#081 1st TRV WAR 本選 ポンVS村人A その三


『両者とも、一進一退の激しい攻防を繰り広げています!ポン選手のスキルに翻弄されるも自損を問わず強烈な光をまき散らす矢でポン選手を大きく後退させた村人A選手!ここから試合がどうなっていくのか非常に見ものですね!これは目が離せません!』


 実況を聞きながら、串焼き団子は頬杖をついて一つため息を吐いて一言呟く。


「グレポン丸の奴、初戦からやり過ぎじゃねえか?新スキルっぽいの多用してるし、ボムだって一個一個の値段も馬鹿にならんし。それをあんなド派手な使い方をしてたらすぐ残弾尽きるだろ」


「そうかもしれないねぇ……。ボクが見ても、あの使い方はあまりにこの先の戦いを見据えていない立ち回りだから少し、いや、かなりモヤっとするよねぇ」


 串焼き団子の言葉に厨二の表情が曇るのを見て、串焼き団子はそっと視線を戦いに戻した。

 ド派手な音を立てて闘技場の床が粉砕されているのを見ていると。


「本当にトーナメントを勝ち上がる気があるのなら、少しでも自分の手の内を見せない方が良いのは自明の理。だが、ここまでしないと勝ち上がれない存在だと認識している可能性もある」


 ぽつりと、ライジンがそう呟いたので串焼き団子は同意の意味を込めて頷く。


「まあ確かに村人が強いのは認めるが……。今の所の戦況だとグレポン丸のが圧倒的優勢だろ。次から次へと新スキルを公開する必要は無くないか?」


「確かに村人君は翻弄されてるよねぇ。クラスター爆弾に油脂焼夷ナパーム弾、上空に移動できるスキルと完全に彼のメタ構成にしているのは間違いない。今の時点でも十分に彼を倒せるだけのスキルは見せてるよねぇ」


「新スキルを多用しているのは自分の手の内を見せても勝ち上がって見せるという気持ちの強い現れか?それとも、別の何かに狙いが……」


 と、ライジンがそこまで言うと、静かになって顎に手を添える。


「……どうした?」


「……待てよ。何故ポンはボムを使している?正直な話いくら村人が近接格闘に慣れているからとは言え、村人に近接戦闘を挑むだけの方が村人のジョブ相性的にも有利だし、コスト的にも少なく済む。そこに少しだけ自分のスキルを混ぜていくだけの方が後の試合に影響は少ないはず……」


 すると、はっと気づいたかのように目を見開くと、ライジンは少しだけ笑みを見せる。


「ボムを多用することで『』の条件を満たす?それがであるのなら、その条件を満たすための行動か?」


「ああ、ボクも丁度その考えに思い至った所サ」


「つまり、これまでの一連の行動は先の事を考えていない行動ではないと?」


「先の事を考えていないのは変わりないサ。どちらにせよ、自分の手の内を曝け出してしまっているのには変わりないからねぇ……」


 頭に?マークを浮かべながら悩む串焼き団子に、銀翼はくすっと笑い。


「だけど、村人君を倒す為だけに全力を注いでいるのであれば、彼女の行動は正解サ。こうして一分一秒、試合が長引いていくうちに、村人君は追い詰められてるしネ」


「……そうか。ポンの狙いはきっと……」


「待て、話が分からなくなってきたんだが」


 頭痛がしてきたように頭を抱える串焼き団子に、厨二は。


「変人分隊の唯一のメンバー扱いされてるグレポン丸が、変人分隊不動のエース、傭兵Aを真っ向からねじ伏せたらどうなるか、って話だとボクは思うネ」







 私は、出来る限りの準備をしてきた。

 村人君に勝つための算段も付けてきた。

 今の所の戦況だって、誰がどう見ても私の優勢のはずなんだ。

 このまま、押し切れば、私だってやれることを証明できる。


 私は決して、変人分隊のなんかじゃないんだ!!

 





 部位欠損から殆ど回復した俺は、ポンに対して距離をおき始める。

 【フラッシュアロー】によるポンの一時的な失明も、後数秒もすれば回復してしまうだろう。

 ここで追撃を加えたいところだが、俺も先ほどのポンの猛攻で消費した体力を回復しなければならない。

 回復ポーションを取り出して一気に飲み干し、中身を空にしてから、雫のついた口を手で拭いとる。


「問題は地雷の見極め方か……!」


 ポンがノーモーションで勝手に地雷をセットしているとは思えないし、もしそれで自由にセット出来るスキルであるのなら強すぎる。強すぎるスキルにはゲーム的に規制が入り、スキルポイントの要求量が多くなってくるから何かしら欠点が加わってくるはずだ。

 と、なると手動でセットしている線が一番妥当か。だが、手動でセットしているとすれば、どの段階でセットしているのかについてだ。


「ポンが地面に手を触れている瞬間はいつだ?」


 ぽつりと呟くと、ポンはこちらを捉えるとスピードを上げて迫り来る。


「考えさせる時間は与えませんよ……!」


「馬鹿野郎、並行思考は俺の得意分野だ!」


 跳弾絡みの行動をするときは並列思考をしないと足りないからな。いつの間にか身についていた技術だが、こういう時に本当に役に立つ。

 鋭い蹴りを腕で弾き、続くエルボーもいなすと、足を掴み取る。


「ッ!?」


「空中機動する相手にCQCするのは初めてだが、案外何とかなるな!」


 必死に逃げようと振りほどこうとするポンの爆発をそのまま活かし、止めきれない勢いのままぐるりと回ると、全力でポンを地面に叩きつける。


「ぐぅッ……!」


「こちとらお前対策の為にAimsでナイファー特訓してきたんだ!近接格闘で俺に挑んだところで――ッ」


 仰向けで倒れ込んだポンは怯むことなく、手と足から爆発を起こしてその勢いで俺の顎に思いっきりサマーソルトキックを叩き込んでくる。爆発の勢いを活かした強烈な一撃は、容赦なく俺の視界を明滅させてくる。

 舌を噛むことで何とか意識を保った俺は、即座にウインドウを操作してあるアイテムを取り出し、それをポンに投げつける。

 反射的にポンがそれを砕くと、キィン!というひと際甲高い音が周囲に鳴り響き、ポンが一瞬ビクン!と痙攣する。直立不動になり、固まるのを確認してから、ふらふらとした足取りで後方へと引く。


「一瞬意識飛びかけたぞ、あぶねぇ……!」


 意識を失った時点で俺の敗北だ。まさか、あの体勢からカウンターを決めてくるとは。

 サマーソルトキックなんて、見せ専の技かと思っていたがあの勢いで打たれると十分すぎる脅威だ。最も、そんなアクロバティックな技をポンが決めてくるとは思いもしなかったが。


 咄嗟の判断で出した、星海の大迷宮から持ち帰った【音吸水晶】を掌で転がす。


(これが無かったら危なかった……!)


 クリスタルリザードの声から発生した音を十分に吸収していた水晶の欠片を持ち帰っていたのは正解だった。供給量に耐え切れなくなっていた音吸水晶がここまで強力な代物とは。

 てっきり説明文からして衝撃を放つ物と思っていたのだが……。文字通りの音爆弾として俺の窮地を救ってくれた。


 だが、流石に被弾しすぎている気がするな……!ポンが攻撃の隙を見せる事無く詰めてくるから防戦一方だ。

 ふぅ、と息を一つ吐くとニィっと口角が上がる。


「やっぱりポン……お前は強ぇよ……!」


 思わずそんな言葉が口からついて出てくる。Aimsのような、遠距離から一方的に蹂躙する事が可能なグレネードランチャーが無くたって彼女のポテンシャルはそれ以上の物を見せている。

 そんなメンバーが身内に居る事が誇らしいし、戦っていて最高に楽しい。

 アドレナリンからか、高揚感が身体を支配して、集中力が高まっていく。


 音爆弾を浴びて怯んだポンは意識を取り戻すと再び【爆発推進ニトロブースト】を使用して距離を適切に保つ。

 何故、こうまでして近接戦闘にこだわるんだ?何か、思惑が……?


 結論に思い至り、そうか、と思わずつぶやく。


「【爆発推進ニトロブースト】で低空飛行しているときに地雷を設置しているのか……!」


 何故、のか、という所に答えがあった。

 確かに、向かってきているだけと考えれば地雷を設置しているとは思いにくい。

 ポンの偽装技術の高さはAimsで良く知っているから、納得もいく。


「だが、ポン。こっちも地雷がどのタイミングで配置されていると分かっちまえば対策を考えてきているんだぜ?」


 俺は徐に矢を取り出し、角度を高く、そして力をあまり入れずに矢を放つ。


 すると、すぐに落ちてきた矢は地面を跳ね、何度かのをしてから、『カチリ』という機械音を響かせ、爆発を引き起こした。


「なっ…!?」


「見ろよこの漁船で吊り上げられた魚みてえな挙動。笑えるだろ?だが、このあまりにもネタに思える挙動が、になりえる」


 検証しているうちに見つけた、【跳弾】の新挙動。真上に打つとどうなるのか、という事が気になり、試してみた結果、事が判明した。それを直角にせず、高めの角度で放てばある程度遠くまで地面を跳ねていくのだ。

 実用性皆無と思われたが、ポンが地雷関係のスキルを作成するかもしれないと考えた時にメタとして活用できる事に気付かされた。


「【集中コンセントレーション】!」


 ポンが自分のスキルの思わぬ攻略法を見せつけられ、硬直している隙にスキルを発動させる。

 スキルの効果もあり、自分の体感時間が引き延ばされるような感覚に囚われながら、正確にポンに狙いを定めて弓を構える。


「【チャージショット】ォ!」


 少しでも威力を上げるべくスキルを発動させて矢を放つと、ポンはハッとしたように【爆発推進ニトロブースト】で避ける。

 だが、すると、ポンに見事矢が突き刺さった。


「なん……でッ!?」


 確実に避けたはずの矢が当たった事に困惑しているポン。

 その身体は徐々に痙攣を起こし、苦しそうな表情へと変わる。矢に塗りたくられた麻痺毒で【麻痺】の状態異常を起こしているのだろう。


「空中対策を俺が取っていないと思ったか?」


 俺が作成した新スキル、【空中床作成】。ものの二、三秒程だが、何もないところに背景と同化するぐらい薄い色の足場を作成するスキルだ。最も、スキルレベルが低いせいで一度触れれば壊れてしまうし、二個までしか作成できないが、遮蔽物の無いこの環境では特にこのスキルは役に立つ。

 例えば、を意図的に作成したり、な。


「ここからは俺のターンだ」


 防戦一方なのも癪だ。俺もガンガン攻めさせてもらおうじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る