#120 超えるために
「はぁ……!!はぁ……!!」
燃え盛る爆心地の中心で、ライジンの膝が突如としてガクリと折れる。
村人Aの位置は、先ほど作成したスキルである【
しかも、【灼天】のフルバーストによる攻撃の副次的な効果により、村人Aは一時的に戦闘不能状態に陥っている。攻撃するなら、今程絶好の攻撃チャンスは無いだろう。
……だが、ライジンはその場で荒い息を吐き出してはいるが動く気配はない。
(クソ、俺も大分無茶しちまったからすぐには動けねえ。【灼天】のフルバーストをする羽目になるなんてな……!MPも枯渇したし、しばらくは【灼天】も無理だ、夜になる前にギリギリ間に合うかどうか……)
ライジンはウインドウを操作し、部位欠損回復ポーションを取り出す。
それを足に振りかけると、深く息を吐きだした。
(これも村人の作戦の内か?だが、フルバーストで吹っ飛んだのはあいつも予想外だったはずだ、今の内にトドメを刺さないと……!)
続けてウインドウを操作してMPポーションを取り出すと、一息に呷る。
空になった瓶を後方へと投げると、手で口元を拭った。
息が整い、ゆっくりと片足でバランスを取りながら立ち上がると、視線を村人Aへと向ける。
ぐったりと木に寄り添うように座り込んでいる彼の眼にはっきりとした像は結んでおらず、未だ意識がはっきりしていないのが分かる。
「村人……見事だったぜ。だが、今回は俺の勝ちだ」
フックショットを飛ばし、地面に突き立てるとすぐさま片足で跳躍。振り子の要領でライジンは村人Aへと迫り来る。
空中で双剣を抜刀すると、双剣は赤い粒子を纏い始め、深く構える。
「【エクス】……」
「……【
突然片腕を伸ばした村人Aから放たれる鎖が、パキィン!と音を立ててライジンの首に繋がれた。
ライジンは舌打ちを一つ鳴らすと、双剣を納刀し、遠くまで加速しながら退避する。
「相打ち狙いのだまし討ちか!」
「馬鹿野郎……!こちとらまだ軽い酩酊状態だっての……!!」
次の攻撃に移る為に地面に手を添えながら着地すると、ライジンは再び跳躍する。
「なら、今がチャンスなのには変わりないな!」
先ほど村人Aが放った【
「……このスキルの効果は把握しているだろう!」
「ああ!だがな、
ライジンは空中で回転すると、無防備な状態の村人Aの身体を蹴り飛ばす。
その瞬間、【
互いに地面を横転し、その勢いのまま木に激突する。
ライジンのHPは再び勢いよく減っていき、赤いラインに到達すると、静かに警告音を鳴らし始めた。
「ぐぅ……! フィードバックが怖くて攻撃を辞めるなんて、それこそお前の掌の上だろう? 厨二戦で見たあの騙し討ちを再現されても俺には蘇生手段は無いからな!」
ライジンはすぐにウインドウを操作し、HPポーションを取り出す。
だが、取り出した瞬間にポーションは鋭く飛来してきた矢に射抜かれ、中身の液体をまき散らしてライジンの装備を濡らした。
矢を放った本人、村人Aは口元に弧を描きながら矢を放った体勢のまま。
「ショック療法サンキュー!もう一回木に頭ぶつけたらすっきりしたわ!」
「それは一周回ってもはや手遅れだと思うが……」
「知らん!ゲームのアバターは叩けば治るんだよ!」
「一昔前の家電用品かな?」
それ間違った知識だけどな、と村人Aは弓を仕舞うと、二振りの短剣を取り出す。
短剣を力強く握り締めると、ライジンに向かって駆け出していく。
「どうせお前の事だ。さっきのスキルの効果か知らんが、もう逃げても無駄なんだろう?ならお望み通り正面から打ち合おうじゃねえか!」
「良く分かってるじゃないか! 上等だ、受けて立つ!」
村人Aが襲い掛かると、ライジンはそれに対抗するように双剣を抜刀する。鋭い剣戟と共に、火花が飛び散った。
夜の帳が下りるまで、残り十分。
◇
早い、早すぎる。ライジンの攻撃は圧倒的に無駄が無く、そして隙が無い。
攻撃一つ一つに明確な殺意が宿っているとでも言うべきか。
俺の見様見真似パリィ技術はライジンの動画を視聴して習得したものだ。本家には到底及ばない。
「どうした村人? 攻撃が温いぞ!」
ライジンがそう言うと、双剣が容赦なく身体を切り裂いていく。
HPバーがゴリゴリ減っていくのを見ながら、歯を食いしばる。
「るせッ! 遠距離職に近接戦闘でマウント取ってんじゃねぇ!」
すぐさま後方宙がえり、着地と同時に地面に転がっていた石を蹴っ飛ばして【跳弾】を発動。木々を往復しながらライジンへと襲い掛かる。
だが、ライジンはその石を双剣で両断すると、笑みを浮かべる。
「やはり一筋縄には行かないな、村人……!」
「そっちは随分余裕そうだけど、なっ!」
ウインドウを操作してボムを取り出す。すぐさま弓を取り出してクイックショット。ライジンはバックステップで後方へと下がると、爆風に呑まれる事なくやり過ごす。
「ちっ、やっぱ避けるか」
舌打ちを一つ鳴らす。俺の攻撃を捌き続けている以上、ライジンの【疾風回避】のAGIのバフはそれなりに積んでいるだろう。ここらへんで一度リセットしないと、【電光石火】を発動されかねない。
弓矢を取り出し、ライジンに向けて射撃。
だが、ライジンはあろうことか矢に向かって突撃する。
「なあ、村人知ってるか? 矢の攻撃判定は2
「それが、どうした」
「
ライジンに矢が当たった瞬間、
ライジンはそのまま加速しながら跳躍、勢いを増しながら切り掛かってくる。
突然の事に対応しきれず、片方の剣を何とか弾くが、もう片方の剣は深々と腹部に突き刺さる。
「ぐぅっ!?」
そうだった、こいつにはスーパーアーマーのスキルがあるんだった!
くそ、猶予2フレームに余裕で対処してくるとか頭おかしいだろ!
HPがゴリッと減るのを見て即座に【フラッシュアロー】を作成、握りつぶすと閃光が弾ける。
だが、ライジンは想定していたのか目を閉じてやり過ごした。
「どうした村人、お前にしてはワンパターン過ぎやしないか!」
そのままライジンは突き刺した双剣を抜き取り、力強く蹴り飛ばす。
突き刺した傷口に強烈な蹴りを食らったものだから、息を吐き出せなくなる。
「ッは、仕方ねえだろ、手駒が生憎これしかねぇからな……!」
一拍遅れて息を吐き出すと、地面に手を付きながら着地する。
ごほごほとせき込みながら、後方へとバックステップし、HPポーションを取り出す。
不味い事になってきた。今までライジンは俺の矢を散々受けてきていたものだから、例のスーパーアーマーでも対処できないものだと勘違いしていた。
しかし、それはこの瞬間の為の隠蔽だった。恐らく、一番初めからあのスキルでも対処されていたらまだいくらでも作戦の切り替えが出来ていただろう。
だが、【
お前の攻撃は全て対処できると言われたようなものだ、その絶望感は計り知れない。
(ああ、くそ。どうすりゃいい? ライジンみたいに土壇場になってスキル作成なんて出来ねえ、そもそも生成権が無いからな……!)
そう、予選の分を含めて生成権はとっくのとうに使い切っているのである。
状況を打開するにはあまりにも手札が乏しすぎる。【彗星の一矢】ならばスーパーアーマーの効果外かもしれないが、近接戦闘が主体となった今にそんな隙をライジンが与えてくれるとは到底思えない。
(一応まだ一回も使ってない隠し玉はあるにはあるが、あれは【
本戦で戦っていく中で隠し抜いた最後のスキルは、正直に言うと使っても使わなくても戦況に大きく影響を及ぼす程のスキルではない。
【
(駄目だ、勝ち筋なんて考え続けるだけ思考がマイナス方向に向かっていく。一回リセットしろ)
深く息を吐いて頭の中を空っぽにする。
(勝つ事に固執するのは悪い癖だ、そうでなくても良いと考えろ)
確かに勝ちたいという気持ちは根底にはある。
だが、勝つという事を考えているだけでは気付くことが出来ない事もあるだろう。
目の前に立つ圧倒的な強敵を見て、自然と気分が高揚していく。
(リスク管理なんて考えるな、初心に帰れ)
初心。ゲームを始めたばかりの頃の、がむしゃらに強敵に挑む、純粋な楽しむ心。
超えたい壁を乗り越えるために試行錯誤して、超える事が出来た時の快感を思い出す。
(そうだ、今の俺に出来る事は)
拳を握り締め、目をゆっくりと閉じる。
(雑念を捨てて、勝つ事なんて考えずにゲームを楽しむ事だけだ)
「【
思考が急速に引き延ばされていくのを感じながら、俺は目を開き、大きく口元を吊り上げる。
「ライジン、このゲームに誘ってくれてありがとな」
自然と口をついて出てきたのはライジンへの感謝の言葉。
FPSというジャンルに閉じ籠っていただけでは到底得られない経験を得た。
画面の外でその姿を見ているだけでしか認識できなかった強さを実感する事が出来た。
「どうやら俺はまだまだ強くなれるようだ」
さあ、ゲームを楽しもう。
楽しんだ結果敗北しようと、それでもいい。
きっとその先に掴むことが出来る経験は、何物にも代えがたい物だろうから。
この楽しい時間が一秒でも長く続くように、俺は短剣を握り締めると力強く駆け出した。
────
【補足】
【
自分を攻撃した者の位置を一定時間特定するスキル。攻撃を受けた回数に応じて時間は延長されていく。
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