#075 大会の思わぬ副産物
「さて、本格的に本選に向けて準備しようか」
本選の対戦カードが出てから一時間。本選開始は明日という事が知らされ、身内同士の対戦もある事からいったん解散となった。そして今は、報酬等が配られるのを待ちながら、俺はセレンティシアの一角でメニュー画面を開いている。
宿敵ゴブジェネと戦う前に、仮想ポンとの戦闘をシミュレーションしながら立ち回ってみたが、実際の所近距離戦に持ち込めば何とかなるだろうと考えた結果、予選でポンは俺の想像以上にすさまじい立ち回りを見せた。手や足から爆発を起こす事によって空中機動を可能にし、散々窮地を助けられた。火力要因として働くよりも、どちらかと言えば機動に特化した立ち回りばかり見せられていたので、隠し玉が幾つかあってもおかしくない。それに、恐らく大会の報酬でもスキル生成権があるだろうからそこからさらに手札は増えていく事だろう。
「極めつけに、あの籠手の爆破……。あれは多分モロに喰らったらアウトだろうな……」
幼水龍の装備が発現した、いわゆる【ウェポンスキル】というカテゴリに分類される特殊なスキル。俺の【水龍奏弓ディアライズ】も【彗星の一矢】という非常に強力なウェポンスキルを持っているが、あれはどちらかというと、彗星の一矢のように一撃に重きを置いているというよりかは連発性に優れていそうだった。
だが、連発できるとは言え強力には変わりなく、ほぼ紙装甲と言える俺の耐久から察するに一撃は耐えても二発もらったらノックアウトになりかねない。というわけで近接戦闘で追い詰める案は却下。
「はー!まーた振り出しだ!よし、やるならとことんポン対策を進めてやる!」
口調こそ嘆いてはいるが、実際の所俺はかなり楽しんでいる。
なぜなら俺は検証厨。やれることを探し続け、相手の事をとことん突き詰めて研究し、完膚なきまでに叩きのめす事が俺の生きがいでもあり、楽しみでもある。対人戦ゲーマーの末路ともいう。
究極的に言えば対人戦というものには終わりが無い。今まで一度も負けた事の無い人間など存在しないのだ。一度の敗北で得た知識が次の対戦に活かされ、洗練され、昇華されていく。ああでもない、こうでもないと試行錯誤を続けていくうちに、技術はどんどん極まっていく。
「これだから検証はやめられない……!はは、待ってろよポン。勝つのは俺だ」
俺は不敵な笑みを浮かべながら、どこかで俺と同じ様に対策を進めているであろうポンに向けて呟くのだった。
◇
さて、ここからが本題である。
「えーーっと……これは……どうしたもんか……」
準備開始から数分後。
準備を進めようと息巻いていた俺の前に、大会のリザルトが届く前に、あの地下洞窟での戦闘の結果が来ていたので確認したのだが、そのあまりにも現実味が薄いリザルト画面に頭痛がして、こめかみに手を添えていた。
——————————————
【Battle Result】
【Enemy】 【クリスタルバット】x10【クリスタルリザード】x47【ハイクリスタルリザード】x12 【プレイヤー】x264
【戦闘時間】 240:00
【獲得EXP】 278340EXP
【獲得マニー】 80980マニー
【ドロップアイテム】 【水晶蝙蝠の羽】x8【水晶蝙蝠の皮】x1【水晶蝙蝠の爪】x1【水晶蜥蜴の鱗】x19 【水晶蜥蜴の皮】x14 【水晶蜥蜴の爪】x7 【水晶蜥蜴の眼】x2 【水晶蜥蜴の舌】x2 【水晶蜥蜴の尻尾】x3 【水晶蜥蜴の上鱗】x3 【水晶蜥蜴の上皮】x6 【水晶蜥蜴の上爪】x3
獲得した経験値に伴ってレベルアップしました。
【狩人(弓使い)Lv25→43】
スキルポイント+88 ステータスポイント+90
レベルアップに伴ってメインジョブのスキルを獲得しました。
【
集中することにより、命中精度を向上させる。また、思考が加速される。
【狩人の意地Lv1】
戦闘時間が長引けば長引くほど標的に対するダメージ量が増加する。上限は一時間。
熟練度が一定数に達したため、レベルアップしました。
【弓使いLv9→10】
弓の扱いが上達する。飛距離が伸びる。
スキルレベルが最大になりました。
【跳弾・改Lv2→5】
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面、道具等を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが上昇する。
【鷹の目Lv4→6】
遠方の物をはっきりとした形に捉えることが出来る。
【遠距離命中補正Lv7→9】
投擲アイテム、弓などの遠距離武器の命中に補正が入る。
【バックショットLv7→10】
通常の弓矢の威力が半減する代わりに強いノックバックを発生させるスキル。
スキルレベルが最大になりました。
【野生の心得Lv3→5】
気配を絶つことで敵MOBに見つかり辛くする。ミニマップ上からもアイコンを消すことが出来る。
【チャージショットLv3→6】
弓を構えて打たずにそのままでいると、威力の高い矢を放つことが出来る。溜め時間が長いほどスタミナを消費する。
【ランナーLv2→4】
スタミナ減少率が下がる。
【跳弾Lv4→7】
投擲系アイテム及び弓、ボウガンなどの遠距離系武器が壁や地面を反射するようになる。跳弾する毎にダメージが減少する
特殊戦闘による称号を獲得しました。
【プレイヤーキラー】【プレイヤースレイヤー】【
称号獲得によるスキルを獲得しました。
【
対プレイヤーに対するダメージに補正が付く。また、プレイヤーの急所に攻撃が入れば即死させることがある。(レベルが高ければ高い程確率は増す)
【
自分よりもレベルが高いモンスター、プレイヤーとの戦闘時にステータスが向上する。
——————————————
「うわぁ……」
これは酷い。スキルレベルの上り幅もそうだが、レベルの上がり具合よ。
酷いというよりも確実に適正レベル帯よりも遥かに高いレベルの相手を沢山倒したからこそ得られた経験値なんだろうけども。
もし本選で厨二との対決があるとしたらレベル差はどうしたもんかなぁと悩んでいたが、それも一瞬で解決。なにこれお手軽過ぎてヌルゲーじゃね?いや、実際何度も死にかけたからヌルゲーなわけじゃないんだけどさ。
「でも実際普通の狩場よか断然効率良いよなぁ……」
実際の所今俺が到達しているエリアの中で、確実にあの地下迷宮とやらが一番敵が強い上、まだ存在をあまり知られていない場所。仮に入ったとしても落下してマグマダイブが安定だろうからあの場所の奥深くまで入り込むプレイヤーはいないだろう。他のプレイヤーが入り込むのが困難と考えられる以上、経験値効率的にはあの場所が最強だ。
まあ、リヴェリアがいたあの場所に他のプレイヤーが行くのも時間の問題……と思ったけどレベルは低いわ厨二のような回避技術が頭おかしい(当社比)プレイヤー、ポンのように機動力が優れたプレイヤーが早々いるとは思えないので捻り潰されそうだな、うん。
そして、リヴェリアと言えば星降りの贈笛は俺の手元にあるわけで。どうやらポンはクエストの受注は出来たがアイテム欄には共有されなかったみたいなので実質俺のみがこのクエストアイテムを独占しているという事になる。え?これPKされて奪いでもされたら不味くね?怖いわー。RPG怖い。修羅の国ですわ。もし奪われたら地の果てまで追いかけてヘッドショットして奪い返すんだけどさ。
「まあ結果的にはオーライ?なのか?……いや、オーライだなそうしておこう」
深く考えたら負けな気がしてきた。考えが堂々巡りになる前に、思考を切り替えよう。
俺がまずやらなければいけないことは本選で対戦するであろう相手の対策と研究、そして今現在所持している手札に加えて新しいカードを作り出す事。今は粛清の代行者よりも目先の問題を解決だ。
だが、そんな俺の思いとは裏腹に俺の頭はすっかり疲れ切っており、ただぼんやりとしているのみ。
「……あー、駄目だ、集中できねえ。いったん落ちるか」
四時間もの間連続で戦闘し続けてきたのだ。その間に大量の情報を叩き込まれ、戦闘中は跳弾計算で脳を酷使した。疲れきっていてなんらおかしくない。とうぶん、とうぶんをおくれ……。できればとびっきりあまいやつ……。
◇
「……あー、疲れた」
むくりとリクライニングチェア型のVR機器から身体を起こすと、よっこらしょっとと身体を引き上げ、ソファに倒れ込む。肌に優しい材質で出来た、包み込むように沈み込むソファにうつ伏せで倒れ込みながら、またしても「あ゛ー」とうめき声を漏らす。
「つーか一回戦の相手がポンかよ……。出来ればもっと後半で当たっておきたかった……」
運営が設定した本選の組み合わせを恨みながら、俺はもごもご口を動かす。
当然身内相手だからといって手を抜くつもりはないし、負けるつもりも毛頭ない。だが俺が勝ってしまえばポンは予選でMVPを取ったのにもかかわらず本選初戦落ちという大変不名誉な結果になってしまう。俺が負けた場合もそうなるからどうにもならないが。
どうにもやりきれない気持ちでぼんやり虚空を眺め、再び身体を起こすと冷蔵庫に向かっていく。
「……あ、もうこんな時間か」
冷蔵庫のドアに手を掛けた時にふと時間を確認すると、時刻は18:00を回っていた。今この状態でお菓子をつまめば確実に夕飯に支障が出る。紺野さんが夕飯をちょくちょく提供してくれるので、彼女の料理を残すような事はしたくはない。もらう側として気が引けるし、事実美味いし。
何なの?あの子高校生にして家事完璧とか最強かよ。嫁に欲しい子ランキングとか入ってそう。
と、ふざけながら考えたところで苦笑する。
(あー、着々と親の策略に嵌められてんなぁ…)
紺野さんはピュアだし、恐らく親の思惑なんて知らないだろう。ただ近所の気が知れた友達だから、という理由で飯を提供してくれているのだろうが、こっちの胃袋は既に陥落しかけている。
だって毎食毎食カップ麺とか冷凍食品とか食ってたら手作りの料理が恋しくなるわけで。とはいえ自分で料理するのは面倒だからやらないんだけど。
(紺野さんって押しが弱いから親から強引に言われてしまえばなし崩しで……ってなりかねんからな……それだけは避けないと)
はぁ、と俺は一つため息を吐いてから冷蔵庫からお菓子の代わりにリンゴジュースを取り出してコップになみなみ注いでいく。
彼女が非常に魅力的な人物であるのは分かる。分かるが……それ故に、なあなあではなく本人の意思でしっかりと決めてもらいたいのだ。その自覚が彼女があるのか無いのかは分からないが。
(正直一緒に居て楽しいから良いんだけど……。でもそれは友達としてだからというわけで……)
ぼんやりとしたままリンゴジュースを注いでいたため、コップから溢れている事にも気付かずに俺はリンゴジュースの容器を傾け続ける。
(向こうが望んでもいないのに親の思惑通りに無理矢理付き合わされるなんて論外だよな……。俺にもその気は無いと伝えれば向こうも理解してくれるってあんれぇ床がアマゾン川!?」
ようやく床にリンゴジュースをダバァしていることに気付いた俺は慌てて雑巾を取りに行く。あーもうやらかした。あんま頭回らん時に考え事はするもんじゃないな。
ひとしきり床を拭き終えると、ARデバイスに通知が届いた。メッセージが送られてきたので確認すると、その差し出し人がポンだったので開いてみる。
ポン:こんばんは。今日は明日の本選の準備を進めたいので申し訳ないのですがご飯を作るのは無理そうです。明日の本選、頑張りましょう!私、負けるつもりは無いですからね!
すっかり俺に飯を提供するのが板についてきたのか、そのメッセージを確認して苦笑する。なんか乞食と思われてそうだなぁ、俺。でも紺野さん、飯を食ってる俺を見てるときすげー嬉しそうな優しい目で見てるから単純に料理を振舞うのが好きなのかもしれないけど。
端的にメッセージを返すのもあれなので。
村人A:いつも飯ありがとう。お礼も兼ねて今度なんかお願いでもあれば何でも聞くよ。それと、俺も本選で負けるつもりは無いからな。全力で戦わせてもらうよ。楽しみにしてる。
と、返す。メッセージを送信してから、メッセージアプリを落とすと、俺はリンゴジュースを一気に飲み干す。
「……よし!」
頬を叩き、気合を入れなおす。冷蔵庫からエナドリと冷凍食品を取り出し、冷凍食品をレンジにダイレクトアタック。手慣れた指捌きで電子レンジのタイマーをセットすると、電子音を鳴らして加熱がゆっくりと始まる。
リンゴジュースを飲み干したばかりなので水っ腹になってしまうので、エナドリはそのままの状態でキープ。冷凍食品の加熱を待ちながら1st TRV WAR予選のアーカイブを開く。
「……さて、研究を始めよう」
打倒、本選プレイヤー。一位をつかみ取るのは俺だ。
加熱が終わった冷凍食品を取りに行き、皿に乗せるとテーブルまで運んでいく。そして頂きますと一言呟き、一口、口に運ぶと若干の物足りなさを感じてまたしても俺は苦笑するのだった。
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