#108 閃光は燃え盛る


(最初から、こいつと戦うとなった以上出し惜しみなんてする気は無いさ)


 ライジンは荒野を駆け、着々と自分のスキルの発動条件を満たす為奔走する。


(正直俺が一番本選でやり合いたくなかったのは身内を除いて鬼夜叉だけだからな…!こいつのプレイスタイルと俺のプレイスタイルの


 鬼夜叉が装備している巨大な斧に双剣を叩き付けると、すぐさま【空中床作成】で後退した。


「【獅子の咆哮ビースト・ハウル】!!」


 一拍遅れて鬼夜叉が吠えると、周囲の地面を抉りながらオーラが迸った。

 それを見たライジンは舌打ちすると、片方の腕で口元を拭う仕草をする。


(俺が手数とスピードで攻撃を躱すか、ちまちま攻撃を与えてバフを積んでいくのに対して鬼夜叉はプレイヤースキル一辺倒な超脳筋……!俺の機動力にも平気で付いてくるし、俺にバフを与えない為に攻撃は殆ど大振りだからバフを積む事が出来ない……!)


 鬼夜叉の強さを語る上で恐るべきはその動体視力だ。対策を立てるべく予選の映像を再生した際に見た、村人Aが放った跳弾込みの【彗星の一矢】を正面から叩き折る程の動体視力と反射速度は流石のライジンも驚きを隠せなかった。

 もし自分が同じ立場だった場合、的確に処理出来たかどうかと言うと…かなり難易度は高いと思われる。

 だが、それは村人Aの変態技術と鬼精度を知っているからこそ可能であるという前提であっての事。

 それほどまでに鬼夜叉というプレイヤーの腕は高く評価している。

 だからこそ、切るべき手札を見誤るわけには行かない。


(追い詰められたら奥の手を切るしかないけど……出来れば村人までとっておきたいよな……)


 出し惜しみをするつもりは無いが、ライジンが持つ奥の手は少々特殊であり、扱いに困るスキルなのだ。ここで晒してしまえばあの村人の事だ、決勝までの間に対策を練ってくるに違い無い。


「……どうした?手が止まってるぞ?」


 鬼夜叉はメインウェポンに装備していた武器をインベントリ内に仕舞うと、自身の身体よりも小ぶりな斧を二本取り出し、大きく振りかぶった後に投擲。弧を描きながらライジンに迫り来る。


(迷ってる場合じゃないよな)


 投擲された二本の内一本を回避し、もう一本を無防備で受け止める……ように見えたが、と斧がライジンの身体を滑っていく。

 その様子に鬼夜叉も少し眉を顰めると、ぽつりと呟いた。


か」


「ご名答、こんな大振りの攻撃じゃあ俺に攻撃は当てらんねえよ」


 ライジンの身体を滑った斧は、地面に深く突き刺さった。両手から武器が離れたのを見たライジンはそのまま駆け出して鬼夜叉との距離を一気に詰めていく。


「なるほど、面白い」


 迫り来るライジンに対し、鬼夜叉は両腕を構える。そしてライジンが踏み込み、加速して襲い掛かった。刻み込むように双剣で切り込み掛かるが、寸前の所で刀身部分を掴み取られる。

 鬼夜叉の掌から舞う赤いポリゴン。だが、力を込めれど刃はその先から進まない。


「……くそ、堅いな!」


「【ダメージ・カウンター】!」


 そのまま肉の壁から先に進めないと悟ったライジンが双剣を手放し、鬼夜叉の身体を蹴って後ろに引くと同時に、双剣を掴み取った両手から衝撃波が発生した。

 間一髪の所で反撃を免れたライジンは、フックショットを用いて再び後方へと引いていく。


「【爆発するエクスプロ・投擲斧トマホーク】!」


「ッ!?」


 後ろに引いたライジンを見て、鬼夜叉も追い打ちとばかりにスキルを発動させるとライジンの付近の地面に刺さっていた斧が赤く輝き、大爆発を起こした。

 巻きあがる爆炎と爆風。その中心地に居たライジンは煙に巻かれ、その身体が吹き飛ぶ。


「んにゃろォ……!!」


 地面を滑り、両腕を前に構えて防御姿勢を取る事でダメージを軽減したが、それなりのダメージを負ってしまった。

 黄色いフィールドは淡く消えていき、身に纏う緑色のエフェクトも薄まっていく。


(武器を投げたっつー事は何かしら策はあるとは踏んでいたがまさか破壊覚悟のスキルとはな……!おかげで足元すくわれちまった)


 【クリティカルゾーン】と【疾風回避】のバフが被弾したことにより消失してしまい、ライジンは自身の置かれた状況を顧みて顔を顰める。


(もう一度バフを積みなおすか?奴と単純な力比べでバフ無し状態で拮抗することは出来ねえ、不意を突いてダメージを負わそうにも限度がある……!)


 鬼夜叉の自動回復リジェネのパッシブスキルは恐らくスキル生成システムで作成したスキルだろう。普通のスキルにしては回復速度もかなり早く、削り切るのは相当困難だ。


、ここで……?いや、まだだ。まずは【電光石火】まで持っていく、話はそれからだ)


 後の戦いを想定した逡巡。その一瞬の隙を見逃さずに鬼夜叉は再び二本の斧を取り出して投擲する。


「【加速アクセラレイト】!」


 思考を振り切ったライジンはスキルを発動、先ほどまで疾風回避で上げていたAGIとほぼ同数値までAGIを上げると、そのまま斧に向かって猛進する。


「【爆発するエクスプロ・投擲斧トマホーク】!」


「それぐらい読んでるぜ!」


 斧が横切る寸前に爆破してこようとした鬼夜叉。その行動を予測したライジンは、作成した床を蹴り、地面に向かって急降下する。爆発をすんでの所で回避すると、【疾風回避】の効果が発動し、その身体が大きく緑色に染まっていく。

 そして深く息を吸い込むと、ライジンの身体から放電が始まった。


「【電光石火】!」


 バリィ!と音を立ててライジンは身に纏う雷で青白く染まり、地面に降り立った瞬間に踏み込み、加速する。


「【獅子の咆哮ビースト・ハウル】!」


 正面から迫り来るライジンに攻撃を与えんと鬼夜叉は吠える。

 だが、それよりも早く雷は地面を駆けていき、鬼夜叉の背後に回るとその加速した勢いのまま強烈な足払いを繰り出した。


「ぬぅ!?」


 スキル発動硬直が発生し、踏ん張りが効かずそのまま空中に浮いた鬼夜叉。そこをすかさずライジンが跳躍し、両の掌を開いて鬼夜叉の腹部に押し当てた。


「【疾風迅雷】!!!」


 ライジンの身体に纏っている電撃が迸り、鬼夜叉の身体に凄まじい勢いで電撃が流れ込む。そして一拍遅れて強烈な突風が発生し、鬼夜叉の身体を下方向へと吹き飛ばした。


 ライジンの【疾風迅雷】の直撃を受けた鬼夜叉は地面に叩き付けられ、クレーターを形作る。

 スキルを放ったライジンは、地上に降り立つと荒く息を吐きだした。


「これで、どうだ……!?」


 【疾風迅雷】の発動代償で【電光石火】を含めたバフが切れ、肩で息をしながらライジンがそう呟く。

 そのまま静寂が訪れ、倒しきれていなかったとしても今の一撃がかなりのダメージを叩き出した事を確信する。


「ふふふ……!流石ライジン、そうでなくってはな」


 だが、煙が晴れて行くと、傷付いてはいるがまだまだ倒れる素振りを見せない鬼夜叉の姿があった。【麻痺】の状態異常が発現したおかげで身体を少し痙攣させては居るものの、むしろ先ほどよりも威圧感を増しているように感じる。

 再び鬼夜叉は巨大な斧をインベントリから取り出すと、大きく凪いでから地面に叩き付ける。


「【災禍転覆】!状態異常は私の糧となる……!」


 次の瞬間、鬼夜叉の痙攣が引いていき、代わりに徐々に赤いエフェクトを身に纏い始めた。

 恐らくスキル名からして、状態異常をバフに変換するスキルなのだろう。非常な強力なスキルを所持している事を知り、思わずぼやきたくなる。


(【疾風迅雷】でも駄目か……!想像以上にタフな野郎だな!……こうなったら使うしかねえ)


 ライジンは双剣を構えて鬼夜叉を睨みつけると、鬼夜叉は口元を綻ばせる。


「来い、貴様の全力をねじ伏せよう」


「そうか、後悔するんじゃねえぞ」


 ライジンはそのまま高く跳躍し、煌々と戦場を照らし続ける太陽を背景に、奥の手と称していたスキルを発動させた。


「《ソラを灼け》」


 極めて短い短文詠唱。だが、そのスキルを発動させると、劇的な変化が起こった。

 ライジンの身体が太陽光を吸収すると、急速に全身が発熱し、猛火をその身に宿す。


「【灼天しゃくてん】!」


 その身を焦がす程の灼熱を纏って、ライジンは鬼夜叉へと襲い掛かった。

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