#106 脈打つ憤怒


「お疲れ様」


「おう」


 観客席に戻った俺は、ライジン達が座っていた所へと戻るとライジンが笑顔を向ける。

 それに対して掌を上げて応じると、ポンが近寄ってくる。


「本当にお疲れ様でした……!凄かったです、よくあの攻撃を見切れましたね?」


「スキルの力を借りてギリギリだけどな。あのスキルは初見で回避出来ないレベルだった。俺が【彗星の一矢】を使って仕留めようとした時に身体のど真ん中に命中してたら確実に負けてた。…ある意味ラッキーだったよ」


 最も、彼女は精神的にぐらついていて命中精度が落ちていたから救われたのだろうが、なんにせよ精神攻撃の前にあのスキルを繰り出されていたらヤバかった。

 もし決勝に進出するならあのスキルは隠しておきたかっただろうし、あの局面になるまでは使うつもりなど無かったのだろうが。


「とはいえ勝利は勝利ですから。決勝進出おめでとうございます!これで…後はライジンさんが勝ち上がるだけですね」


 そう言ってポンがライジンの方を見ると、ライジンはゆっくりと目を閉じた。


「ああ。……本当にここまで勝ち上がったんだな。流石、と言うべきか」


「おっなんか強者っぽい台詞だな」


「正直どの試合も辛勝と言うべき試合ばかりだったけど……でも、窮地を機転で乗り切ったり、ここぞという所の胆力はやっぱり流石だなって認識させられたよ」


 茶化してみるもスルーされ、ライジンはそう告げると、静かに目を開く。


「お陰で火が点いたよ。……お前と戦う時は最初から全力でぶつかるつもりだ。お前の今までの経験を、培ってきた技術を、計算に計算を重ねた謀略の限りを尽くして俺に挑んで来い」


「まるでもう決勝に進出するのが決まったみたいに物を言うな?次にお前が対戦する鬼夜叉氏はかなりの強敵だと思うぞ?」


 予選で実力の一端を見てしまったから言える事だが、【彗星の一矢】の跳弾を見てその上で正面から叩き折る程の実力者だ。いくらライジンが早いと言えど、その上からねじ伏せられる可能性は非常に高い。

 だが、ライジンは至って冷静なまま静かに笑う。


「『お気楽隊』のNo2の実力者だからね。別ゲーでも何度もやり合ってる。一筋縄に行かないことぐらい、知ってるさ」


『続いてBブロック決勝の試合を開始します!参加される両プレイヤーは準備を開始してください!』


 アナウンスが入り、ライジンは立ち上がると、真剣な顔つきでゆっくりと歩いていく。


「よく見てろよ村人。お前が戦おうとしている、相手の姿を」






 ――――同時刻。とある場所にて。



「かーっ!疲れたー!流石エリアボス、時間かかっちまうな!!」


「お疲れ様。ナイス援護だったぜ、おかげで助かった」


「こっちこそ。急造パーティだったのにいい連携取れて楽しかったよ」


 サーデストから出て次の街へと進む上で必ず通らないといけない、三つに派生するルートの内の一つであるエリア、【龍脈の霊峰】。エリアボス討伐後の峡谷になっているそのエリアを歩いていくパーティがあった。


「んで、この先にあるのがって事ね……」


「最近掲示板やらなんやらで賑わってるからなぁ、かなり広まってるけど未だに突破する方法が分からないって噂だね」


 杖を持っている魔法使いの女性はため息交じりにそう言うと、大盾を装備したプレイヤーが朗らかに笑う。


「まあ、クライミングとか要求されるわけじゃないだろうし、時間経過によるイベント進行だと思うんだよなぁ」


「確かに露骨に通さないために配置されている巨大オブジェクトって話だしね。こちらからいくらアクション起こしても壁は微動だにしないらしいし、アプデ待ちって感じか」


「まあなんにせよ見てみないとどんな感じか分からんよなぁ、もしかしてある程度の人数がエリアボス突破すると解放とかだったりして」


「流石にそれはないだろ……と思ったけどあり得るなそれ」


 楽し気に会話をするパーティは、そのまま進んでいくと一つの大きなされた施設を発見して歓声を上げた。

 プレイヤー達の視線の先には、未だ先が見えない程真っすぐに続いている峡谷に沿うように、壁際に巨大な町が広がっていた。


「おおっ、これが第四の町【フォートレス】!!」


「すげえ、攻略サイトで書いてあった情報だけだと想像できないほど巨大な町だな、流石にサーデストには遠く及ばないけど」


「おいそれとサーデストに匹敵する広さの町は無いと思いますけど……。サーバー負担も凄いだろうし」


 あきれ顔で魔法使いの女性が呟くと、盗賊の少年は町を見回して一言。


「やっぱり話に聞いてた通り、


 盗賊の少年が言うように、【フォートレス】と名のついたこの大きな峡谷に沿うように作られた町には住民が一人もいなかった。それは既に出回っている情報であり、あらかじめ知っていたので驚きこそ薄いけれど……この場に居るメンバーは違和感を覚えずにはいられなかった。


「どういう意図で配置されたんだろうな、この町?」


「もしかしたらプレイヤー達が自由に町を作っていいよって事で配置された町なのかなって話もあるけど……」


「それ以上に名前が明らかに怪しいんだよね……第四の町、【フォートレス】…。単純なナンバリングだけでつけられた名前じゃない、【フォートレス】っていうダブルミーニングの可能性も高い」


 盗賊の少年が町に数多く設置されているや、移動式のを見ながらそう呟く。


「まるでここでために配置されている町のような……」


「住民がいないのも、そのを迎撃できずに死んでしまったか、それとも逃亡したか……って話か」


 大盾を装備したプレイヤーが感慨深げに頷くと、盗賊の少年もそれに応じて頷き返す。


「そしてこの先にあると言われている、……。この町と何かしら関係性があるに違いない」


 少年が呟いた、その瞬間だった。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 激しい地鳴りと、鼓膜を破りかねないほどの爆音が鳴り響いた。

 まるでこの世の終焉を告げる化け物が出現したような、凄まじい音量の咆哮に峡谷の町は大きく揺れる。地面に手を付いてその場に居るのがやっとの状態にまで揺れ、その場に居合わせたパーティは混乱に陥った。


「きゃああああああああ!?」


「なんだ!?突発イベント発生か!?」


「こんな咆哮だけで立つのも厳しい程地面が揺れ動く化け物なんて太刀打ちできませんよ…!!!」


 盗賊の少年はそう言うと、すぐに録画を開始する。たまたまこの場に居合わせたのは自分たちだけだ。少しでも、情報を持って帰る事が出来るように少年は行動したのだ。


「見て、壁が……!!」


 魔法使いの女性が驚きの声を上げるのを聞いて、その場に居るメンバーが壁の方を見ると、赤い線が幾重にも広がって【フォートレス】の先にあるであろう巨壁に向かって伸びていくのを視認した。


「なんだ、アレ……!?」


「これ以上この場にいるのはまずいかもな……!デスペナも貰いたかねえし、いったんここは退こう!!」





『――――私を呼ぶ声がする』



 地下深くに眠る、巨大な何か。その何かは閉じていた眼をゆっくりと開き、を行う。

 途端、地鳴りが辺りに轟き、地上を大きく揺るがしていく。



『まだ、まだ足りない。再び地上で活動するにはエネルギーが圧倒的に足らない』



 呼吸を行う事で地脈を伝って龍脈の霊峰に存在する豊富なマナがその巨大な体躯に流れ込んでいく。マナが流れ込む事で少しずつ全身が活性化していくのを感じながら、何かはその眼に狂おしい程の憤怒を宿した。



『奴らは、超えてはいけない領域まで踏み入った。必ず、この身で滅ぼして見せる』



 何かは再び呼吸を行う。マナを補充し、来るべきその時の為に。



『愚かな人間に、を』



 ――――目覚めの時は近い。


 

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