#115 ライジンという男
昔から、ゲームをプレイすることが大好きだった。
俺ことライジンというプレイヤーは才能の塊だと思われている事が多い。
これには自信を持って宣言しよう。俺は、才能の塊でも、天才でもなんでもない。
俺が今までにプレイしてきたVRゲームの数は実に300本以上。ジャンルは問わず、自分が好きなジャンルであるRPGやACGを主として、SLG、AVG、FPSなど、色々なゲームに手を出してきた。配信者として案件でプレイしたゲームもそれなりにあるが、ゲームクリアまでは必ずと言っていいほどプレイしてきた。
特にハマったゲームは何週もプレイしたり、コンプ要素を含めての周回も何度もしてきた。
幼い頃からゲームに触れてきて、その人生の大半をゲームに注ぎ込んできた哀れな男の成れの果てが俺という人間だ。
今現在に至るまで数多のゲームをプレイしてきた経験を、別のゲームに応用する。それをひたすらに繰り返す事によって俺は常人離れしたゲームの実力を身に着ける事に成功した。
なぜそんなに実力を求めるようになったかと言うと…正直、俺も過程はよく分かっていない。
最初の内はただひたすらゲームを楽しんでいた。現実とは遠い世界の話。自分では無い自分となって世界を救ったり、世界を滅ぼしたり。
そうした『現実では得る事が出来ない体験』を味わう魅力に取りつかれたのだ。
だが、配信者として活動するようになり、『他の人よりも上手くなりたい』『自分という人間を、他人の記憶に刻み込みたい』と思うようになるうちに、自然と俺のゲームをやる目的が変わっていたのだ。
『ゲームの世界で、配信者として頂きにまで上り詰めたい』。
ただ、それだけの理由で、俺はゲームをやり続けている。
配信者としてゲーム配信しているときにもよくある事なのだが、そうして身に着けたゲームの腕前に嫉妬を抱かれる事も少なくない。
まるで、俺が努力せずに今の地位にまで辿り着いたという人間が、俺の事をそう評価する。
ならば問おう、君達は300本以上のゲームを余す事なく遊びつくしてきたのか、と。
毎秒、即死効果を纏って飛来する弾幕の雨を二時間耐久したことは?
HPを削り切るのに最強装備で丸一日かかるボスに三日連続で挑戦したことは?
ギミックを解くのに最低三人必要なステージをゲームの仕様とバグを使って無理矢理一人で攻略したことは?
一秒の気の緩みが最終的なタイムに直結してくる、クリアに最低30時間はかかる大作RPGのRTAに挑戦したことは?
俺は、そういう『普通とは違う遊び方』も存分に楽しんできた。
中にはとんでもない難易度のゲームもやってきた。
俗にいう『死にゲー』と呼称されるゲームでは生温い理不尽なクソゲ―もクリアしたことがある。
俺は結局のところ、ゲームを色んな遊びで楽しんでいるだけの凡人でしかない。ひたすらに時間を掛けて、本物の天才に追いつくためだけにやれることをやっているだけ。その結果として成果が付いてきているだけだ。
だからこそ俺と同じ、血のにじむような努力で実力を身に付けた
俺が数多のゲームに挑戦する一方で、目の前の
果てしない時間を費やして、今の実力に至るまで骨の髄までゲームをしゃぶり尽くした男。
日向渚。俺の一番の友人にして俺が最も尊敬するプレイヤーの一人。
彼の並外れたFPSの実力は、目を見張るものがある。
Aimsと言うゲームにおいて彼の実力は誇張抜きで世界に通用する。
だからこそ、どうしても彼に勝ちたかった。
同年代で、そこまでの実力を身に付けた恐るべき友人に。
互いにフェアな条件下で勝つ事によって、また一つ『頂き』へと近付く為に。
◇
「だぁあ!!
俺が火炎を飛ばすと、村人Aは俺の行動の意図を素早く理解し、嘆くように叫んだ。
(そうともさ。俺がお前対策の為にどれだけお前の動画を参考にしたと思っている。お前が見ている景色をインプットするのに、大会までに対村人の為だけに
それはAimsにおける村人A視点の動画から、三人称視点の動画まで。Aimsにおける跳弾の仕様について細かく解説している動画もあり、インプットする上で非常に参考になった。
(あいつも相当な修練を積んだ上で今の技術を会得している。厨二のような天性の才能が無くても努力だけでのし上がったクチの人間だ。だからこそ
粛清の代行者である【戦機】ヴァルキュリアを呼ぶために行った、跳弾を交えた【バックショット】によるカルマ値の増加検証の際の体験は実に有意義なものだった。
…確かに三半規管は壊滅的にまで追いやられはしたが、その時の経験が無ければ、俺は奴の跳弾の挙動についての造詣を深める事は出来なかっただろう。
だが、正直な所、結論から言って村人の跳弾技術は、本人の凄まじい計算能力に依存されている所がある。
だから、俺はせいぜい十回ぐらいまでの跳弾の挙動ぐらいまでしか読めないが、読めると読めないとでは村人と戦う上での条件が違い過ぎる。
(ああ、見える。村人が撃とうとしている矢の軌道が。どこから飛んでくるか、予想が付く。村人が見ている景色は
村人Aの動き一つ一つに視線を向け続け、指先の動き、視線の動かし方を隈なく監視しながら『次に放つであろう射撃の線』を予測し続ける。
【灼天】を飛ばして先んじて射線を潰しに行く。
十回までしか見えないのならば、不安要素のあるルートを潰すのみ。
高速戦闘を仕掛ければそちらに注力する事で、奴はその分計算する時間が短くなり、少ない回数での跳弾でしかこちらに攻撃を仕掛けられない。
「上等だ!今の俺は最強に挑む
(それは俺もさ、渚。俺もお前という最大の
厨二戦で見せた、あの彼を、もう一度。
正真正銘、あれが彼の完全なる集中状態なのだろう。底冷えするような冷静な表情は、観ているこちらでさえ肝を冷やされたのだから。
だが、厨二のような煽りはしない。俺は俺の実力を持ってして、奴の余裕を無くして見せる!!
「いくぞ村人!【灼天・鬼神】!!」
狂いそうになる衝動を内に秘めながら、その身体を禍々しい物へと変貌させていく。
鋭い眼光を逃げ続ける獲物へと向けると、高らかに笑った。
「いKuゼェェEEEEEEEEEEEE!!!!!!」
目の前を走り続ける彼の驚愕の表情を見て、一層笑みを深めながら、俺は地面を跳躍して彼へと襲い掛かった。
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