#114 猛れ本能、烈火の如く
猛り狂う炎の奔流。一息に身体を呑み込む程の火炎を穿つは自分が放った、彗星の如き一撃。
そしてすぐさま【彗星の一矢】の効果で発動硬直が発生した身体に、【バックショット】が命中。横っ飛びに吹っ飛ぶ形で戦線を離脱すると、地面に手を付いて飛び上がり、すぐさま駆け出す。
「やっぱり最初から【灼天】を使うよなぁ……!!」
自分が立てた仮説が的中し、俺はにやりとほくそ笑んだ。
◇
それは、【灼天】というスキルの本質的な部分から予測できた事である。
そもそも、作成したスキルというのは強力である分、何かしらのデメリットを負わなければならない。
デメリットを負わずとも強力なスキルは作成することは出来るが…その分スキルポイントの消費量が増えてしまい、その結果他のスキルが作成することが困難になってしまう。
もし仮にライジンのスキルが【灼天】一本であるとするならば、確かにその線も考える事が出来たのだが、それは無いだろう。
俺が見てきただけでも、【クリティカルゾーン】を始めとし、スーパーアーマーを発動するスキル、【疾風回避】、【電光石火】、【疾風迅雷】と奴は強力なスキルを幾つも作成してきている。
そちらにポイントを割いている分、【灼天】のみを非常に強力なスキルに仕上げるにしては確実にポイントが足りなくなるのが自明の理だろう。
ならば、確実に【灼天】というスキルには
では、その綻びというのは何なのだろうか。
それは、ライジンが初めて【灼天】を発動した時に少し違和感を感じた物だ。
MPを消費して使用するスキルは、基本的にその消費の度合いによって、その現象の具合を調節することが出来る。
つまり、消費量が多ければ多いほどその現象の強さの度合いが変わるという単純な仕組みだ。
【灼天】というスキルを発動する事で発生する現象は『火炎を纏う』。
恐らくMPの消費量が多いのだろう、そのスキルによって生み出される火の量は、人間一人などゆうに呑み込めるほどの炎の塊だ。
だが、それでは
違和感があるという事は、そこに外的要因があるという事だ。
ここで、ライジンが初めて【灼天】を発動した時の状況を思い起こしてみよう。
ライジンと鬼夜叉氏の戦闘のマップは荒野。
地面の高低差こそあれど、遮る建築物など一つもないマップ。
そこでライジンは【灼天】を発動し、加速度的に燃え盛った。
ほぼ無限とも言えるリソースである『
それが何を意味するかは、もう分かることだろう。
奴の【灼天】というスキルは太陽を触媒にして発動が可能なスキルであるという事。
つまり、
そしてこの発動が出来なくなるという裏付けも取れている。
それは、ライジンと鬼夜叉氏の試合の最後の局面で確信を得ることが出来た。
あの時のライジンは【灼天・鬼神】の効果で知能が落ちる代わりに一時的にバフを抹消する黒炎と、とんでもない力を手にしていた。
それが、最後の場面での【灼天・鬼神】使用状態で、【灼天・陽炎】を使い、鬼夜叉氏の最後の一撃を回避するという実に
その際、鬼夜叉氏の問いに彼は『
制御が出来ていないのに別のスキルを使う余裕があるかどうか。答えは否だろう。
スキルは発声発動型と思考発動型のどちらでも発動可能ではある。
俺がポン戦でも使用した『なんちゃって彗星の一矢』は発声発動型に見せた思考発動型といういわばスキルの応用技術。
ライジンがあの場面で使ったのは口が全く動いていなかった事から推測するに思考発動型。
狂いそうなほど思考を揺さぶり続けられているであろう【灼天・鬼神】中に思考発動できるとは到底思えない。
では、この場面にあったイレギュラーとは?
それは【
そしてその粒子が太陽を覆い隠したことにより、
そして供給が途絶えた事によって、ライジンの【灼天】の出力が落ちた事によって正気を取り戻し、スキルを発動させるに至った、というのが恐らく真実。
鬼夜叉氏の『【怒槌】が悪手だった』という発言は恐らくこの事に気付いたからだろう。
現在、この大会も佳境を迎え、夕暮れの日差しがこの森林地帯を照らしている。
要するに、夜が近づいている。
つまり、【灼天】を発動することが出来る
これが【灼天】というスキルの致命的な弱点である。
遅かれ早かれ、発動しようとしまいと最終的には使用不能になってしまう。
ならば、さっさと【灼天】を発動して勝負を急いだ方が、【狩人の意地】の効果で時間経過で火力が増していく狩人(弓使い)とも相性が良い。
だから、最初に【灼天】を使う、という予想が付いたのだ。
◇
だが、【灼天】の弱点が分かった所で、その対処法としてタイムリミットを迎えるまでの逃走を続けなければならない、という厳しい条件を達成しなければならないのだ。
いくら夜が近いと言えど、簡単に逃げ切れるという事は無く――。
「【灼天・焔】ァ!!」
ゴウ、と音を立てて火炎が後方から唸りを上げて迫り来る。
段差を飛び越え、木々をかき分けて地面に飛び込み回避する。
そして地面を転がってすぐさま飛び起きるとすぐに後ろに振り向き、火炎を振りまきながら迫り来ているライジンへと弓を構える。
「【チャージショット】ォ!!」
愚直に正面から狙うという真似はしない。
木々を五回跳弾させる計算でライジンに向けて矢を放つ。
「甘いぞ村人!お前の跳弾技術はもう身を以て味わったからな!!ある程度予想が付く!」
だが、ライジンもすぐに火炎を飛ばして矢を一気に焼き尽くそうと襲い掛かる。
ディアライズの効果である水属性付与の効果もあり、矢を焼き尽くすにはそれなりにラグがあったが、三回跳弾するころには焼き尽くされてしまう。
「くそ、想像以上に厳しいなこの状況!」
吐き捨てるようにそう言うが、諦める事無く足を忙しなく動かし続ける。
通常の矢が通用しないというのなら、スキルを絡めて翻弄すれば良い。
再び矢を装填して、くるりと振り向いて射撃しようと試みるが……。
「だぁあ!!
ライジンの身体に届く跳弾を使用する事を前提とした射線すら炎によって塞がれているのを見て、俺は矢を放つことが出来ずに矢を矢筒へと戻して再び駆け出す。
「嘘だろ、ライジンの野郎、尋常じゃない速度で成長してやがる……!!あいつ、このゲーム始めたときに俺の跳弾の軌道を読めてなかっただろうが……!!」
恐ろしい。この背筋を寒くさせられるような感覚は、厨二が急に跳弾技術を使えるようになった時に味わった感覚だ。
じわりじわりと焦燥が身体を蝕んでいく。
本当に、勝機はあるのだろうか。
そもそも、俺が奴に有効打を与える事すら出来ないんじゃないか。
引きつりそうになる頬で、口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「これが、最強――――!」
動画で見るのと、実際に対峙してみるのでは全然違う。
努力の権化、数々のゲームを極めたゲーマーの到達点を目の当たりにして俺は―――。
「上等だ!今の俺は最強に挑む
地面を踏む足に力が込められる。
より一層遠くへ、更に力強く駆け出しながら、俺は勝利へと繋がる作戦を思考し続けた。
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