#079 1st TRV WAR 本選 ポンVS村人A その一

「トイレ良し、昼食良し、コンディション抜群、エナドリ注入良し!」


 一息にエナドリを飲み干し、唇についたエナドリの雫をぺろりと舐めとった俺は目の前にあるリクライニングチェアタイプのVR機器に触れる。


 これからポンとの全力勝負をするという高揚感が身体を支配し、一秒でも早くダイブしたい気持ちに駆られるが落ち着いて一つ息を吐き出す。


「……よし。頂点目指しましょうかね!」


 決意を胸に、いざ、電脳の世界へ。





『さてさてやってまいりました1st TRV WAR本選!昨日開催された予選の1st TRV WAR予選のルールはバトルロイヤル!熾烈な戦いを生き残りし強者達はこちらの方々ァ!!』


 特設ステージという名目で予選上位のプレイヤー達が待機する場所に集められた俺達は、巨大なスクリーンに映し出される予選の映像を眺めていた。大会のアナウンスを務める青年が声を張り上げるとスクリーンの映像が切り替わる。


『1st TRV WAR本選は一対一のガチンコバトル!予選と違い他人の攻撃で消耗など一切なし!そのプレイヤーの実力がはっきりと出るルールとなっています!』


 スクリーンに映し出されるのはそれと同時に鳴り響く大歓声。この大会を見に来たプレイヤー達の物だろう。始めたてであろう初心者からそこそこ装備が整い始めたプレイヤー、オキュラス氏のような現環境でトップレベルの装備に身を包んだプレイヤーまで。

 

 俺はAimsの大会とかでこういった場には慣れているが、予選突破したプレイヤーの中にはギャラリーの多さに震えあがっているプレイヤーも居た。これだけの人数が居ると普段のコンディションが出せない場合もあるから勘弁してあげて、運営。


『本選はトーナメント方式になっており、一対一で勝ち上がった方が次の戦いへと駒を進めて最終的に頂点に立った者が1st TRV WARの覇者となります!』


 実況の声に合わせてスクリーン越しに映る観客たちも盛り上がる。


『では対戦のルールを説明します!まず予選と違いアイテム持ち込みなど、一切を禁止しません!最高のコンディションで、最高のパフォーマンスを見せてください!』


 てっきりアイテムの持ち込みに少しは規制が入るかと思ったがそうでもないらしい。取り敢えず俺の矢が尽きるかもしれない問題はこれで解決だ。既に弓矢は腐る程買い占めてきている。札束で殴ればこの世の中何とかなるんですねぇ……(遠い目)


 と、この世の真理に一歩近づいている俺に、隣でスクリーンを眺めていた串焼き先輩が耳打ちしてくる。


「蘇生系のアイテムも持ち込みありなのか?」


「いや流石にまだ蘇生系のアイテムは無いだろ……と思いたい」


「現状あるにはあるけど高価すぎて誰も買えてないのが現状だろうね……。ただ、もし持ってたとしてもこの場で使うっていう判断に至るかって話だけど」


 俺達が不安に駆られているとライジンが近寄ってきてそう答える。

 なるほどー、それなら安心か……って。


「いや大会だから使う可能性高くない?」


「その蘇生アイテムも完全回復って訳じゃないからね…。ほんのちょっぴりだけ回復してすぐ戦闘に戻るっていうリスキーな事をするよりかはPVEで使った方が有意義だって考えるんじゃないかな?」


「そういうお前こそ持ってそうな気がするんだが?」


「いやないない。俺より金持ってるだろう村人の総資産でも買えないと思うぞ、あのアイテム」


「そんな高価なのに蘇生して体力ミリってどうなのよ……」


 流石にぼったくりすぎやしねえか?結構金は持っている自信はあるけどそれでも買えないのは流石に高すぎるというかなんというか……。

 俺がげんなりしていると、ライジンが苦笑しながら。


「まあ蘇生でデスペナ回避は大きいしね。それに、使い方次第で形勢逆転も狙えるし」


「はー、なるほどなー」


 取り敢えず頭の片隅に置いておこうか。もし敵プレイヤーを仕留めたと思ってもその危険性があると考えておくに越したことは無い。追い打ちも検討しないとな。……FPSでは死体撃ちともいう。死体撃ちが合法な神ゲーがあるってマジ?(マナー違反)


『試合を行うに当たり、一つだけ注意点があります!アイテム多用による露骨な対戦時間の引き延ばし、相手プレイヤーに対する罵詈雑言などの悪質な行為はおやめください。悪質であると判断した場合、その時点で強制敗北となります!』


 俺が後ろめたい思惑をしている時にタイミング良くアナウンスが流れたので思わずびくりと肩を震わせる。


 まあ、それぐらいは妥当だよな。あんまり回復して粘り続けてもギャラリーはつまらないだろうし……。ただ、追い詰められた状況からのリベンジスキルを持っているプレイヤーは涙目かもしれないが。そこら辺は運営もスキルの内容とか見て考慮してくれるだろうけど、どこからどう見ても確実に負けな試合で遅延されると運営的にもたまったもんじゃないからな……。


『では、本選Aブロックから試合を開始します!プレイヤーは勝者を予想をしてマニーを掛ける事が出来ますので振るってご参加下さい!』


 え、マジかよ楽しそうじゃんそれ。良いなあ、俺も大金賭けて楽しみたいなぁ……。


『まずはAブロック!第一回戦は【村人A】選手VS【ポン】選手の試合となります!』


 とと、いきなり俺か。早く戦いたくてうずうずしていた所だ。ちらっとポンの方へと顔を向けると、ニッと笑みを見せてくるので、拳を掲げてそれに応対する。

 負けた方が言う事を聞くという約束もあるし、負けられない。俺の場合は飯を作るのを今後も続けてほしいっていう下心もあるんだけどさ。

 それ以上に、Aimsを引退してしばらく経ったポンと久々にガチで戦闘をすることになる。ここは弾丸が飛び交う世界ではないが、このゲームのプレイスタイルの自由度の高さは他のゲームとは一線を画している。彼女のポテンシャルを最大限に知れるいい機会だ。


「負けませんよ、村人君」


「俺も全力で行かせてもらうからな」


 短いが、それだけで十分。

 これから拳を交わすのだ。言葉は不要、拳で語り合うのがクールだろ?(なお弓をがっつり使う模様)


『では、本選一回戦、マップを選定します!マップは公平性を保つためランダムになります!!』


 目の前のスクリーンに砂漠や草原、森林地帯や闘技場と言ったマップが画像と共に大量に明記され、ランダムで切り替わっていく。 

 さて、俺が得意なマップだと良いんだが……。出来ればオブジェクトが多いところ。跳弾を活かすには配置物が少ないと立ち回りにくいからな。

 十秒ほど待ち、マップの切り替わりが止まる。


「これは……」


 思わず、苦笑いになってしまった。目の前に映し出されたマップ、それは……。


『というわけで第一回戦のマップは【闘技場】に決まりましたー!』


 見るからに障害物皆無の、コロシアムと言ったところか。

 ポンがそれを見てガッツポーズしていたのを見て、頬をヒクつかせてしまう。


(マップは完全にあっち有利か……!)


 俺のプレイスタイルと完全に合わないマップになってしまった。遮蔽物が無いから跳弾を活かす事も難しいし、単純に彼女の攻撃を防ぐ手立てがない。

 真っ向からのぶつかり合いで激しい戦闘になる事が確定してしまった。


(だが、マップ不利ごときで負けて良い言い訳にはならない)


 これは真剣勝負だ。言い訳をするなど、以ての外。

 このマップでどう立ち回るかってのが腕の見せ所だろう。


『それでは両名、準備が完了したらウインドウから準備OKをタップしてください!』


 アナウンスがそう告げると同時に俺の目の前にウインドウが表示される。

 そこに表示されている準備OKと記載されているそれを、俺はノータイムで押した。


「村人、負けんなよ」


 ライジンがぽつりとそう呟いたので、俺は「ああ」と口角を上げながら返す。

 目指すは頂点、ポンをねじ伏せられないようじゃあ優勝は夢のまた夢。


 次第に光の粒子となって、俺とポンはその場から姿を消した。







 ついに来た。


 私の実力を彼に、見せる時。


 そして、私のお願いを彼に聞いてもらう時。


 彼を、渚君を圧倒することで認めさせてみせる。


 私だって、変人分隊のメンバーなんだって。







 無骨な闘技場。

 そう表現するしか、他の言葉は見つからない。

 辺り一面平らに均されていて、障害物は一切ない。

 周囲を見回すとぐるりと周囲を取り囲むように大量のギャラリーが、満席で敷き詰められていた。野次を飛ばしている声も、応援する声も。全ては集中の前に掻き消える。


 そんな、無骨な闘技場の一角に居る俺の真正面、前方80メートルほどか。そこに彼女は居た。

 俺と同じようにアクアリザードの装備に身を包んでいる可憐な少女。

 彼女の視線は、射抜くようにこちらへと向けられている。


 開始の合図を、待ち焦がれるように。


『それでは、1st TRV WAR 本選、第一回戦!両名の紹介から入ります!』


 アナウンスと共に沸き立つギャラリー。ほんの少しだけアナウンスにも耳を傾けながら、視線はポンへと向け続ける。


『まずは【村人A】選手!予選ではバウンティーハンターで指定した【オキュラス】選手を見事打ち破り、ポイントMVPを取得しました!彼の弓矢を反射させて縦横無尽に襲い掛かるトリッキーな攻撃が相手を翻弄します!MVPを取得していることから、今大会注目の一人になります!』


 あ、わりかしまともなアナウンスだな……。あのパトラって子のアナウンスに慣れたせいか違和感が凄い。


『続いて【ポン】選手!予選では最多キル数を達成し、見事キルMVPを取得しました!見た目とは裏腹にド派手な爆発の使い手!【花火師】らしい火力と手数、そしてスキルによって機動力にも非常に長けています!彼女の猛攻に果たして村人A選手は対抗できるのか!?』


 よし、そろそろ集中しよう。


『両名とも予選でのMVP取得者!一回戦から大変激しい戦闘になりそうです!果たして勝者はどちらになるのか!?それでは投票が完了しましたのでオッズの詳細に入ります!』


 アナウンスがそう告げると上空に映る巨大なスクリーンにオッズの詳細が明記される。俺が1.25倍、ポンが5倍……。ポンの実力、過小評価されてないかこれ?

 ふと、その時彼女の表情の変化に気付く。一瞬だけ、凄く悔しそうな顔をしていたような……。


『それではお待たせしました!両名共、準備はよろしいでしょうか?』


 アナウンスの声に頷き、矢を取り出して矢を構える。


『1st TRV WAR 本選、第一回戦!【村人A】選手VS【ポン】選手、開始です!』


 銅鑼の音が高く鳴り響き、試合開始の合図を告げた。



 どう立ち回るか決めていない以上、ポンの出方を伺おう。まずはポンの動きを見る事から、始め……。



「【水龍爆撃掌】ォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」


「ッ!?」


 ドォォォン!!


 開幕と同時にポンの籠手から放たれる水龍の奥義。

 凄まじく気合のこもった声を上げて、拳を深く地面に突き立てた。


「いきなりぶちかましやがったな…!」


 予選のアーカイブを見る限り、ポンが追い詰められる寸前までひた隠しにしていた彼女の奥の手スキル。それを序盤、ましてや開幕と同時に放つとは。


 だが、いくら待てどもポンの攻撃は俺に来ない。

 どういうことだ?まさかの不発?


 警戒を切らさずに矢を構えていると、地響きが発生し始める。


 ……まさか!


「下から来るのかッ!」


 慌てて地面に向かってバックショットを放ち、跳弾させることで自らの身体をノックバックで吹き飛ばす。

 一拍遅れて、先ほどまで立っていた位置が隆起し、大爆発を起こした。


「ぐぅッ……!?」


 反応が少し遅れたこともあり、爆発を少し浴びて決して少なくないダメージを負ってしまう。あのスキルは威力重視というよりも連発性に優れているんじゃなかったのか!?

 と、俺が体勢を崩した所でポンが初期位置から【爆発推進ニトロブースト】で地面を滑るように猛進してくる。


 まずい、体勢を戻さないと……!


「村人君、私思うんです」


「ッ!?」


「なんで、全力勝負の時に様子見とかで牽制して、最強技を最初から使わないんだろうって」


 あっという間にすぐ傍にまで近づいたポンの回し蹴りを、咄嗟に腕でガードするが、爆発の加速が乗った強烈な蹴りはやすやすと俺の身体を後方へと吹き飛ばした。


「ぐうっ……!?」


 ガリガリと削られていくHPバーを見て、焦りを覚える。地面を転がった後すぐに起き上がってウインドウ操作を行い、HPポーションを取り出して口を付ける。

 

 ポンは地面に降り立つと、こちらを見据えて拳を構えた。


「私は貴方との全力の勝負がしたいんです!先ほどの油断が、私を舐めていたからという甘えであるのなら絶対に許しません。私を捻り潰すぐらいの全力で、かかってきてください!!!」


 ――ああ、そうかい。それがお前の、グレポン丸の望みであるのなら。





 1st TRV WAR本選。一回戦から俺の持てる全ての技術を出す事になりそうだ。

 

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