#100 宣戦布告
「【電光石火】ねぇ……」
ライジンの試合が終了して間もなく、俺は先ほどまで録画していた視界の映像を切り取って【電光石火】というスキルを発動した時の状況を何度も再生する。
恐らくは、発動状況を見るからに【疾風回避】というスキルの効果でAGIの底上げを行い、そこから【電光石火】というスキルを発動させたのだろうが……。
「ギリギリ目では追えるけど現時点だと狙うのが難しいな……。通常の矢だとまず確実に追いつけないから最低でも【彗星の一矢】レベルのスピードが必要だと仮定して、果たして射撃の隙をライジンが与えてくれるかどうか……」
ぶつぶつ呟きながら、ライジンの映像が映し出されているウインドウを食い入るように眺める。
ライジンから情報を開示してくれたのは非常に助かるのだが、それは余裕の表れなのか、それともまだまだこれを上回る性能のスキルを所持しているという事なのだろうか……恐らく後者だろう。対策もまた考えないとな。
「まあ確定で奥の手はあるだろうと仮定して間違いないだろうな。問題はそのスキルがどんなスキルなのかという所だが……」
ライジンのジョブは双剣士という事を考えると、俺の【
と、対ライジンの考察を進めていると。
「ほう、対戦相手の研究か、勉強熱心な事だ」
「ん?」
後ろからのぞき込むように鎧に身を纏った女性が顔を見せる。
その顔を見て、俺は思わずうげ、と声を漏らしてから。
「誰かと思えばRosalia氏か」
「うげとはなんだうげとは。しかし、次の試合の相手は私だというのにその先を見据えているとは余裕じゃないか」
「いやそういうわけではないんだが……。……ああそうか、Rosalia氏も準決勝進出したんだったな。おめでとう」
「ありがとう。一、二試合目であれほどの激闘を繰り広げていた君との戦いが待ち遠しくて思わず来てしまったが、この調子だと少しライジンに妬けてしまうな」
少し不機嫌そうに口をへの字に変えて腕を組んだRosalia氏を見て、俺は吹き出してしまう。
「なぜ笑うんだ」
「いや、Rosalia氏ってなんか見た目っつーか雰囲気がお堅そうなイメージだけど割と物腰柔らかいよな」
「そうよ、うちの団長は見かけによらず精神年齢低いんですから」
「ちょっと待て、ルゥ!?そこは煽る場面じゃない!」
Rosalia氏の後方からひょっこり顔を出したルゥ氏がにやにやしながら口を出すと、Rosalia氏が顔を赤くして掴みかかる。
それをルゥ氏がどうどう、と言いながら押し返すと。
「てか団長、彼に会いたかったのはその話がしたかったからじゃないでしょう」
「ああ、まあ試合前に少し話をしたかったのは事実なんだが……。それよりも優先して聞きたい事があったからな」
「聞きたいこと?」
俺が思わず首を傾げると、Rosalia氏はウインドウを操作して、俺の前にウインドウを飛ばしてくる。ウインドウに表示された内容を確認すると……赤いオーラを纏った【戦機】ヴァルキュリアの画像が表示されていた。
「もう既に君の耳にも入っているだろうが、粛清の代行者の真名が明かされたという情報は知っているな?」
「ああ、その話か」
そう言えばこの人代行者ロールしてるっぽい人だから代行者の情報にご執心なんだろう。でも、それならなぜ俺に……あ。
「予選で戦った際に君は言っていたな、『一撃も何も、何回かは避けましたよ』と」
その言葉に、俺はやっちまったと確信する。現時点で、ヴァルキュリアの真名を知るためには、ヴァルキュリアの開幕の一撃を回避する必要があるという条件が公開されてしまっている。その為、オキュラス氏のクランメンバーが暴露する以前に、ヴァルキュリアという存在を既に知っていたという事に気付いたのだろう。
「それを踏まえて君に聞きたい。……君はどこまであの代行者について情報を掴んでいる?」
そう言うと、Rosalia氏はじっとこちらを見つめてくる。もちろん教える気なんてサラサラないのだが……この状況はもしかしたら
さーて、一体どう交渉したもんかねぇ……?
俺は不敵な笑みを浮かべると、口を開く。
「さて、どうだろうな?無償で教える程俺は優しくないぞ?」
「無論、情報提供の礼はするつもりだ。今、私のクランはヴァルキュリアの情報を少しでもかき集めているからな。些細な情報でもありがたい」
「まあ待て。情報提供の礼とやらが気になるな。具体的にはどんな内容だ?」
「私が今出せる情報は『巨壁』についての情報と、龍脈の霊峰のエリアボスの情報だな」
龍脈の霊峰は確かサーデストから行ける分岐マップの内の一つだったか。今後サーデスト以降の町に行くには必ず超えないといけないからその情報を得られるのは大分アドではあるんだが……それよりももう一つの情報はなんなんだ?巨壁?そんな話全く耳にしてなかったんだが。
だが、ここで巨壁について聞くとなると、また情報料が別個で発生する可能性もあるから、下手に話を進められん……どうしたものか。
「それとも次の試合の結果で情報を提供するかどうか決めるのはどうだろう?例えば、試合に勝利した方が自由に要求を出せるというのは」
「なんか前にも聞いたようなセリフだな……。最近流行ってるのかそれ……?まあ、別に構わないがそれだとあまり俺に利益が無いような気がするな」
「そうでもないと思うぞ?先ほど言った情報を提供することも構わないし、何か攻略する上で困った時にうちのクランから人員を貸出しするといった事も可能だ。あまり自分で言うのもあれだが、うちのクランは攻略最前線のクランだ。余程未開拓のコンテンツでもない限り行き詰まる事もそうそうあるまい」
「あー……そういう事も可能なのか」
いや別に受けても良いんだが……これ、俺から提供できる情報ってのは、『もしかしたらヴァルキュリアが居るかもしれない場所』というだけなんだよな。もしそんな考察程度の情報を出し渋っているだけと知られたら、確実にこの話は破談になるだろう。
で、Rosalia氏は俺がヴァルキュリアに関する決定的な情報を持っていると勘違いしてくれているのだろう。となると俺が取るべき行動は。
「分かった。じゃあ取引しよう。次の試合の勝敗で好きな要求を一つ通す、それでいいな?」
「無論、構わないさ。では、いい返事が聞けたところでこれで失礼するよ。君との試合、楽しみにさせてもらうよ」
「予選で散々翻弄されたからな、リベンジさせてもらうぜ、Rosalia氏」
「ああ。それではいい試合にしようじゃないか」
「では私もこれで失礼するよ」
『あーっと!?鬼夜叉選手の強烈な一撃がリキッド侍選手のゴーレムを粉砕したぁ!!』
丁度タイミング良く、Rosalia氏とルゥ氏が去っていったタイミングで試合が佳境を迎えていた。試合の方へと視線を向けると、ヴァルキュリア試作機と思われる白い鎧に身を包んだゴーレムが、鬼夜叉氏のスキルによって頭部がぺしゃんこに潰された。これは再起不能だろうな……。
その様子を見て顔面蒼白の状態になったリキッド侍氏は、そのまま両手を上げて、項垂れた。
『リキッド侍選手の降参によって試合終了!!1st TRV WAR 本選、Bブロック第六試合!勝者、『鬼夜叉』選手!!!』
いやあこれはダブルにキツイ決着だな……。多分あの試作機、早々量産できる代物じゃないだろ……。単純にプレイヤー本人を狙われた方が良かっただろうに…。
となるとこれで準決勝のメンバーは出そろったわけか。Aブロックが俺VSRosalia氏、Bブロックが鬼夜叉氏VSライジン、か。
鬼夜叉氏の試合をもっとじっくり観戦すべきだったな……。これでライジンが仮に敗北した時に対策を立てる時間が短くなってしまう。
どちらが勝ち上がるにせよ、強敵なのに変わりはない。鬼夜叉氏は予選で俺の【彗星の一矢】を完全に見切った上で粉砕した猛者だしな。ライジンはまあ言うまでもないが。
口元にうっすら笑みが浮かび上がってる事に気付き、口元をむにむにして顔を整えると、深呼吸して精神統一を図る。
まずは目の前の一戦だ。優勝を勝ち取る上で、こんな所で躓くわけにはいかない。
「さてさて、対Rosalia氏の作戦が上手く通用するかどうか……楽しみだな」
またもや笑みを浮かべている事に気付き、大概俺もバトルジャンキーだなぁと苦笑を浮かべた。
────
【おまけ】
ポン(なんか帰ってきたら知らない女性と楽しそうに会話してる……ううう、なんか戻り辛い……)
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