#101 1st TRV WAR 本戦 RosaliaVS村人A その一


 Aブロック準決勝の開始待機中、待機室で対Rosalia氏の対策の最終確認を行う。


「Rosalia氏のスキルは分身を用いた圧倒的猛攻、そのスタイルは予選でも本選でも一貫している」


 ウインドウに【ガーディアン・ナイツ】と冠された分身スキルを用いているRosalia氏の映像が映し出される。そして、俺は巻き戻しを行いながら、何度も予選時の状況を確認する。

 多数の分身に翻弄される俺と串焼き先輩、そこに突然Rosalia氏が毒の状態異常に陥り、分身が掻き消えていった場面。分身が消えた直後の状況を見ながら。


「Rosalia氏のこのスキルは種も仕掛けも無い。自分の得意分野である、同時に多方面への思考が可能なマルチタスクっつーPSプレイヤースキルがあるからこそ成せる技だしな。シンプル極まりないが……だからこそ攻略が難しい」


 かくいう自分も跳弾する上で動きながら計算を普段からしているのでマルチタスクは得意分野ではあるが、もし自分を複数人同時に動かせと言われても到底真似出来るようには思えない。

 要領を覚えれば出来るかもしれないが、恐らく跳弾以上に脳を酷使しそうだから手を出したいとも思えないからなぁ……。


 マルチタスクの面もそうだが、Rosalia氏が統括しているクランである『黒薔薇騎士団』は攻略最前線と名高いらしく、最前線で戦い続けているメンバー達を統括するクラマスの実力は相当なものだろう。

 実力はライジン並と考えるのがベストか。それぐらいの気概でやらないと負けそうだしな。


「予選の時はどうやら厨二が助けてくれたから何とかなったが……状況から察するに、突破口は状態異常か?一度本体を見破っても分身が消える事は無かったからな」


 となると対Rosalia氏の最善策は、開幕状態異常付与からの先手必勝が考えられる戦略の中で一番堅い攻め方だろう。


 ウインドウを操作していると、操作している指が半透明になっている事に気付く。視線を上に向けると、巨大なモニターに今回の戦闘でピックされたマップである市街地が映し出されていた。幸運な事に、今回のマップは俺に分があるようだ。

 モニターを見ながら、俺は拳を強く握ると。


「ここで勝てば優勝に王手か。ライジンと当たるまで負けねえと言った以上、負けらんねえな」


 俺の試合が終わればライジンも鬼夜叉氏との激戦を繰り広げるだろう。正直どちらとも戦いたかったのでこの組み合わせは残念だが、ここで勝ち上がらなければ二人のどちらかと戦う事も出来ないのだ。


「さて、いこうか!」


 準決勝という大舞台。その確かな緊張感を覚えながら俺は最初の一歩を踏みしめると、その場から姿を消した。



 市街地、というよりもセレンティシアの街並みだなここ。予選の記憶が新しい。奇しくもRosalia氏との再戦の場が同じ場所って事か。たまたまだが中々粋な事してくれるじゃないか運営。


『ますますヒートアップしていく1st TRV WAR 本選、Aブロック決勝に勝ち上がった選手を紹介しましょう!!!』


 ああ、そうか。よく考えればこの試合、実際はAブロックでいう決勝なのか。


 その言葉に、俺のモチベーションは更に上がっていく。なんでこう大会の決勝って不思議と気分が高揚するのかね?プラシーボ。


『まずはAブロック決勝までの二試合を紙一重で切り抜けた猛者!!『村人A』選手!!!ここまでの彼の試合はやることなす事インパクトの塊!!!このゲームの特徴でもあるスキルを用いた特殊な立ち回りは圧巻の一言!!この試合も必ずや見せつけてくれることでしょう!!』


 実況がヒートアップしていくにつれて観客からの歓声がより一層大きくなる。


『続いてはクラン【黒薔薇騎士団】クランマスター、『Rosalia』選手!!予選では最速MVPを取得、本選のトーナメントでも着実に駒を進めている期待の選手です!!分身スキルを駆使した猛攻の前に最後まで立てた者は一人として居ません!!この圧倒的な猛攻に、村人A選手はどう対処していくのか!!』


 実況の声にRosalia氏が手を上げてファンサ的な事を行うと更に会場が沸き立つ。

 そんなRosalia氏を見ながら、俺は頭を回転させる。


 まず間違いなくRosalia氏は分身スキルから開幕ブッパするだろう。なら、こちらもすでに対策用の物を構えるべきだ。

 ウインドウを操作し、すぐに射撃用の弓を毒、麻痺毒が塗りたくられた矢に取り換えて備えておく。


『それではオッズの詳細に入ります!!』


 目の前のモニターに、2:2と綺麗に並んだ数値が出現される。これは…両方、同じぐらいの期待値という事か。俺の評価もじわじわ上がってきてるみたいだな。……そういえば串焼き先輩、さっきの試合で厨二全ブッパで破産したのかな、後で聞いておこう、そうしよう(ゲス)もしそうならいっぱい煽れるねぇ……?


 一人で頷いている俺を、真っすぐ見つめるRosalia氏はにこりと笑うと。


「君との試合、非常に楽しみにしているよ。勿論、ヴァルキュリアの情報を得る為にも私が勝つがな」


「ほざけ、情報を吐かせるのは俺の方だ。勝負だRosalia氏、全力でかかってこい」


 そう言うと矢を装填、すぐさま射出出来るように構えておく。


『1st TRV WAR 本選、Aブロック決勝!【村人A】選手VS【Rosalia】選手、開始です!』


 試合開始の銅鑼がけたたましく鳴ると同時に弓を構えると、青と白のエフェクトをまき散らしながら、Rosalia氏に向かって吠えた。


「【彗星の一矢】!!」


 先手必勝!!向こうが開幕ブッパしてくるのならこっちも開幕ブッパじゃい!!

 Rosalia氏はゆっくり手を振りかざすと、途端に横方向に六つの分身が出現する。


「【ガーディアン・ナイツ】!!」


 ……来た、最高に厄介な社畜スキル!!

 だが悪いなRosalia氏、先手は俺の勝ちだ!!


 俺の指元から矢が離れ、放たれる破壊の射撃。その射撃はRosalia氏に当たることなく、後方へと流れていく。


「どうした、村人A!!君の射撃の腕はそんなもんじゃないだろう!!」


「良く分かってるじゃねえか、その通りだぜRosalia氏ィ!!」


 きっと彼女も頭の片隅では、確実にこの射撃がものであると認識しているのだろう。

 射撃の硬直で固まった俺を見逃さず、Rosalia氏は一気に距離を詰めてくる。


「そりゃあスキル発動硬直は絶好の攻撃チャンスだもんなあ、詰めるよなぁ!!」


「むっ」


 敢えて発動硬直を甘んじて受け入れる事によって油断したRosalia氏の分身のうち三体が、【跳弾】にて跳ね返ってきた【彗星の一矢】によって粉砕した。

 予選で言っていた彼女の言葉、『全てが』という発言が正しければ…!!


「……『毒』か」


「はっはーこれで弱体化ァ!!グッバイ分身、こんにちはタイマン!!」


 じわり、と彼女の身体が紫色に染まっていく。どうやら俺の考察は当たっていたらしい。Rosalia氏はその自分の紫色に染まった手元を見ながら、一つ息を吐くと、自身の消えていないを動かした。


 ……待て、


「ちょっと待て、分身って状態異常で消えるもんじゃないのかよ!?」


「誰もそんな事言ってないぞ、ただ状態異常のが行われるってだけだ」


 Rosalia氏の発言に、俺は驚愕に目を見開きながら迫り来る残りの分身に目を向ける。



 マズイ、マズイ、マズイッ――――!!




「お、もう試合始まったんだね」


「あ、ライジンさん。第二試合お疲れ様でした!」


 場所は代わり観客席。一人村人Aの試合を観戦していたポンは、後ろから掛けられた声に表情を明るくする。

 その隣の席にライジンが座ると、またポンに笑顔を向ける。


「ありがとう。……村人と戦うためにもこんな所で負けるわけにはいかないさ」


「あはは、ライジンさん、村人君と同じような事言ってますね。彼も相当戦いたがってるみたいですよ?」


「まああいつの事だからきっと俺の土俵で俺を倒して煽り散らすとかそういうしょうもない理由だろうけど……だからこそ、負けられないよ。FPSでは散々ボコボコにされたからね。俺の土俵でも負けちまったら目も当てられないよ」


 ふっと半ば苦笑するように吐息を漏らすと、ライジンの視線は試合に向けられる。そして、あまり芳しくないであろう試合の状況に、ポンは眉を顰めて。


「ただ……今の彼の状況を見ると、少しマズイかもしれないです」


 ポンの視線の先には、逃走を続ける村人の姿。一度屠ったはずの分身の数は既に元通りとなっており、着々と追い詰められている。

 ライジンはその様子を見ながら、「うん」と呟く。


「……確かに、彼女は相当強いプレイヤーだ。別のゲームでも何度か対峙した事あるけどオキュラスとはまた違ったタイプの厄介なプレイヤーだね。あ、厄介っていうのは迷惑行為ではなくて普通に立ち回りが、って話ね」


 とはいえ、彼女のプレイスタイルは俺にとって相性良いから戦いやすいんだけどね、と漏らすと、ポンの表情に影が差している事に気付いた。


「どうしたんだ?ポン?」


 ほんの少しだけ唇を尖らせて、膝の上で指でぐるぐる円を描いているポンはぽつりと。


「いや……さっき、あの人が村人君と楽しそうに会話していたので……少しモヤモヤしてて……」


 そんなポンの言葉に、ライジンは目をしばたかせると盛大にため息を吐いて、頭を抑えた。


「惚気で胃がもたれそうなんだが……」


「あっ、いや、えっと、違うんですぅ!?」





「はは、畜生!!状態異常じゃねえのか突破口!!」


 俺は情けなく全力疾走しながら、セレンティシアの町並みを駆け抜けていく。その背後には白い鎧を纏った分身が、三体同時にこちらに向かって刺突を繰り出す。

 それを慌てて前のめりに飛び込むように前転して回避すると、Rosalia氏の方へと顔を向けた。


「っぶね、背後から奇襲たあ騎士道に反しますねえ!!」


「君がそれを言うか!?これはあくまで試合だ、集中したまえ!!」


 ちっ、なんちゃって騎士道の押し付けはダメか。レイピアの刺突を回避しながら、俺はRosalia氏と最初にエンカウントしたあの場所に向かって走っていく。


「逃げるだけじゃあ私は倒せんよ村人A!!」


「知っとるわい!」


 状態異常がダメだった?なら他にも検証する事項は山ほどある!!

 検証を行うならとことん突き詰める!!それこそ意図せぬバグすら検証の対象に入る検証厨の底力、舐めて貰っちゃ困るなぁ!!!


「これだからゲームはやめらんねぇなぁ!!」


「同感だ!!!」


 やけにテンションが高いRosalia氏に追いかけられながら、俺は【ガーディアン・ナイツ】の突破口を模索することにしたのだった。

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