#085 串焼き団子VS銀翼


「お、村人。お疲れ様ー。いきなり初戦からハードルめちゃくちゃ上げたなあ……。……つか、どうした?顔赤くね?」


「……なんでもない」


 メッセからライジンの居場所を聞き、その場所に向かうとライジンが手を上げて手招きしてくる。そして、開口一番そう言ったので俺は顔を逸らした。

 くそう、ポンにからかわれて十分間もフリーズするとは一生の不覚……。少しは落ち着けたかと思ったが、まだ顔が赤かったらしい。


「今試合はどんな感じ?」


「串焼き団子さんと厨二が戦い始めたとこ。やっぱり串焼き団子さんの動き凄いね。厨二とレベル差があるのにかなり食らいついてる」


「まあ伊達にプロゲーマーやってるわけじゃないからなぁ……。VR全盛期の今、プロゲーマーってかなり敷居高いしある程度のジャンルなら別ジャンルのプロでも通用するだろ」


 串焼き先輩はFPSのプロゲーマーだが、他のジャンルでも際限なくその実力を発揮しているのは本人の資質に他ならないだろう。それゆえ、FPSプレイヤーでも彼に憧れるプレイヤーも多い。

 俺がしみじみ言うと、ライジンはそっと視線を戦いに戻す。


「対して、厨二は……。完全に防戦一方って感じ。時折攻撃を挟んではいるけど、串焼き団子さんに有効打は与えられてないって感じかな。だけど……」


「だけど?」


「攻撃しているのは串焼き団子さんの筈なのに、ダメージが入っている様子はない。全部、ジャスガ挟んだりパリィしたりで一切の攻撃を無効化してる」


「あー……つまり、完全にいなされてるって事か……」


 ライジンは眉を寄せて、目を細める。


「俺の考えだと……多分、串焼き団子さんは内心凄く焦ってると思う。厨二の頭おかしいPSは知ってはいるけど、ここまで完全に防がれていると彼自身のプライドがきついんじゃないかな」


「あの人ほとんどのFPSだと負けなしだもんなぁ……。Aimsが人外魔境なだけで」


「その人外魔境の異名を付けられた一端を担ってる自覚ある?」


「僕は関係ないです、跳弾砂はスノーマン兄貴が先駆者なので知らないです」


「ああ、あのWUS西アメリカの……」


 ライジンが引き攣った笑みを浮かべたので頷き返す。

 懐かしいなぁ……。俺が跳弾砂に挑もうとしたの、あの人のモンタージュ見たのが原点だったんだよなぁ……。

 と、俺が感慨深く過去の記憶に浸っていると、会場が湧いた事に気付く。


『銀翼選手!串焼き団子選手の武器を奪ったァーーー!』


「あっ、厨二が武器奪った」


「あのスキル、かなり強いよね…。どうやら武器のスキルも使えるみたいだったし、警戒しないといけないよね」


「条件さえ分かってしまえばあとは条件成立を警戒するだけで良いんだが…。もし無条件で奪えるならどうしようもないからな…」


「……スキルエフェクトを見ると、【強奪スナッチ】っぽいんだけどね……。それだけだとスキルも扱える示しが付かないから……。それに、あのスキルを発動する時にちゃんとスキル名言ってるしね。作成スキルなのは間違いない」


「進化スキルかと思ったけど、確かにその線である可能性は高いよな」


 俺がそう言うと、ライジンも頷き返す。


「だけど、もしかしたらそれすらもフェイクである可能性も捨てきれないよね。村人が予選で見せたように、スキルの発動には言語化する事が発動の為の絶対条件ではないから。最終的な決定権は本人の強い意志がそのまま反映されるから、【強奪スナッチ】と、もう一つのスキルを自発的に発動させている可能性もある」


「厨二だしなぁ……ありえる」


 確か【強奪スナッチ】は盗賊シーフの固有スキルで敵の武器を奪い取るスキルなのはライジンから教えて貰ったが、そのスキルは武器のスキルウェポンスキルを発動することは出来なかったらしいからその可能性は高い。


「だけどフェイクだとすると、なんでわざわざそんな事をしているんだ?確かに初見だと勘違いしてくれるかもしれないけど……」


「いやー多分厨二の事だからきっと……その方が気合が入るかっこいいからとか言うんじゃないか」


「あっ……」


 全てを察した様子でライジンが頬をヒクつかせたのを見て俺は深いため息を吐いた。なんかスキル名バリバリ当て字っぽっかったもんな……。





「……っくそ」


 視界を覆いつくす濃霧に、悪態を吐く串焼き団子。

 その額には焦燥からか、汗がうっすらと浮かび、視線を彷徨わせている。

 だが、いくら探せど厨二の姿は見当たらない。

 厨二に奪われてしまった武器の代わりに取り出した予備の弓を構えながら、警戒を続ける。


(ステルススキル、予想以上に厄介だな……!)


 しかも、今回自分と銀翼の試合で設定されたマップも良くなかった。

 森林地帯での試合だったので、弓使いである自分に分があると思っていたのだが、そんな考えもすぐに勘違いだったと思い至る。

 のらりくらりとした動きに翻弄され、時折差し込んでくる攻撃を回避しながら、自分が反撃に出てしばらくすると再び姿を消す。

 ヒットアンドアウェイを繰り返してるように見えて、その実、ようにも感じる。


(落ち着け、ここで衝動に駆られては奴の思うツボだ)


 というかくすくす笑ってる声が聞こえてくるので今すぐにでもキレたい所だが、ここで激情に駆られたら隙を作ってしまう。それだけは勘弁したい。


(俺はプロ、感情に左右されて負けるなんて洒落にならん)


 スゥっと静かに意識が研ぎ澄まされ、目をそっと閉じる。

 わずかに揺れる煙の感触、消えそうなほど微かに聞こえてくる足の音。

 数多の戦場で歩んできた経験が、俺の五感を最大限に引き上げる。


「そこォ!」


 【チャージショット】と共に【高速発射ラピッドファイア】を発動させ、銀翼が居るであろう所に目掛けて射撃する。

 確実に今の攻撃は手ごたえがあった。これで少しでも戦況が変われば――――!


「はい、残念」


 シュイン、と甲高い金属の音が鳴ったかと思えば、世界が真っ二つになる。

 幻覚を見たのかと錯覚するほど、あまりにも一瞬の出来事。

 続けざまに鳴るのは武器が鞘に納められる音。

 ズルリと身体が零れ落ち、こちらを見て笑う影にハッと鼻で笑うと、ぽつりと呟く。


「強すぎんだろ」


 理不尽なまでの実力差。それは、このRPGという世界特有の絶対的な差であり、努力するだけ報われる。

 そして、俺が奴に挑むには、圧倒的なまでにが足りなかった。


「まあ、串焼き団子さんも強いとは思うサ。けどね」


 地面に落ちた串焼き団子を見ながら、厨二はくすりと笑うと。


、ただそれだけだと思うネ」


 くるりと身をひるがえして去っていく影を見ながら、串焼き団子はそのままポリゴンとなって散っていった。


『1st TRV WAR 本選、第二試合!勝者、『銀翼シルバーウィング』選手!!!』


 割れんばかりの歓声を浴びながら、厨二は、無傷でプロゲーマーである串焼き団子を下したのだった。

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