#087 厨二という男
「ライジンの戦い、最高に参考にならなかったんですが」
「初手加速スキルブッパして敵の初見スキルを完全受け流しからの急所即死ってどういう事?」
「流石ライジンさんですよね……。あんな動きされたら絶対私パニックになっちゃいます」
「そうだよなぁ……機動力重視のポンもそう思うか。俺あんなのされたら確実にお陀仏だぞ、多分一試合目で対戦相手がライジンだったらあそこで首が飛んでたのは俺かもな……ってポン!?」
ライジンの試合がものの十秒程で終わってしまったのでぼやいていると、いつの間にか隣に座っていたポンが居たので驚く。先ほどあんな言葉を耳で囁いたとは思えない程彼女の顔色は涼し気だ。
くそう、いつもはからかう側だったのにいつの間にか立場が逆転している、だと……?
「どうしました?」
「いや、ポン、さっきのアレでお前平気なのか……」
「だって、友達って意味でしたし……」
なんてこった、これはしてやられた。あんな思わせぶりな台詞吐けば勘違いするだろうが普通……!まあ俺は知ってたけどな!(膝をガクガクさせながら)
「でも、少しは意識してくれました?」
「そりゃ意識するだろうが。ポンは元々性格も顔も良いのにあんな台詞言われたら並大抵の男は落ちるぞ普通」
この子自分の魅力を意識しているのか、意識していないのか……。自己評価割と低かったりするし、素で天然だったりするからなおさらたちが悪い。
俺がそう答えると、ようやく彼女は顔を赤くして顔を背けた。
「あのさ、公衆の面前でいちゃつかないでくれる?」
「「いちゃついてねえ(ません)!」」
「ほらハモった。仲いいなお前ら」
思わず声を大きくして反論すると、串焼き先輩はへっと口の端を上げながら面白そうに笑う。そんな串焼き先輩の表情を面白くなく思い、脇腹を小突いてやる。
「まあそれはそれとして。ライジンの対策考えようにもあんだけ早くやられちまえば手の内が全く分からないよな……」
「厨二もだけど、あまり手の内を明かさないまま次の試合に駒を進められた連中は次の試合の勝率高そうだよなぁ……」
「あ、えっと……ごめんなさい……」
俺の場合は初戦からポンと全力衝突したせいで作成したスキル含め大体のスキルは割れてしまっている。次の試合で当たる厨二も俺のスキルを見た上で対応してくるだろうから厄介極まりないだろう。
俺の言葉にポンが少ししゅんとした表情に変わるのを見て慌てて手を振る。
「あ、いや、ポンが悪いって訳じゃないんだぞ?最後の最後であれだけ凄いスキルを見せられて興奮した挙句大量にスキルブッパした俺が悪いんだから」
「まああれ撃たなければ完全にグレポン丸に負けてたもんな……。むしろあれだけ村人を追い詰める事が出来たのは流石だなって思ったぜ」
「そ、そうですか……」
俺と串焼き先輩の言葉に嬉しそうに口をもにょもにょさせている彼女を微笑ましく思う。
串焼き先輩はプラべマッチで何度も対戦を重ねた事があるから、ポンの実力を正当に評価している。贔屓目無しにプロゲーマーから賞賛されるプレイヤーは滅多にいないだろうから、彼女の喜びは計り知れないものだろう。
串焼き先輩は自分の膝に肘を乗せ、掌の上に頭を乗せると、こちらを見つめてくる。
「しかし、本当にどうするんだ?村人、お前あんだけスキルを晒した状態で厨二と対戦するんだろ?」
「うーん……まあ、はっきり言って勝率はかなり低いと思う。俺から見てもあいつはステータスを除いても、ゲームに対する適応力が桁外れな化け物だからなぁ……。俺が必死にあがいても完封される可能性もある」
いやこれ本当にマズイ状況なんだよな……。こっちのスキルはある程度タネが分かりやすく、なんなら対策を考えようとすれば割と対処できてしまう。ポンのようにひたすら近接戦闘を強いられるだけでも厳しいからな…。
「厨二さんは変人分隊の中でも技術的な面で突出してますからね……」
「あいつ程『人間のスペックで才能を極振りしたらどうなるか』を体現化したような人間は今日まで見てきて見た事ねえからなぁ……」
「いや村人も大概だろ」
「俺とかライジン、ポンは努力の賜物です。
いや本当にあいつ頭おかしいんだよ。何?リボルバーで砂の適正射程で撃ち合えるって。しかもそれでヘッドショットを決めてくるから尚更気味が悪い。エキゾウェポンという事を抜きにしてもリボルバー一丁で戦うのは変態としか言いようがない。
「ボッサンは?」
「ボッサンは……まあ、別カテゴリ。変人過ぎてアクが強すぎる俺らをまとめてくれる保護者的な存在。PSがどっかに突出してるわけじゃないけど、指揮系統が凄い」
「苦労が窺いしれるなぁ……。今度会ったとき慰めの言葉かけてあげよ……」
失敬な。俺らは問題児じゃない、変人なんだよ。そこをわきまえてくれ。
「で、厨二の技術的な面で村人から見て怖いところってどこよ」
「……俺の跳弾を計算して避けてくるとこ」
「……そういやそんな事言ってたな」
俺の個性完全否定されるもんなあいつの場合……。Aimsで散々跳弾用いて対戦したせいでその回避技術もどんどん上がってるし。一番あいつが怖くなったのはある日突然「あ、分かったかも」とか言って10回以上の跳弾を使いこなし始めた時。
もうあいつ一人で完結しねぇ……?と思ってしまったのはご愛敬。だがしかし跳弾限界の域まで到達してるのはまだ俺のみ。そうやすやすと跳弾役の座は明け渡さないぜ。
「というかそれだと、本格的に厳しくないか?跳弾も避けられるとなるとあいつへの対抗手段が……」
「それはまあ……どうにかする。勝ち目はいくつかあるにはあるからな」
本当に簡単な話なのだが、ゲームである以上、ステータスという縛りがあるから極端に度を越えた動きは出来ない。肉体の反応が追いつかない程速い攻撃を当ててしまえば良いって事。まあ、そんなスキルも【彗星の一矢】か【
他にも少しばかりあるが……それはまあ最終手段という事で。
「その勝ち目とやらも気になるが……面白そうだし楽しみにしとくわ。でも俺は確実性を取って厨二に全額ベットする予定だけど」
「おっしゃ串焼き先輩破産させるためにも俄然やる気湧いてきたわ!」
「おいやる気を出す部分が違うだろうが!」
他人の不幸は蜜の味ィ……!!!すまねえな、俺はこういう変な方向でモチベーションが湧いちまうタイプの人間なんだよ。試合前に良い事聞けたぜェ……!!!
「私は、村人君に入れますね」
「おうサンキューな。だけど相手が相手だから賭ける額は少額にしとけよ」
ポンは俺の言葉を聞いてくすりと笑うがいやマジで少額にしてくれよ。冗談抜きでライジン除いてこの大会で一番脅威だと思ってるのこいつだから。
俺はよっこいせ、と言って立ち上がると、ウインドウを開く。
「ちょっと精神統一してくるわ」
「そういう名のエナドリ補給だろ、知ってる」
「バレたか」
今は気分を高めておきたいから少しリアルに戻るとするか。他の試合も気になるが、それよりも目前に控えた試合に備えておきたいし。
「また後で」
「おう、厨二に負けんなよ」
「頑張ってくださいね!」
「サンキュ、一回戦で何も出来なかった串焼き先輩の無念を晴らしてくるわ」
「ぶっ殺!!」
串焼き先輩の拳を高笑いしながらかわすと、そのまま光の粒子となってSBOの世界からログアウトしたのだった。
────
【おまけ】
村人がログアウトしたその後の話。
串「……ところでさ、お前らってどこまで進んでんの?」
ポン「え?……えッ!?いや、えと、なんの話だか……」
串「いやあんな甘い雰囲気出しててそれはねえだろ……」
ポン「あ、えっと……そんな分かりやすいですかね?」
串「むしろなんで気付かないのかってレベルなんだが……?いやでも割とあいつゲーム一辺倒だからあり得るか?まあなんにせよ、多分グレポン丸はその気っぽいし俺は応援してるぞ」
ポン「あ、ありがとうございます……!」
串「あいつがお前と付き合えばシオンに近付く輩が減るからな!!!!!」
ポン「それを言わないでおけば良かったのに……」
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