#089 1st TRV WAR 本戦 銀翼VS村人A その一


「お、戻ってきたな。どうだ?やれそうか?」


「勿論、あいつをフルボッコにする算段を付けてきた」


 再びSBOの世界に戻ってくると、串焼き先輩とポン、そして試合が終わったライジンが観客席で観戦していたので合流する。ライジンは俺の方をちらっと確認し、軽く手を上げると試合の方へと視線を戻し、ぶつぶつと考察を始める。


「しっかしライジンは相変わらずだな……。あれほど実力があるにも関わらず相手の観察を怠らない姿勢」


「それがライジンさんの強さの秘訣なんでしょうね……。プロゲーマーに必要な姿勢が既に備わっているのが凄いです」


「プロゲーマーである俺から見てもまぁ……こいつならって感じはするかな」


「あの、一応耳には入ってきてはいるのでやめて貰えますか。こう、身近な人にストレートに褒められると恥ずかしいもんなんで」


 試合の方に視線を向けたまま、耳を赤くしてぶつくさ言うライジン。お、意外な弱点発見、こいつ、散々動画でチヤホヤされているにも関わらず案外初心なのな。

 これは奴を攪乱させるいいネタになりそうだ……!


「で、今の試合はどんな感じ?」


「『サトシ』氏と『tamer』氏の試合。魔物使いテイマーvs魔物使いテイマーの対戦カードだね。プレイスタイルを一言で言うと別ゲーで言う、愛を込めて育ててきた旅パvs厳選厨の試合って所かな」


「ほーん?」


 すまん、俺別ゲー界隈は詳しくはないんだが……。確か人気なVRゲームでモンスターを育てて一緒に世界を旅するゲームとかあったな……。ライジンのRTA放送で見てたけど、結局プレイヤーがトレーナーに殴りかかって身の危険を感じさせて降参させるのが最適解だって言ってたっけ。いやモンスター同士でバトルしろよ。


「ライジンから見て、あのプレイヤー達の勝ち筋は?」


「モンスター無視で速攻プレイヤーに襲い掛かる」


 こいつRTAの再現する気満々じゃねーか!!無表情でなんてゲスイ考えしてやがる!

 俺が戦慄していると、ライジンがおっと声を漏らす。


「ラスト大将同士の対決か。そろそろ準備しとけよ村人。次お前の試合だぞ」


「え?もうそんなに進んでたのか?他の対戦カードはどんな感じ?」


「次が村人と厨二、その次にRosaliaとapple。Bブロックが俺vsこの試合の勝者、最後に鬼夜叉vsリキッド侍」


「なるほどなぁ……やっぱりRosalia氏、鬼夜叉氏は堅かったか。リキッド侍氏も意外、そんなに実力があったなんて」


 確か予選でのリキッド侍氏の戦い方は自作の人形に戦わせる感じだったな。なんかどことなく動作が【戦機】ヴァルキュリアっぽかったし、試作一号機と呼んでたことからもしかしたらヴァルキュリアの再現をしようとしているのかもしれない。

 ……この大会終わったら対ヴァルキュリア対策の為にちょっと手合わせお願いしてみようかな。


『試合終了!!1st TRV WAR 本選Bブロック第四試合、勝者、『サトシ』選手!!」


「お、旅パが勝ったか。まだ厳選環境が整ってなかったのが敗因だろうなぁ……」


「いやもうそれ別ゲーでは?」


 いや知らんけども……。最早RPGよりもこれ、育成シミュレーションゲームだよなぁ……。いやまあリザード種とか手なずけたら楽しそうだけどさ。


「……よし。じゃ、行ってくるわ」


「おう、勝って来いよ」


 ライジンの言葉を聞いて、俺はそのまま振り返って歩き出す。

 この大会での鬼門であるVS厨二。ここを超えられなければ優勝など夢のまた夢だ。

 今の俺があいつにどこまで通用するか、試してみようじゃないか。





 運営によって強制テレポートが発生する。


 そこは、廃墟が連なる寂れた街並み。

 どこか哀愁を感じるようなその町に、ぽつんと立つ影が二つ。

 一人は俺、もう一人は黒ローブに身を包んだピエロメイクの男―――銀翼シルバーウィング

 ニヤニヤした表情を崩さず、厨二は短刀をクルクル回しながらパフォーマンスをしている。


「試合前に抜刀すんのってありなの?」


「別に攻撃目的じゃないしねぇ。それに、この試合中この武器多分使わないし」


 クルクルと回し続け、飽きたようにそのまま短刀をポイっと投げ捨てた厨二。

 カランカランと音を立てて地面を転がる短刀には目もくれず、両手でフリフリ振って何も持ってないアピールをすると、おどけたような笑いを見せてくる。


「……舐めプってわけね」


「そうともいう、かなぁ?」


 ほーん?そんな単調な煽りで俺がキレるとでも?こちとらそんな煽りでキレ散らかす程精神が未熟じゃないんでね?


「まあボクが忍び寄って君にタッチすれば武器は確保できるしねえ。自前で用意する必要が無いって事サ」


「悪いがお前を近づける気なんて毛頭ないぞ。……自己蘇生スキルの種も割れてるしな」


「わーお、それは凄い。……まあ、キミが僕に攻撃を当てられるかどうかって所から話は始まるんだけどネ?」


「言ったなこいつ。絶対吠え面かかせてやるから覚悟しておけ」


 小言もそこそこに、集中力を高める。奴は確実に速攻を仕掛けてくるだろう。俺は遠距離職であるが故に、詰めれば対処する手段も限られてくる。

 ……だが。


(さあ来い厨二。お前が望む試合にはさせてやらねえ)


 今回はマップも良い。ポンの試合と同じく闘技場だったら確実に厳しい戦いを強いられるところだった。遮蔽物が多く存在し、場合によっては身を隠す事も可能なこのマップでどう立ち回るか。それがこの勝負の勝敗を分けるだろう。


『それでは、1st TRV WAR 本選、Aブロック準決勝第一試合!【村人A】選手VS【銀翼】選手の試合となります!』


 実況の声に耳を傾けながら一つ息を吐く。

 奴はノーモーションからいきなり攻撃に転じてくるから、試合開始と同時に何か仕掛けてきてもおかしくない。奴の一挙手一投足に注意を払わないと。


『先ほどの試合でポン選手と大接戦を繰り広げた村人A選手!そのド派手な戦いを今回も見せてくれるのか!?対する銀翼選手はかの有名なプロゲーマー、串焼き団子選手をノーダメージで下すという偉業を成し遂げたプレイヤーです!突如現れた今大会のダークホース、銀翼選手を村人A選手は止める事が出来るのか!?注目の対戦カードです!』


「さて、オッズはっと……」


 投票が終了し、オッズの詳細が映し出される。内容は…1.17:7か。俺が7、厨二が1.17って訳ね。オーケーオーケー。串焼き先輩を無傷で下したことが響いたのだろう。

 ……ポンが試合前に感じた感覚はこれか。何となく腹立つぅ!


『それではお待たせしました!両名共、準備はよろしいでしょうか?』


 アナウンスの声に頷き、すぐに厨二の姿を注視する。

 不気味な笑みを浮かべる彼に頬を引きつらせながら、油断しないように。


『1st TRV WAR 本選!Aブロック準決勝第一試合、【村人A】選手VS【銀翼】選手、開始です!』


 甲高く鳴る銅鑼の音。開幕速攻を仕掛けてくるだろう厨二を警戒し、すぐさま矢を放つ。


「いけないねぇ村人君。勝負を焦っちゃあ」


 ゆっくりと近付いてくる厨二は、俺が放った矢を避けようともせずに歩き続ける。

 そして被弾する直前に身を捻り、そのまま矢は後方へと飛んでいく。


「つまらない試合はしたくないんだよねぇ」


「そうか、ならこの試合は大層ご立腹しそうだな」


 次点の矢を装填、発射。そして再び装填、発射。

 どうせ当たるわけないと分かっていながらも、射撃することを辞めない。

 あまりに単調な攻撃に、厨二は頬をヒクリと動かす。


「……どういうつもりかナ?」


「どういうって、攻撃してるだけだろうが」


 それも凄くシンプルに、跳弾なんて絡めずに真正面から。

 ゆっくりと後ずさりしながら、厨二との距離を保ち、その時を待つ。


 初心者あるある、その一。単調な攻撃を続ける。

 立ち回りなんてくそくらえ、取り敢えず脳死で突撃してれば敵は死ぬ。それ以上にシンプルな答えはない。

 だが、その攻撃でキルを取れる事はあれど、最終的な結果は凄惨なものだ。


 軽くかわし続ける厨二を見ながらも射撃し続ける。段々と、その表情が曇っていくのを見ながら、俺は矢の補充を辞めない。


「どうした厨二?いつもの余裕の表情が無いぞ?」


「……あのさ、やる気あるのかナ?」


「ああ、もちろん。これがお前を倒す最善策だ」


 想像以上に効いてるぞ、この戦法。あいつは何より退屈を嫌う性格だ。激しい戦闘を望んでいるであろう奴に、この単調な攻撃は神経を逆撫でする行為に等しい。

 そのまま距離を保ちながら数十秒、奴は遂に動き出した。


「……つまんないから終わらせるね」


「ッ」


 ゾっとするような低い声を出し、厨二は身を低くして疾走する。AGIに多く振っている奴の動きは早い。だが、こちらとて予選での奴に圧倒された程のステータス差は無い。

 すぐさまアイテムストレージからミニボムを引っ張り出し、それを投擲して矢で射抜く。


 鳴り響く爆音、あの位置から爆発を回避することは物理的に不可能だ。


 爆発の中心にいたであろう厨二には多少なりともダメージが入ったと思う。

 すぐさま遮蔽物へと身を隠し、状況を確認すべく厨二の姿を見る。


「ッ……!」


 身体から煙を上げて腕を顔の前に掲げる厨二。その瞳はかなり揺れている。

 開幕から煽り返され、つまらない引っ掛けに騙されて容易くダメージを負ったことに彼のプライドが許さないのだろう。


「さあ厨二始めようぜ!楽しい命のやり取りかくれんぼの時間だ!」


「……良いね、そう来なくっちゃ」


 厨二の眼差しが真剣な物に変わる。今度こそ油断せず、確実に俺の息の根を止めるつもりで。


 ここからが本当の試合開始だ。

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