#102 1st TRV WAR 本戦 RosaliaVS村人A その二



 皆集まれー!!楽しい検証の時間だよ!!検証キメてトリップしていこうねぇ!(※検証は合法なので子供でも安心です)



 さーて何から検証していこうか(突然の真顔)。まず分身の解除に状態異常は意味が無いという事が判明してしまった今、これから分身解除に関して検証できる事は何通りかある。


 一つ目は分身スキルの時間切れ。これは一番試す価値が無い検証だな、予選でも知っていたが、この【ガーディアン・ナイツ】というスキルはどうやら再使用可能リキャストが早いようだ。それこそ、分身を何体か消した所で補充することが出来るぐらいには早い。時間切れを待っていた所で再びMPを補充して再度スキル発動で振り出しに戻される。よって却下。


 二つ目は分身スキルの共有について。分身スキルの状態異常は共有、という事を彼女は言及していた。つまり毒以外の状態異常、麻痺などの状態異常ならば本体もろとも状態異常を付与する事が可能ではないのか、という検証。……あれ、これもしかして麻痺矢撃ってたら終わっていたのでは?


 三つ目は予選で見た、分身スキルの解除方法が別にあるのではないのか、という事。恐らくは何かしらの刺激を与えてあげる事で操作が不可能になる?それとも操作がおぼつかなくなって分身が消えるのだろうか?何個か試してみる候補はある、一つずつ試していこう。


 取り敢えず一つ目は流れで検証出来たらやるとして、二つ目の検証からやっていくか。


 ある程度広い広場に出ると、すぐに振り返って分身の顔面に飛び蹴りをかまし、地面を転がってすぐに飛び起きがてら分身Bのレイピアを回避する。そこに差し込むように分身Cが突っ込んで来るのをコンバットナイフで弾き返して一歩引くってか忙しいな検証してる余裕がねえ!!


「ふふ、どうだ?私の分身は優秀だろう?」


「遠まわしに自画自賛していくスタイルは嫌いじゃないぜRosalia氏ィ……!!」


 かなりの距離走ってきたというのに息一つ切らさないRosalia氏を見て、一つ舌打ちを鳴らす。体力の消耗で分身が消えるのかどうかも同時に検証したかったのだが……この様子だと仮に消えたとしてもスタミナ面は優秀そうだから俺が先にバテるので本末転倒だ。

 再び切り込んでくる分身Cのレイピアをかいくぐると、お返しとばかりに分身Cにボディブローを叩き込む。


「くそ、弓に切り替える隙がねえ……」


「君の反射する弓矢ほど厄介なものは無いからね、封殺させてもらうよ」


 さいですか。


 まあいい、攻撃が届かないというのならば、その隙が無いなら作ればいい話だ!


 「【フラッシュアロー】!!」


「その矢は確か光が拡散するスキルだったな、【守護配置ガーディアン】!!」


「……まんま肉壁じゃねーか!!」


 光輝く矢を握りつぶすと、凄まじい光が周囲一帯を照らしつくす。目を閉じていても焼かれる程の光を浴びながら、俺はまたしても舌打ちする。


「シンプルだがこんなしょうもない防ぎ方されるとメンタル来るな……!」


「しょうもないとはなんだ、一番効率的に防ぐクレバーな考えと言ってくれたまえ」


 どや顔で誇っている彼女の顔面に蹴りを入れるべく飛び掛かるが彼女の分身に阻まれてしまう。

 鎧を足場に、駆け上がるように宙がえりするとバックステップで後方に下がっていく。


 攻撃するときはコンビネーションを組んで追い込み、守るときは一体となって本体を守り抜く。まるで統率の取れている騎士団の様だ。

 その完成されているスキルの扱い方を見て、俺は。


「流石社畜、部下の扱いも上手いようで!!」


「むっ、私は決してパワハラ上司じゃないぞ!!」


 俺の言葉に顔をしかめるRosalia氏。

 でもこれどこからどう見ても絶対王政なんだよなぁ……。本体の為に簡単に切り捨てられる分身が不憫でならねえ……。いやまあそれが正しい用途なんだけどさ。


「このままじゃ埒が明かねえ、どうにかして切り崩さないと……!」


 はぁ、と短く嘆息。そして素早くウインドウ操作をして、コンバットナイフから装備を弓に武器チェン……とと、間髪入れずに攻撃差し込んできやがる!


「隙は与えないと言ったろう、村人A!」


 内心冷や汗をかきながらナイフの鞘に手を触れる。確かにコンバットナイフを外せばレイピアを捌く手段が少なくなるし、単純にこちらの手数も減ってしまうのでここで弓を取り出すのはリスキーな手段ではある。それを彼女も分かっている上で、この間合いを保っているのだろう。

 分身の姿を見て、ホルダーに入っている矢を指でなぞると。


(毒の効果は既に切れている、なら今度は麻痺矢で検証してみるか)


 予選の状況を見て毒の状態異常が正解だと思い込んでいたが、それは誤りだった。だが、誤った情報で検証したからこそ、新しい情報を得られたのだ。


(状態異常は『共有』……!分身に与えられた状態異常は……!ならば、本体に影響が大きい状態異常を与えれば良い…!)


 Rosalia氏は恐らく口が堅いタイプの人間じゃないのだろう。少しかまをかければボロボロ情報が漏れ出るのかもしれない。

 思わず口元が緩めると、Rosalia氏は訝し気にこちらを見る。


「なぜ笑う?」


「いや、面白えなって……!俺みたいな対人厨は、対戦に喜びを感じる人種なんでなァ!!」


「そういうものなのか?なら、もっと激しい戦闘がお好みだろう、行くぞ!!」


 分身達が一斉に等間隔に並んでいくと、みな一様にレイピアを縦に構える。

 そして、本体らしき後方のRosalia氏が手を振りかざすと。


「【強襲配置アサルト】!!」


 Rosalia氏の掛け声に応じて、分身達はレイピアの切っ先をこちらへと向け、急加速しながら刺突を繰り出した。

 レイピアの攻撃をステップで避けながら、思考を巡らせる。


(予選でオート操作なら全員同時に動かすことが可能と言っていた。つまり、今は分身全て動員させているって事は複雑な動きが出来ない状態って事だ。単調な動きな分、攻撃の予想がしやすい!)


 右下上斜め左真横ォ!ハッハーッ!この程度の回避なんてエキゾチックウェポン『クレバスの残響』の銃弾の雨に比べたらお茶の子さいさい過ぎるぜェェ!!

 段々動いている内に身体が温まって調子が出始めてきた俺にRosalia氏は不敵な笑みを浮かべる。


「やるな、流石ここまで勝ち上がってきただけの事はある」


「そんな余裕ぶっているRosalia氏に弓使いの本当の戦い方を見せてやるよ」


 にやぁ、と笑みを浮かべて取り出すのは麻痺矢。それを見たRosalia氏は目を少し細めたが、それ以上の反応を示さずに分身に攻撃を辞めさせない。


「弓を持ってない状況でどうするつもりだ?」


「俺も初期の頃に弓矢が当たんねえって散々四苦八苦してなあ、その時に気付いたんだよ」


 俺が初めてモンスターに遭遇した時、つまりスライム狩りの時に気付いた事実。

 弓を構ての射撃が当たらず、俺が最終手段で取ったのは弓矢そのものを手に持ち、という苦肉の策を取ったのだが。


 ―――なぜ、使が上がった?


 そこに気付いた俺は、すぐに検証を行った。スキルレベルの上げ方は簡単、そのスキルを発動することで内部的な数値が加算されてスキルレベルの熟練度が上昇、一定値に達すればレベルが上がるという簡単なシステムだ。

 弓使いは職業スキルだから攻撃なら何でもいいのかと思いもしたが、弓矢を外しまくっているだけで、あそこまでスキルレベルが上がるわけがない。

 なら、弓矢で直殴りした時も、弓を使用したという判定が発生する?


 答えは、『半分正解、』だ。


 どうやらこのゲーム、面白い事に何の武器で攻撃したのかだけでなく、その職業に関係するアイテムにも職業依存のバフが発生するらしい。

 例えば狩人(弓使い)の場合、にすらバフが発生する。考えればそうだ、ポンの【花火師】だって、ボムの火力が上がるのだからなんら不思議ではない。

 つまり、極論弓を用いての射撃では無くても、ならばスキル練度の上昇と、単純な火力に繋がる。


 まったく、笑えるよなあ。職業武器適性じゃないコンバットナイフで下手に斬りかかるよりも、弓矢で直殴りした方が火力が出るなんてなぁ!

 片手にコンバットナイフ、片手に麻痺矢、これが俺の今出せる最強の組み合わせだぁ!(錯乱)


「これぞ弓使いの真髄ィ!弓矢で直殴りこの手に限るだァ!!」


「その手は邪道すぎやしないか!?」


 馬鹿野郎、狩りってのはいつだって狩るか狩られるか!狩人が獲物を狩るのに手段は問わねえんだよ!


 俺の突然の謎ムーブに少し動きが鈍くなった分身の顔面にコンバットナイフを突き立てると、そのまま跳躍。その勢いのまま足でコンバットナイフをねじ込みがてら足場に使うと、分身が一体消失してナイフが地面を転がった。もう片方の手で掴んでいる麻痺矢を持ち直し、違う分身の頭部を足蹴にして再び跳躍、空中で一回転してから更に別の分身に矢を突き立てて着地する。


「君は本当に器用だな、本職は曲芸師か!?」


「残念ながらただのゲーマーだ、少しズレてる遊び方をしてる自負はあるけどな!」


 なーに、この程度の身のこなしAimsオフラインストーリーチャプター2-3、強制敗北イベントの地獄の強行軍を1時間耐久レースやってりゃ嫌でも身に付く。時間が経つごとに露骨に敵の数と武器の質上がるのなんなのマジで。最終的に全員エキゾチックウェポン持ってるとかオンライン民からしたら血涙ものだからな?

 それはそうと分身に麻痺矢を刺したおかげでこれで本体に状態異常の共有が行われた!先ほどから指示を出していた中央に位置する本体が膝をついたのを見て俺は高笑いすると。


「はっはー悪いなRosalia氏!決勝への切符は俺が頂くぜ!」


 装備をコンバットナイフからディアライズに切り替えて即座に本体に射撃。真っすぐ飛来していった矢は、麻痺で身動きが取れなくなっている本体の眉間を撃ちぬいた。

 ぐらり、と揺らぐ本体。そのまま顔面から地面に倒れ伏すとそのままポリゴンへと……。



「ふむ、悪くない。確かにそうだ、が一番本体だと思い込んでしまうのも無理はない」



 次の瞬間、何かが俺を貫く鈍い音が響く。その音と共に俺の身体から飛び散る赤いポリゴン。下を見下ろせば、自分の腹部から白いレイピアが



「誰が、、と言ったかな?」



 ――――認識が、甘かった。


 予選で見せたあの余裕染みた態度、あっさり自身のスキルの弱点を露呈する口の軽さ。そして精神面の幼さを見せる事による油断。

 全部、。Rosaliaというプレイヤーのを見誤っていた。



「私はこう見えても慎重に行動する派なんでね。君の性格から、確実に生まれる隙を利用させてもらったよ」



 。一歩間違えれば折角の分身が役に立たなくなってしまうような愚行、いや違う。木を隠すなら森と同じようなもんか。

 中央に位置し、指揮命令を出している個体が本体であると錯覚させ、その本体が状態異常になったと思わせた瞬間の隙を抉り取られた。



 間違いない。こいつ、実は相当頭が。攻略最前線クランのトップの称号は伊達じゃねえ、俺の相手の隙にすぐ食らいつく性格を、あっさり利用されちまった。


「さあここからどう立て直す村人A?刻一刻と、君の敗北は近づいているぞ?」


 腹部貫通によって急速にHPバーが減っていく。冷や汗を流しながら、俺はこの状況からの打開策を考えるために思考を回し続けるのだった。





────

【補足】


【クレバスの残響】

弾丸一つの消費で、銃弾が五発射出されるAR。これに跳弾マガジンを付けると大変な事になる。トリガーハッピーになりたい人にとっては垂涎モノのエキゾチックウェポン。

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