#107 閃光は激突する


『さあやって参りました!1st TRV WAR、Aブロックの激戦に引き続き、Bブロック決勝!!まずはBブロックの決勝まで勝ち上がった猛者の紹介から入りましょう!!』


 荒野に佇む影が二つ。一つは双剣を装備し、動きやすくするために軽装にしている男。そしてもう一つは等身大にも及ぶ巨大な斧を装備した偉丈夫。

 互いに静かににらみ合い、始まりの合図を待ち続けている。


『まずは【お気楽隊】副クランマスター、『鬼夜叉』選手!その巨躯から繰り出される豪快な一撃で、本選出場プレイヤーを悉くねじ伏せてきた猛者です!!スピードで翻弄する相手もねじ伏せて見せたその剛腕で、見事戦場を駆ける稲妻を刈り取る事が出来るのでしょうか!?』


『そしてライジン選手!これまでの試合をほぼ無傷で完封してきたその実力は言わずもがな、今回の優勝候補の一角となっています!!その圧倒的なスピードと手数で鬼夜叉選手相手に立ち回る事が出来るのでしょうか!?』


 沸き立つギャラリーに目もくれず、両者ともに真剣な表情で、睨み殺さんばかりに互いを見つめ合う。


「……久しぶりだな」


「……ああ」


 短く会話を交わすが、それ以上の会話はない。ただひたすらに試合開始までに集中力を研ぎ澄まし続けているのだ。


『それではオッズの詳細に入ります!!』


 表示されたオッズは、両者とも均一で2:2。これまで対戦相手とのオッズがかけ離れていたライジンだったが、それと同等なレベルで鬼夜叉というプレイヤーが注目されているのが伺える。


『果たして決勝に進み、Aブロック覇者の『村人A』選手と激突するのはどちらのプレイヤーになるのでしょうか!?』


 アナウンスの実況に、ライジンは目を閉じると、腰に下げている鞘から双剣を抜剣した。

 そして、ゆっくり目を開き、片方の剣の切っ先を鬼夜叉に向け。


「悪いな鬼夜叉。俺はお前を倒して村人と対戦しなければならない。それがあいつと決めた約束だから」


「……そうか。なら、超えてみろ!」


『1st TRV WAR Bブロック決勝、【ライジン】選手VS【鬼夜叉】選手、開始です!』


 鳴り響く開始の合図と同時に、鬼夜叉が大きく斧を振り被り、地面に叩きつけた。


「【崩落斧撃クラッシュ・グレイブ】!!!」


 鬼夜叉が叩き付けた場所から、地面が瓦解し急速にライジンに襲い掛かる。

 それを見てすぐにライジンは跳躍し、隆起した瓦礫の一つにフックショットを引っ掛けると一気に鬼夜叉との距離を詰めた。


「鬼夜叉ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 ライジンの手に持つ双剣が青く煌めく。【レッサーアクアドラゴン】の素材を用いて作成された双剣を振るい、ライジンは高らかに開戦の咆哮を上げた。


「……ふんッ!!」


 フックショットを使い、加速した勢いのまま【空中床作成】で空中で挙動を変え、見えない床を踏み抜き迫り来るライジン。

 それに対し、鬼夜叉は斧を再び地面から持ち上げ、大気を裂くように大きく斧を振るった。

 

「【斬撃波】ァ!!」「……【斬撃波】!!」


 両者同時に空中に斬撃を飛ばすスキルを放ち、斬撃が空中でぶつかり合う。

 凄まじい衝撃波を浴びながらも、ライジンは再び見えない床を蹴った。


「うぉおおおおおおおおおお!!!!」


「……ぬぅ!?」


 鋭く、巨大な斧に穿つように双剣を振るうと金属音が高く鳴り響く。

 裂帛の気合を込めて吠えるライジンはそのまま鬼夜叉を大きく仰け反らせた。


「【クリティカルゾーン】!!」


 ライジンを中心に、黄色のエフェクトを伴ったフィールドが展開される。

 一度地面に降り立ったライジンは強く、抉り込むように地面を蹴り、更に加速すると双剣を構えた。


「【ライトニングスラッシュ】!!」


 ライジンの双剣が雷を纏うと、空中に青いラインを描きながら鬼夜叉へと切り掛かる。

 大きく仰け反らせたまま、まだ体勢を戻し切れていない鬼夜叉にライジンの一撃が刺さる。


「ぐぅッ!?」


 一瞬の硬直。【ライトニングスラッシュ】の効果で一瞬の麻痺を与えられた鬼夜叉は、再び迫り来る刃に対し、視線を向ける事しか出来ない。

 続けて交差するように双剣を刻み込む。確かな手応えを感じ、一瞬笑みを作るが、すぐに嫌な予感がしたライジンは後方へと跳躍し一旦距離を置いた。


「……ふんッ!!」


 そしてそれとほぼ同時に鬼夜叉の身体からオーラのような物が放出され、瓦礫を吹き飛ばした。

 ライジンが地面に降り立つと、鬼夜叉は薄っすらと笑みを浮かべる。


「……見事だ」


 鬼夜叉の口から出た言葉は、ライジンの一連の行動を褒め称える言葉。

 だが、その笑みはすぐに口元がへの字に引き結ばれて消える。


「……見事だが。そんな攻撃では私は落とせない」


 HPポーションを使わずして、先ほど与えたダメージが癒えていく。恐らく自動回復系のパッシブスキルだろうとライジンは推測するが、すぐに深追いはしない。

 今この間合いを埋めた所で、手痛い反撃が来るだろうという確信があった。


「私の首を取りに来るというのなら手の内を隠すなどという事をせず、全力で取りに来るのだな」


「……ああ、もちろんだ」


 ライジンは短く吐息を吐き、すぐに次の攻撃のラインを模索する。

 その両の刃を、喉元に届かせる為に。





 稲妻が荒野を駆け抜けていく。

 次第に閃光は更に眩くなっていき、目を細めながらその戦いを眺めていた。

 一瞬たりとも気が抜けない。その戦いから目を逸らしたらいつの間にか試合が終わって居そうな予感がして目が離せないのだ。


(凄えな……!)


 それほどまでに惹き付ける感覚がこの戦いにはあった。隣に座ってこの試合を観戦しているポンも思わず固唾を呑んでこの試合の行く末を見守っている。


(ライジンは機動力の高さが売りだが、その分が劣る。恐らく鬼夜叉氏はがっつり前衛に出るタイプのジョブだから、敵の攻撃に耐えられるようにある程度の耐久力はあるはずだ)


 一連の流れを見ながら、少しずつ考察する。


(その分火力を出すためには、いかに被弾せずに自分の攻撃を相手に届かせることが出来るかで火力が変わってくる。それは鬼夜叉氏も知っているだろうし、隙があればスキルの効果を解こうとしてくるはずだ)


 ライジンが直感でかわしたであろう、鬼夜叉氏が放ったオーラ放出攻撃。先ほどは直感でたまたまかわせただろうが、次はそう上手く行くか分からない。


(見せてもらうぜライジン。お前の本気を)


 どちらが勝ち上がってもおかしくない。両者の動きを隈なく観察しながら、この後に控える決勝の大舞台に勝ち上がってくる、この試合の勝者との戦いに心を躍らせるのだった。

 

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