#090 1st TRV WAR 本戦 銀翼VS村人A その二
「すげえ、村人の奴、厨二にミニボム当てやがった」
「厨二の性格をよく理解しているからこそできた芸当だよね。……すごく参考になるな。もし厨二が勝ったらぜひ利用させてもらおう」
「少しだけ厨二さんが気の毒ですね……」
観客席では、村人Aと
ポンはそれを見て嬉しそうにライジンの方へ身体を向けた。
「ライジンさんはこの勝負、どっちが勝つと思います?」
「……私情抜きで話すと、九割厨二が勝つと睨んでる」
「やっぱりライジンもそう思うか」
「……え?」
ライジンの言葉に串焼き団子も同調し、ポンは困惑したように口を開けたまま呆ける。
「今の村人のアイデアは凄い良い物だった。厨二の性格を利用した、神経を逆撫でさせる事で生み出した、不意の一撃。あの他人に滅多に感情を左右されない厨二を精神的に不安定にさせて油断させるのまでは良かった。だけど、今の隙で
ライジンは神妙な面持ちで言葉を続ける。
「ミニボムを直接当てた訳でもない。当たる寸前で矢で射抜いたからね。どうせ回避されるのは目に見えていたし、正解なんだけど……。厨二が冷静さを欠いている以上、もしかしたらもっと良い攻撃手段があったのかもしれないな。それこそ、村人の【彗星の一矢】を直撃させられる可能性すらあった。……見てごらん、厨二の姿」
ライジンが指さした銀翼は、確かに全身から煙は上げてはいたが、どこも身体的に欠損もしていないし、重症を負っているわけでもない。その事実を反芻すると、ポンは徐々に顔を青ざめていく。
「村人がやった行為は感情を昂らせるだけ昂らせて冷や水を掛けて冷静にさせたに等しい。もちろん、そんな決着はつまらないと本人がそう望んだのかもしれないけど、勝つことだけを考えたら今の行動は判断ミス、という評価をせざるを得ないよね」
「俺も同感だ」
ライジンの言葉に頷く串焼き団子。厳しい言葉とは裏腹に、ライジンの口元は和らいでいる。
「見せてもらおうか村人。お前が考える勝ち筋とやらを」
◇
矢を装填しながら、ちらりと顔を覗かせる。
厨二は未だこちらの姿を視認してはいないが、先ほど声を上げたから位置が割れるのも時間の問題だ。すぐに移動を開始しないと。
「ふふふ、すっかりしてやられたよ。さっきのも君の作戦の内って事かい」
厨二は心底面白そうに笑う。厨二にしては珍しく冷静さを欠かせることが出来たと思いきや、すぐさま元の余裕綽々とした勝ち気な表情に戻っていた。noob行動で神経を逆撫でさせることが可能である事は分かったが、それも作戦であると理解された今、同じ行為で冷静さを欠かすのは不可能に近い。
すぐに頭を回せ、思考することを辞めるな。考えろ、奴への対抗手段を!
「まあ、ある程度君の位置も分かってるしねぇ。でも、またさっきみたいに不意を突かれる可能性がある。確実に行こうか」
厨二が身を屈め、地面に触れる。そして、手を触れたままゆっくりと目を閉じた。
「【
厨二がスキル名を呟くと、波紋のようなエフェクトが周囲一帯に広がっていく。
またとない好機である事は認識している。だが、固まったまま動かない厨二の姿を見ながらも、矢に手を触れたまま動くことが出来ない。
あのスキルは完全に初見であり、詳しいスキルの内容が分かってない今、下手に動いて奴の思うつぼにならないようにしなければならない。
ソナー、という単語を用いていたことから、索敵系のスキルであることはなんとなく分かったから、余計この場から動くことが出来ない。
訪れる静寂。地面に手を付いたまま動かない厨二と、俺はそのままの体勢で厨二を注視し続ける。風の音だけがこの空間に流れる中、体勢がこのままでは辛いのでほんの数ミリ足を動かすと。
「――――見ぃつけた」
そう言って、厨二の目が開く。そしてそのまま視線はゆっくりとこちらに向けられ、先ほどの発言が嘘でない事を証明してくる。
「ッ」
俺は厨二と目が合うとすぐさまその場を離れ、廃墟の方へとひた走る。
逃げてばかりでなく、戦う手段も考えなければならないが、今は奴に対しての情報が少なすぎる。少しでも情報を得る事の方が先決だ。
廃墟の扉を開け放ち、奥の部屋へと入り、クローゼットの中へと隠れる。さながらホラーゲームのように、息を殺しながら厨二が来ることを警戒を怠らない。
先ほどのスキルは、恐らく音で位置を判断するスキルなのだろう。しかも数ミリ単位での移動音まで識別されるとなると非常に厄介なスキルだ。早い段階で使ったのは隠れていても無駄という事を暗に伝えるために使ったのだろう。くそ、奴の掌の上ってか。
ここで一つ、試しておかないとな。
ぽつりと一言呟くと、弓に青と白の粒子が纏い始める。
「どこかなぁ?村人くぅん?どこに隠れてるのかなぁ?」
俺が呟いたのと同時に部屋へと入ってくるわざとらしい口調の厨二。恐らく位置が分かっての発言だろう。だからこそ俺はこの段階でこのスキルを使用すると踏んだんだ。
「ここだよ厨二!ぶっ飛べ【彗星の一矢】ァ!!」
極限まで引き絞り、射撃の瞬間にクローゼットの扉を足で蹴っ飛ばして開け放つ。
開け放った直後に放たれる、俺の中の超火力スキル。室内という逃げにくい環境の中、対処出来るもんならしてみやがれ!
「ふふ、もう使っちゃっていいのかい?」
矢を放ったと同時に厨二はこちらに手を掲げ、ポツリと。
「【
薄い膜のような物が突如厨二の前に出現し、ギャリィン!と甲高い音を立てて【彗星の一矢】は向きを変える。
刹那、凄まじい勢いでこちらへと迫り来る、俺が放った【彗星の一矢】。
「ぐぅっ!?」
こっちは【彗星の一矢】の反動の硬直で、まったく身動きが取れない状況。早すぎる決着を予感するが、たまたまか、それともわざとか。【彗星の一矢】は俺の頬を掠めるとクローゼットを貫通してそのまま廃墟に甚大な被害をもたらした。
ビキビキビキ、と音を立てて亀裂は広がって行き、地鳴りを響かせながら瓦礫が崩れ落ちていく。
「こんな早く君と決着をつけるわけにはいかないからねぇ。……これでおあいこだ。もっともっと楽しませてもらわないとね。……生き埋めにならないことを祈るよ」
厨二はそのまま窓から飛び降りていった。それを見ながら、俺は密かに笑みを作る。
(やはりあいつは短期決着を望んでいない……!)
それは半ば確信めいた状態で行った検証の結果である。あの地下迷宮で見た、厨二の反射スキル。あれを使ってくるだろうとは思っていたが、ここで使ってくれたのは非常に大きい。リヴェリアの攻撃ですら反射するレベルのスキルだ。それなりの制限が無いと使用できないのだろう。
確実に仕留められるとなった場面であのスキルを使われたら目も当てられないからな。
(この調子であいつのスキルの詳細を暴いてやる……!)
短期決着を望んでいないという事は、それだけ
戦闘の最中にすら検証を行う、検証厨の恐ろしさをとくと味わってくれ。
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