#091 1st TRV WAR 本戦 銀翼VS村人A その三


 廃墟が倒壊していく。硬直が解けた俺は、ディアライズを担いで厨二が飛び降りた反対方向の窓からすぐさま飛び降りた。

 今なら建物の倒壊音で移動の際に音を立てても気付かれないだろう。そう確信し、他の建物へと走り続ける。


(事前情報はライジンとの取引で仕入れたから、警戒すべきは奴自身が作成した生成スキルだな)


 本戦に向けての特訓前に、代行者に関する情報、つまり二つ名クエストの発生条件諸々との引き換えに、厨二の付いている上位職のジョブ、【怪盗】についての情報をライジンから仕入れる事に成功した。

 厨二のジョブをいつ知っただとか、そもそも厨二レベルのやり込みをしてようやく上位職に辿り着けるというのにその上位職のスキルをどうやって知ったのかなど色々気になったのだが、奴は「秘密」だとしか言わなかった。

 ……絶対にあいつを敵に回すのはやめておこう。超人気配信者だけあって情報網がえげつないんだな……と冷や汗をかいたのは内緒である。


(【静音歩行サイレント・ステップ】と【交換魔術トレード・マジック】には気を付けないと)


 【怪盗】転職時に与えられる二つのスキル。【静音歩行サイレント・ステップ】は足音を消して移動出来るスキルで、俺達を尾行していた際に使用していたスキルだろうと踏んでいる。これは非常に厄介なスキルだ。ただでさえあいつは本当に存在感を消すレベルで気配を薄める技術を持っているにも関わらず、このスキルと併用してきたら洒落にならん。

 そして【交換魔術トレード・マジック】。自分が手に持つアイテムと付近のプレイヤーが持つアイテムを取り換えるというスキルだ。回復の隙を与えず、ポーションを取り出した瞬間にダメージ系アイテムと交換されたらたまったもんじゃない。


 そして奴は透明化スキル、武器奪取スキル、自己蘇生スキルも持ち合わせている。もしかしたらまだ使っていないかもしれないが、スキル生成権を用いた未知のスキルにも警戒しなければならない。


「……本当に厄介だな」


 ぼやいてしまうのも仕方ないと思う。厨二自体が常人離れした能力を持っているというのに、こんなトリッキーなスキルを使ってこられたら対応が難しい。しかも、発動条件が厳しくても難なくこなしそうなやつの事だ。事実、あの反射スキルも恐らく難しい条件を満たしてようやくあの性能を発揮しているのだろうから。


「取り敢えず、体勢の立て直しだ」


「立て直しする時間は与えないよぉ」


 ゾッ、と耳元で囁かれた言葉に震えあがり、すぐさまコンバットナイフを抜き取って厨二に襲い掛かるが、厨二の短刀に弾かれる。


「短刀使いやがったな……!」


「あれぇ?ボクが言ったのはじゃないんだけどなぁ?いっぱいストックはあるからねぇ?」


 へらへらと笑いながら短刀を見せびらかす厨二だが、デザインは先ほど地面に捨てた物と瓜二つ。どころかまんま同じデザインだ。畜生こいつ!


「屁理屈かましやがって……!まあ厨二らしいけどな!」


 続くナイフも空を切るが、すぐさま反対の手で【フラッシュアロー】を作成する。


「フラッシュバンだねぇ!一度見たスキルは流石に食らわないさぁ!」


 だが、ポンとの試合で既にフラッシュアローを見ていた厨二は、すぐさま目を隠し、耳を塞ぐ。

 だが、その対処は間違いだ。限界を迎えた【フラッシュアロー】は炸裂せんと光を放とうとする次の瞬間、その姿を消失させる。

 俺は思い切りその場でジャンプすると、厨二に襲い掛かった!


「どりゃあああああ!!」


「おっと!?やるねえ、フェイクかい!」


 ちっ、渾身の飛び膝蹴りが空ぶったか!こいつ第六感まで優れてやがる!

 飛び膝蹴りをして地面に無様にダイブする直前に矢を放ち、【バックショット】の反動を利用して上空へ吹き飛ぶ。そしてそのまま次点の矢を装填し、発射する。


「その変態機動便利だねえ!ボクも真似しようかな?」


「やめとけ、素人はGが凄いから三半規管が悲鳴を上げるぞ!ソースはライジンな!」


 空中に投げ出された俺はそう厨二に言うと、先ほど放った矢が跳弾で跳ね返り、再び容赦なく横方面に吹き飛ばす。

 この技そろそろ正式名称付けようかしら……。取り敢えず※この技を使う人は特殊な訓練を受けていますというテロップを付ける事は決めた。


 そのまま吹き飛ばされ、眼前に迫る廃墟の一角。厨二が走ってこちらに向かっているのを視界の端で捉えながら、再びオペレーションnoobの案を考える。


(OK、次なるnoob案が決まった)


 着地の手段を考えながら並列思考。次なる初心者的行動は……!


 着地時にバックショットを放ち、落下の衝撃を緩和ぐへぇ!やっぱり痛いもんは痛い!といっても多少痺れる程度だからなんら問題ないけどなぁ!


 すぐさま身体を起こし、こちらに迫り来る厨二に向けて【フラッシュアロー】を放つ。

 すると先ほどと同じように目を瞑った厨二。残念だったな、今回は炸裂してもらうぜ!

 だが、にやりと笑みを浮かべた厨二は何故か耳から手を離し、あろうことか【フラッシュアロー】に手を伸ばす。


「【能力強奪スキル・スナッチ】」


「は?」


 シュポっと音を立てて、【フラッシュアロー】は厨二の掌に吸い込まれるようにして消え去った。そんなとんでもない光景に思わず硬直してしまうと、厨二はへっと笑い、両の掌を見せてくる。


「種も仕掛けもございませーん」


種と仕掛けスキルの力じゃねーかくそったれぇ!」


 こいつスキル多用のイカサママジシャンじゃねーか!というかスキルまで奪えるのかこいつぅ!?懸案事項は増すばかり!やってらんねぇなあ!?


「【フラッシュアロー】!……あれ、使えた」


「ボクのこのスキルは引き出し一つにしまい込むことが出来るだけだからねぇ」


 てっきりスキル自体封印されるもんかと思ったが、そうでもないくさい?まあいい、使えるならこっちのもんだ!このまま攪乱させてもらお……。


 ……待てよ。今あいつなんて言った??ほうほうほーう?


「スキル情報開示感謝!そんな舐めプしていいのかなぁ厨二君!?」


「ボクも君のスキルをある程度知っているしねぇ。対等じゃないからさぁ」


 よぉーし今の厨二の舐めプで俺の有利性が増した!もしかしたら【彗星の一矢】をストックされる危険性すら孕んでいたという事。引き出し一つってことはあいつが【フラッシュアロー】という手札を切らない限り、俺のスキルをストックされる危険はない!


「後で後悔しても知らねえからな!」


「後悔も何も、負ける気はしないからねぇ」


 どこまでも余裕だなこいつ!だがその顔面を歪ませてやるから覚悟しておけ!


 瓦礫を飛び越えて一目散に逃走を開始する。俺が目指すは四面がある建物。地面、壁、天井が無ければ俺の次の作戦は成立しない。


 よぉし厨二そのまま付いて来い、楽しい楽しいAims黒歴史戦法をお見舞いしてやるからよぉ!


 

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