#080 1st TRV WAR 本選 ポンVS村人A その二


「私は貴方との全力の勝負がしたいんです!先ほどの油断が、私を舐めていたからという甘えであるのなら絶対に許しません。私を捻り潰すぐらいの全力で、かかってきてください!!!」


 ポンの言葉に、モチベーションのエンジンがフルスロットルに稼働する。

 俺の悪いところはこういう挑発的な煽りに弱いところだ。本気出してんのか?とか、それで全力?とか言われると俄然やる気が出てしまう。ああ、こいつにはぜってー負けねえって。


 ポーションが空になり、すぐに放り投げるとポンを見据えて彼女の一挙手一投足に意識を傾ける。

 出方を伺うというスタンスは変わらねえ。だが、もう被弾はしないつもりだ。


 思わず口角が吊り上がってしまう。どうしてか、彼女が仲の良いフレンドと言う一切の私情抜きで本気で俺に戦いを挑みに来てくれているという事実が堪らなく嬉しいのだ。

 俺の表情を見て、一瞬ポンが怯むが、すぐに爆発を起こして再び間合いを詰める。


「右から詰める癖は変わらねえなぁ!ポン!!」


「ッ」


 再び繰り出される鋭い蹴りを回避してすぐさまカウンターにナイフで斬りかかる。

 だが、爆発ですぐに回避され、そのままポンは再び俺との間隔を開いてこちらを警戒する。


「良いだろう。全力をお望みなら、俺も常にフルスロットルで行かせてもらうか!」







「あーあ、ポンやっちゃったねぇ」


 観客席で、銀翼シルバーウィングがぽつりと呟いたのを聞いて、串焼き団子が首を傾げる。


「何を?」


村人君を煽ったのさぁ。見てよあの眼光、さっきまでのと比べ物にならないねぇ。昔っからああなのサ、彼は」


 心底面白くて堪らない、とくつくつと笑う銀翼に対して、串焼き団子もああ、と小声で同意する。


「確かにあいつ、割と煽りに強いタイプに見えて実際の所弱いもんな」


「まあ本人ディスる系のタイプはどこ吹く風だけどねぇ。芋砂とか言われても基本的に戦術の一つとしか言わないし、もっとも、戦術云々はその通りなんだけどね。本人のモチベーションに関わる煽りを受けるとどうもネ」


「スイッチ入るととんでもない事やらかすからなぁ……。初めて跳弾限界でキル取った時も煽られた時だってライジンから聞いたしな」


「因みにボクが彼に初敗北したのも煽った時だねぇ。ビックリしたよ、急に強くなるんだもん」


「マジ?」


 串焼き団子があり得ない、と言った様な表情を浮かべて銀翼を見ると、ゆっくりと頷いた。


「懐かしいねぇ、忘れもしないよ。対戦ディザスター事件」


「なんだよそれ」


「村人君がボクに勝てた瞬間に送ってきたファンメさぁ。喜びの余り思いっきりタイプミスしたんだって言ってたねぇ」


「煽り返そうとしたのに恥作ってるとか本末転倒過ぎるだろそれ……」


 うへぇ、とげんなりした様子で串焼き団子が言うと、銀翼は薄く笑い。


「まあもし村人君が勝った場合、ボクは開幕煽りから入るけどねぇ。だって、その方が面白いし」


「あいつ煽られ過ぎてアドレナリン過剰で死なない?大丈夫?」


 気の毒に、と呟いてから串焼き団子がふと会話に参加していないライジンへと顔を向けると、真剣な顔で試合を眺めていることに気付いた。


「やはり何かしら近接系のスキルは持っていそうだよな……。流石にあれだけ予選でポンの近接技術を見せられておいて村人が対策していない線は薄い、となるとカウンター系か?だが避けている所を見るとカウンターじゃない可能性も……」


 すぐに顔を背けてやべえもんを見ちまったと串焼き団子は恐怖する。考察厨という話は常々聞いていたし、動画もそういった説明系統の動画を出していることも少なくないからある程度は分かってはいたが、まさか人の対戦すらリアルタイムで考察しているとは。


「ライジン君は基本的に物事に集中するとこんな感じだねぇ」


「変人分隊アク強すぎんだろ……」


「君が地味すぎるんだよぉ」


「それは言えてるかもしれない……」


 俺、一応割と有名どころのプロゲーマーなんだけどなぁ……と串焼き団子は一言漏らしてから、再び視線をポンと村人Aの対戦へと戻したのだった。





 地面を抉りながら、ポンの爆発がこちらに向かって襲い掛かる。

 あの【水龍爆撃掌】という名のスキルの応用だろう。地面に突き立てると地中を通って、こちらに襲い掛かってくるのだ。恐らく着弾位置は彼女自身で調整しているのだろう。大したものだ。


「一度見せた技を何度も連続で使うのは悪手だぞポン!」


 生憎と、こちらはそのスキルで被弾した身。そのスキルに対する警戒は怠っていない。

 バックステップし、爆発圏外へと回避すると、すぐにスキルを発動させる。


「【彗星の一矢】ァ!」


「ッ!?」


 俺の掛け声を聞いて一瞬ポンが身体をびくりと身体を震わせるが、すぐにこちらへと加速して距離を詰めてくる。

 その判断は正解だ。【彗星の一矢】は射撃後に巨大な反動と、一定時間の硬直が発生するからな。



 まあ、の話だがな。



 すぐさま体勢を戻して迫り来るポンに備えると、ポンは驚愕に目を見開いた。


「ッ、発動、していない!?」


「お間抜けさんいらっしゃい!」


 身動きが取れないものと思っていたポンは、かかと落としの体勢で襲い掛かっていた。

 それを悠々と回避、無防備になった腹部に拳を叩き込む。


「かっはッ」


「お返しだ!」


 苦しそうに息を吐きだしたポンに、先ほどのお返しに回し蹴りを叩きこむと、ポンの身体が吹き飛び、地面を二転、三転する。

 だが、そのまま蹲るようなことはせず、飛び起きて再び空中へと躍り出た。


「射撃のチャンスは与えねえってか……!」


「げほッ、これでも、私は貴方の事をよく分かってるつもりですから…!」


 伊達に年単位での付き合いをしていないわけだ。寝たまま、もしくは地上に留まっていれば地面を跳弾させたりして追撃を加えていた所だが、空中なら追撃を加えるのは厳しいからな。そんな俺の思考をすぐさま読み取れたのは流石と言うべきだろう。


 俺も、近接特化のスキル構成というわけではないから、先ほどの一連の攻撃で彼女に与えられたダメージは多くても三割程度と言ったところだろう。それもすぐに回復されて全回復されるだろうから、どこかで有効打を入れたいところだが……。

 俺が最初に予想していた、遠距離主体の立ち回りとは程遠い。予選でその事を思い知らされたが、ここまで近接主体となるとこちらから手を出し辛いのだ。ましてや、この闘技場というフィールド。配置物皆無のこのフィールドは明らかに俺が不利だ。


 ポンは一つ息を吐くと、爆発の出力を一気に上げる。


「村人君が嫌がりそうな事は、これでも精一杯考えてきたつもりです……!このまま貴方に近接戦を挑み続けるのは少々分が悪い……!では、趣向を変えましょうか!」


 そのままポンは天空へと一気に加速しながら上り詰めていった。

 俺の攻撃可能範囲外から、一方的に攻撃をするという事だろうか。確かにそれだとかなり厳しいな……!


 と、ポンが上空へと上がって数秒、ボムが降り注ぎ始める。


「やはり絨毯爆撃か……!範囲殲滅とはポンらしい……!」


 だが、何か妙だ。ボムの降下速度が遅い……?いつもより、少しゆっくり目なような……。


「……ッ!まさか!」


 すぐに結論に思い至り、俺はその場から逃げ出す。

 そして、ゆっくりと降下していたボムが、のを確認して俺は頬をヒクつかせた。

 

(クラスター爆弾か!!)


 少し形状が変わったボムから、無数の小型爆弾が飛び出す。これを直で受けてしまったらHPが消し飛ばされるのは確定だろう。そして、何より厄介なのが、数が多くて跳弾でポンに攻撃を加えられないことだ。


「くそ、本気で首を取りに来てやがる……!いったんここは距離を置いて……!」


 と、走り出した次の瞬間、『カチリ』という小さな機械音が響く。ふとすれば聞き逃してしまいそうな音だったが、この時はやけに明瞭に聞こえた。


「しまっ――――」


 ズドォン!!


 一拍遅れて足で踏み抜いた地面が爆発と共に吹き飛ぶ。HPバーが一瞬で六割程削られ、HPバー脇に状態異常マークが点灯する。


 を知らせるマークだ。


「くそっ、地雷か……!警戒はしていたが、いつ設置していたんだ……!?」


 ポンの策略に見事ハマってしまった俺は吐き捨てるようにそう言うと、すぐに地面に矢を放ってバックショットの効果で吹き飛ぶ。

 そして入れ替わるように着弾する小型爆弾。先ほどまで俺が立っていたエリアは大規模な爆発を起こし、地獄絵図と化す。


「はは、しかも油脂焼夷ナパーム弾まであんのかよっ……!笑えねえぞポン……!」


 クラスター爆弾に混じるように、周囲を死の炎で覆いつくす恐怖の兵器も紛れ込んでいたのを目視し、俺は冷や汗をかく。

 このまま闘技場全域をこうして焼き尽くされてはずっと空中にいるポンを倒すのは不可能になってしまう。ポンとの対戦前に見せたあの気迫、確実にこの試合で全部のボムを使いかねない程だったからな……!そこまでして叶えたい願いとやらも気になるが。

 しかし、単体で爆撃機と化しているポンをどうやって撃ち落とす?空中を漂っているので逆光もあってポンの姿は目視することは厳しい。しかも、目視出来たとしても高速移動されては予測も困難だ。


(まずは回復が先決、片足が無ければ立ち回り辛い……!)


 だが、そうは問屋が卸さない。爆撃を止め、急速に迫り来るポンを視認し、片足で立ち上がるとすぐさまコンバットナイフを振りかぶる。


「予測、出来ますよ!」


「ッ」


 俺の動きは悉く読まれてしまい、俺の身体は宙を切り、代わりにポンの拳が身体に入る。


「がっはっ」


「村人君、隙ありですよ!」


 マズイ、次の一撃を貰ったら意識が飛びかねない……!身を大きく逸らし、ポンの攻撃をすんでの所で避けると、右手に光の矢を生成する。

 そしてすぐさま出現したばかりの光の矢を握りつぶすと、激しい閃光が周囲を覆い隠す。

 凄まじい熱量を右手に感じるが、この際どうでもいい。ほんの少しでも時間を産むことが先決だ。


「ッツゥ……!?」


 至近距離での激しい閃光を浴びて、ポンの目が焼かれるのを確認して、すぐさまバックショットを放って後ろへと下がる。

 俺も目は閉じてはいたが、強すぎる閃光に目がまだぼんやりしているし、耳が高鳴ったまま戻らない。【フラッシュアロー】は便利だが、至近距離で使ってしまうとこういったリスクもある。


 そしてショートカット登録しているアイテム欄から部位欠損修復ポーションを取り出して足にかけると、めこめこと音を立てて徐々に再生が始まった。


「ううう……!逃が、さない!」


 まだ失明しているであろうポンが勘でこちらに向けてボムを放り投げる。

 回復ポーションを取り出しかけていたがすぐにやめると、弓を取り出し矢を装填。それを撃ち落とすように矢を放ち、ポンと俺の中間の位置で爆発させる。


「やりますね、村人君……!」


「やるな、ポン……!」


 互いの言葉は届いてない。だが、きっと同じ言葉を吐いているはずだ。

 

「このまま一気に押し切らせてもらいますよ……!」


「こっからお前を叩き潰してやるからな、ポン!」


 戦闘終了を告げるゴングが鳴るのは、当分先になりそうだ。

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