#093 1st TRV WAR 本戦 銀翼VS村人A その五
厨二の表情が変わった。
それを見た瞬間に全てを察した。――奴が、本気で襲い掛かってくる。久しぶりに見る厨二の本気の姿。その表情からは笑みが消え失せ、ここからが正念場という事がひしひしと伝わってくる。
「行くぞ、村人A!君の全力を見せてみろ!」
厨二が吠える。その声音はいつものねっとりしたような声音でなく、思わず聞き惚れてしまいそうな爽やかな声が、ガチガチに固めた仮面を全て脱ぎ去った彼の本当の姿であるという事を証明付ける。
厨二がその場を踏み抜き、急加速すると縦横無尽に襲い掛かる跳弾を走り抜けながら鮮やかに回避し続ける。
その姿を見ながらも慌てずに射撃を続けるが、先ほどのように厨二に攻撃は当たらない。
「っく、この、相変わらずの鬼反射神経め……!」
Aimsでは飛び交う弾丸すらコンバットナイフで弾き返していた厨二の事だ。弾丸の速度に遠く及ばない弓矢など、容易く弾けるのだろう。
突然、厨二はマント裏に忍ばせていた煙玉を取り出し、地面に叩きつける。
すると、煙玉が割れて濃密な煙が周囲一帯にあふれ出し、視界不良に陥った。
(しまった、跳弾マシンガン戦法に固執するあまり、さっきの串焼き先輩と厨二の試合で見た煙の存在をすっかり忘れていた……!)
恐らく、毒などは煙玉に含まれていないだろうが……この状況で煙を巻かれるのは非常によろしくない。下手にこの状況で矢を放てば、自分に矢が当たってしまう可能性すらある。
(だが、視界に映っていないのは厨二も同じ、状況的にはフェアな筈だ)
そんな俺の考えは、すぐさま勘違いだったと思い知らされる。
煙を切り裂いて迫り来るこちらへと投擲されるナイフを視認し、反射で手に持っていた矢の鏃で弾き返す。金属音を鳴らして弾かれたナイフは地面を転がった。
(この煙の中でどうやってこちらを認識している!?)
ミニマップをすぐに確認、濃密すぎる煙の中では、どうやらミニマップは機能してくれないらしい。
すぐに頭を回せ、今まで見たスキルに俺の姿を確認できるスキルはあったか?
(【
試合開始して間もなく使われた、あのスキルの影響か?もしかしたら厨二はあのスキルの効果で俺の位置を断定しているのかもしれない。
そう結論付けたと同時に首元に短刀が迫り来る。
「っと、あぶねえ!もうこんな至近距離まで来てやがったのか!」
「反応が遅い、僕が本調子だったら君はとっくに終わってたよ!」
咄嗟にしゃがむことで短刀は空を切り、煙を切り裂いていく。そのままカウンターに頭突きをお見舞いしようとするが、厨二の姿は既に無く、空振りに終わる。
ちっと舌打ちを一つすると、煙の中に再び消えた厨二に向けて。
「るっせ、お前みたいにすぐに切り替えらんねえんだよ!」
「気分屋のスロースターターだもんな君は!だから、
厨二の言葉に、俺は思わず硬直してしまった。
……おい、今、こいつ、なんて言った?
ポン戦でも感じた、底冷えするような感情が身体を支配し、眉間にしわが寄るのを感じる。
震えそうになるほどふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「なぁ厨二。お前今なんて言った?」
「ははは、何度でも言おうか。君が気分屋で、スロースターターだったから、
乗るな、安い挑発だ。いつも神経を逆撫でさせてくるような発言をしてくるあいつの事だ、これもあいつの作戦の一つ。
俺をキレさせて思考を短絡的にさせようとしている。そんな事、分かり切っている。
だが。
すぐさま【
そこから煙が大量に抜けていき、徐々に視界が明瞭になり始めていくと、厨二が薄く笑いながら目の前に立っていた。
「厨二。……お前、本当にそんな事思ってたのか?」
「そうだね。……本気の君は、それほどまでに強いから。ただ勝負を楽しみたいが故に手を抜いているんだろう?」
「違えよ。ポンは俺が本気を出しても負けそうになったぐらい強かった。手を抜いた覚えはねえし、最初から最後まで本気だった」
厨二を正面から睨みつけながら言い切ると、厨二は呆れたとばかりにため息を吐き、俺を指さす。
「それなら衰えた、と表現するのが正しいのかな。つまらなくなったよ、本当に。昔見た君はもっと輝いていた。勝利に向けてひたすら足掻くその姿勢に感銘を受けたというのに、今の君はその輝きが無い」
輝きってなんだ。こいつが望む俺って何なんだ。
「輝きを失った君に、興味は無い。……終わりにしよう」
心底落胆した、とばかりに肩を竦める厨二。
ポンを馬鹿にされて、ただでさえ心の中で感情が煮えたぎっているというのに、その姿を見て俺の中の何かがプツン、と切れる音がした。
そして、その瞬間にこいつが求める自分が何なのか理解する。
――――忘れたい、記憶の奥底に蓋をしていた記憶。
勝利に固執するあまり、
そう意識すると、自分でも驚くほどスッと思考がクリアになった。
厨二が短刀で襲い掛かってくるのを見ながら、必要最低限の動きで詰め寄る。頬を掠め、赤いポリゴンが散ったが、こちらも抜き取ったコンバットナイフを深々と厨二に突き立てた。
まさか反撃を食らわせられるとは思っていなかったのか、厨二は驚いたように目を見開く。
「まず一つ約束しろ。てめえの安い挑発に乗ってやる代わりに、俺がもし勝った時はポンに土下座して謝れ。ボクは煽った相手に惨敗した糞noobですってな」
そしてそのままコンバットナイフを厨二の身体から抉るように引き擦り出し、赤いポリゴンを宙に舞わせながら鞘に納めると、先ほど開けた穴へとゆっくりと歩いていく。
そして穴の縁を手で掴み、瓦礫に足を掛けてから厨二の方へと振り向いて。
「降りて来いよ厨二。……てめえの退屈を埋めてやる」
「ああ、良いね!最高だね!最高に昂るシチュエーションだよ!!……期待外れの烙印を押させないでくれよ?相棒」
────
【補足】
勿論厨二はある程度ポンの事も認めていますが、今回の煽りは村人の本気を引き出す為の煽りです。
ただ、想像以上に村人がブチギレしていることに内心冷や汗をかいています。
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