#083 1st TRV WAR 本選 ポンVS村人A 終幕
「【彗星の一矢】!」
青と白のエフェクトをまき散らしながら、俺は眼下に居るポンに目掛けて矢を引き絞る。
決勝で使うはずだった、この大技。きっと、ここでこの手札を切らなければポンに勝てる可能性はもう無いだろう。
負けてしまえば元も子もないからな。使うという手段がきっと最善だ。
◇
「対ライジンを考えると、現状の【彗星の一矢】だと多分弾かれて終わるよな……」
それは、本選開始前日。ポン対策を進めながら、他の出場者対策を進めていた時の事。
予選で跳弾する【彗星の一矢】を鬼夜叉氏に叩き折られたことを受けて、現状のままでは駄目なことを認識させられた。
ただでさえ発動する際の隙が大きいのに、それさえも正面から叩き潰されてしまえばこちらの成すすべはない。
状態異常でちくちく攻める他無くなってしまう。
だが、そんな地味な攻め方は俺のポリシーに反する。
一発逆転、最強の一撃で相手を葬り去るのがスナイパーの特権だ。
正面から叩き折られる?なら、その要素を除外していけばいいじゃない。
と、言う事で。
「まず矢っていう形状があまり良くないよな……。矢である以上、どうしても鏃を回避された時点で威力が落ちてしまう。そして、側面から抉るように攻撃されれば割と脆い」
確か、鬼夜叉氏が俺の矢を叩き折っていた時は
「矢のどこが当たっても最大限に発揮できるフォルムか……うーむ……」
これは後に考えるとして。取り敢えず方向性は出来た。次の課題に行ってみよう。
「威力は申し分ない気もするけどな……。でも、リヴェリア・セレンティシアに軽く潰されたようにそれを上回る威力の何かに圧倒的に弱い。恐らく初戦のポンもそれは分かっているはず。なら、それ相応のスキルを用意してきてもおかしくない」
恐らく最後に使うであろう本命のスキル。その威力は【彗星の一矢】を凌駕する物だと予想される。
ならば、それに対抗できるスキルを作り出さなければならない。
「第一、【彗星の一矢】って
ならば、その対策も考えねばなるまい。
「スキルベースは……制限付きが良いか。予選で見たオキュラス氏の【
ただ、制限付きと言ったはいい物の、そのイメージは中々付かない。
スキル生成システムの強みは、作成者の思考によってどうにでもなるという点。ただ、裏返すと明確なイメージが無いまま作ると中途半端なスキルになってしまう。
「正面から撃ち合いをするなら取り敢えず威力は大前提として、問題は速さか。射速も制限を課す必要があるな」
人間の膂力である以上、射速にも限界がある。人間の反応速度を超える速さであればさしものライジンと言えど対応出来まい。その限界を突破するには人間の能力以上の力を発揮出来るスキルの力を借りなければならないだろう。
そうだな……イメージとしては、ポンの【
ポンのように機動力に特化した性能ではなく、俺の場合は射速に特化した性能で作ってみよう。
「あ、割とイメージ出来てきたな……。制限は、早さ、形状…そして、状況?体力が少ない状況下で発動可能とかか?」
追い詰められた状況の、一発逆転の性能を誇るスキル。ああ、なんてロマンがあるのだろうか。やばい、なんか安全性とか度外視で作りたくなってきたぞ。
「だめだ、沈まれ俺のロマン魂……!ロマンを追い求めすぎて発動できねえとか洒落にならんぞ……!」
本当にギリギリの状況でしか発動できないのは逆に使い勝手が悪くなってしまう。そうだな…発動条件、残り体力二割以下、とかか?
「後は……急所に命中でダメージ補正?……いや、違うな。それは甘えだ」
変態スナイパーとして名を馳せている以上、
「……ん?
あ、なんか突破口が開けたかもしれない。やっぱ悩み事は声に出してみるもんだな。
そのまま不敵な笑みを浮かべ、思いついた考えをそのままにスキルを作成しようとする。
「よし決めた。そうだな、スキル名は――――」
こうして考えが纏まった俺は、本命のスキルと、そのスキルを発動させるためのスキルを作成したのだった。
◇
「【
発動条件その一、『矢の形状変化』
予選で獲得した生成権で作成した新スキルを発動させると、矢が白く包まれる。
矢を放てば、そのまま形は変化してポンに向かって飛んでいくだろう。
ギリギリギリ、と矢を引き絞り続ける。
まだだ、まだこんなもんじゃ足りない。これで矢を放ってもスキルは発動しない。
「【
発動条件その二、『射速の向上』
矢を引き絞る腕がジュウ……と音を立てて燃え盛るように熱を持ち始める。限界まで速度を引き出すには、このスキルの負担は大きすぎる。
だが、片腕を吹き飛ばすぐらいの威力で無いと成し得ないだろう。
ちら、と体力バーを見る。残り二割を切るか切らないかの所。
自損の場合、威力は落ちる事は検証で知ることが出来た。試しに限界速度で放ち、腕を犠牲にした時の自損ダメージは一割と半分ぐらい。十分だ。
発動条件その三、『体力の調整』
ポンから受けたダメージにより、既に発動条件の体力二割以下も達成している。
【
そして、最後の発動条件。俺がこのスキルを作成する時にイメージしたのは、こことは違う世界で共に歩み、共に成長し続けた相棒の存在。
Aims最強の対物ライフル、『ゼロ・ディタビライザー』。特殊な機構と、射撃する際に放出する弾丸に秘めたエネルギーにより、重力や風などの物理法則をゼロにするという未来武器。
そして、【彗星の一矢】の発動によって、その発射の際のエネルギーを賄う!
発動条件その四、『エネルギーの充填』
合計三個のスキルを以てして、ようやく発動条件が整う俺のロマン砲。
極限まで練りに練った俺の至高の一撃、とくと味わいやがれ!
「【
それと同時に轟くポンの咆声。荒々しく、だが、その声音にこれまで溜めてきた感情の全てを乗せている。まさしく彼女を象徴とする一撃というに相応しいだろう。
紅蓮が眼下を埋め尽くし、こちらに向けて迫り来る。
「《我は
だが、俺は逃げたりはしない。
「《射抜き仕留めて積んだ屍は山なり》」
最後の最後まで、正面からぶつかろう。
「《我は死を
それが、この勝負を強く望んだ彼女に対する礼儀。
「《狙う獲物に死を運ぶ者なり》」
この勝負の勝敗でどんな結果になろうとも。
「《我が宿敵に血の薔薇を献上しよう》」
今、この瞬間だけは。
「《穿ち、貫け》」
思いっきりゲームを楽しもうじゃないか!!!
「【
それは、勝負の終わりを告げる
それが
長らく戦いを共にした別世界の相棒が幻視し、矢が解き放たれる。放たれた矢が白い弾丸へと変わるのを見ながら、満足気に笑った。
最後の一撃が、交錯する。
◇
【花火】を解き放った瞬間、私の中で強い喪失感が襲い掛かる。
無骨な闘技場に狂い咲く、紅蓮の華。
その華は、対戦相手である村人Aを呑み込まんとしている。
最後の最後まで手を抜かず、確実にトドメを刺しに行くことが出来た。
「だけど、きっとあなたは……」
手を掲げたまま、私はぽつりと呟く。震える手を抑えながら、声を振り絞る。
「こんな状況でも私を、超えてくるんだろうなぁ……!」
キラリと紅蓮の華を貫くように、光り輝く一条の光。その矛先は私に目掛けて一直線に飛来して来ようとしている。
避ける事は既に不可能、【花火】のスキルの代償で、【スタン】状態が付与されてしまい、身体が硬直してしまっている。
次の瞬間、世界がスローモーションになったかのようにゆっくりと動き、【花火】の爆風を切り裂いてこちらへと一直線に飛来してくる光を見ながら。
半ば確信めいた結末を予測し、私は、全てを出し切った解放感を表情に乗せて――。
◇
眼下に迫る紅蓮を切り裂きながら、その一条の光は、真っすぐポンへと飛来していく。
腕が吹き飛び、その代償で体力は残り一割を切った。炎上の状態異常の影響で、後数秒で俺はHPがゼロになり、デスポーンするだろう。
だが、そのたった数秒で事は終わる。
【
どこまでも澄み切った青空のような。
そんな、気持ちの良い笑顔を浮かべているポンが視界に映り、俺も思わず口角を上げる。
いいや、違うな。これは、彼女に向けて言うべき言葉ではない。
迷いながらも、全力で戦い抜いた健闘を讃えて。
親愛なるフレンドへ向けて。
「
「
俺の放った光はポンの頭を貫き、そのまま地面を爆砕した。
次の瞬間、入れ替わるように俺はポンの【花火】に呑み込まれ、HPバーがゼロになった。
『堂々、決着!1st TRV WAR本選!『村人A』選手VS『ポン』選手!初戦から繰り広げられた激戦を勝ち抜いたのは!』
一拍置いて、勝者の名が高らかに宣言される。
「『村人A』選手だァァーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
1st TRV WAR本選トーナメント一回戦。俺はタッチの差で勝利を収める事が出来た。
────
【後書き】
VSポン戦、終了。
【
発動条件:1、速度500m/sを超える。2、弾丸の形状である事。3、HPが二割以下。4、発射可能エネルギーの充填。
制限:モンスター及び対プレイヤーの場合、急所にしかダメージ判定が発生しない。
スキルを駆使して発動しなければ困難なスキル。特に1、2番を満たすには現状スキルを発動しなければ発動できない。だが、その分威力は絶大。
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