#074 MVP発表と本選トーナメント


≪続いて、今大会のMVPの発表を行います!≫


 さて、待ちに待ったMVP発表の時間だ。この瞬間、辺りの空気に緊張が走る。

 この発表こそがこの大会のメインイベント、言わばプレイヤーの中で誰が最も優秀な成績を残したのか、という事になるからな。楽しみでないプレイヤーなど居るはずが無いだろう。

 また、ここでMVPに選ばれれば本選でも自ずと注目される。本選が始まる上で、誰を観戦しようかと悩むプレイヤー達の指標にもなる。


「……ポイントMVPは頂きたいところだが……」


 あれ、もしかしてポイントMVPもライジンにかっさわれるのか、コレ?単純に二万近くポイント差あるけど、バウンティハンターのポイントって判定あるんかな?

 俺がそんな事を悩んでいると、にわかに運営アナウンスが騒がしくなってくる。


≪と、言うわけで!MVP発表には特別なゲストをお招きしております!一時期炎上があるもその影響で人気爆発!動画配信サイトで五十万人ものリスナーが付いている人気配信者、『パトラ』ちゃんですー!≫


 実況を聞いて周囲のプレイヤー達が湧き上がる中、俺は首を傾げた。

 確かに俺も動画配信サイトでいろいろと活動はしているが、聞いたことの無い名前だ。

 『マイクテスマイクテス……』と恐らくマイクの感度と音量の調整をしているのだろう、女性の声がアナウンスに流れ出した。


≪はいどーもー!ここから先は超人気実況者『パトラ』ちゃんがお送りするぞぅ!みんなー、元気ー?≫


 そのアナウンスに合わせて、周囲のプレイヤー達が「元気ー!」と返す。


 ……そういやこの声、ライジンの動画でリスナーと通話する企画で聞いたことあるような、媚び売ってたような。ライジンに求婚してたからライジンの女性リスナーに顰蹙を買ってた記憶がある。そして女性リスナーに向けて暴言を吐きながら抜けていった事から付いたあだ名が『毒舌パトラ』だっけ。


≪まずは、最速でこの試合を勝ち抜いた、最速MVP!!試合から即座にすたこらさっさする腰抜けチキンともいえるそいつはどいつだ!?その、誉れある称号は、『Rosalia』選手が勝ち取りましたー!!≫


 パトラという人のテンションが上がり、それに乗じて周囲のプレイヤー達も一緒になって湧き上がる。ちょっと待て、今完全に罵倒してただろ。この人起用して大丈夫か運営。また炎上する気なのかこいつは。


 というかそういやそんなMVPあったなぁ……。洞窟探索してる時間を勝ち抜きに回せば手に入れていたかもしれないな。


≪続けて最速MVP二人目!同時通過の『ルゥ』選手!!クラン【黒薔薇騎士団】のクランマスター、副クランマスターの両名が獲得します!!なんだこいつらお似合いかよ結婚しろぉ!≫


 いや二人とも女性だし。……待て、もしかしてRosalia氏ってそっちの気が……?思い当たる節があるからこれ以上は詮索しないでおこう、そうしよう。


 それにしてもMVPって一人だけじゃないのか。まぁ、最速MVPは条件が条件だから複数人居てもおかしくないだろう。


≪さて、お次の発表!マップに配置されたサプライボックス!それを多く回収したこまめな奴に贈られる支給品回収MVP!!MVPの中でも一際地味オブ地味!ある意味残念賞ともいえるこの獲得したのは――!?≫


 おいこいつ止めろォ!?段々話し出す内に毒舌の量増えてきたぞ!?


≪クラン【代行者ちゃんを愛でる会】クランマスター、『リキッド侍』選手ー。はいおめっとさーん≫


「適当すぎんだろもう少しまじめにやれぇ!?」


 鼻ほじってそうな適当な声で発表したので俺は思わず叫んでしまう。本当にこいつ何のために呼ばれたの!?


≪さて、テンション下がった所で次のMVPの発表に入りますよー。続いてはポイントMVP発表!!≫


「いやテンション下げるなMVPだぞ」


 思わずげんなりして言うがその実況の声を聞いて、俺は鼓動が高鳴らずには居られなかった。

 俺が一番MVPに近い条件がこれだ。とはいえ、あの理不尽なポイントを取得したライジンも居るためどうなるか分からない。


≪こちらは、公平性を保つため、バウンティハンターシステムの逃げ切りで得たポイントを抜きにしてのポイントとなります!さてさて、多くのプレイヤーを罠に掛け、漁夫りに漁夫った低俗極まりねえ野郎はどいつだ!?≫


 ……おい、マジでこいつ止めろォ!。多分これ気分害する人出るわ!いや俺が既に気分を害している!


≪えー、ポイントMVPを獲得したのは『村人A』選手ー!3000ptジャストという狙ったかのような点数をたたき出してMVPを獲得だぁー!≫


 と、唐突に発表されるMVP。ライジンを越え、俺は見事ポイントMVPを勝ち取ったのだ。

 その実感に身体を震わせ、深く息を吐く。


「……よし!」


 小さくガッツポーズをする俺を見て、隣に立っているポンが微笑む。

 そして、ポイントMVPとして俺の名前が呼ばれたのを聞いて、串焼き先輩はパシッと頭に手を当てた。


「おめでとうございます、村人君!」


「かぁー!やっぱお前キルしとけばMVPだったかぁー!」


「串焼き先輩は後でノックバックの刑な」


 取り敢えずライジンと同じコースを体験していただこう。初めてヴァルキュリアを召喚した時はなんだかんだでうやむやになっちまったしな。

 そんな俺の言葉に串焼き先輩が戦々恐々としていると、運営アナウンスが続けて流れ出す。


≪ついでに言うと、この人の大会での戦闘見てたけど最高に何やってるか分からなくて意味不明でした、まる!≫


「どうしようポン、俺は喜んだ方が良いのかこのパトラなる人物に怒ればいいのか悩んでいる…」


「怒ればいいと思うよ……」


 眉間にしわを寄せて引き攣った笑みを見せていると、ポンが白目を剥きながら答える。

 こいつに制裁くらわせられねえかな…。


 と、思ったところでメニューを操作していないにもかかわらず、ウインドウが表示された。


「ん?なんだこれ?」


 俺が首を傾げながらタップすると、そこには『MVP特権:パトラちゃんにお仕置きが必要ですか?』との文字が。……いやマジでなんだこれ。


「……」


 ノータイムでイエスを選択すると、『MVP発表終了までお待ちください』との文字が。……何だろう、なんか知らないけどとても面白そうな予感がしてしまった。


「村人君、なんて書いてあったんですか?」


 ポンがのぞき込もうとする前にウインドウが閉じてしまったので残念ながら内容を見ていなかったようだ。俺は不敵な笑みを作り、口元に指を当て「内緒」というと、串焼き先輩が胡散臭そうな目でこちらを見てくる。


「お前ウインドウ操作してた時めちゃくちゃ楽しそうな顔してたぞ」


「え?マジ?顔に出てた?」


 だって今のストレス発散できそうな予感がするんだもの。頼むぞ運営。


≪ではでは!最後に!多くのプレイヤー達を屠りに屠った、いわば悪魔の所業!鬼畜の極みとも言えるキルMVP賞を発表したいと思います!≫


「お、キルMVPか……」


 対人戦において、多対一の最強プレイヤーが誰なのか。これは個人的にすごく興味がある発表だぞ。本選でそのプレイヤーと当たる、もしくは観戦するのが楽しみだ。


「これは……ライジンさんですかね?」


「あー、あいつ最後まで残ってたしな。あ、もしかしてあいつこれ見越して最後まで残ってたんじゃねーか!?」


 俺の脳裏にはAims日本大会での出来事を思い浮かぶ。あいつはSBOの特典狙いで大会参加に協力したとのことだった。がめついあいつの事なら、残って殿を務めるという大義名分を得つつ、MVPをちゃっかり狙っていてもなんらおかしくはない。


≪キルしたプレイヤーの数なんと325人!いやぁ怖い!鬼畜の極み!悪魔!なんでこんな残酷な事が出来たのでしょうか!?この人闇抱えてそうだなー≫


「いいからはよ発表せえや」


 引き延ばしがやかましいったらありゃしない。


≪え?巻きで?あーはい分かりました。では、キルMVPを発表します!≫


 まあライジンだろうな、と思っていた俺らは、半ば確信しつつも実況の声に傾ける。



≪『ポン』選手が勝ち取りましたー!何この人可愛い顔してやってることえげつない!≫



「…………え?」


 呆けたような、口を開けたままのポン。まさか自分だとは思いもしていなかったのか、その表情にMVPを取得したという事に対しての困惑が浮かんでいる。


「やったなポン、MVPだ!」


「おめでとさん」


 俺が肩にパシッと手を置き、笑みを見せるとようやく実感がわいてきたのか、へなへなと地面に座り込むポン。


「お、おい、ポン大丈夫か?」


「やった……!私が、MVP……!」


 ポンが座り込んだまま両拳を握り、満面の笑みを見せながら笑うので、俺達も頷き合う。

 これで、MVPは俺とポンの二人が勝ち取る事が出来た。大会開始直前に設定した『誰かMVP取れ』という投げやりな目標は達成できたわけだ。


≪ちなみに第二位はライジン選手!313人という惜しい記録でした!キャーライジン様かっこいい!すこれ!ライジン様をすこれ!≫


「おいこら毒舌吐けよ」


 媚びてる時もそうだったけどライジンに対しては甘すぎんだろ。こいつが炎上した理由がしみじみと分かってきた。

 立ちっぱなしもなんなので、テーブルに座ると、ポンも反対側に座る。


「あ、ポン、ウインドウは?」


「あ、えっと、イエスを選択しました」


「グッジョブ!」


 さて、これが最後と言っていたから、他の人がイエスを選択していればこの後MVP実況のパトラになんらかの制裁が下るわけだが……。

 トロピカルジュースに口を付けて、ゆっくり飲み始めながら経過を待つ。


≪以上でMVPの発表を終わりま『我、粛清の代行者』……え?ここ運営席ですよ?≫


「ぶっほぉ!?」


 アナウンスから聞こえてきた聞き覚えがある声に思いっきりジュースを吹き出してしまった。ポンにかけないようにギリギリで顔を背けられたが、鼻にジュースが入ってしまった。


「そ、そう来たか運営……!」


 げほげほとむせながら苦笑する。確かにヴァルキュリアを呼ぶにはカルマ値の一定数の到達が必須。そんでもってパトラなる人物は不特定多数に向けて不快になるようなワードを連発していた。……彼女が出動しないわけがない。


≪あっちょ、え?ここ不可侵エリアだから攻撃は無理ですってって『行くぞ』なんでぇー!?あ、MVPの奴らパトラちゃん印の称号くれてやるから有難く使えよなー!ぐはっ≫


「この子リアクション芸人としての才能ありそうだな……」


「それネットでも言われてますよ……」


≪はい!というわけでパトラちゃんに退場頂いたところで!こっちが本命の発表!代行者ちゃんの特別衣装の発表でーす!≫


 と、ウインドウが開き、そこには純白の水着を身に纏った【戦機】ヴァルキュリアが映し出される。その瞬間、パトラという実況者が挨拶した時より段違いの雄たけびがそこかしこから響き渡り、地鳴りが起こった。うーんこれは人気のヒエラルキー格差。


≪夏のイベントの期間、この【星海の海岸線】でオイタしちゃう悪い子は、水着のおねーさんに正義執行されちゃうぞー!?≫


 『うおおおおおおおお!!!』『本望でーす!!』と野郎どもの大合唱が響き渡り、思わず耳を押さえながら苦笑してしまう。

 もしかして運営、これやりたいがためにあのパトラって子を起用したのか。


「つーか代行者で遊ぶなよ重要人物だろ」


「ま、まあまあ。少しぐらい遊び心あっても良いじゃないですか」


 一応ストーリー上の超重要ボスっぽいんだけどなー、水着のおねーちゃん。

 俺があきれ顔でヴァルキュリアを見ていると、ポンがちらちらこちらを伺う。


「どうした、ポン?」


「あ、いえ、村人君も水着のお姉さんに興味があるのかなって」


 あーそういう事ね。俺がうーんと唸ってから、ポンに苦笑いを向ける。


「まあ多少は。俺も一応男だしな……。興味がない、といえば嘘になるな」


「そ、そうですか……!」


 俺の返答を聞いたポンは、「よし!」と何かに気合を入れる。

 え?何?水着代行者ちゃん倒しに行くの?それなら俺も連れて行ってほしいんだけど。


 そんな事を思っていると。


≪はい!では、水着代行者ちゃんの発表も終えたところで!本選の対戦カードを配りたいと思いまーす!≫


 ……!来た。本選の対戦カード!これで、しょっぱなライジンとかだったら目も当てられない。


「あー、めんどくさい相手じゃないと良いなぁ……」


「串焼き先輩、一回戦からやりましょうよぉ(ニヤァ)」


「いやだね!お前、絶対舐めプしながら勝つ気だろ!Aims日本大会の時のアレ、俺根に持ってるんだからな!あれからあのネタ擦られて他プロにも弄られてるし!」


 串焼き先輩が心底嫌そうな顔をしているので、俺はケッと不貞腐れる。

 正直なところ身内戦ばかりでなく、このゲームを純粋に楽しんでいるプレイヤーと戦いたい気もするけどな。でも串焼き先輩のポテンシャルも知りたいし、戦っておきたい。

 そして、ウインドウが切り替わり、トーナメント表が表示される。


「あ、出ましたよ!えーと、私はAブロックで……」


「あ、俺もA。串焼き先輩は?」


「うっわ、俺もAだわ。なにこれ身内ばっかじゃねーか」


 まずは一回戦目の相手。ウインドウをスワイプし、自分の名前の横を確認する。そこに書いてあった内容は……。



「……嘘」


「……マジか」



 俺の対戦相手は、『ポン』と記載されていた。



 『1st TRV WAR』本選第一試合、ポンとの1on1が決まったのだった。

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