#099 その閃光はねじ伏せる
「次の対戦相手は……例のテイマーか」
次の試合に向けて、待機室にて待機していたライジンは、ウインドウを操作して、予選と本選で集めた情報を確認していた。PNはサトシという名前のプレイヤー。本選第一試合で、予選を同時に突破したTamerという名前のプレイヤーと接戦を繰り広げ、見事勝利を勝ち取ったプレイヤーだ。
戦闘スタイルは使役しているモンスターによる猛攻の一点のみだ。裏を返せば、プレイヤー自身は戦闘に参加しないので、そこを突けば試合はすぐに片が付くだろう。
問題は、どこまで情報を開示せずに試合を終わらせられるか、だ。
(サトシ氏が使役しているモンスターの数は四匹、飛行型のモンスターが一、それ以外は陸上歩行型のモンスターが三匹……飛行型は無視して陸上歩行型のモンスターに速攻かけるのが一番安定して試合を終わらせる事が出来るか)
一つ息を短く吐いてから、パン、と両手で頬を叩いて気を引き締める。
(実力はそれなりにあるだろうが、それはモンスターありきでの戦闘スタイルだ。予選も、多対一というベースを崩さずに他プレイヤーと戦闘していたことからも、多対多の戦闘は避けていた。……よほど、プレイヤーに近付けたくないのが伺える)
双剣を引き抜き、一閃。赤いエフェクトを纏った刃が宙を閃き、光の粒子が残滓となって掻き消えていく。
(とはいえ油断は禁物。負ける可能性も頭の片隅に入れておくに越したことは無い。開示するとしても【疾風回避】からのコンボスキルか)
双剣を鞘に納めて、自身の戦闘イメージを塗り固めていくと、自身の身体が半透明になっていく事に気付いた。口元を引き結び、瞑想するようにそっと目を閉じた。
(悪いが通過点として見させてもらうぞ、サトシ氏)
◇
『1st TRV 本選!Bブロック第三試合、【ライジン】選手VS【サトシ】選手!本選第一試合では僅か十秒での試合となり、その圧倒的なまでの力を見せつけたライジン選手VSTamer選手との熱いモンスター同士でのバトルを繰り広げたサトシ選手の試合となります!!ライジン選手の猛攻に、サトシ選手はどう立ち回るのか、注目の試合です!』
ライジンは、今回選出された火山というエリアを見回すとすぐに集中する。視界に入ってくる情報を精査し、最も最短で相手の首を刈り取れるルートを模索する。
「やあ、知ってるよ、君がライジン君なんだね!俺の名前はサトシ、よろしくな!」
気さくに話しかけてくるサトシというプレイヤーに、柔らかく微笑み返すと、ライジンは再び集中する。
サトシというプレイヤーが連れているモンスターは、こん棒を持ち、兜を被っている歴戦のゴブリンであるゴブリンソルジャー、長い鋼鉄の尻尾を持っているネズミ型のモンスター、テールラット。そして棘を背中に生やしたアルマジロ型のモンスター、トゲマジロ、翼を生やし、岩を纏っている恐竜型のレアモンスター、ステラドン。
ステラドン以外はある程度見かけるモンスターだが、どれもテイマーというジョブによって育成されているのを見るからに、それなりに実力がありそうだ。
「本選でも大暴れしてるみたいだし、俺も持てる限りの力で行かせてもらうよ!楽しい試合にしような!」
歯を見せてサムズアップするサトシ。ライジンはにこりと笑いながらも集中を崩さない。彼自体の性格がそうなのか、ロールプレイなのか知らないが、好青年的なスタイルは嫌いじゃない。嫌いじゃないが……集中を乱そうとしてくるのには少し腹が立つ。
『今回のオッズはこちらになります!!』
そう言って頭上に表示されたオッズ表を確認すると、自分が1.1倍、サトシ氏が圧巻の50倍…。これは、サトシ氏にはかなり気の毒になってしまうほどの倍率だ。
少しだけサトシが可哀想になり、視線を向けるとサトシは何ともいえない表情でプルプル震えていた。
「その余裕綽々としている態度はあんまり気分が良くならないね。黙り込んでないで少しは返答したらどうだい?」
「……生憎、集中を乱されるのはあんまり好きじゃないんでね。君こそ、試合に集中するべきだと思うよ」
「ははっようやく口を開いたと思ったらそう来たか……!パテモンのリベンジをここで果たさせてもらうよライジン……!君は忘れているかもしれないが、ランクマで一位を奪われた時の屈辱は忘れないぞ……!!」
ライジンはその言葉を聞いて、ああ、この人俺が生放送してた時に粘着してきたプレイヤーかぁ…とふと思い出す。
『パーティモンスターズ』と呼ばれる、モンスターを育成して冒険の旅に出るという幅広い世代で人気のゲームに手を出した時、レート戦で一位を取るまで終われない生放送をした際に、ずっと一位を独占していたプレイヤーが居た。そのプレイヤーを一位から引きずり下ろした際にかなり粘着されたのだが……まさかこんな所で再会するとは。
(まあいい、どのゲームでも俺に敵わない事を知れば引き下がるだろう)
双剣を引き抜き、戦闘態勢を整える。鋭い眼光でサトシを射止めると、ビクリと少し怯んだように委縮した。
『1st TRV WAR 本選、第三試合!【ライジン】選手VS【サトシ】選手、開始です!』
開幕と同時に滑り出すように【瞬歩】を発動。瞬く間に加速し、初動が遅れたサトシに対して一気に距離を詰めていく。
だが、サトシはその動きを予測していたとばかりににんまり笑みを見せる。
「ははっ、開幕速攻で終わらせるつもりなのは目に見えていたからね!その対策は取っているのさ!ディノ、飛べ!!」
ディノと呼ばれた飛行型のモンスターが甲高い鳴き声を上げると、サトシの背中を鷲掴んで空高く飛翔する。
その前に首を刈り取らんとライジンはフックショットで地面に突き刺して振り子の要領でさらに加速するがそれよりも早く刃が届かない位置にまで高度を上げていった。
「君が高い位置にいる相手に攻撃を届かせる事が出来ないという事は、レッサーアクアドラゴン戦での生配信で確認済みだ!俺の頼れる相棒達に蹂躙されると良いよ、ライジン!!」
そうサトシが言い放つと同時に、三方向から襲い掛かるモンスター達。ライジンは視線を動かして攻撃の軌道を見ながら、回避を行う。
(確かに統率が取れているな……。足りないところをカバーするようにそれぞれが上手く立ち回っている……。この手腕も、パテモンの経験によるものか)
だが、ライジンはそう思いこそすれど、モンスター達の攻撃はかすりすらしない。ゴブリンソルジャーのこん棒は双剣で受け流し、テールラットの尻尾攻撃を強引に打ち付けて相殺。トゲマジロの棘噴射攻撃には空中に飛んで回避を行うと、【空中床作成】で一旦距離を置いた。
『サトシ選手のモンスター達による猛攻がライジン選手を襲う!これにはさしものライジン選手も厳しいかぁー!?』
実況の声と、プレイヤー達の歓声を聞きながらライジンは短く息を吐くと、ライトエフェクトがライジンの身体に纏い始める。そのエフェクトはライジンの身体を軽くし、その動きを加速させていく。
タン、と地面を踏みしめて再びモンスター達に詰め寄るライジン。だが、ライジンはモンスター達に対して双剣を振りかざす事無く、攻撃を受け流し、回避をし続ける。
「……なぜ反撃しない?」
空中で浮遊し続けるサトシは、いつまで経ってもモンスター達に反撃しないライジンを訝し気に思い、首を傾げる。そして、ライジンの身体がより一層輝き始めた時に、自分が犯した過ちに気付き、すぐさま手を振りかざした。
「待て、お前たち!!攻撃を辞めろ!!」
「もう遅ぇよ」
地面を踏みしめ、ライジンが一気に加速すると、その場から姿を消した。
慌ててその姿を追おうとするが、目にも止まらない勢いで地面を駆け抜けていくので焦燥に頬を引きつらせた。
「【電光石火】」
【疾風回避】のバフにより、AGIが到達点にまで達したライジンは次なるスキルを発動させた。【電光石火】と名付けられたスキルの影響で全身から雷を迸らせ、駆け抜けた地面を焦がしながら急ブレーキすると、双剣を束ねるように構える。
「村人にはテイマー速攻狩りで終わりっつったけど、やっぱりそれじゃあ味気ねえよな」
「まずい、引け!!!」
慌てて指示を出したサトシの声とほぼ同時にライジンが駆け出す。稲光が地面を滑走し、凄まじい速度でモンスター達へと迫っていった。
「やるなら
瞬く間に三つの剣閃が出現すると、三体のモンスター達は弱点を的確に切り裂かれて崩れ落ちる。そしてその勢いのまま、雷が地面から
「ッ、ディノ、【
「【エクス・ブレイド】」
ギィィィン!!と甲高い音と共に真っ赤なクロス型の光芒が迸ると、次の瞬間にステラドンとサトシの首が宙を舞った。
そのままライジンが双剣を鞘に納めると、身に纏う雷は掻き消えていく。
「俺の勝ちだ」
『やはりやってくれたのはこの男!!1st TRV WAR 本選、Bブロック第三試合!勝者、『ライジン』選手!!!』
ライジンはそのまま地面に降り立ち、拳を掲げると割れんばかりの大歓声が轟いた。
その圧倒的すぎる実力差に、村人Aも、思わず苦笑を浮かべてポツリと。
「やっぱ参考になんねぇんだよなぁ……」
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