#076 大会報酬と研究
「本選出場No.8、Lace。ジョブは【軽業師】か。攻撃手段は玉投げ、曲芸染みた攻撃をする、か。ポンみたいにボムも多用しているみたいだな。ただ、立ち回りから見るからにどちらかと言えば厨二タイプのプレイヤーだろう」
ARデバイスを操作してアーカイブを確認。運営がピックアップした場面の切り抜きを行いながら、研究を行う。ちなみにこのLaceというプレイヤーも俺と同じAブロックのプレイヤーだ。もし順当に勝ち上がれた場合に対戦する可能性もあるので、研究している。
できればもっと時間をかけて調べ上げたいところだが……。残念ながら本選は明日。時間が無いので超特急での研究をしなければなるまい。
「仮想厨二の対戦を想定した方がもし当たった時の立ち回りも考えやすいか。その前にこの人の対戦相手はっと……。……Rosalia氏か。うーん、これは中々厳しそうだ」
顎に手を添えながらふむ、と一言呟く。Rosalia氏とは予選で一度戦ったが、串焼き先輩が居なければどうにも立ち回りにくいプレイヤーだった。Lace氏とRosalia氏が戦えば…俺の想定だとRosalia氏の方が上かもしれない。まあ、実際に接敵したわけではないので、Lace氏の実力は未知数だから断言は出来ないが。
ただ、セレンティシアで真っ向から戦い続けていたRosalia氏と、漁夫狙いでポイントを稼いでいたLace氏がぶつかればどうなるか……まあ、予測はある程度付く。
「となると、Rosalia氏の対策も考えないとな。あの複数の分身体にどう立ち回るべきか……」
これまた難題に直面して俺は再びため息を吐く。分身の中から本体を見極めれば分身を解除できることは予選で分かったが、たまたま乱入してきた誰かによって毒状態を付与されたために本体を見分ける事が出来たのだ。実質的な見分け方は判明していないに等しい。
分身の見分け方の最たる例として、大体影があるかどうか、というものが上げられるがあれは全部実体を持っていたのでその線は薄いだろう。
「となるとあの地下迷宮でやった跳弾彗星の一矢を使うべきか。流石にボムだとこっちの方が危険になりかねないからな。……となると、投石辺りか?うーん、難しいな……」
投石をしたとしてもよほど大きい岩でもないと跳弾してくれない可能性がある。そこら辺も調べ上げないと。
「やることは山積みだぁ……!へへへ、楽しくなってきたじゃねえか」
にたぁと楽しさのあまり人にはおよそ見せられない表情を浮かべてながら食器を片付けてから、リクライニングチェアの方へと赴く。
その前に先ほど取り出したエナドリを一気飲みし、身体が火照るような感覚を覚えながらチェアに横たわる。
「フルダイブシステム・オンライン」
いざ、電脳の世界へ。
◇
最終ログアウト地点のセレンティシアの降り立つと同時に俺の目の前にウインドウが表示された。その内容は運営からのメッセージ。大会の予選の報酬がどうやら配布されたらしい。期待を胸に息を大きく吸ってから吐き出し、メールを開封する。
——————————————
【Tournament Reward】
1st TRV WAR 予選の報酬が配布されました。
獲得した報酬は以下の物になります。
≪参加報酬≫
【スキル生成権】x1【スキルポイント】x10pt【100000マニー】【星海のペンダント】
【1st TRV WAR 参加者】
≪生存報酬≫
【スキル生成権】x2【スキルポイント】x30pt【500000マニー】【星海のネックレス】
【1st TRV WAR 生存者】【過酷な戦いを生き抜いた者】
≪本選通過報酬≫
【スキル生成権】x1【スキルポイント】x50pt【500000マニー】【星海のシェル】
【1st TRV WAR 本選通過者】【強者の証】
≪MVP報酬≫
【スキル生成権】x2【スキルポイント】x100pt【500000マニー】【星海のリング】【漁夫の利】【変態射撃】【1st TRV WAR ポイントMVP】【パトラちゃんのお墨付き】
——————————————
大量のスキル生成権とスキルポイントを見た俺は目を白黒させる。
「……?!?!?」
ちょっと待て、いったん整理しようか。取り敢えずスキル生成権については流石に一個か二個は来るだろうとは想定していたが、まさかここまでもらえるとは思わなかった。確かにこのゲームの目玉と言っては過言ではない要素だけどそれにしても配り過ぎじゃないだろうか。……もしかして失敗用の為の配布か?いや、流石に考えすぎか。
それにしてもAimsの特典ェ……。うーん、まあこっちが本来のゲームだからあくまで特典とは言え日本大会優勝以上の景品来ちゃったかー。複雑っちゃ複雑だけど……でも報酬としてこの量はありがたいから素直に感謝しておこう。
だが、これでMVPを取ったポンも同等量の報酬を手に入れていると考えると手の内を予測する難易度がさらに跳ね上がった。実質新規スキル6個追加だからなぁ……。こればかりはどうしようもない。彼女のプレイスタイルから予測するに他ならないだろう。
「って、俺も六個スキル作れるんだよな……。まあ、失敗した時が怖いから無駄にはしたくはないが、あいつらに手の内曝け出しまくってるもんな…」
仕方がないとは言え、自身の手の内は粗方曝け出してしまっている。【
となると、今回取得したスキル生成権を大事にしながら、あいつらを出し抜けるスキルを作成するべきだろう。だが、どのようなスキルを作れば良いか迷いどころなんだよなぁ…。無理に作る必要性も無いが、うーん……。
「あいつらも俺のスキルに合わせて対策練るだろうしなぁ……。駄目だ、折角思考を切り替えるために落ちたのにもう迷い始めてる」
ぶんぶん頭を振って、先ほど手に入れた報酬を再度確認する事にする。
「【星海の】関連のアクセサリー類って使えるのか……?」
どうやら参加報酬やら生存報酬やらで手に入っていたアクセサリー類の詳細を確認してみる。どうせなら使えると良いんだけど……。
【星海のペンダント】耐久度∞
星海の海岸線で取れるサンゴが中に込められたペンダント。特殊なサンゴにより月の光を浴びて光輝くその様は、まるで夜空に浮かぶ星々の輝きに呼応しているかのよう。
DEF+20 MGR+20 AGI+5
俺は、その内容を見てそっとウインドウを閉じ、手を頭に添えて空に顔を向ける。
(ぶっ壊れじゃねーか!!!)
待て、これが参加報酬!?おいおいおい、防具よりもステータス高いアクセサリーとか完全に人権装備なんだが?戦闘系の大会に参加してない生産職涙目なんだが?
おっと、そういえば生産職も生産職でどうやら大会があるって夏アプデに書いてあったな、そこでも配布されるだろうと考えて正気を保つ。
「……耐久度無限って、初期装備以来じゃねーか」
初期防具もそうだったなぁと思い出して感慨深げに頷く。実質イベント報酬だから仕方ないかもしれないが……。これは取り敢えず装着しよう、そうしよう。水龍奏弓ディアライズのような装備条件がある装備でもないのにここまで高性能な装備となると、後が怖い。
だが、溢れる好奇心は止められず、次に獲得した【星海のネックレス】をタップする。
【星海のネックレス】耐久度∞
星海の海岸線で取れる真珠で彩られたネックレス。神秘的な海で取れる美しい真珠は、星の明かりを浴びて輝きを増す。
DEF+10 MGR+10 AGI+10
うーん、感覚がマヒしてきたから何とも言えんが十分強いよなぁ、これ。AGIに振ってるプレイヤーにとって必須になりかねないな。まあ、序盤だけかもしれないけどさ。
とはいえもちろん装着……と行こうとしたところで残念ながら、ネックレスとペンダントは二つ同時に装備出来ないとのこと。装着位置が同じものは共存できないっぽい。
「まあそう都合よくはいかんよなぁ……。で、次」
【星海のシェル】
星海の海岸線をイメージとした、青と白のコントラストによって彩られたシャドウ用外殻。付けているシャドウも思わずバカンス気分。
「……ん?」
オッケー、シャドウ。これなんぞ?
『呼びましたか?いきなり私の事を破壊した鬼畜な
「いや好感度ひっっっく!?ちなみにお前破壊したの俺じゃないんだからな!?」
大会終了後、初めて呼び出したシャドウは大変ご立腹でした。
破壊したのは厨二であって、俺じゃないんだからな!?なんでここまで好感度が下がらなきゃいけなくなる!?
『私は怒ってるんですからね!?ただでさえ交流が少ないので出番を今か今かと待ち望んでようやく呼ばれたかと思ったら即座に撃墜されたあの仕打ちに!』
「俺も知らなかったからしょうがないだろ!?と、取り敢えず喧嘩しても埒が明かないから取り敢えず説明するだけ説明してくれ」
『はぁ……。これは私の見た目用の装飾品ですね。装着すると私の外殻の形と色が変わります』
「……それ以外は?」
『特に何も』
ふむふむ、これは単なる見せびらかし用コスメティックアイテムでゲーム内のステータスに影響してこないか……。ってことはつまり。
「……いらね」
『今喧嘩売りましたね!?いいでしょう買いましょう喧嘩!!いくらで売ってますか!?』
「いや冗談、冗談だって」
いやだってそれまでのアイテムが特段優秀だっただけに、かなり期待していたんですよ?なのにただの装飾品って聞いて、テンション下がるのも仕方ないよね?
ぷんすか怒り続けるシャドウを宥めていると、ピコン!と聞き慣れた音が鳴った。どうやらメッセージが届いたようだ。誰だろうか、と首を傾げながら確認すると、その差し出し人はポンだった。
「……?どうしたんだ?本選の準備に集中するって言ってたのに」
まあ、内容を確認してみるか、と開くと、そこには。
ポン:先ほどの何でもお願いを聞くという話、もうその権利を使っても良いでしょうか?
そんな文字列が並んでいるのを見て、俺はますます首を傾げるのだった。
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