#098 変態スナイパー、選択肢を間違える(いつもの)
「なあ村人」
「なんだ、串焼き先輩?」
「贔屓目抜きにして教えてくれ。お前の目から見て、ライジンとの戦いの勝率はどんなもんだ?」
厨二が居なくなって数分、Rosalia氏とapple氏の戦いが終了し、次の試合の準備の様子をぼんやりと眺めていると、串焼き先輩が問いかけてくる。
ライジンとの戦いかー。今まで出てきたライジンの試合の様子と、予選での彼が見せたスキルを用いて脳内で考えられる限りの戦闘のシミュレーションを行い、ひとしきり唸ってから冷静に考えてみて……。
「大方一割強、ほぼ九割は負けると思う」
「九割か……。負ける要因として挙げられるのはやっぱり近接戦闘?」
「開幕速攻かけられたらほぼ負け確なのはライジンも分かっているだろうから、仕掛けてくるだろうしなぁ……。開幕の判断ミスで一瞬で決着もあり得る」
「厨二の攻撃はいなしてたけどそこんところはどうなのよ?」
「あれは開幕速攻ってよりも緩やかにヒートアップした感じだしなぁ……。それこそ動画用に使う試合の見栄えなどを完全に捨てて勝利だけを目指して来たら九割九分負ける」
ライジンの事だから、ガチでやる時は動画の見栄えなんか気にせずに全力で勝ちを取りに来るはずだ。それこそ、先ほどの試合のように、僅か十秒余りで決着を付けに来てもおかしくないだろう。
「ライジンさん勝負事には妥協しないですもんね…あの人やると決めたらとことんやるタイプですし……」
「あいつも動画更新頻度を下げたりすればそれこそ厨二レベルでやり込んでるだろうからな……。今回厨二にかなり先を越されてるのも大分奴の中で燻ってるはずだ」
その当てつけの相手に俺を使うのはやめてほしいところなんだが…。まあ、全力でかかってきてくれるというのなら願ったり叶ったりだ。
隣に座っていたポンが俺の方を向くと、こてんと首を傾ける。
「それでも、一割勝率があるという事は……何か策が?」
「一応ある事にはあるんだが……多分、俺が望む立ち回りはライジンはさせてくれないだろうな。俺が考えそうな作戦の道筋を徹底的に排除してきそうだし……それだけで俺の勝率はグッと下がる」
「となると……ほとんどその場で作戦を考えていく感じですか?」
「まあ、無謀っちゃ無謀だが……そうなるな。その場その場で基点作って、ライジンの虚を突いていくのが多分最適解なんだよなぁ……。とはいえあいつアドリブに強いタイプだからいかんせん相性が悪すぎる……」
あいつは幅広くゲームに手を出しているタイプの人間だ。ジャンルは問わず、一度やると決めたゲームには超が付くほどやり込む。やり込んでやり込んで骨の髄までしゃぶりつくしてから……次のゲームに行く、といった感じだ。
そしてその過程で、ライジンは色んなゲームに対する耐性というか、そのゲームの立ち回りが身について行っている。そういう事もあってか、彼の動きはある意味常識に囚われない。他のゲームで用いた技術を応用して違うゲームで新しい動きを生み出しているのだ。
そんな特殊なプレイスタイルで色んなゲームに手を出しているのも、ライジンのリスナーが注目する要因の一つになっている。まあ、人気と知名度がアホみたいに高いのは最終的にはRTAに手を出して、いくつものゲームでWRを更新するほどの圧倒的な経験値から来るプレイスキルと、聖人染みた性格とあのイケメンフェイスによる物が多いが。
厨二が圧倒的な先天性の才能の塊と表現するなら、ライジンは対照的に後天性の努力による才能の塊と表現するのが正しいだろう。
そんな相手にどう立ち回るか……それが難題だ。厨二と似ているようで、全然違うからな。
「開幕速攻で試合を終わらせてたから、奴の手の内が全然割れてないのがかなり辛い。少しでも他の本選参加者が奴の手の内を明かしてくれればいいんだが…」
「あはは……。厨二さんの時と状況が同じになっちゃいましたね」
「でもあいつだって村人に情報をわざわざ与えてくれるような事は避けるだろうな…。っとと、すまん、着信来た」
と、串焼き先輩が急に席から立ち上がると、ウインドウに表示されていたコール表示をタップすると、そのまま人気が少ない方へと歩いていく。
「……おう、どした。……え?いやいや、買ったって何を……?は?ちょっと待て、あの時の買い物はそういう……あ、ちょ、切らないで!……ああ、もう…」
串焼き先輩がくるりと振り返り、再びこちらに歩み寄ってくる。
「すまん、ちょっと用事出来た。いったん落ちる」
「了解。リアルの都合か?」
「まあ、そんなとこ。……取り敢えず早めに戻ってきたいところだが……間に合わないかもしれない」
「まあ串焼き先輩は仕事もあるだろうしそこらへんは仕方ないさ。もし見れなかったら録画残しておくからそれで楽しんでくれ」
「悪い、助かる。じゃあ、二人ともまた後で」
そう言い残して串焼き先輩は光の粒子となって消えていった。先ほどまで五人も居たのにあっという間にポンと二人きりになってしまった。
その状況を確認したポンが、ぽつりと。
「……ふ、二人きり」
「……だな」
以前として、この観客席には喧騒が絶えないから二人きりというわけではないんだが、それでも何とも言えない物寂しさを感じる。
少し前に、ポンにからかわれた事もあり、少し気まずい雰囲気になる。ちらりと横目でポンの表情を確認すると、彼女はほんのりと顔を赤らめて、俯いていた。
「……まあ、二人になったら二人になったで話す話題もあるさ」
「あ、えと、は、はい」
今後のAimsでの活動をどうするかとか確認しておきたいしなー。もしやるならやるで、また大会に出場して腕試しもしてみたい。このゲーム、色んなゲームの特徴すら再現してくれるから他ゲーの技術も向上しそうだし。事実、跳弾技術に関してはまた一つレベルアップしたような気がする。
「あ、そうだ。えっと、ポンに謝らなければいけないことがあった」
「え?謝らないといけない事?」
ふと、俺がポンとの約束で勝利した際にお願いしようとしていた本来の願いを思い出して手を叩いた。そんな俺を不思議そうに見つめるポンに、軽く頭を下げる。
「飯を今後ともご相伴にあずからせてくださいお願いします」
「え?……ええ?えと、それはどういう……」
「いや多分ポンは好意で作ってくれたのかもしれないがそれでも図々しかったかなーと。もちろん、その分飯代も折半、いや、全額出すから」
「ええっ!?いや、良いんですよ!?私が好きでやってたことですし、普通に家族に振舞ってた時ぐらいの量を癖で作っちゃうから、食べてもらった方がありがたいんですから」
「いやそれでも良心が痛む……。ポンの飯はそんじょそこらの飯屋で出しても遜色ないレベルで美味いから。金なら出す、幾ら欲しい?」
思わず必死になってポンの近くに寄ると、顔が更に赤くなり手でぐぐっと押し返してくる。
「べ、別に気にしてないですから!!……それと、顔近いです」
「あ、悪い…」
やべえまた怒らせた……。どうしよう、墓穴掘りまくりなんだが……?このまままたインスタント食品暮らしに戻るのは避けたい。温かい食卓を手放すのは今の俺の最優先回避事項だ。どうにかして繋ぎ留めないと。
……ちょっと待て、これもまさか母さんの策略か?ポンの飯で俺の胃袋を掴もうと……?ぐぎぎ……策士母上……!だが正直既に陥落しかけているから奴の掌の上で全力で踊っちまっているゥ……!!
血涙を両目から噴出しそうな勢いで歯を食いしばると、声を振り絞る。
「まあ、無理なら良いよ……またインスタント飯に戻るだけだし」
「だ、駄目です!……あ、えっと、違、そ、それは身体に悪いですよ?今後もいっぱい作っちゃった時は一緒に食べていただけると……」
「あ、マジ?助かるポン!でも流石にタダ食いは気が引けるから食費は払う!」
「ああもう……それでいいですから」
ふぅ、と短くため息を吐いたポンは、困ったように眉を寄せて、苦笑する。
「そんなに私の料理が気に入ったんですか?」
「ああ!そりゃもう毎日食いたいレベルで」
「ま、毎日……」
もう母さんの策略でも何でもいいや、これを逃したら多分今後食えなくなってしまうだろうし、俺は罠と分かった上で全力で踊り狂ってやろうじゃないか!!
「ま、毎日なんてそんな……ま、まるで彼女……いや、それ以上……?」
顔を真っ赤にさせて両手で頬を押さえるポン。あれ、確かにこの交渉って大分アレじゃね?そのぅ…大分踏み込んだお願いなような?
「あー、そういう不埒な考えは持ってないから安心していいぞ、ポン」
「…………アッハイ」
顔を真っ赤にさせたままフリーズしたポンは、ギギギ、とぎこちない動きでこちらを確認すると、引きつったような笑みを見せてくる。
「……アタマヒヤシテキマス」
「お、おう」
そのままポンはロボット染みた動きでウインドウを操作すると、光の粒子となってこの場から去り、俺だけがその場にポツンと取り残される。
「あ、いつもの流れですねこれ」
半分悟りの境地に至った俺は、多分選択肢をミスったんだなぁとしみじみと感じながらそのまま次の試合が始まるまで呆けていた。
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