#104 1st TRV WAR 本戦 RosaliaVS村人A その四


 麻痺の初期症状発生から二十秒が経過した。Rosalia氏は依然として動かず。レイピアを深く構えたまま、俺が完全に麻痺状態に陥るのを静かに待機している。

 だが、既に口内の解毒薬の効果によって、俺の麻痺状態は解除された。後はどのタイミングで動き出すかの話だが。

 このまま意識を向けられ続けている状態じゃあ、立ち回りにくいよな。


 仕方ねえ、言葉での揺さぶりをかけるか。


「Rosalia氏、騎士道というのは正々堂々だよな?麻痺でトドメってのはあんまりじゃね?」


「む?まあ、確かにそうだな。……ん?なぜ、喋って」


「隙ありだぜRosalia氏ィ!!」


 俺の言葉に反応したおかげで生まれた一瞬の隙。その隙に勢いよく身体を跳ね上がらせ、【空中床作成】で一気に地上から上空へと駆け上がる。

 それに一拍遅れてRosalia氏が目を見開きノーモーション加速からの刺突を繰り出すが、間一髪の所で回避する事に成功した。


「口内に解毒薬を仕込んでいたか……!!」


「生憎、俺は学習するタチなんでね、厨二との戦いであいつから学んだ事を早速活かさせてもらったぜ!」


「厨二……君が一つ前の試合で戦っていた彼か。……彼と言い、君と言い、面白い戦いをするなぁ本当に。ふふ、この大会に参加した甲斐があったというものだ!」


 空中床の二枚目を踏んで跳躍すると、そのまま足場はガラス破片のように飛び散って消滅していく。視線を落下地点に向けると、Rosalia氏が先回りしているのが見て取れた。それを見てウインドウを即座に操作し、メインウェポンを木の弓に切り替える。


「【バックショット】ォ!」


「むっ」


 地面に向かって矢を跳弾させると、矢はまっすぐ俺に飛来し、そのまま角度を変えて俺の身体を弾き飛ばす。そしてすぐさま次の矢を装填、発射。再び吹き飛び、俺の身体は屋根の上を転がった。

 追い打ちを掛けられない内に立ち上がると、挑発するように人差し指を動かす。


「さぁさ鬼ごっこの再開だぜRosalia氏、俺を捕まえられるもんなら捕まえてみろ!」


「……次に君が捕まるときは君の最後だ、覚悟しておくんだな」


 Rosalia氏の目から余裕が消えた。余裕そうな態度も作戦の内とこっちに知られた事に気付いたからだろう。

 そうだ、それでいい。舐めプしている相手に勝った所でなんの達成感もないからな。


「【疾風の加護】!」


「【集中コンセントレーション】!!」


 互いのネタが割れた今、ここからが本当の勝負だ。

 武器を切り替えてコンバットナイフに持ち換えると、そのまま屋根の上を駆けだした。





「た、助かった……」


 立ち上がり、食い入るように試合を眺めていたポンはへなへなと力が抜けたように地面にへたり込んだ。そして、安堵のため息を一つ吐くと、柔らかい笑みを浮かべる。


「やっぱり流石だなぁ、村人君。厨二さんの戦闘でやられた事を自分に活かすなんて」


「あの短時間で仕込んでたのか……。丸薬の存在は知ってなかったみたいだから解毒ポーションの液体を袋かなんかに包んで口内に仕込んでたのか。……器用なこって」


「あはは……。確かに便利そうですね。勉強になります」


 ゆっくりと立ち上がり、席に着いたポンは試合を眺めながら。


「村人君は凄いです。どんな時だって勝つために全力で。私なら諦めてしまうような状況でも、その場ですぐ作戦を組み立てて行動に移す事が出来て」


 膝に上に手を置くと、ギュッと拳を握るポン。


「……私も負けてられないな。彼に置いていかれないように、もっと強くならないと」


「そういえばポン、Aims復帰するんだってね。村人が嬉しそうに言ってたぞ」


「……はい。彼の隣で戦っていても恥ずかしくならないように、これまで以上に努力します」


 そう言って決意を新たにしたポンのやる気に満ち溢れた表情を、表情を緩めたライジンはどこまでも優しい瞳で見つめるのだった。





 飛んで、避けて、ナイフでパリィして。迫り来るレイピアに打ち据えて弾き飛ばし、分身を足蹴にして刃を突き立てる。


 逃走の最中も、分身の攻撃の嵐は止まない。だが、足を止める事無く、俺はに向けて逃走を続ける。


 そして、そのまま逃げ続けると、見覚えのある場所へと到達した。

 そこに到達した途端、彼女は足を止め、周りを見回す。


「ここは――――」


「覚えているか?俺と串焼き先輩があんたと初遭遇した時の場所だぜ」


 予選で、一時間経過の通知が来て間もなく。

 すぐさま呼び止められ、Rosalia氏と戦闘を開始したあの場所に来たのだ。


「ふん、最後の戦いはここで、という事か?」


「それもあるが……もう一つ、ある事を試したくてな」


「ある事?」


 さて、この場所に来た理由は、より、ため。

 首を傾げたRosalia氏に向け、俺は大きく息を吸うと。


「威厳あるもん!!!誇り高き騎士なんだもん!!!」


「ッ!?」


 俺が突然大声を上げると、彼女は盛大に顔をひきつらせた。それと同時に分身の輪郭が大きく揺らぎ始める。


(やはり、分身の消える条件は間違っていなかった)


 精神が不安定になる事による分身の不安定化。このまま精神攻撃を続ける事で、彼女の分身はそのまま消えてなくなる可能性が高い。

 ならば、このまま攻撃を続けるのが最適解ですねぇ!!ん?他意はないですけど?


「や、やめ……」


「ポンコツじゃないもん!!!」


「ひぅっ!?」


 俺の追い打ち精神攻撃に、顔を真っ赤にして縮こまるRosalia氏。ふふふ、良いぞ、そのままもっと羞恥心を感じるが良い!!

 トドメにもう一丁ォ!!!


「わ た し ま け て な い も ん !!!!」


「うわああああもうやめろお!!!私の嫌な記憶を呼び起こすな、黒歴史に触れるなぁあああああああああああ!!!!!」


 予選も大衆に観戦されている状況下だったが、この試合は大会を観戦している全プレイヤーに見られている状況下での羞恥攻撃。彼女の精神的負担は計り知れない物だろう。


 え?鬼畜?うるせえ、隙を見せるのが悪いんだよ!戦いとは常に非情で無ければならないのだ。使える手は何でも使う、それが俺のモットーだからな!!!

 ……別に楽しいからだからとかじゃないよ?ほんとだよ?


 そして分身は先ほどの煽りで完全に消え去る事に成功した。これで正真正銘1on1。しかもこの羞恥攻撃で彼女は完全無防備!!トドメの一撃行かせてもらうぜ!!


「うう、もうお嫁にいけない……」


「【彗星の一矢】ァ!!」


 すかさず俺はディアライズに切り替え、ぽんこつ美人にトドメを刺すべく弓を構える。

 外道と呼ばれても別に良い、煽りはFPSの挨拶ですから!!!


 だが、俺の想像よりも早くRosalia氏は復帰し、俺のスキル発動を見てすぐさま立ち上がりレイピアを構える。

 だが今更攻撃しようとしても俺の射撃の方が早い!!詰みだぜRosalia氏!!



「《我が身に顕現せよ》」



 ぽつりと、短く発せられた端的なワード。それだけで、何かが変わった。すっかり弛緩していた空気が威圧感に呑まれるような、そんな錯覚。

 そして、次の瞬間。


 

「【神速の刺突ヴァル・レ・トラスト】!!」



(見えな――――ッ!?)


 まるで、その一撃はかの戦機の不可視の一撃を模したかのような。


 踏み込みからの加速が視界に映らないほどの超急加速、ポンの【限界リミット・拡張出力エクステンド】と大差ない程の凄まじい速度で、俺の腕を一本持っていった。


 煽り立てて、彼女の分身が生成不可能なまでに精神を揺るがそうとも。

 誇り高き騎士に憧れた彼女の瞳は、この戦いの勝利というただ一点を見据えている。


「私はRosalia。誇り高きヴァルキュリアの高潔なる姿をその身に宿さんとする者」


 レイピアを振り、赤いポリゴンを払う仕草をすると、身体を震わせながらこちらに切っ先を向ける。


「村人A!!正義の名の元に断罪しゃれよぉぉおおお!!!!」


「それはもう正義っつーか体のいい暴力許可装置なんだよなぁ……!!」


 依然として羞恥心は抜けきっておらず、顔を真っ赤に染め、決め台詞も盛大に噛んで台無しだが。

 彼女は目はまだ、勝負を諦めていない。


「君だけは絶対に許さん、覚悟しろ!!!地の果てまで追いかけまわして、後悔させてやるぅ!!!」


 いや違う、完全に羞恥心を煽った俺に対する殺意の現れだこれェ!?


 すぐにポーションを取り出して消し飛んだ腕に振りかけると、コンバットナイフを構えて次の攻撃に備える。


 

 予選でRosalia氏と激突したこの地で、最後の攻防が始まろうとしていた。


 

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