#124 表彰前の、ちょっとした幕間
「勝った気がしないんだが?」
「ふはははは!ただで死ぬわけにはいかないんだよなぁ、詰めが甘いぞライジン!」
「いや普通に考えて時間差射撃でオーバーキルされるなんて思わんだろ」
決勝終了後、本選参加者が集まる会場の一角。
リスポーンしたばかりのライジンがこちらへと近付くと、呆れたような目線をこちらに向けてくるので笑い返す。
ふぅ、と一つため息を吐いたライジンは肩を竦めると、苦笑する。
「折角綺麗に終わらせられそうだったのになぁ……」
「申し訳ないが死ぬと思った時は全力で足を引っ張らせていただく所存」
「うーん、害悪かな?」
うるせえ、俺はバトロワゲーで1on3で勝ち目がないと判断したら二枚ダウンさせて確キル入れるタイプの人間なんだよ。なんなら粘って他パーティ呼んでからやるまである。
ライジンが引き攣った頬を叩き、爽やかな笑顔に戻すと、拳を突き出してくる。
「まあ、取り敢えず。GG、村人」
「GG、ライジン。結構初見殺し技披露したけど悉く回避しやがって」
「悪いけど俺はああいった初見殺し技には得意なタイプなんでね」
「知ってるわい。なんならなんでも得意だろうが」
まあね、と笑うライジン。
憎らしいが、実際こいつの場合オールマイティ過ぎてどう攻めたものか悩まされたものだ。
「つーかライジンなんだよ、成長進化の条件を知ってたなら教えてくれても……って、切り札になるもんな、教えられないか普通」
「いや、俺もあの場面で成長進化するとは思わなかったから、普通に負けを覚悟してたんだけどね。少しばかりは法則を掴めたかもしれないけど、まだ憶測の域に過ぎない」
え、じゃあこいつ運ゲーで勝ったってこと?畜生こいつ!(ラスト運ゲーに勝って負けた男の言葉)
「まあなんにせよ、勝利は勝利だからね。リベンジマッチはいつでもどうぞ?」
「よし、じゃあ二時間後にAimsに来いよ。ひっさびさに叩きのめしてやる」
「流石にリベンジマッチの場所が鬼畜過ぎない?」
今回の敗因は銃を使ってなかったからです。異論は認めない。と言うわけで血と弾丸が飛び交う戦場へと洒落込もうかぁ!!
と、俺が臨戦態勢になっていると、ライジンは何か思いだしたのか。
「ところで……その、彼女はどこにいるんだろう?」
ふと、ライジンが周りを見回すとそわそわし始める。
彼女とは、恐らくシオンの事だろう。まさかあのFPS大好きロリッ子がこのゲームに参入してくるとは思わなかったから、素直に驚かされた。
だが、ここは本選出場者が集う場所。この場所には観客として現れた彼女は来れないだろう。
「あー……仮にいたとしても、ここには来れないんじゃないか」
「あ、そうだよな……」
露骨にしょんぼりするライジン。
つーか、シオンの声援なんて極稀中の極稀だしなぁ、むしろアレ本人だったのかすら怪しいぞ。
「誰かが幻影系のスキルを使ってシオンの姿を模したに一票」
「それ俺からしたら心を弄ばれただけなんですけど!?」
「中身おっさんだったら最高だよな、おっさんの声援を受けて覚醒するライジン。ウケる」
「いやウケねーから、需要ねーからマジで勘弁してくれ!?」
「あー……、一応あれ本人だぞ、俺もあんな声出すとこ初めて見たけど」
と、その時俺達の会話に反応した串焼き先輩が近寄ってくる。
あ、そういえばこの人も本選参加してたな。
「『あ、そういえばこの人も本選参加してたな』みたいな表情やめろ、いや確かに厨二に手も足も出なかったけども」
「一言一句間違えないとかこの人エスパーか?」
「よーし村人、お前表出ろ。いやここ表だったわ!」
「「あっはっは!!!(拳を振るう音)」」
「肩組んで笑ったと思ったら唐突にボディブローかまし始めるお前らが怖いよ俺は」
何言ってんだライジン、俺と串焼き先輩はソウルフレンズだぞ?
喧嘩するほど仲がいいってこういう事だよね!!(ボディブローを叩き込みながら)
「という事は、あの時のヘルプの呼び出しはシオンだったのか。よくこの短時間でレッサーアクアドラゴン討伐出来たな」
「いやマジでやめてくれ、本当に思い出したくねえ……。よりにもよってシオン、生産職だったからほぼ俺一人だけであの高耐久を削り切ったんだからな……?」
「よしよし、偉いねぇ」
そう言って俺は慈愛の笑顔を浮かべながら串焼き先輩の頭を撫でる。
この人なんだかんだ苦労人気質な所あるからな……。少し労わってあげても良いだろう。
「シオンの事だし、どうせ無茶ぶり言って串焼き先輩の事働かせたんだろ?」
「おお、分かってくれるかマイフレンド。ライジンと傭兵の試合が終わるまでにサーデストに連れてって、とか言い出したから流石に無理っつったんだけど、連れてかないとにぃとの縁切るって言われてさ。死ぬ気で頑張った」
「流石シオン、非常に合理的な手法で串焼き先輩をコントロールしてやがる。容赦ねえなぁ、相変わらず」
もしかしてこの大会中一番限界超えてたのこの人なんじゃないだろうか。
心なしかやつれた表情の串焼き先輩を、可哀想な物を見る目で見ていると、一人の少女が近づいてくるのが目に入る。
「お疲れ様でした!お二人とも、凄かったです!」
まだ興奮冷めやまぬ、といった具合に目を爛々と輝かせているポン。
そんな彼女に優しく笑いかける。
「ありがとう、ポン」
そう言うと、くすぐったそうにえへへと笑うポン。
癒されるなぁ……こう、ずっと戦い続きだったから荒んだ心が浄化されるよな。
一家に一台、お一つポンちゃんいかがです?(ヒーリング効果もあるよ!)
「お疲れの所、悪いんですが……この大会開始前に言ってたあの約束、覚えてます?」
ポンがこちらに向かって首をこてんと傾げる。
約束、約束。ああ、そういえばそんな約束をしていたな。
「ああ、クラン名の話か」
セレンティシアに到着した俺達がギルドに寄って、クランを結成するという話が上がり、そのクラン名を一番順位が高かった人間が決める、という約束。
今回の順位から考えると、ライジンが一位、という事になるのでライジンがクラン名を決めるのか。
……何か、忘れているような。
ポンの言葉に、ライジンは笑顔で頷くと、ふっふっふと自信ありげな表情を浮かべる。
「それに関しては、実はもう考えてあるんだ」
「おお、凄い!!」
ふふん、と鼻を鳴らしたライジンは、その名を告げる。
あ、そうだ。この違和感の正体は――――。
「【ワンフォーオール】とか、どうかな?」
そういやこいつ、致命的にネーミングセンスが皆無だったわ。
「「「「却下」」」」
勿論、皆一様に一蹴する。
「なんでぇ!?」
「小、中学校のクラス目標みたいなクラン名だけはやめろ」
「あーあったよな、なんか知らないけど覚えたての単語使いたがる一定層」
「私の学校でもあったなぁ……(遠い目)」
「致命的にセンスが無いよねぇ」
「クラン名決める権限あるの順位が一番高かった人って言ってたよな!?なんでこんな全否定されないといけないの!?」
ライジンが半ば涙目になりながら抗議するが、流石にちょっと……。
というか厨二、お前いつから居た。ナチュラルに【
「ライジンがこういった命名に関するセンスが無いのをすっかり忘れてた……。くそ、こんなことになるなら最後戦うんじゃなくて全力で逃走かますべきだったか」
「そこまで言う!?」
正直プライドとかかなぐり捨ててでも阻止するべきだったと後悔する。
「もういいよぅ、そこまで言うなら村人決めてくれよぅ……」
「あ、ライジン拗ねちゃった」
隅っこに移動して体育座りを始めたライジン。
実はそんな真剣に考えてはいなかったので、ここで振られるのは厳しい。仕方ないので、腕を組んで考え始める。
「そうだな……」
『それでは、1st TRV WAR、表彰を開始します!!本選出場者の皆様は会場の特設ステージまで転移しますので、そのままの状態でお待ちください!!』
まあなんと間の悪いアナウンスだ。
まあ、取り敢えずは結果発表と、その報酬を楽しむ時間にしますかね!
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