰める程の実力を秘めていた。

 今回の大会では自分の実力を侮ってくれたおかげで隙が突けたが、次は恐らくガチガチに対策を固めてくるだろう。


 次にオキュラス氏と戦う機会があればぜひとも全力で真っ向から戦いたいものだ。


「実際村人の助けが無ければ予選では敗北必至だったからね」


「そうだぞ、ライジンはもっと俺に感謝すべきだ。具体的にはなんか飯奢れ」


「それだけでいいのか……。まあ、良いよ」


 俺の提案にやれやれ、と苦笑しながらライジンは承諾する。

 その様子を見ていたRosalia氏はポカンとした表情を浮かべていた。


「……Rosalia氏、どうした?」


「あ、いや。……なるほど、村人×ライジン、そういうのもありか」


 待ってこの人なんか良からぬ妄想してるぅ!?

 俺は普通に女性に興味がある人間だからな!?


「てっきり私はライジン×村人だと思っていたのだが……。ふぅむ、なかなかどうして禁断の果実はこうも甘いのか」


「お願いだからその妄想はそっと心の中でしまっておいてください」


 てっきり黒薔薇騎士団って女性しかいないからそういう趣向の人の集まりなのかなって思ってはいたがそっちだったのかよ。


「とと、それよりも表彰だぞ。こんなくだらない話をしている場合じゃない」


 なんかすっかり雑談ムーブをかましていたが、ここは表彰の場。腐っている話を聞かされている場合ではない。

 姿勢を正して、観客席にいる人達に視線を向ける。


『ゴホン。……それでは、選手の紹介と表彰に移ります!』


 ぱっと上空に映し出されるモニターに、Rosalia氏の予選での活躍、本選での活躍の様子が映し出される。


『1st TRV WAR 第三位!圧倒的なレイピアの剣技と、分身を用いた敵を翻弄する立ち回りで対戦相手を圧倒していた技量の持ち主!!その美貌に見惚れてしまった人間も少なくはない筈!』


 ちょっと待て、今Rosalia氏の痴態が一瞬映ったぞ。元凶は俺とはいえ心が痛いからやめろ運営。


『クラン【黒薔薇騎士団】クランリーダー!Rosalia選手!!』


 途端、割れんばかりの歓声が会場を包む。

 その様子にRosalia氏は毅然とした態度で礼をする。

 ううむ、この人の色々な一面がこの大会で知れたが、素は凄い人っぽいんだよな。緊張してもおかしくない場面での堂々たる様は並の人間には出来ない事だ。時折幼児退行したり腐っていたりするだけで。


「なんか失礼な事を考えている気がするのだが?」


「おっと、そいつぁ被害妄想ってやつですぜお嬢さんマドモアゼル


 ふと、俺の視線を感じたのかRosalia氏はジト目になりながらこちらへと振り返る。

 そんな視線に対し、俺は口笛を吹きながら視線を背けた。

 そして、歓声が鳴り止み、会場が静まり返る。


 よし、俺の番か。


 頭上のモニターの映像も、俺の物に切り替わる。


『1st TRV WAR 第二位!あまりにもトリッキー過ぎる弓の技術は、この人以外に見たことが無い!そして大胆なまでの作戦を敢行し、その手数の多さにあのライジンですらも敗北を予期させるまでに追い詰めた!今大会でその注目が集まった期待のダークホース!!』


 お、結構俺の評価高めじゃん。


『クラン所属無し!村人A選手!!』


 再び歓声と拍手が会場を包み込む。その中にはクランに勧誘する物も混じっていたが、俺は苦笑を浮かべて拳を掲げる。

 クランに所属していないとこういう紹介されちまうのか。まあ無所属でもそれはそれで趣があるというかなんというか。

 というか下手なクラン名付けられないな。……おっと、胃が痛くなってきた。


 拍手と歓声が止み、再び会場に静寂が訪れる。


『それでは、1st TRV WAR 第一位』


 一拍置いて、アナウンスが響き渡る。


『予選での獅子奮迅の活躍はさることながら、本選でもその実力を多くの選手と観客達の目にまざまざと見せつけました!決勝では村人A選手の予想を超える様々な手をその対応力で悉くをねじ伏せ。これまでに踏んできた場数の多さを思い知らしめたのはこの人!』


 シン、と静まり返った会場。

 その名が呼ばれるのを今か今かと観客は待ち続ける。


『同じくクラン所属無し!ライジン選手!!』


 途端、会場のボルテージが最高潮に達する。

 圧倒的なまでの人気を博しているライジンに対する声援と歓声の量は俺やRosalia氏に向けられた歓声とは比にならない程。

 大気が震える程の大歓声に、ライジンは笑みを崩さないまま拳を掲げる。


 Rosalia氏もそうだが、やはり人の上に立つ存在という者は威風堂々としているものだ。俺もあまりプレッシャーという物を感じないタイプではあるが、ライジンのそれとは根本的に違う。

 尊敬を込めた眼差しでライジンを見ていると、こちらに振り返り、笑みを深める。


「いつだってこの場所を奪いに来い。俺は何度だって受けて立つ」


 ライジンのその言葉に、俺は少しばかり息を呑むと静かに目を閉じた。


「……勿論だとも。次こそは絶対お前を先に撃ち抜くって決めたからな」


「楽しみにしてるぜ」



『それではこれにて1st TRV WARの表彰式を終了します!沢山のご参加、および声援をありがとうございました!!』



 こうして、俺にとってのSBO初イベント、1st TRV WARは幕を閉じた。







 遥か、遠い彼方。

 この世のどこにでも存在し、どこにも存在しない場所。


 林檎が実った木が連なり、地平線まで広がる花畑。空には幾重もの流星が彩り、地表を明るく照らしている。その中心に、静かに佇む一つの塔がある。

 

 その頂上。雲を突き破り、天高くそびえ立つその頂きに、白いローブに身を包んだ一人の少女と、ボロボロになっているローブを着ている小汚い一人の男が居た。


「介入する気かい?」


「……三千年だ。ずっと、この時を待ち続けていた。今、手を出さずしていつ出すというのだ」


 男はそう言うと夜空に向かって手を伸ばす。

 その瞳には、途方もない程の懺悔と何か強大な存在に立ち向かわんとする決意が込められていた。


「確かに、そうだよねぇ。でも、介入する事でバランスを崩してほしくないのが本音かな」


「……観測者であり、調停者でもあるお前がそう言うのであれば仕方あるまい。何せ、私は居候の身だからな。それに、私が余計な手立てをすれば……」


「うん、消すよ?」


 少女は太陽のような笑顔を浮かべると、絶対零度の如き視線で人間矮小な存在を見つめる。

 対する男は、その表情を見て一つため息を吐くと、こめかみを押さえた。


「僕が見たいのは、この世界の行く末さ。それがどのような形で終わるのかを見届けるのが僕の役目。だけどその終末を、他者の介入によって捻じ曲げるような事をしてはならない。いかなる存在であろうとも」


「……その介入に、の存在は含まれていないのか?」


「これでも僕は数多の世界の行く末を見届けてきたんだぜ?この世界の終末は、大体想像が付くからさ。敢えて答えるなら、


「……それも、契約の一環というわけか」


「まあ、そうとも言うかな。君が犯した行いも、契約者が犯した行いも、全て観測した上での判断処置さ。僕が定めたルールに則って君が逆らわない限りは僕は君を害する事は無いし、その逆に契約者が逆らわない限りは契約者を害することも無い。僕は本来、ただの存在に過ぎないからね」


 コツ、コツと杖の柄で地面を鳴らしながら少女は段差になっている床を昇っていく。


「ただ、圧倒的な力を持った存在による一方的な世界の終末というのも、そろそろ飽きた所でね。……君が、ルールに逆らわない限りは何をしても良い、という事でもあるのさ」


 少女はそう言うと、この塔の頂上の更に天辺。あと一歩進めば空に身を投げ出すという所まで歩いていくと、後ろへと振り返る。


「さて、君が介入した後のこの世界は、どんな変化をもたらすのかな?」


 少女は、手に持っていた杖を振りかざすと、一つの植物で構成された椅子が出現する。

 その椅子に腰を掛けてゆっくりと足を組むと、目の前に立っている人間を見ながら、微笑んだ。





「ねえ、『名も無き旅人トラベラー』?」




『旅人たちの選別は終わり、静かに物語は動き出す』


『自らのルーツを辿り、真実を解き明かした先にある未来は希望か、それとも終焉か』


『今はまだ、誰にも分からない』




《システム通知:この通知は運営にしか通知されません》




【グランドクエスト】:【ルーツを巡る物語】が進行します!


【グランドクエスト】の進行に応じて以下の要素がアンロックされます!


・【龍王】の活動に十分なマナが満たされました。

・【双壁】が星の海に揺蕩い始めました。




・【二つ名レイド】が解放されました。



 ────


【補足】


【グランドクエスト】

skill build onlineにおける、プレイヤー全員の共通目標。

【二つ名】に関するクエストの進行を経て、世界の秘密と自身のルーツに関する真実を知っていく事で段階的に進行し、進行度に応じてシステムが自動的にコンテンツを解禁していく。

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