#113 決勝戦開始
『大変長らくお待たせいたしました!!!1st TRV WAR本選!!最強のプレイヤーを決める最後の試合を開始したいと思います!!!』
実況の言葉に、会場に割れんばかりの大歓声が鳴り響く。
正午から開始した1st TRV WARは、今では既に夕暮れ時。真っ赤な陽光が、舞台に立つ二人のプレイヤーを照らし出す。
『決勝のマップとして選ばれたのは【森林地帯】!!決勝は特別仕様として、直接このマップを大きく囲うような形で観客席が展開されます!!!ド迫力の戦闘を間近でぜひお楽しみください!!!』
実況の声に熱が入ると共に、観客席からの声援も、更にヒートアップしていく。
『それでは、選手の紹介に入りましょう!!』
観客席から投影されている大きなスクリーンに、村人Aの姿が映し出される。
『まずはAブロックの覇者である『村人A』選手!!そのトリッキーな射撃と、その環境を用いた戦略の幅の広さに圧倒される今大会のダークホース!!ここまで怒涛の快進撃を続けてきたその実力で、見事あの男を打倒することが出来るのでしょうか!?』
ゆっくりと閉じていた瞳を開き、深く息を吐く村人A。
その鋭く射止められた瞳には、もはや目の前に立つ一人の男の姿しか映っていない。
『続いて、Bブロック覇者である『ライジン』選手!!その圧倒的なまでの実力と、スピードに特化したその立ち回りで数々の相手を翻弄してきました!!そして、準決勝で見せたあの豪快なスキルにも注目です!!果たしてこの男を止める事が出来るプレイヤーは現れるのか!!!」
村人Aの視線の先に立つ男――ライジンも、同様に村人Aしか視界に映っていない。
互いの視線が交錯する。
視線から火花が散りかねないほど互いを凝視するその様は、会場の熱気を更に引き上げていく。
◇
「隣、良いかナ?」
「えっ?ああ、厨二さん!戻ってきたんですね」
「決勝だからね。この歴史に残る光景をみすみす見逃しはしないサ。天下無双のライジン君と、変態狙撃手の傭兵A……村人A。その両者の実力を余すことなく目撃出来るんだから」
試合開始直前。観客席に戻ってきた厨二こと銀翼は、試合開始の瞬間を今か今かと待ち続けていたポンの隣に腰を下ろすと辺りを見回し始める。
「あれ……?串刺し君は?」
「串焼き団子さんなら今清流崖の洞窟でボス討伐をしてるはずですよ、フレンドさんと。それと、また名前間違えてます」
「何やってんだい全く……。こんな貴重な絵、
銀翼の言葉にポンは思わず声を漏らしそうになるが、ぐっと留める。
この人はどこまで情報を掴んでいるんだ、と内心恐怖するが口にはしない。
「ああ、とは言ってもまだ仮定の話だし、ボクも情報を得たのは数分前なんだけどネ。だからそんな驚く必要はないさぁ」
怯えるポンの表情を見て銀翼がやれやれとジェスチャーを取り、フッと笑う。
「それに、情報はもう出回っているしねぇ。ヴァルキュリアと同じサ。【フォートレス】前に出現した謎の紋様と、破壊の
「……あ、本当だ。掲示板に書き込まれてる」
銀翼の言葉に、ポンは掲示板を開くと確かに既に情報は出回っていた。
大会に注目している内に、大分ゲームストーリーの方にも進展があったようで、その賑わいはかなりの物だ。
「大会を観戦するか、進展があったストーリーに手を出すか、これぞMMORPGの醍醐味ってやつだよねぇ。自由な選択肢があるのは良い事サ」
「確かに、そうですよね」
若干含みのある笑いで語った銀翼の言葉だったが、気付かずにポンは頷く。
あ、とふとポンは気になる事があって、銀翼の方へと振り向いた。
「あの、厨二さん」
「なんだい、ポン?」
「この試合、どっちが勝つと思いますか?」
ポンの言葉に少しだけ驚いたかのように目を見開く銀翼。
「なんだい、ボクはてっきり無条件で村人君が勝つって信じてやまないものかと」
「そッ、それとは関係ないです!!…確かに、村人君に勝ってほしい気持ちはありますけども…」
もごもごと口を動かし、顔を赤らめるポンを銀翼はにやにやとした笑いで見るが、すぐに表情を戻す。
「ボクから言える事はただ一つサ。
銀翼にしては珍しい断言しない様にポンも思わず驚かされる。
それほどまでにSBOというゲームを経て、ライジンの評価を上げているのだろう。
「それは、どっちが勝ってもおかしくないってことですか?」
「うん。ボクの見込みが甘ければ村人君が勝つし……見込み通りなら、ライジンが勝つ。実力は拮抗していると思うしネ。後は不確定要素が絡んでくればその限りでもないとは思うけど…」
「不確定要素?」
「メンタル面の問題と判断ミスとかそこら辺かな。一つミスを起こせば容赦なくそこを突くのがあの二人だろうし」
「あー要するにこの舞台で緊張するか否かで成否が分かれると」
「緊張なんて無縁だろうけどね。これは公式大会と言えど、日本大会でもなんでもない。日ごろから大衆の面前に慣れているライジンはもちろんのこと、村人君だって緊張することなんて無いサ」
「確かに」
ポンはくすりと笑って、視線を大会の会場に戻す。
周囲の熱気とは裏腹に、どこまでも静かに視線を交わす二人。
「では――――どういう試合展開になると思いますか?」
ポンは視線を正面に向けたままぽつりと呟くと、銀翼はにこりと笑い。
「まあ、多分間違いはないだろうけどね――――」
◇
「遂に、ここまで来たな」
「ああ」
周りの熱気に当てられずとも、二人のプレイヤーは既に極限まで高揚しきっていた。
片や数多のゲームで対人戦で最強と言われた男、片や日本大会で優勝するという偉業を為し遂げた狙撃手――――異なる世界でその名を轟かせていた両名は、本来相まみえる事など無い世界線を越えて、今ここに相対している。
「笑っても泣いても、これが最後だ。この大舞台で、俺の前に最後に立ちはだかるのはきっとお前だろうと半ば確信してたよ」
「そいつはどうも、俺も最後の相手はきっとお前だろうと思ってたさ」
『それではオッズの詳細に入ります!!』
オッズが巨大なスクリーンに表示される。だが、そんな数字はもはやどうでもいい。それほどまでに早く
「私情はいらねえ、お前のありったけを俺にぶつけてこい。俺も妥協はしねえ。持てる限りの力を全部使ってお前を叩き潰す」
「上等だ、返り討ちにしてやる」
そして訪れる静寂。
その先に言葉は無く、静かに開始を待つ。
『それでは――――1st TRV WAR 決勝!!!『村人A』選手VS『ライジン』選手!!試合を開始いたします!!!!』
激しく会場に鳴り響く銅鑼の音。
夕暮れ包むこの木々の中で、ライジンはその瞳に炎を宿す。
「《
短く発せられた、スキルのトリガー。
先ほどまでの試合で出し惜しみをしていたとは思えないほど、自然にその切り札を切っていた。
「――――【灼天】!!!」
ライジンがスキルを発動すると、その身体から凄まじい炎が噴出し、その熱を周囲に振りまき始める。手を横に振るとその手の動きに合わせて荒れ狂う炎の奔流は追従していく。
火の粉が散る中、ライジンは鋭い眼光をこちらに向けると、獰猛な肉食獣の如き笑みを見せた。
「やるからには勿論、最初から
「――――【彗星の一矢】ァ!!!」
滾る思いに乗せる言葉はもはや不要。
最後の戦いは、全てを焼き尽くす赤と、それを呑み込む勢いの青の激突によって幕を開けた。
◇
「「まあ、多分間違いないだろうな(ね)」」
それは、推測による物であったが、村人Aと、銀翼は同じ結論へと行きついた。
鬼夜叉と、ライジンの準決勝での戦闘。
その激闘の果てに見せた、最後の決着からして、導き出される答えから推察するに。
「「間違いなく――――ライジンは【灼天】を
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