#078 それぞれの本選への最終準備
「特訓を始めようか」
さて、場所は変わって昔懐かし【フェリオ樹海】。ポンと別れてすぐに俺はこの場所にやってきた。イベントの影響でプレイヤーの多くは【星海の海岸線】に行っている影響か、ちらほら見るプレイヤーも始めたばかりだろう初心者が多く見える。
まあここで特訓する分には掲示板で晒されることも無いだろうし安心して出来るだろう。つーか掲示板で晒される前提の立ち回りもどうなのよって話だけど。
「取り敢えずポンのスキル予想と対策を考えよう」
そう言って俺は
「ポンの立ち回りから察するに爆発系統のスキルを作成するだろうから…。Aimsのプレイ映像に何かしらヒントがあるはず」
Aimsは世に出回っているFPSのゲームモードを網羅しているいわばお祭りFPSだ。多種多様なゲームモードに合わせてその分アイテムの数が多い。ポンはグレネードランチャーの他にも爆発系統のアイテムを好んで使用していた。
何かしらそこからヒントを得ている可能性は十分にあるからな。動画を確認しておくに越したことは無いだろう。
「あー、ブービートラップとかありそうだな……。テロハントでもよく使われる手法だし、何より偽装するの上手かったからな……。候補に入れておこう」
ビデオクリップ内で、Aimsでのテロハントというゲームモードでの対戦の模様を眺めていると、敵が触れたマガジンポーチが爆発するのを見て俺は頷きながら呟く。
こうして何かしらに偽装して敷くスキルとか作りそうだな…。
「不自然な物には近寄らない方が賢明か……。あ、これもありそうだな」
続いてセンサー式の粘着型グレネードが爆発するのを見て眉を寄せる。
このグレネードは壁や地面に囚われずどこにでも付けられるのが特徴のグレネードだ。もし屋内戦にでもなればこのグレネードは厄介になるだろう。
「ううむ、候補がありすぎて辛い……」
その後も俺は動画を見続けたが、ポンが作りそうなスキルの候補が大量にあった。一つ
ずつ対策を練りたいところではあるが、時間が惜しい。俺が見据えているのは優勝だから、ポン一人に時間を取られ過ぎるとその後の試合でボコボコにされるのは目に見えている。
「汎用性スキルでも作っておくか……?特化型は流石に相手が変われば話が変わってくるしな……。ああでもロマン砲的スキルも作っておきたい……」
俺のプレイスタイルは高火力で一撃撃破が主なコンセプトになりつつある。ならばそのプレイスタイルに沿ったスキルを作る事が最適解なのだろう。となるとやはりロマン砲か。
「予選で散々知らされたけどスキルは限定条件下で高い性能を発揮することは分かった。ふふふ……!難易度高いぐらいがちょうどいいからな……!面白いスキルを作り出そうじゃないか……!」
とはいえ魅せプ専スキルを作るという事ではなく。
しっかり実用性があって、なおかつ強いスキルを作り出そうじゃないか。
こうして俺はポンやその他本選出場者の対策を進めながら、新スキルの実験や特訓に勤しむのであった。
◇
夜が明けた。
徹夜明けだというのに瞼が重いという事は無かった。
すっかりテンションハイになってしまい、検証厨の血が騒ぎ過ぎたせいで調べなくても良いどうでもいい事までスキルの検証を行ってしまった。
だが、その検証の成果は十分にあった。普段気にしないような事まで目を向けたおかげでスキルの思わぬ汎用性に気付くことも出来たのだから。
「あとは仮眠……。大会予選で疲れ切ってたのにすっかり忘れてた……」
瞼こそ重くはないが身体に疲れがたまっている感覚を覚えて俺は項垂れる。
なんか気が抜けたらどっと来たな…。本選は確か午後からだしそれまで仮眠を取ろう、そうしよう。
「うわ身体重!」
俺の意思とは関係無しに身体はとっくに悲鳴を上げていました。昔から検証に夢中になるとこうなるんだよなぁ……。反省、反省。(検証を辞めるとは言ってない)
リクライニングチェア型のVR機器から起き上がると、そのままふらふらした足取りで俺はベッドに直行する。そのままベッドに身を投げると次第に瞼が重くなってきた。
「あ、やべタイマータイマーっと……」
このまま寝落ちして寝過ごしたなんて洒落にならないからな。一回検証に夢中になりすぎてAimsのプチ大会のエントリー忘れ事件を思い出して苦笑する。
さて、これでよし。ゲーマーだって睡眠は大事。この睡眠の回復でどれだけ本選のコンディションが良くなるかにかかっている。
いざ布団を被り睡眠へとレッツゴー!
……。寝れねえ。
◇
同時刻。
「完成、しました……!これで村人君に一泡吹かせて見せます……!」
清流崖の洞窟内で、一人の少女が片手を掲げたままの状態で立ち尽くしていた。
そして、その視線の先には大量の水蜥蜴達の亡骸がポリゴンへと変わっていく。
付近でアクアリザードに襲われていたプレイヤー達が目を丸くしている中、ポンは一人勝気な笑みを見せる。
「これを村人君が隙を見せたタイミングでぶっ放せば……!あの村人君のスキルさえも粉砕出来る……!」
肩で息をしながら少女、ポンはゆっくりと腕を下げた。
表示されるバトルリザルトには目もくれず、ポンは深く息を吐き出して拳を握る。
「対村人君の対策もOK……!絶対に負けませんよ……!」
彼女の見据える先は今もどこかで検証、実験を続けているであろう村人Aへ。
虚空を見続ける彼女は後ろから忍び寄るアクアリザードに気付かず……。
「あっちょ、まって!ああもう、なんでこうなるんですかー!」
スキルの影響で身動きが取れなくなってしまった彼女は、アクアリザードに襲われてポリゴンへと姿を変えるのだった。
◇
「オキュラスに散々ボコボコにされたからな……!この鬱憤を晴らしてやる……!」
双剣士の男、ライジンは【星海の海岸線】でモンスターをひたすら狩り続けていた。
スキルの熟練度上げに勤しみ、フックショットで木の上に上がってから一息吐く。
「MVPも村人とポンに奪われたからな……!せめて本選で見せ場を作らないと……」
MMORPGガチ勢の彼が初心者といっても過言でもない二人よりも成果で劣るのは非常に屈辱的な思いをしたのだ。その屈辱が、彼を突き動かし続ける。
これで本選でも負けてしまえば確実に村人に煽られる……。それだけは絶対に阻止しなければならない。
「あいつの煽り腹立つからなぁ……。絶対に負けられないな」
ライジンが本選で出場するBブロックにはオキュラスがクランマスターを務める【お気楽隊】というクランの副クランマスターである『鬼夜叉』が居る。彼とは何度か別ゲーでPVPをしたことがあるが、大体接戦になる事が多かった。
だが、その鬼夜叉に勝てなければAブロックに所属している村人Aが勝ち上がってきたとしても戦うことが出来ない。
「よし、一休憩もすんだことだし、再開しますか」
ライジンがぽつりとスキル名を呟くと、その姿を禍々しい物へと変化しながら、目下にスポーンした敵モンスターへと襲い掛かるのだった。
◇
「だぁー!くそ、引き運本当悪ぃな……!」
セレンティシアで串焼き団子は、対戦相手の名前を見て項垂れていた。
何度スクロールして更新を掛けてもその相手の名前は変わる事は無い。そこに書かれていた対戦相手名、『
「あいつは一番やりにくいから勘弁したかったところなんだが……!この結果を受け入れるしかないよなぁ……」
串焼き団子はやりきれない気持ちのままはぁ、とため息を吐く。
彼の動きに翻弄されっぱなしで予選では全く敵わなかった彼にどう立ち向かえば良いのかが想像つかない。
それに、銀翼のレベルが自分のレベルと差が付いているのが問題だ。普段プロゲーマーとしての本職を全うしている彼にとって、このゲームに割く時間が少ないのが課題であり、ずっとこのゲームに割ける時間を持っている彼らを羨ましく思う。
「だがこんなシステム的な格差なんて腐る程経験してきた……!俺のプロゲーマーとしての底力、見せてやるよ……!」
だが、その瞳に闘志は衰えず。
串焼き団子は立ち上がると、モンスターが居るフィールドに向けて走り出した。
◇
「面白いねぇ、これ運営が意図して組んだのかナ?ランダムとして組んだのなら運命を呪いたいところだねぇ」
銀翼、通称厨二はかつて村人Aに向けてゴブリンジェネラルを差し向けた【フェリオ樹海】の高台で薄く笑う。
自身の対戦相手は串焼き団子。現役FPSプロゲーマーであり、日本が誇る屈指の実力者である。
そんな相手とAims外で対戦できるというこの恵まれた環境に感謝しつつ、二回戦で当たるであろう相手にも目を向ける。
「隣のマッチングはポンと村人君かぁ……!もし村人君が勝てば二回戦で早くも激突だねぇ……。あーあ、決勝とかで派手にやりたかったなぁ」
残念な気持ちになりながらも、厨二は笑みを携え。
「もし大どんでん返しでポンが勝った時も面白そうだしねぇ。ボクもうかうかしてらんないねぇ」
他のメンバーとはレベル差があるが、それで勝っても果たして実力と言えるのか。
そう考える厨二は、自身のスキルの反復練習を続け、熟練度を上げて爪を研ぎ続ける。
◇
『『『『『勝つのは俺 (ボク)(私)だ』』』』』
様々な思いが交錯する中、1st TRV WAR 本選が今。幕を開ける。
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